地代・家賃増減額

賃料増額を認めた裁判例の具体的計算手順

第1 はじめに

 前回の記事では,賃料増減額訴訟における増減額幅の実態についてご紹介しました。
 今回は,賃料の増額に焦点を当てて,賃料増額を認めた裁判例において,裁判所がどのような手順で賃料の増額を決定しているのかをご紹介いたします。

第2 新規賃料と継続賃料

 そもそも,裁判所は,新規賃料と継続賃料という概念を使い分けています。
 新規賃料とは,文字通り新しく不動産の賃貸借契約を結ぶときの賃料をいいます。
 他方,継続賃料とは,賃貸借契約期間の更新がなされ,賃貸借契約が引き続き継続する状態のときの賃料をいいます。
 裁判所が適正な賃料を算出する場合には鑑定という手続きがとられるのですが,導き出すものが新規賃料か継続賃料かによって,用いられる鑑定評価手法が異なります。
 新規賃料では,積算法・賃貸事例比較法・収益分配法という鑑定評価手法が用いられ,継続賃料では,差額分配法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法という鑑定評価手法が用いられます(これらの手法については,賃料増減請求における「相当な賃料」とは(2018.08.27)をご参照ください。)。
 賃料増額が争われる裁判においては,賃貸借契約期間の更新がなされ,賃貸人の要望通り賃料の増額が許されるか否かが問題になることが通常ですので,適正賃料の額は継続賃料によることになります。

第3 継続賃料の計算手順

 では,賃料増額を認めた裁判例毎に,具体的な計算手順をみていきましょう。

1 東京地判平成29年4月19日

⑴ 事案の概要

 商業用建物の賃貸借契約について,月額賃料30万8571円から月額35万6670円(約15%増)の増額を認めました。
 裁判所は,差額分配法による試算結果を採用した鑑定に不合理な点はないとして,鑑定結果に基づき月額35万6670円が相当な賃料であると認定しました。

⑵ 具体的計算手順

 まず,継続中の賃貸借契約における賃料増額請求に係る適正賃料の額は,継続賃料によるべきであることを確認した上で,鑑定結果が適正な継続賃料を32万2250円と算出したこと踏まえ,その鑑定結果の合理性を検討しています。
 当該鑑定結果では,差額分配法,利回り法及びスライド法を用いて試算した上,上述のとおり差額分配法による試算結果を採用したのですが,差額分配法の前提となる新規適正賃料の算定方法,差額分配の割合(1対1)等において特に不合理点はないとしています。さらに,利回り法はその試算賃料が差額分配法のそれと近似しており,これをあえて採用する必要はなく,スライド法については,本件賃貸借契約に適用すべきスライド率を的確に算定することが困難であるから,採用すべきでないとして排斥しました。
 そして,適正な継続賃料を,以下の①~④の計算式により月額35万6670円(税込)と算出しています。
 なお,差額分配法とは,改定時の客観的な適正賃料(新規実質賃料)と実際支払賃料(現行実質賃料)との差額を適切に配分して(本件では1対1)得た額を,現行実質賃料に加算して相当賃料とする手法をいいます(下記①と②)。また,実質賃料とは,一時金等を含んだ賃貸人に支払われるすべての経済的な対価をいうため,継続賃料を算出するためには,共益費や一時金の運用益及び償却益を控除する必要があります(下記③)。

(計算式)
① 36万2250円(新規実質賃料)-29万2465円(現行実質賃料)=6万9785円(賃料差額)
② 29万2465円(現行実質賃料)+(6万9785円×1/2)≒32万7000円(1000円未満四捨五入)
③ 32万7000円-3750円(敷金運用益)-3000円(共益費)=32万0250円
④ 32万0250円+1万円(看板設置料)=33万0250(税抜き。税込35万6670円)

2 東京地判平成29年10月11日

⑴ 事案の概要

 住居用建物の賃貸借契約について,被告の経営する料理店に客として訪れていた当該建物の所有者が,経済的余裕のない被告に配慮し,低廉な賃料で当該建物を貸し渡したものの,特約により後に増額されることが想定されていたとして,賃料月額10万円から月額13万9000円(39%増)の増額を認めました。

⑵ 具体的計算手順

 裁判所が行った鑑定では,差額分配方式,利回り法及びスライド法の3手法をもって実質賃料の試算を行い,差額配分法とスライド法の試算を重視し,月額13万9000円が相当な賃料であると判断しました。
 具体的には,差額分配法については,積算賃料と比準賃料から正常実質賃料を月額25万7000円と評価した上で,従前実質賃料10万4300円との差額15万2700円のうち,賃貸人に帰属する割合を衡平の観点から2分の1とすることが妥当であると判断し,実質賃料を18万1000円と試算しました。
 また,スライド法については,従前純賃料に経済情勢等を考慮した変動率1.02を乗じて算定した額に必要諸経費当を加算する方法により,実質賃料を月額10万5000円と試算しました。
 そして,差額分配法とスライド法の各試算賃料のウエイトをそれぞれ1/2ずつとし,実質賃料を以下の計算式により14万3000円と査定した上で(下記①),その金額から一時金の運用益と償却額4250円を控除して,適正な継続賃料を月額13万9000円と評価しました(下記②)。

(計算式)
① 18万1000円(差額分配法による試算)×0.5+10万5000円(スライド法による試算)×0.5=14万3000円
② 14万3000円(実質賃料)-4250円(一時金の運用益と償却額)=13万9000円(1000円未満切り捨て)

第4 おわりに

 裁判所が採用する適正賃料の計算方法を正確に理解するためには,不動産鑑定に対する専門的な知識が不可欠です。本来,不動産鑑定は,国家資格である不動産鑑定士の領域であるため,弁護士であっても不動産鑑定に詳しい人は多くはありません。
 ですので,賃料の増額についてお悩みの方は,不動産案件に強い弁護士が多数在籍する朝日中央綜合法律事務所にご相談ください。当事務は,東京,横浜,大阪,名古屋,福岡及び札幌に拠点がありますので,法律相談の際にはお近くの事務所にお立ち寄りください。

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