吸収分割の意義及び前提要件

株式交換・移転、会社分割マニュアル

第2章

会社分割

集合写真
第3

吸収分割の実務

吸収分割の意義及び前提要件

(1)
新設分割・吸収分割
会社分割とは,1つの会社を2つ以上の会社に分ける制度です。会社分割の種類には,次のものがあります。
(イ)
新設分割
新設分割とは,分割をする会社(以下「分割会社」といいます)がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を,新しく設立した会社(以下「新設会社」といいます)に承継させる場合です(会社法2条30号)
(ロ)
吸収分割
吸収分割とは,分割会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を既存の会社(以下「承継会社」といいます)に承継させる場合です(会社法2条29号)。
(2)
物的分割・人的分割
(イ)
物的分割(分社型分割)
会社分割の対価となる株式等が分割会社に交付される場合を,「物的分割」又は「分社型分割」と呼びます。
(ロ)
人的分割(分割型分割)
会社分割の対価となる株式等が分割会社の株主に交付される場合を「人的分割」又は「分割型分割」と呼びます。
(ハ)
会社法における構成
会社法は,上記(ロ)の人的分割の場合には,対価はいったん分割会社に交付され,それが分割会社からその株主に剰余金として配当(金銭以外の場合には現物配当)されるものと構成しています。つまり,
人的分割 = 物的分割+剰余金(現物)配当
と構成しているのです。
その意味で,「会社法における会社分割はすべて物的分割である」といえます。
(3)
会社分割の対象
(イ)
「事業」の意義
平成17年改正前商法の規定における「営業」の文言は,会社法では「事業」という文言に置き換えられました。
しかし,これは用語の整理を行ったものにすぎません。平成17年改正前商法における「営業」概念の内容と会社法における「事業」概念の内容は同じです。
「事業」概念の内容については,事業譲渡の制度における「事業」概念が参考になります。
最高裁判例(最判昭和40.9.22)によれば,事業譲渡とは,①一定の事業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し,②これによって,譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ,③譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負うもの,ということになります。
(ロ)
「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」の意義
平成17年改正前商法では,会社分割の対象は「営業の全部又は一部」と規定されていたことなどから,会社分割の対象はそれ自体が「営業」としての内容を備えている必要があるという見解も存在しました。
しかし,会社分割において承継されるものは,あくまで吸収分割契約や新設分割計画において定められた権利義務であり,それ以外の権利義務は承継されません。
したがって,単に承継すべき営業を特定するだけでは,具体的に承継される権利義務の内容を特定することはできないといえます。
そこで,会社法は,会社分割の対象は「事業」概念に縛られないものとすることとし,会社分割の対象を「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」と規定しました(会社法2条30号及び同条31号)。会社法は,会社分割の対象が「事業」としての内容を備えている必要があるとの解釈は採用しないこととしたのです(相澤哲=細川充「会社法の解説(14) 組織再編行為〔上〕」商事法務1752号5頁)。
(4)
当事者
平成17年改正前商法では,分割会社,承継会社又は新設会社のいずれについても,株式会社又は有限会社に限定されていました。
会社法では,会社分割をすることができる会社の種類の制限は,以下のとおりとなりました。
(イ)
分割会社
株式会社・合同会社は,分割会社となることができます(会社法757条,同法2条29号,同法762条1項,同法2条30号)。
これに対し,合名会社・合資会社は,分割会社となることができません。
(ロ)
承継会社・新設会社
株式会社・合同会社・合名会社・合資会社のすべての種類の会社が承継会社又は新設会社となることができます。

目次

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