立法の経過

定期借家実務マニュアル

第1

定期借家法成立とその背景

集合写真

立法の経過

(1)

各種審議会、 政府委員会等における定期借家制度の提言

上記のような旧法の問題点が多くの経済学者や民事法学者等によって議論され、 経済学者らを中心に定期借権導入支持に関する研究・論証が蓄積されてゆきました。
こうした中、 各種審議会、 政府委員会等においても、 以下のように定期借家権の導入に関する積極的な論議が展開されました。
平成6年9月になると、 住宅宅地審議会住宅部会は 『21世紀に向けた住宅施策の基本的体系はいかにあるべきか (中間報告)』 の中で、 「契約更新を原則とする借地借家法を、 賃借人の居住の安定にも配慮しつつ、 一定の範囲で、 民法の契約自由の原則に戻すことも一つの研究対象となる」 との報告をしました。
また、 平成7年3月には、 平成6年2月に 「今後における行政改革の推進方途について」 が閣議決定されたことに基づき、 「規制緩和推進計画について」 が閣議決定されました。 その計画では、 「良好な借地・借家の供給促進を図るため、 いわゆる定期借家権を含め検討する」 としました。 これを踏まえて、 法務省民事局は平成7年6月に借地借家法に関する研究会 (以下 「研究会」 といいます) を設置しました。 平成7年12月になると、 行政改革委員会はその意見書 (『光り輝く国をめざして-規制緩和の推進に関する意見 (第一次)』) の中で、 「現行の借地借家法の契約更新拒絶の際の正当事由の要求は、 借地、 借家の供給に影響を与える要因の一つとなっている」、 「家主にとっては正当事由の判断が事前に確定しないため、 家主が新規の借家、 特に比較的規模の大きい借家を供給する場合の制約要因になっている」 と明確に指摘し、 住宅弱者保護対策としては、 正当事由制度によって私人 (賃貸人) のみに負担を負わせるのでなく、 公的な主体が住宅に関する施策全般の中で実施すべきであり、 定期借家権を含めた良好な借地・借家の供給促進を図るための方策の検討を促進すべきであるとしました。
さらに、 平成8年10月の経済審議会行動計画委員会土地・住宅ワーキンググループの報告書は、 正当事由制度や継続賃料抑制主義が、 借家の供給不足の大きな要因となっているので、 それを改めるべく土地・住宅政策につき8項目の提案を行い、 その一つとして定期借家権の導入を提言したほか、 定期借家契約の期間満了により居住の場を失い、 自助努力で対応できない弱者に対する国や地方自治体の家賃補助政策、 公営住宅への入居等の福祉住宅対策を提言しました。
(2)

法務省の消極論

法務省は、 前述の 「研究会」 による研究成果をその議事録も含め一切公表しないうちに、 平成8年11月には定期借家権の導入に反対する見解を示しました。 すなわち、 法務省は経済審議会行動計画委員会の審議 (平成8年11月7日) の中で、 意見書 (『経済審議会行動計画委員会土地・住宅ワーキンググループ報告書について- 「定期借家権導入について」 -』) に基づき、 (イ)正当事由制度が経済的弱者保護のために有効に機能している、 (ロ)正当事由制度の存在による借家の供給制限効果は疑わしい、 (ハ)継続賃料は新規賃料に比し必ずしも抑制されていない旨の基本認識を示し、 正当事由制度が制度として合理的であると述べました。
しかしながら、 上記見解に対しては、 正当事由による経済的弱者の保護は家主の利益の一部を借家人に移転させることによるものであり、 そうであれば正当事由を撤廃しても借家の供給促進効果が生じないこととは両立しえないなどの批判がなされました。
法務省の意見発表後、 経済審議会は 『6分野の経済構造改革』 (平成8年12月) の中で、 従来型の借家権の存続を前提として新たに定期借家制度を導入する旨を提言し、 平成9年2月の閣議決定の 『新総合土地政策推進要綱』 では、 「いわゆる定期借家権については、 その必要性や有効性を十分に見極めつつ、 引き続き検討を進める」 と明記されました。 以上のように、 定期借家権導入の議論の高まりを見せるなか、 法務省は平成9年6月に 「研究会」 での議論を整理して 「借家制度等に関する論点」 を公表し、定期借家権の有効性、 必要性については、 十分な検討が必要だとして、 定期借家権の導入に慎重論を唱えました。
この 「論点」 公開は多くの反響を呼び、 「論点」 の内容や 「研究会」 の不透明な運営方法等につき、 定期借家権導入を支持する経済学者・行政学者等から猛反発を受けることになりました。
また、 行政改革委員会は、 「論点」 が定期借家権の創設に対して消極的に誘導するものとして 「論点」 を批判しました。
(3)

議員立法による定期借家制度の創設

定期借家権導入論議の高まりと、 これに対する法務省の消極的姿勢は、 議員立法による定期借家権導入の機運を高めました。
これにより、 従来から定期借家権の導入に関する議論を成熟させ、 その理論的支柱を提供した学識者らとともに、 定期借家権導入に賛同する民間団体の立法推進活動が活発化してゆきました。
自民党は平成9年9月に 「定期借家権等に関する特別調査会」 を設置し、 議員立法による定期借家権導入を目指すことを明らかにしました。
平成10年5月には、 民間団体や個人の有志により、 定期借家法案の成立支援と施行後の啓蒙活動等の事業の円滑化を図るため、 「定期借家推進協議会」 が東京において設立され、 関西においても平成10年11月に 「関西定期借家協議会」 が発足しました。
これらの団体は、 民間におけるオピニオンリーダーとして、 市民に対する啓蒙活動を通じて社会における定期借家権導入の基盤作りを行うとともに、 かかる市民的基盤を背景に、 国会議員に法案の早期成立を要望するなど、 定期借家権の議員立法化を強力に推進しました。 これにより、 早期の立法化に向けた立法府と民間との協働体制が確立され、 立法に向けた動きが加速することになりました。
これにより平成11年7月には、 自民党・自由党・公明党の3党の議員の共同提案により 「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法案」 が国会に提出され、 その後一部の修正を経て、 同年12月9日の参議院での可決をもって成立しました(巻末条文参考)。
同法案第5条における定期建物賃貸借に関する借地借家法の改正案は、平成12年3月10日より施行され、現在の借地借家法の第3節第38条に規定されるに至りました。