譲渡制限株式の売買価格決定請求事例

会社支配権紛争の予防と解決マニュアル

第3

会社支配権紛争の事例研究

集合写真
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譲渡制限株式の売買価格決定請求事例

(1)

事案の概要

甲会社は、 航空集配サービスを主たる業とする株式会社です。 Xは元甲会社の役員であり、 発行済株式数の10パーセントに相当する株式を有する株主です。 Xは自己の持株を第三者Aに譲渡しようとしましたが、 甲会社では定款で株式の譲渡をなすには取締役会の承認を得なければならない旨が定められていました。
そこでXは、 甲会社に対し、 自己の株式をAに譲渡することの承認及び譲渡を承認しないときは譲渡の相手方を指定するよう請求しました。
これに対し、 甲会社は、 XのAに対する譲渡を承認しないこと及び譲渡の相手方をYとする旨通知しました。
XとY間で株式の売買価格について協議しましたが、 協議が調わなかったため、 Xは裁判所に対し、 右株式の売買価格の決定を請求しました。
(2)

裁判所の判断

裁判所はXが支払を受けた役員報酬も配当金の変形とみなしたうえ、 配当還元方式による株式価格と総資産価額方式による株式価格の平均値をもって売買価格を定めました (千葉地方裁判所平3年9月26日決定)。
(3)

譲渡制限株式の売買価格決定における問題点

譲渡制限株式を譲渡したものの会社の承認が得られないという場合、会社や指定買受人と承認(及び株式買取)請求者との間で、売買価格について争いが生じることが度々あります。 協議が整わない場合は、 裁判所に対し、 売買価格の決定を求めることになり、会社の資産状態その他一切の事情を斟酌して価格が決定されます。
実務上用いられる主な算定方式としては、 配当還元方式、 収益還元方式、 類似会社比準方式、 純資産価額方式があります。
(イ)
配当還元方式
配当還元方式は、 将来の各事業年度に期待される一株当たりの予測配当金額を一定の資本還元率で割り、 元本である株式の現在の価格を算出するものです。 会社経営に参加しない株主にとっては、 配当額がその株価を決定する一番の要因であることから、 一般投資株主の場合には、 ある意味最も適した決定方法と言えます。
しかし、 この方式には、 将来の配当額の予測及び配当還元率の算定が困難であるという欠点があります。 又、 利益を配当せずに内部留保に回し、 あるいは株主である取締役に対する報酬に上乗せして支払っている会社については、 将来の配当予測は事実上不可能と考えられます。 したがって、 配当還元方式を使えるのは、 現に配当を実施している会社に限られます。
(ロ)
収益還元方式
収益還元方式とは、 将来の各事業年度に期待される法人税課税後の一株当たり予想純利益を一定の資本還元率で割り、 元本である株式の現在の価格を算出するものです。
配当還元方式と異なり、 収益還元方式は会社の内部留保を算定の基準に加える点で一般投資株主ではなく、 支配株主の保有株式に適した算定方法であると言えます。 もっともこの方式にも、 将来の収益を予想することが困難であるという欠点があります。
(ハ)
類似会社比準方式
類似会社比準方式とは、 当該評価株式に取引相場があればどの程度の価格になるかを、 類似性の高い上場会社あるいは上場業種の株式相場の平均と比較して、 特定の算式により算出する方法です。
上場を予定している株式の場合、 かつ市場に類似業種が存在する場合には、 非常に合理的な算定方式と言えます。 しかしながら、 この方式は類似業種の会社が存在しない場合は使えませんし、 株価算定の対象たる会社が、 規模が相当小さい場合には、 上場会社を算定の基準とすることの合理性に疑問が生じます。
(ニ)
純資産価額方式
純資産価額方式とは、 会社の貸借対照表上の総資産額から総負債額を差し引いた額、 すなわち純資産を会社の発行済株式数で割って求められる金額を一株当たりの株価とする方式です。
この方式は、 株の売買を株主の会社に対する持分の譲渡と考える方式であり同族会社の株式の評価に適するとされています。 しかしながら株の価格を会社財産の清算としてとらえ、 会社の解散を前提とする考え方であるとして批判があります。
純資産価額方式で算定する前提として、 簿価によるか、 時価によるかの問題が生じますが、 一般的には時価によるべきとされています。
(4)

裁判所の判断について

判例の傾向としては、 以上述べた4つの方式を単独で使うのではなく、 それぞれの特色を生かすよう併用して株価を算定するのが主流となっています。
甲会社の事例においては、 航空集配サービスという特殊な業態であるため、 類似会社比準方式は採用されませんでした。 また、 Xの持株数は、 発行済総株数の10パーセントであり、 支配株主ではないため、 収益還元方式は採用されませんでした。
裁判所は、 Xが過去取締役であった点をとらえ、 受領した取締役の報酬を考慮して配当還元方式を採用するとともに、 純資産価額方式を併用して株価を決定しました。
(5)

まとめ

以上のように、 株価決定の事例では、 どのような評価方法を用いるかがポイントとなります。 当事者となった場合には、 最低限全ての評価方法にてシミュレーションすることが必要です。
その結果をもとに、 一番有利な評価方法を裁判所に採用させるべく、 理論に即した主張を行い、専門家の鑑定等を収集することが必要となります。