貸地・貸家明け渡し

不動産の貸主による借地契約・借家契約の更新拒絶・解約申入れの要件

1 はじめに

 借地人・借家人に借地契約・借家契約上の債務不履行があり、それが信頼関係を破壊する程度のものである場合は、貸主は、借地契約・借家契約を解除して明渡しを求めることができます。
 これに対し、借地人・借家人の債務不履行の程度が信頼関係を破壊するに至らない場合は、債務不履行に基づく解除は認められない可能性が高くなります。そのようなケースにおいて貸主が借地人・借家人に対し、土地・建物の明渡しを求めるためには、別の手法が必要です。
 別の手法とは、借地契約の「更新拒絶」をすること、および借家契約の「更新拒絶」または「解約申入れ」をするという方法です。
 今回は、不動産の貸主からの借地契約・借家契約の更新拒絶または解約申入れの要件について説明します。

2 更新拒絶・解約申入れの要件

⑴ 借地契約の更新拒絶の要件

 借地契約の更新拒絶の要件は、以下のとおりです。
① 借地契約の期間満了後遅滞なく
② 更新拒絶をすること
③ 更新拒絶に正当事由が備わっていること

⑵ 借地契約の期間満了の時期

 借地契約の更新拒絶は、借地契約の期間満了時に行わなければなりません。そこで、借地契約の契約期間の満了時期がいつであるかが極めて重要な事項になります。そのためには、借地契約の契約期間を正確に理解する必要があります。
 借地契約の契約期間は、旧借地法または借地借家法により、以下のとおり定められています。

 

ア 旧借地法が適用される場合

 平成4年7月31日までに成立した借地契約については、旧借地法が適用され、借地契約の存続期間は以下のとおりとなります。

 

堅固建物所有目的の場合

非堅固建物所有目的の場合

更新前の期間

期間の定めがない場合

60年

期間の定めがない場合

30年

30年未満の期間を定めた場合

60年

20年未満の期間を定めた場合

30年

30年以上の期間を定めた場合

合意により定めた期間

20年以上の期間を定めた場合

合意により定めた期間

更新後の期間

期間の定めがない場合

30年

期間の定めがない場合

20年

30年未満の期間を定めた場合

30年

20年未満の期間を定めた場合

20年

30年以上の期間を定めた場合

合意により定めた期間

20年以上の期間を定めた場合

合意により定めた期間

イ 借地借家法が適用される場合

 平成4年8月1日以降に成立した借地契約については、借地借家法が適用され、借地契約の存続期間は以下のとおりとなります。

 

期間の定めの有無・内容

期 間

一回目の期間

期間の定めがない場合

30年

30年未満の期間を定めた場合

30年

30年以上の期間を定めた場合

合意により定めた期間

最初の更新後
の期間

期間の定めがない場合

20年

20年未満の期間を定めた場合

20年

20年以上の期間を定めた場合

合意により定めた期間

二回目以降の
更新後の期間

期間の定めがない場合

10年

10年未満の期間を定めた場合

10年

10年以上の期間を定めた場合

合意により定めた期間

ウ 事例

① 昭和46年12月1日に木造建物の所有目的で土地を賃貸期間30年の約定で賃貸し、その後、合意更新していない場合
 平成13年11月30日に法定更新され、次の期間満了日は令和3年11月30日となります。

② 平成5年1月1日に建物所有目的で土地を賃貸期間30年の約定で賃貸した場合
 最初の期間満了日が令和4年12月31日であり、その際合意更新をしなければ、2回目の期間満了日が令和24年12月31日、その次の期間満了日が令和34年12月31日となります。

⑶ 借家契約の更新拒絶・解約申入れの要件

 借家契約の更新拒絶・解約申入れの要件は、以下のとおりです。

① 借家契約の存続中の一定の時期に
② 更新拒絶又は解約申入れをすること
③ 更新拒絶又は解約申入れに正当事由があること

⑷ 借家契約の更新拒絶・解約申入れの時期

 借家契約に期間の定めがあるときは、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知をする必要があります。
 期間満了後、合意更新がないとき、または、借家契約に期間の定めがないときは、解約の申入れの日から6か月を経過することによって、借家契約が終了します。

3 正当事由

⑴ 更新拒絶・解約申入れには、正当事由が備わっていることが必要です。
 正当事由が備わっているか否かは、以下の要素を総合考慮して判断されます。

① 正当事由を肯定する要素
 ・賃貸人が土地または建物の使用を必要とする事情
 ・賃貸借に関する従前の経過
 ・土地または建物の利用状況
 ・建物の現況
 ・立退料の提供の有無・金額

② 正当事由を否定する要素
 ・居住または営業の必要性
 ・賃貸借に関する従前の経過
 ・土地または建物の利用状況

⑵ 正当事由の有無を判断する要素について

ア 賃貸人が土地または建物の使用を必要とする事情

 正当事由を判断するうえで最も重要な要素が、「賃貸人が土地または建物の使用を必要とする事情」です。
 賃貸人側の居住の必要性または営業上の必要性と、賃借人側の居住の必要性または営業上の必要性を比較考慮して判断します。

イ 賃貸借に関する従前の経過

 借地契約・借家契約締結の経緯、権利金等の一時金の授受の有無・程度、賃借人の契約上の債務履行の状況等が考慮されます。

ウ 土地または建物の利用状況

 土地建物の利用が賃借人にとって必要不可欠なものであるか、用途に則った利用がなされているかなどが考慮されます。

エ 建物の現況

 建物の老朽化の程度、大規模修繕の必要性などが考慮されます。

オ 立退料

 上記ア乃至エの各事情を考慮したうえで、なお正当事由が十分でない場合、正当事由を具備するに不足する分を、補充・補完する意味を持ちます。
 立退料は、引越料、転居後の賃料との差額、営業補償、借地権価格・借家権価格、正当事由具備の程度などを勘案し、算定されます。

3 最後に

 以上のとおり、更新拒絶・解約の申入れのタイミングは、法律要件の一つであって、非常に重要です。期間満了時期を間違えるなどしてタイミングを逃すと、次の期間満了時まで明渡しを求めることができないということもあります。
 また、正当事由具備の判断や立退料の計算は、非常に専門性が高い分野であり、判断を誤ると、明渡しが否定されたり、非常に高額な立退料を支払う結果となる場合もあります。
 当事務所は、東京、大阪、名古屋、横浜、札幌、福岡にオフィスを有しており、幅広い地域のご相談者様からのご相談を承っておりますので、不動産の明渡しを検討中の方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

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