貸地の明渡しができる場合と明渡しの方法

不動産明渡マニュアル

貸地の明渡しができる場合と明渡しの方法

集合写真
(1)

借地借家法又は借地法の適用がある貸地と同法の適用がない貸地の区別

(イ)
借地法と借地借家法の関係
(a)
借地法は、大正10年に借地関係の安定を図るため民法の特別法として制定されたものです。制定当初の借地法は、借地権の存続期間を長期的なものにすることに主眼をおいたものでした。その後、昭和16年、借地法が改正され、正当事由条項、すなわち 「正当事由」 なしには借地関係は消滅させられない旨の規定が導入されました。借地法における借地の存続期間の規定や正当事由条項については後述します。
(b)
上記のとおり、借地法は大正10年に制定され、昭和16年に改正された後、 基本的な枠組みにおいて大きな変化がありませんでした。その間、社会経済情勢が大きく変化し、借地法がこのような変化に対応しきれていない状況を踏まえて、平成3年10月4日、借地法が改正され、新たに借地借家法が制定され、これが平成4年8月1日から施行されることとなりました。
借地借家法の改正点は多岐にわたりますが、借地の明渡しに関連する主要な改正点は、
1)
借地権の存続期間の変更
2)
正当事由の明確化
にあります。
(c)
今般制定された借地借家法の規定は、同法附則に特別の定めがある場合には、借地借家法の施行前に生じた事項には適用されません (借地借家法附則4条)。
借地借家法附則の特別の定めにより、借地借家法が遡及して適用されず、 借地法が適用される主な場合として次の場合があります。
1)
借地借家法施行前 (平成4年7月31日まで) に設定された借地権の定義規定については、借地法1条の規定が適用されます (借地借家法附則4条但書)。
2)
借地借家法施行前 (平成4年7月31日まで) に設定された借地権の存続期間については、借地法2条の存続期間の定めがそのまま適用されます (借地借家法附則4条但書)。
3)
借地借家法施行前 (平成4年7月31日まで) に設定された借地権の契約更新に関し、次の点については借地法の規定がそのまま適用されます (借地借家法附則6条)。
イ.
借地契約の更新後の期間 (借地法5条、 同法4条3項)
ロ.
借地契約の更新請求 (借地法4条)
ハ.
借地契約の法定更新 (借地法6条)
ニ.
更新拒絶の要件 (正当事由条項、借地法4条1項但書、同法6条2項)
以上の次第で、借地借家法施行以前に契約された借地の明渡しに関連する主要な規定については、借地借家法の規定は適用されず、 借地法の規定が適用されることになります。資産家・事業オーナーの方々の所有する貸地の中には、借地借家法施行前 (平成4年7月31日まで) に設定された借地権があると思われますが、その明渡しに関しては、借地法が適用されることとなります。以下では主に借地明渡しに関係する借地借家法の規定について説明します。
(ロ)
借地権の定義
借地借家法1条は、「この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃貸借の存続期間、効力等・・・に関し特別な定めをする・・・」と規定しています。
これによると、「建物」 の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権には、借地借家法の適用がありますが、そうでない場合は、借地借家法の適用がありません。
(a)
建物」 とは
「建物」 とは、「工作物」 の範囲よりは狭いが、住宅・工場等の建物に限定されるものではありません。抽象的には 「建物」 かどうかは、借地法の保護の対象とすべきかどうかという考慮に照らして決められることになります。
判例では、直接に地面に丸太を立てトタン葺屋根で覆い、周囲の一部に板を打ちつけて障壁としている場合、借地上に直接丸太を立て上方をトタンで覆ったにすぎない掘立式の書庫の場合、土台、 床柱・柱はなく、面積も約2平方メートルにすぎない露店設備などにつき、本条の「建物」に当らないとしています。
(b)
建物の 「所有を目的とする」 とは
1)
建物の 「所有を目的とする」 とは、借地の主たる目的が建物の所有であることを意味します。
耕作を目的としたり、建物以外の工作物を所有することを目的として土地を使用する場合には、借地借家法の適用はありません。
また、借地上に借主が建物を所有していても、それが借地の主たる目的でないときは、借地借家法の適用はありません(最判昭42.12.5民集21巻10号2545頁)。
2)
裁判上、「建物の所有を目的とする」 借地か否かで争われる事例は大変多くあります。
判例上、建物の所有を目的とすると認められなかったものとして、①ゴルフ練習場を目的とする場合(最判昭42.12.5民集21巻10号2545頁)、②バッティング練習場を目的とする場合(最判昭50.10.2判時797号103頁)、③自動車展示販売・修理を目的とする場合(大阪高判昭54.7.19判時945号57頁)、④幼稚園の運動場を目的とする場合(最高裁平7.6.29判時1541号92頁)、⑤乗馬学校を目的とする場合(東京地判平9.10.15判時1643号159頁)、⑥養鱒場を目的とする場合(宇都宮地裁昭54.6.20判時955号107頁)、⑦釣堀を目的とする場合(東京高裁昭57.9.8判タ482号90頁)などがあります。
ただ、いずれも、事業内容により類型的に判断しているわけではなく、土地の利用状況に応じて個別具体的に判断されております。そのため、同じ用途で土地を利用していても、異なる判断となる可能性もあります。
(c)
地上権又は土地の賃借権とは
地上権とは、土地の使用収益を目的とした用益物権であり、土地の賃借権とは賃料を対価として支払って他人の物を使用収益する賃貸借契約に基づく権利をいいます。 旧来の借地、借家は、賃貸借契約によるものが大部分ですので、以下の記述では土地の賃借権を中心に述べます。
(ハ)
一時使用による借地法適用除外
借地借家法25条は「第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。」と規定しています。
これによると、一時使用のために設定されたことが明らかな借地権については、 存続期間及び更新に関する借地法の規定は適用されません。借地法にも同様の規定があります (借地法9条)。
一時使用のために設定されたことが明らかな借地権か否かの判断基準について、 最高裁判所は、単に借地権の約定存続期間が短いことや賃貸借契約書に一時使用の文言がみられることのみによって判断するのではなく、 「その目的とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等、諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的な理由が存する場合にかぎり」 一時使用のために設定されたことが明らかな借地権と認められるべきである、と判示しています (最判昭43.3.28民集22巻3号692頁。同旨、最判昭45.7.21民集24巻7号1091頁)。
一時使用のため設定されたことが明らかな借地権の具体例としては、博覧会場、 祭典式場、興行場、建設土木工事の飯場や作業員宿舎などの臨時設備のために設定された借地権などを挙げることができます。
また、土地の利用関係に争いが生じて存続期間5年や10年の借地権を認める裁判上の和解・調停が成立した場合にも当該借地権は一時使用のために設定された借地権とされる場合が多いといえます(最判昭33.11.27民集12巻15号3300頁、前掲最判昭43.3.28)。
(2)

借地借家法又は借地法の適用がある貸地の明渡しとその方法

(イ)
借地人に賃貸借契約上の義務の違反がある場合の貸地の明渡しとその方法
民法541条は、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。」 と規定しています。
したがって、賃料不払い、用法違反、保管義務違反等の債務不履行ないし契約上の義務違反があれば、 民法541条により貸主は賃貸借契約を解除することができます。
ただし、判例は、賃借人の債務不履行ないし契約上の義務違反が貸主と借主の 「信頼関係」 の破壊にある場合に限って解除を認めるとの理論で解除権に一定の制約を加えています。
なお、判例は、賃貸借契約の解除権につき、民法167条1項 (債権の消滅時効の規定) が適用され、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは事項によって消滅するとしていますので(最判昭56.6.16民集35巻4号763頁、最判昭62.10.8民集41巻7号1445頁)、注意が必要です。
(a)
借地人に地代の不払いがある場合
1)
基本的な考え方
借地人が地代を滞納しているときは、貸主は賃貸借契約を解除できます。
ただし、賃料不払いによって賃貸人との間の信頼関係を破壊するに至ったと言えない場合には解除は認められません。
いかなる場合に信頼関係を破壊するに至ったといえるかどうかについては、賃料不払いの回数だけでなく、不払いの額、賃借人側の態度、賃貸人側の態度などの諸事情が判断の資料となります。6か月程度の賃料の滞納があれば、よほど特殊な事情でもない限り解除は認められます。なお、2カ月分の不払いでも解除を認めた裁判例もあれば(松山地判昭31.9.18)、7か月の不払いでも解除が認められなかった裁判例(神戸地判昭30.1.26)もあります。
2)
手続
賃借人に信頼関係を破壊するに足る賃料の不払いがある場合、賃貸人は相当の期間を定めて滞納した賃料を支払うよう催告したうえで、賃借人がその期間内に賃料を支払わない場合に契約を解除することができます。
履行の催告には相当の期間を定めて行なう必要がありますが、賃料不払いでは1週間ないし10日もあれば社会通念上相当な催告期間ということがいえます。 なお判例では、不相当な期間または期間の定めのない催告でも、催告後相当期間が経過すれば契約を解除することができるとされています(大判昭2.2.2民集6巻133頁、最判昭29.12.21民集8巻2211頁)。
これに関連して、無催告解除特約について触れておきます。賃貸人の解除の便宜を図るために、賃借人に賃料の滞納があれば、賃貸人は履行の催告をしないで解除できるように予め結んでおく特約のことを無催告解除の特約といいます。このような特約は借地法上有効です (最判昭40.7.2民集19巻5号1153頁)。 借家のケースで無催告解除の特約に関し、催告しなくてもあながち不合理と認められない事情が存する場合には無催告で解除権を行使することが許されると解し、既に5か月分の賃料を滞納しているケースについて、無催告解除を認容した判例があります (最判昭43.11.21民集22巻12号2741頁)。 ただし、このような特約を結んでいても、諸般の事情から当事者間の信頼関係を破壊するに至ったといえない場合には、無催告解除が認められない場合もあります。
解除の意思表示については内容証明郵便でするのが望ましいといえます。後に訴訟になった場合、解除の意思表示があったかどうか、いつ解除したか等が問題になることもありますので、その証拠を残しておく必要があるからです。
(b)
借地権の無断譲渡、 無断転貸がある場合
1)
基本的な考え方
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ第三者に賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸することはできません。このことは法律の明文で規定されています (民法612条1項)。
したがって、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借権を譲渡したり、 賃借物を転貸した場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます (民法612条2項)。
賃借権の譲渡とは、賃貸借契約上の賃借人の地位を第三者に移転することをいいます。
転貸とは、賃借人 (転貸人) が賃借目的物を第三者 (転借人) に返還義務を課して引き渡し、使用収益させることをいいます。転貸の約束をしただけでは契約解除の前提としての転貸とはいえません。転貸というためには、 第三者に賃借物を現実に引き渡したことを要します。なお、土地の賃借人が借地の上に所有する建物を第三者に賃貸し、これに付随してその借地を第三者に使用させても、借地を転貸したことにはなりません(大判昭8.12.11)。この場合、土地の賃借人は、なお建物所有のために自ら土地を使用しているとみるべきであるからです。
借地上建物の譲渡とともに敷地の賃借権の譲渡または転貸が賃貸人の承諾を得ずになされた場合には、原則として 「背信行為」 があるとして解除が認められます。しかし、無断譲渡・転貸といえる場合でも、賃貸人に特に不利益を与えることもない一定の場合、つまり背信行為 (信頼関係を破壊する行為)と認めるに足らない特別の事情がある場合には、例外的に解除は認められません。
判例上、このような場合でも 「背信行為」 がないとして解除が認められなかった例としては、①建物とその敷地の賃借権の共同相続人の一部が他の共同相続人からそれらの持分の譲渡を受けた場合 (最判昭和29.10.7民集8巻10号1816頁)、②土地賃借人がその所有建物を子供との共有にしたのに伴って、賃借権の持分の譲渡が生じた場合 (最判昭39.1.16民集18巻1号11頁)、③土地賃借人の内縁の妻が夫の死亡後その相続人から建物の譲渡とともに賃借権の譲渡を受けた場合、土地賃借人が借地上に所有する建物と建物の敷地賃借権を同居の孫に贈与した場合 (最判昭40.9.21民集19巻6号1550頁)、④土地賃借人が借地上の建物で同居生活をしていた妻との離婚に伴い妻に賃借権を譲渡した場合 (最判昭44.4.24民集23巻4号855頁) などがあります。
民法612条2項による解除は、その原因である無断譲渡・無断転貸が賃借物の一部に関しているときでもその全部について認められます。
2)
手続
解除の方法については、地代の不払いの場合とは異なり、催告を要することなく直ちに解除の意思表示をすることができます。この場合、後の紛争を防止するために、解除の意思表示は内容証明郵便によるべきです。
(c)
借地上の建物の無断増改築がある場合
借地人が借地上の建物を増改築しても、借地人が所有する建物に対する変更ですから、無断増改築禁止の特約がないかぎり、適法な行為といえます。この点では、借家人が借家を無断で増改築することは、貸主の所有家屋に変更を加える行為ですから、当然に用法違反・保管義務違反の違法行為になるのと対照的であるといえます。
借地契約において無断増改築禁止の特約がある場合に、借地人が無断で増改築の行為をすれば、特約違反として借地契約の解除原因になります。
ただし、判例は、無断増改築禁止の特約がある場合でも、「増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、 賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、 賃貸人が無断増改築禁止特約に基づき解除権を行使することは、 信義則上許されない」 (最判昭41.4.21民集20巻4号720頁) と判示しています。 したがって、 借主が無断増改築禁止特約に違反したとしても、解除権を行使することができない場合があることに注意が必要です。
(d)
借地の用法違反がある場合
借地人は賃貸借契約で定められた用法にしたがって借地を使用収益すべき義務があります (民法616条、同法594条1項)。賃借人に用法違反があれば、これを理由に契約を解除できます。具体的には次のとおりです。
非堅固の建物所有を目的とする場合に堅固建物を建築し、あるいは既設の非堅固建物を堅固の建物に改築する場合は用法違反を理由に契約を解除できます。
判例では、①非堅固建物所有目的の土地賃貸借契約において、賃借人が軽量鉄骨造プレハブ建築の建物を建築する特約に反して堅固建物を建築した場合に解除が認められたもの (東京地判平元.12.27判時1361号64頁)、②非堅固建物所有を目的とする土地賃貸借において木造建物の基礎をなす鉄筋コンクリート製地下室を築造した場合に解除が認められたもの (東京高判昭51.3.30判時813号38頁) などがあります。
用法がバラック等の仮建築物を所有する目的であるにもかかわらず、本建築した場合にも用法違反を理由に契約解除を認めた判例があります。
①土地賃借人が借地に隣接する賃貸人所有地に越境建築したことが借地の用法違反に該当するとして契約解除を認めた判例 (最判昭38.9.27民集17巻8号1069頁) 、②2筆の土地を一括して賃貸した場合に、借地人に1筆の土地についての用法違反があったとして2筆の土地全部について契約解除を認めた判例 (最判昭39.6.19民集18巻5号806頁) などがあります。
建築された建物の高さ、広さ、様式、施設等が約定に反する場合及び建物の使用方法 (住宅・商店・工場・風俗営業等) が約定に反する場合には、右約定が契約締結時において、合理的な利益ないし必要性をもっていた場合には、用法違反を理由に契約を解除できる可能性があります。
(e)
借地の保管義務違反がある場合
借地人は賃借物の引渡を受けた後返還をなすまで賃借物を善良な管理者の注意をもって保管する義務があります (民法400条)。
したがって、賃借人が右保管義務に違反した場合には、賃貸人は契約を解除することができます。
借地の場合では、土地を掘削するなどして土地の形状を著しく変更する場合等には、保管義務違反を理由に契約を解除できる可能性があります。
(f)
貸主と借主との人的信頼関係が著しく破壊された場合
借地人の賃借物に関する直接の契約違反はないが、賃貸人に対する円満な関係に破綻が生じた場合にも契約の解除が認められるケースがあります。
判例上人的信頼関係の破壊を理由に解除が認められたものとして、①借地人が賃貸人に対し侮辱的言動をした場合 (東京地判昭37.4.26判時312号31頁)、②借地人が土地賃貸借契約書を偽造した場合 (東京地判昭47.3.23判時675号62頁)、③借地人が賃貸人の所有地を先代から買い受けたとして取得登記をなし所有権取得を仮装した場合 (福岡地小倉支判昭50.7.30判タ332号328頁)、④賃料増額請求に対し借地人として信義に従い誠実に対処しなかった場合 (東京地判昭52.10.31判時893号55頁)、⑤借地人が借地を買い受けたと称してこれを第三者に売却した場合 (東京高判昭54.8.8判時942号48頁) 等があります。
(ロ)
借地契約の存続期間が満了した場合の貸地の明渡しとその方法
(a)
借地契約の存続期間の満了
借地借家法の適用がある貸地の場合は、借地契約の契約期間 (存続期間)というものが必ずあります。
平成4年8月1日以降に成立した借地契約は、借地借家法の適用を受け、 その契約期間 (存続期間) は次のとおりです (借地借家法3条、4条)。

契約期間満了により、貸地の明渡を求めるには、上記に定められた契約期間 (存続期間) が満了することが必要です。
なお、平成4年7月31日までに成立した借地契約の契約期間 (存続期間)は、 次のとおりです (借地法2条、5条、6条)。

堅固建物とは、石造、土造、レンガ造 (借地法2条) に類する建物をいいます。
ブロック建築も堅固建物に該当します。非堅固建物とは堅固建物でないものをいいます。
したがって、平成4年7月31日以前に成立した借地契約の場合、非堅固建物につき更新後は20年に一度しか期間満了による明渡の機会がないことになります。
(b)
借地人の更新請求に対し更新拒絶の意思表示をすること (借地借家法5条1項)、または借地人の借地契約期間満了後の借地の使用継続に対し異議を述べること (借地借家法5条2項)
1)
借地借家法5条1項は、「借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定(借地権の更新後の期間)によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。」と規定しています。
つまり、借地人の更新請求に対し、貸主は遅滞なく更新拒絶の意思表示をすることが必要です。
実際上は、借地契約の存続期間満了にあたり、まず貸地人が明渡を求め、これに対し借地人が明渡を拒否するのが通常です。貸地人の明渡請求に更新拒絶の意思が表示され、借地人の明渡拒否に更新請求の意思が表示されているといえます。
2)
借地借家法5条2項では、
「借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項の規定と同様とする。」 と規定されています。要するに、借地人が借地権の存続期間満了後に借地の使用を継続することに対し、貸地人が反対の意思を表示することが必要です。
その表示の方法として、借地人に明渡請求をすることや、 借地権消滅を理由とする地代の受領を拒否することなどがあります。
3)
以上借地借家法5条1項、 同条2項をフローチャートでまとめると、 次のとおりとなります。
4)
なお、平成4年7月31日までに成立した借地契約の更新に関しては、借地法4条、借地法6条の規定が適用されます (借地借家法附則6条)。
(c)
更新拒絶 (借地借家法5条1項) または異議 (借地借家法5条2項) の「正当事由」 が存在すること(借地借家法6条)
1)
借地借家法6条では、
「前条の異議は、借地権設定者及び借地権者 (転借地権者を含む。以下この条において同じ。) が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。」 と規定されています。
ここでは、正当事由の有無を判断するにあたって考慮すべき事項として、
イ.
「借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情」
ロ.
「借地に関する従前の経過」
ハ.
「土地の利用状況」
ニ.
「借地権設定者が土地明渡後の条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」 等
が明文化されました。
この規定は、平成4年7月31日以前に成立した借地権には適用されないものとされています。しかし、前記借地借家法6条で列挙されているイ.ないしニ.の事由は、これまでの裁判例で採用されてきた正当事由の判断基準を明文化したものです。したがって借地借家法6条の規定は、平成4年7月31日以前に契約された借地についての明渡しの正当事由の有無の判断に際しても、実務上大きな影響を与えるものとなっています。
2)
借地借家法の適用を受ける借地につき、その明渡しの正当事由要素としては、 以下のものがあります。
イ.
土地使用の必要性
貸主の使用の必要性が高いのに対し、借地人の使用の必要性が低い場合には、 明渡料の提供なしに正当事由が認められる可能性は極めて高いといえます。
また、 借地人が借地上の建物を使用していない場合や借地の一部を空き地としている場合にその空き地部分について、いずれも正当事由が認められる可能性は極めて高いといえます。
ロ.
土地の有効利用の必要性と有効利用の具体的計画
有効利用の必要性と有効利用の具体的計画がある場合においては、下記ハ.ないしヘ.の正当事由要素 (とくに明渡料の提供) によって正当事由が認められる可能性は高いといえます。
対象土地が都市計画上容積率500%の防火地域内にあって、その周辺では近時土地利用の高度化が進み、中高層のマンション等が建てられているという状況で、貸主は対象土地を利用して五階建マンションの建築を計画し、 また、対象土地上の建物は使用に耐えないというほどではないが、全体として相当に疲弊した状態にあるというケースで、「原告側の本件土地のより高度な利用を図りたいとの事情は、その地域性からしても社会経済上の利益に合致するものというべきところ、被告側には現状を維持することにそう大きな利益があるとは言い難い情況にあるものといわざるを得ず、右双方の事情を彼此勘案するときは、老境にある被告の本件建物から離れ難いとの心境はそれとして理解し得ないではないが、原告側の社会経済上の利益にその座を譲らざるを得ないものというべき」 として、地域性を重視して土地の高度な利用を優先させて明渡請求を認容した判例 (東京地判昭61.1.28判時1208号95頁) など、有効利用の必要性を理由に明渡請求を認めた判例は多数あります。
福岡高裁昭和54年12月20日判決 (判時960号58頁) も、借地周辺の開発や市街化に伴い老朽建物を近代的な高層建築物に建て替えるため、借地契約の期間満了を待って土地明渡を請求したケースで、対象土地の利用度の低い借主には無条件で、利用度の高い借主に対しては200万円あるいは180万円の明渡料の提供を条件に明渡請求を認めました。
ハ.
土地の利用状況
a.
借地上の建物の種類、用途 (居住用建物か事業用建物か等)
b.
借地上の建物の構造、規模 (建物が低層か高層か)
c.
借地上の建物の面積 (土地面積のなかで建物の建て坪がどの位占めているか)
d.
隣接地及びその周辺地域における土地の標準的利用との差異なども正当事由の要素となります。
ニ.
建物の老朽度
借地上の建物が老朽化している場合には正当事由が認められることが多いと言えます。
例えば、借地上に木造の建物が存在しており、その建物は木造バラック造 りで当初賃貸期限の終了するころには朽廃する程度のものであったというケースで、裁判所は 「被告は借地の始めにおいてその期間を20年と予想していたものであり、然も借地期間中の増改築を別にして考えると、地上の建物は当初の借地期限のころに概ね朽廃する運命にあるとして、明渡料として借地権価格の約1.5割に相当する金150万円の支払いを条件に正当事由を認めました (大阪地判昭50.3.28判時785号90頁)。
ホ.
従前の経過
a.
権利金、更新料等の支払いの有無
権利金の支払いがなかったことは、正当事由のプラス要素として考慮されます。
b.
借地権設定時から現在までの期間の長短
借地人が長期間借地を利用していることは、正当事由のマイナス要素と評価する判例があります。
c.
借地権設定時の事情
不法占拠が先行したり、借地人の懇願を断りきれずに貸したという事情は、正当事由のプラス要素となります。
d.
賃料額の相当性
賃料額が長期間低廉に推移したことは、正当事由のプラス要素となります。
e.
貸主に対する嫌がらせ等の不信行為
これらの行為は、正当事由のプラス要素になります。
ヘ.
財産上の給付
a.
明渡料の提供
b.
代替土地、建物の提供
借地人が対象物件を明渡しても、他に移転先が存在しているという場合や、賃貸人の方から明渡請求に際して対象物件に代わる代替不動産を提供した場合には、正当事由が認められやすくなります。
(d)
明渡料の考え方
先に述べたイ.ないしホ.の正当事由要素があるものの、これだけでは正当事由が十分ではないという場合に、明渡料を提供することによって正当事由を具備させることができます。この意味で、明渡料の提供は、正当事由の補完事由という性格をもつわけです。
明渡料の提供によって貸地の明渡を認めた判例としては次のようなものがあります。



(e)
明渡料の算定方法
明渡料の算定方法は、事案ごとにかならずしも同じではありませんが、更地価格に借地権割合を乗じた借地権価格を基準に正当事由の充足割合を考慮して算定するという考え方が合理的です。
具体的設例で説明しますと、次のとおりです。
(具体的設例)
更地価格が25万円/㎡する100㎡の貸地の明渡しを求めるにつき、貸主側の正当事由が70%備わっている場合の明渡料は、450万円と一応試算することができます。
(計算)
*1
借地権割合
*2
正当事由が不足している割合
その他、営業補償、建物価格、移転実費 (運送費、荷造費、動産損料、移転通知費等) なども明渡料算定に入れる場合もあります。
明渡訴訟になった場合、明渡しを求める側は、不動産鑑定士に私的に借地権価格の鑑定をしてもらい、この鑑定結果を基準に正当事由要素を考慮して明渡料を算定し、その額を明渡料として提供することが実務上多いといえます。
(f)
明渡手続の実際
1)
調査
対象貸地及び地上建物についての調査や契約関係の調査を行います。この調査により借地上の建物の老朽化や、土地の高度利用の必要性、契約関係における借主の不誠実な対応などの重要な基礎事実を採取します。これらの基礎事実は明渡しを求める 「正当理由」 を構成する基礎事実となります。また、不動産鑑定士の意見を参考にしながら明渡料の算定の基礎となる土地・建物の価格の算定を行います。
2)
明渡料の算定
調査に基づき、明渡しを求める 「正当事由」 を法律的に構成するとともに、 右正当事由によって明渡しを求める際の法律上妥当な明渡料の額を算定します。
正当事由を構成する事実が多いほど明渡料は低額となります。
3)
明渡交渉
以上の手続を経て法律的な根拠、方針を明確にして借地人と明渡しの交渉を行います。
4)
訴訟・調停
明渡しの交渉により借地人の同意が得られない場合は、調停・訴訟等の手続をとります。
訴訟手続を採った場合でも、裁判所は必ず判決をするというわけではありません。明渡訴訟の場合は、訴訟手続を経て、訴訟上の和解によって解決する場合が相当多いといえます。
(3)

借地借家法又は借地法の適用がない貸地の明渡しとその方法

(イ)
賃借人に賃貸借契約上の義務違反がある場合の明渡しとその方法
これについては、3(2)(イ)(a)ないし(f)に述べたことと基本的には同じですので、 上記記述を参照して下さい。
(ロ)
賃貸借契約の存続期間が満了した場合又は期間の定めがない場合の明渡しとその方法
(a)
賃貸借契約の存続期間の定めがある場合
この場合は、存続期間の満了とともに賃貸借契約は終了します。貸主は上記存続期間の満了と同時に賃借人に対し法的に貸地の明渡請求をすることができます。 この場合、明渡料等は必要ありません。
なお、民法604条1項には、借地借家法の適用のない貸地については、 「賃貸借の存続期間は、二十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めた時であっても、その期間は二十年とする。」 との規定があります。
(b)
賃貸借契約の存続期間の定めがない場合
民法617条1項1号によると、賃貸借の存続期間の定めのない貸地の場合は、 貸主は、いつでも解約の申入れができ、解約申入れの意思表示が賃借人に到達してから1年経過した時に賃貸借契約は終了します。したがって、貸主はその時点で借主に明渡請求をすることができます。この場合、明渡料等は必要ありません。
解約の申入れとは、契約を将来に向って終了させる意思表示のことをいいます。