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企業法務

ハラスメントと職場環境配慮義務

2018.08.13

働く女性

1 はじめに

  

近年、職場でのハラスメント問題が取り上げられることが増え、私たちがセクハラやパワハラと言った言葉を耳にする機会も増えました。厚生労働省の「平成28年度個別労働紛争解決制度施行状況」によると、民事上の個別労働紛争相談件数の内訳で、「いじめ・嫌がらせ」が7万917件(22.8%)と全ての相談内容の中でトップとなっており、5年連続でトップとなっています。

  

この「いじめ・嫌がらせ」はいわゆる「ハラスメント」と呼ばれ、ハラスメントに対する社会意識が高まった現代においては、ハラスメントの予防・解決が労務管理における重要な課題となっています。

2 ハラスメントとは

  

ハラスメントには、性的なセクシャル・ハラスメント(セクハラ)、職務上の地位・権限を背景とするパワー・ハラスメント(パワハラ)、妊娠・出産にかかわるマタニティ・ハラスメント(マタハラ)、男性の育児休業等にかかわるパタニティ・ハラスメント(パタハラ)、大学の研究・教育をめぐるアカデミック・ハラスメント(アカハラ)などいくつかの類型があります。

  

法的には、労働者の人格的利益を侵害し、働きやすい労働環境で働く利益を侵害する行為を広く総体的にとらえて、ハラスメントと言います。

3 使用者の負う義務

  

ハラスメントに関して使用者が負う義務については、以下のとおり法律に規定があります。

  • 労働契約法5条
  • 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

  • 男女雇用機会均等法11条
  • 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

  

以上の規定を根拠に、使用者は、職場環境配慮義務を負っており、同義務に違反して、セクハラ行為やパワハラ行為などのハラスメント行為を放置することは許されないとされています。

  

このようなハラスメント行為の被害に関して、労働者が使用者に対して訴訟を提起する場面としては、
(あ)ハラスメント行為の被害者が、ハラスメント行為に対する職場環境配慮義務違反や使用者責任に基づく損害賠償請求をする場合
(い)ハラスメント行為の加害者が、懲戒処分や降格、解雇の当否を巡り地位確認請求訴訟を提起する場合
が考えられます。

(あ)の場合、ハラスメントによる被害が労働災害にあたると、国による労災保険給付の対象となることがあります。この場合、国が労災保険法に基づく給付を被災者(又はその遺族)に行うことにより,使用者はその範囲で損害賠償責任を免れることになります(労働基準法84条2項類推適用)。

(い)については、いかなる懲戒手段を採用するかは基本的に使用者の裁量に委ねられているため、具体的な事情の下において、懲戒権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に、懲戒権の濫用として無効となります。 以下では、各ハラスメントの内容や、使用者の対応についてみていきたいと思います。

4 セクシャル・ハラスメントについて

 

⑴ セクシャル・ハラスメントの類型

厚生労働大臣が定める「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)は、職場におけるセクシャル・ハラスメントの内容について以下のように分類しています。

1「対価型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることであって、その状況は多様であるが、典型的な例として、次のようなものがある。

イ 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、当該労働者を解雇すること。
ロ 出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること。
ハ 営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格すること。

2 「環境型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることであって、その状況は多様であるが、典型的な例として、次のようなものがある。

イ 事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
ロ 同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
ハ 労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。

 ⑵ 使用者が講ずべき措置

同指針は、セクシャル・ハラスメントに関し使用者が講ずべき措置の内容として、以下のとおり規定しています。

(あ) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

  • 就業規則等に職場におけるセクシャル・ハラスメントがあってはならない旨の指針の規定
  • 同様の指針が記載された社内報、パンフレット等の配布
  • セクシャル・ハラスメント防止のための研修、講習等の実施

(い) 相談( 苦情を含む。以下同じ。) に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

      
  • ・相談窓口の設置

(う) 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

         
  • 事実関係の迅速かつ正確な確認体制の整備
  •      
  • 被害者と行為者との間の関係改善に向けての援助
  •      
  • 適切な配置転換
  •      
  • 被害者のメンタルヘルス不調への相談対応

(え)  (あ) から(う) までの措置と併せて講ずべき措置

  • 相談者・行為者等のプライバシーの保護等

5 マタニティ・ハラスメントについて

 

⑴ マタニティ・ハラスメントの類型

厚生労働大臣が定める「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成28年厚生労働省告示第312号)は、職場におけるマタニティ・ハラスメントの内容について以下のように分類しています。

1 「制度等の利用への嫌がらせ型」とは、具体的には、イ(あ) から(か) までに掲げる制度又は措置( 以下「制度等」という。) の利用に関する言動により就業環境が害されるものである。

イ 制度等

(あ) 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置( 母性健康管理措置)(均等則第2 条の3 第3 号関係)
(い) 坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限( 均等則第2 条の3第4 号関係)
(う) 産前休業( 均等則第2 条の3 第5 号関係)
(え) 軽易な業務への転換( 均等則第2 条の3 第6 号関係)
(お) 変形労働時間制がとられる場合における法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限( 均等則第2 条の3 第7 号関係)
(か) 育児時間( 均等則第2 条の3 第8 号関係)

2 「状態への嫌がらせ型」とは、具体的には、イ(あ)から(お) までに掲げる妊娠又は出産に関する事由( 以下「妊娠等したこと」という。)に関する言動により就業環境が害されるものである。

イ 妊娠又は出産に関する事由

(あ) 妊娠したこと( 均等則第2 条の3 第1 号関係) 。
(い) 出産したこと( 均等則第2 条の3 第2 号関係) 。
(う) 坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと( 均等則第2 条の3 第4 号関係) 。
(え) 産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと( 均等則第2 条の3 第5 号関係) 。
(お) 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと( 均等則第2 条の3 第9 号関係) 。なお、「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状をいう。

  

マタニティ・ハラスメントに関しては、婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取り扱いを禁止した男女雇用機会均等法第9条3項違反が問われた判例があります(最一判平成26年10月23日労判1100号5頁)。

  

同判例は、男女雇用機会均等法9条3項は強行法規であるとしたうえで、当該労働者の自由な意思に基づく降格の承諾があった場合、または、業務上の必要性等に照らして同項の趣旨・目的に反しない特段の事情が存した場合は、同項に違反しないと判断しました。

  • 男女雇用機会均等法9条

3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和22年法律第49号)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。

⑵ 使用者が講ずべき措置

   

前記指針は、マタニティ・ハラスメントに関し使用者が講ずべき措置の内容として、以下のとおり規定しています。

(あ) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 (い) 相談( 苦情を含む。以下同じ。) に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(う) 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
(え) 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

          
  • 妊娠等した労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、適切に業務分担の見直しを行うこと等

(お)  (あ) から(う) までの措置と併せて講ずべき措置

      
  • 相談者、行為者等のプライバシーの保護等

6 パワー・ハラスメントについて

  

パワー・ハラスメント行為については、他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法であるというべきであり、例外的に、その行為が合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為として、違法性が阻却される場合があると判断されています(福岡高判平成20年8月25日判時2032号52頁)。

基本的に暴力を伴う事案については違法性が認められるといえますが、その他については事例ごとに、行為の目的、態様、頻度、継続性の程度、被害者と加害者の関係性等を考慮要素に、正当な職務行為の範囲内に当たるか否かを判断することとなります。

7 まとめ

  

現時点では、セクシャル・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント以外の職場におけるハラスメントについて、使用者が講ずべき措置についての規定はありません。しかし、使用者は、労働者に対して環境配慮義務を負っていますから、これら以外のいずれのハラスメントについても使用者として十分な体制を整えておく必要があるといえるでしょう。

  

労働者にとって働きやすい職場環境は、労働者の生産性を向上させ、ひいては会社の利益につながることなので、ハラスメントに関する体制整備に積極的に取り組むことは会社にとってもプラスになるといえます。

  

具体的事例におけるハラスメントの違法性判断や事前・事後に使用者が取るべき具体的措置等についてお悩みの方は、一度弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

このトピックス記事執筆の弁護士

森下 慎也

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