建物の明け渡しができる場合と明け渡しの方法2

貸地・貸家明け渡しガイド

建物の明け渡しができる場合と明け渡しの方法

(2)

借家法の適用がある貸家の明け渡しとその方法

(イ)

借家人に賃貸借契約上の義務違反がある場合の貸家の明け渡しとその方法

借地の場合にも述べましたとおり、賃料不払い、用法違反、保管義務違反等の債務不履行ないし契約上の義務違反があれば、民法541条により、貸主は賃貸借契約を解除することができます。
ただし、判例は、賃借人の債務不履行ないし契約上の義務違反が貸主と借主の 「信頼関係」 の破壊にあたる場合に限って解除を認めるという理論で解除に一定の制約を加えています。
(a)
借家人に家賃の不払いがある場合
1)
基本的な考え方
借家人が家賃を滞納しているときは、貸主は賃貸借契約を解除できます。ただ、賃料不払いによって賃貸人との間の信頼関係を破壊するに至ったと言えない場合には解除は認められません。
いかなる場合に信頼関係を破壊するといえるかどうかについては、賃料不払いの回数だけでなく、不払いの額、賃借人側の態度、賃貸人側の態度などの諸事情が判断の資料となりますが、6か月程度の賃料の滞納があれば、よほど特殊な事情でもない限り解除が認められます。なお、2か月分の不払いでも解除を認めた判例 (最判昭36.2.24民集15巻2号304頁)もあります。
2)
手続
賃借人に信頼関係を破壊するに足る賃料の不払がある場合、賃貸人は相当の期間を定めて滞納した賃料を支払うよう催告したうえで、賃借人がその期間内に賃料を支払わない場合に契約を解除することができます。
履行の催告は相当の期間を定めて行なう必要がありますが、 賃料不払いでは1週間ないし10日もあれば社会通念上相当な催告期間ということがいえます。なお、判例では不相当な期間または期間の定めのない催告でも、催告後相当期間が経過すれば契約を解除することができるとされています。
これに関連して、無催告解除特約について触れておきます。賃貸人の解除の便宜を図るために、賃借人に賃料の滞納があれば、賃貸人は履行の催告をしないで解除できるように予め結んでおく特約のことを無催告解除の特約といいます。このような特約は借家法上有効です。無催告解除の特約に関し催告しなくてもあながち不合理と認められない事情が存する場合には無催告で解除権を行使することが許されると解し、既に5か月分の賃料を滞納しているケースについて、無催告解除を認容した判例があります (最判昭43.11.21民集22巻12号41頁)。 ただ、このような特約を結んでいても、諸般の事情から当事者間の信頼関係を破壊するといえない場合には、無催告解除が認められない場合もあります。
解除の意思表示については内容証明郵便でするのが望ましいといえます。 後に訴訟になった場合、解除の意思表示があったかどうか、いつ解除したか等が問題になることもありますので、その証拠を残しておく必要があるからです。
(b)
借家権の無断譲渡、 無断転貸がある場合
1)
基本的な考え方
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ第三者に賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸することはできません。このことは法律の明文で規定されています (民法612条1項)。
したがって、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借権を譲渡したり、 賃借物を転貸した場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます (民法612条2項)。 賃借権の譲渡とは、賃貸借契約上の賃借人の地位を第三者に移転することをいいます。転貸とは、賃借人 (転貸人)が賃借目的物を第三者 (転借人)に返還義務を課して引き渡し、使用収益させることをいいます。転貸の約束をしただけでは契約解除の前提としての転貸とはいえず、第三者に現実の引き渡しをしたことを要します。
親戚の者が同居する場合であっても、使用収益の主体が借家人から第三者に変更されたと評価できるときは転貸となります (東京高判昭38.2.14民集14巻2号209頁)。借家人の不在中その留守番として賃借家屋に入居し、その保存管理をする場合は転貸とは言えません (東京高判昭32.6.19東高民報6号97頁)。 借家人の留守を守るというよりも、自らその家屋を生活の本拠として使用収益しているような事情のもとでは転貸が認められます (東京地判昭26.2.22判タ12号73頁、東京高判昭和40.1.28東高民報16巻1号6頁)。借家人の営業を形式上会社組織に改め、有限会社に賃借家屋を使用させた場合については、転貸が認められます (最判昭31.4.3最高裁判所裁判集民事21号629頁、東京高判昭34.4.6東高民報10巻4号75頁)。
ただ無断譲渡・転貸といえる場合でも、賃貸人に特に不利益を与えることもない一定の場合、つまり背信行為 (信頼関係を破壊する行為) と認めるに足らない特別の事情がある場合には解除は認められないという例外があります。
借家人が個人営業を形式上法人組織に改めたにすぎず、実質的には借家人に変動が認められない場合 (最判昭39.11.19民集18巻9号1900頁、最判昭46.11.4判時654号57頁)、転貸の当初からその期間が短く定められている場合 (一時使用の場合) (東京地判昭32.10.10判時141号24頁)、無断間貸など賃借物一部の転貸の場合 (最判昭36.4.28民集15巻4号1211頁など多数)、親族その他の特殊な関係にある者に譲渡、転貸した場合 (大阪高判昭28.4.2下民集4巻4号474頁、東京高判昭29.7.31東高民報5巻7号16頁など)、賃借権の準共有者が他の準共有者に持分を譲渡した場合 (大阪地昭44.12.1判タ244号262頁、東京地判昭48.1.26判時709号51頁、最判昭29.10.26民集8巻10号1972頁)、賃借家屋を住宅困窮者に転貸した場合 (東京地判昭25.9.1判タ7号62頁)などは背信行為と認める足らない特別の事情があるとして解除が認められないことがあります。
2)
手続
解除の方法については、賃料の滞納の場合とは異なり、催告等を何ら要することなく直ちに解除の意思表示をすることができます。尚、後の紛争を防止するために、解除の意思表示は内容証明郵便によるべきです。
(c)
借家の無断増改築がある場合
借家人は、賃借物の引き渡しを受けた後、返還をなすまで建物を善良なる管理者の注意義務をもって保管する義務があります (民法400条)。
したがって、右義務に違反して増改築がなされた場合は契約違反となりますから、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます。この場合、借家人の増改築が大規模であって、現状回復が困難で信頼関係を破壊する程に背信的である場合には、無催告の契約解除も可能です。
判例上、無断増改築を理由に解除が認められたケースには以下のものがあります。
1)
住宅として賃借した建物をネームプレート製作の仕事場とするために、賃貸人の制止を聞き入れず、タル木を切断して居間を土間とし、この工事と設置した機械の振動により、建物が次第に破損していくことが予想された事例 (東京高判昭28.6.2東高民報4巻2号45頁)
2)
賃借人が6坪5合の付属建物を取り壊し、賃貸人の制止を無視し、更に区役所の工事中止処分、建築禁止の仮処分の執行をもあえて犯して、取り壊したのと同一部分に新しく同様の付属建物の建築をなした事例 (東京地判昭30.9.30判時65号12頁)
3)
賃貸人の制止にもかかわらず、時計貴金属の小売業を営む賃借人が、無断で約3尺4方の空き地に陳列窓の改造・拡張工事をなしたため、隣に居住し煙草の小売業を営む賃貸人の陳列窓の見通しが悪くなり、営業に著しい影響を与えた事例 (東京地判昭32.5.10判時119巻15号)
4)
建坪約8坪の木造建物の賃借人がそれに付属させて約4坪のブロック建築様式の相当堅固な建物を、建築工事禁止の仮処分を無視して完成させた事例 (大阪地判昭38.10.10判時384号39頁)
5)
建坪約9坪7合5勺の建物の賃貸借において、借家人が無断で3坪強の玄関、 ダイニングキッチン及び1坪2合5勺の勉強室兼サンルームの増築等をなした事例 (東京地判昭43.7.6判時537号56頁)
6)
造作変更禁止の特約があるのに借家人が無断で賃借家屋の裏側に接続して木造トタン葺き中2階各階3坪を増築し、さらに裏側の賃貸人所有の空き地に建物を無断増築した事例 (東京地判昭29.9.14下民集5巻9号1485頁)
ただ、借家人もその借家において生活し、あるいは営業を営むものである以上、一定範囲の借家の改良ないし改築はその利用の便宜ないし必要上から、家主としても受忍すべき場合もありますので、このような場合には信頼関係を破壊するに至っていないとして解除が認められないことがあります。信頼関係を破壊するに至っていないことを理由に、解除が認められなかったものとして以下のものがあります。
工事の規模が小さく現状回復が可能であることを理由とするもの (東京地判昭32.10.10判時141号24頁)、 建物の効用を増すことを理由とするもの (東京地判昭25.7.10下民集1巻7号1071頁、東京地判昭43.10.30判タ235号23頁、大阪地判昭27.63判タ26号61頁)、借家人のした行為がやむを得ない事情にあったことを主たる理由とするもの (東京地判昭34.6.29判時192号12頁)、復元が可能であることを理由としたもの (東京高判昭26.2.26下民集2巻2号280頁、 大阪高判昭39.8.5判時386号47頁)
なお、賃貸人、賃借人間であらかじめ無断増改築を禁止する旨の特約を結ぶことは可能であり、右特約は借家法上一般的に有効と解されます。特約があれば、 その効力としては無断増改築等がなされた場合に一応借家人の背信性を推定することができます。判例では、家屋の賃貸借において、賃借人がその家屋の構造を変更することを禁止する特約があり、賃借人が構造変更した場合には、その構造変更の態様が社会通念上特約にいう構造変更と認められないような場合の他は、禁止された構造変更にあたると解すべきであり、現状回復が簡単にできるというだけではこれにあたらないということはできないとともに、他に特段の事情がないかぎり解除権の発生を防げないとし、特段の事情については、家主の承諾を待つことを要しない事情が必要であるとしています (最判昭29.12.21民集8巻12号2199頁)。
(d)
借家の用法違反がある場合
賃借人は賃貸借契約で定められた用法にしたがって使用収益すべき義務がありますから、用法違反があれば、これを理由に契約を解除できます。具体的には次のとおりです。
店舗として使用することは認めるが一定の営業 (例えばバー・キャバレー等の風俗営業等取り締まりの対象となるもの) を除外している場合に、除外された営業を行った場合や、住宅用に賃借した場合にこれを店舗として使用した場合には用法違反になり、契約を解除することができます。ただ、実質的に賃貸人に悪影響を及ぼさない場合には、背信行為とはいえないとして解除が認められない場合もあります。
判例上用法違反を理由に解除が認められたものとして、アパートにおいて徹夜麻雀をしばしば行い、騒音のために他の居住者の睡眠を妨げた事例 (東京北簡判昭43.8.26判時538号72頁)、使用目的を飲食店として賃貸した店舗において、賃借人が金融業を営んだ事例 (名古屋地判昭59.9.26判タ540号234頁)、賃貸家屋が暴力団事務所として使用された事例 (宇都宮地判昭62.11.27判時1272号116頁)、賃貸店舗の営業態様を純喫茶から風俗喫茶に変更した事例 (東京高判昭59.3.7判時1115号97頁)、2階建て住宅の一部分を賃借した賃借人が8匹ないし10匹の猫を飼育した事例 (東京地判昭62.3.2判時1262号117頁)などがあります。
(e)
借家の保管義務違反があった場合
賃借人は賃借物の引渡を受けた後返還をなすまで賃借物を善良な管理者の注意をもって保管する義務があります。
したがって、賃借人が右保管義務に違反した場合には、賃貸人は契約を解除することができます。
(f)
貸主と借主との人的信頼関係が著しく破壊された場合
賃借人の賃借物に関する直接の契約違反はないが、賃貸人に対する円満な関係に破綻が生じた場合でも契約の解除が認められるケースがあります。判例上人的信頼関係の破壊を理由に解除が認められたものとして、賃借人が天袋の中にラジオを置いて音量を一杯にしてアパートの他の居住者に迷惑をかけるなどの異常行動に出た場合 (東京地判昭54.11.27判時963号66頁、判タ416号162頁)、マンション内の店舗で住民の迷惑になるカラオケ騒音を出した場合 (横浜地判平元10.27判タ721号189頁) 等があります。