任意後見制度2|任意後見契約

成年後見ガイド

第3

任意後見制度

3

任意後見契約

(1)

任意後見契約の方式

(イ)
一般の委任契約であれば、特に必要な方式というものはなく、実際には契約書をきちんと作ることがほとんどでしょうけれど、法的には当事者間の合意さえあれば書面があってもなくても(つまり口頭の約束でも)よいものとされています。
しかし、任意後見契約は、契約を結ぶという意思や、契約を結ぶ時点で契約内容を理解できるだけの判断能力があることを公証人に確認させる必要があります。また契約を結んだときからかなりの歳月が経ってから任意後見が始まることもあるので、いざ任意後見が開始するときに、本人の意思を確認できるものがその契約書だけ、ということもありましょう。ですから契約書をしっかりと保存するために、公正証書によらなくてはならないものとされています(任意後見法3条)。本人の意思や状態を確認するという目的からすると、代理により代理人が任意後見契約を結ぶことは望ましくないかもしれませんが、法的には制限されてはいません。
通常は、委任者と受任者の両者が公証役場に出向いて契約をしますが、本人(委任者)が高齢であるとか、障害を持っていて出かけることが難しいというような場合は、公証人に自宅に来てもらうこともできます。
(ロ)
公正証書を作るのに必要は費用の額は以下のとおりです(公証人手数料令9条、16条)。
公正証書作成の手数料 11,000円
公証人に出張してもらう場合 1日2万円(4時間までは1万円)、交通費 実費
登記手数料 1,400円
印紙代 4,000円
正本、謄本の作成手数料 1枚250円
(2)

任意後見契約で委任できること

(イ) 
事実行為について
任意後見契約は、法的には任意後見人に代理権を与えるものとして構成されています。つまり代理権ですから、任意後見人が代理人として取引の相手方と契約を結ぶと、その効果が本人について生じます。
このように、代理権は契約といった「法律行為」を代わりにしてもらうものであり、任意後見人が直接に本人の介護をするなどといった「事実行為」をしてもらうための制度ではありません。このように、任意後見契約では、任意後見人が介護などの事実行為をしてもらうようにすることはできません。もっとも、誰でもいいので介護をしてもらいたいということであれば、介護業者と介護契約を結ぶことを任意後見人に委任することはもちろんできます。ところで、任意後見人自身に介護をしてもらいたいのであれば、「介護(業務)をする」内容の契約を結べばよいことになりますが、この契約は任意後見制度とは別の契約(事実行為の委任を内容とする、民法上の準委任契約(656条))となります。
(ロ)
身上行為について
認知症の高齢者や障害者といった本人を保護するためには、財産行為を委任するだけでなく、介護契約や医療契約など、身上に関係する契約を結んでもらうことも必要な場面が多いでしょう。そこで、法律上も、身上に関する行為が任意後見契約の委任の対象であることが明らかにされています(任意後見法2条1号)。
(3)

任意後見契約で定めなければならないこと

任意後見契約は基本的には委任契約なので、当事者間で合意があればその内容は自由に決めてよいのですが、これを任意後見契約にするには、任意後見制度に本質的ないくつかの事項は必ず定めなければならないこととされています。
(イ)
精神上の障害によって判断能力が不足したときの、事務の委任であること
任意後見制度の趣旨が、精神上の障害によって判断能力の足りない人の保護であるので、この点が任意後見契約で明らかにされていなければなりません(任意後見法2条1号)。身体上の障害によって行動が不自由であり保護が必要な人は、任意後見制度の対象ではないということです。「精神上の障害」というのは、法定後見制度における「精神上の障害」と同じ意味であり、認知症や知的障害、精神障害など、身体上の障害以外のものを広く含みます。
(ロ)
代理権を与えるということ
任意後見人に代理権を与えて、代わりに取引などの法律行為をしてもらうことが任意後見制度の本質です。前述しましたが、介護などの事実行為をしてもらうものは、任意後見契約ではありません。
(ハ)
任意後見監督人が選任されたときから任意後見が始まるということ
任意後見は、本人の判断能力が低下したときに任意後見人が代理権を使って取引をするのですから、任意後見人がその権限を濫用したときに本人による監督が期待できないので、その監督が大きな問題となります。
こうした問題は、法定後見制度でも同じであり、法定後見制度では家庭裁判所が主に後見人などを監督するものとされており、後見監督人などの監督はこれをサポートするものと位置づけられています。そして後見監督人は付けられることもあれば付けられないこともある、任意の機関とされています(前述)。
これに対して任意後見制度においては、本人が自由意思で選んだ任意後見人に対して家庭裁判所は直接的に干渉するのではなく、任意後見監督人を介して間接的にコントロールすることになっています。そこで、任意後見監督人は任意後見を監督するためのメインの機関であり、これは必ず付けなければならない必要的な機関とされています。そして、判断能力低下などの任意後見開始の原因が発生し、それから後見監督人が選任されるのですが、監督機関である任意後見監督人が選任されたときに任意後見が始まるようにすることによって任意後見の権限濫用を防ごうとしています。こうしたことから、「任意後見監督人が選任されたときから任意後見は始まる」(それまでは始まらない)という条件を、任意後見契約に明記しておかなければならないことになっています(任意後見法2条1号)。

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