民事訴訟の勝敗を分ける要点

民事訴訟の勝敗を左右する要点は、「戦略の要点」と「個々の訴訟行為の要点」に分けられます。
「戦略の要点」で判断を誤ると、その後に「個々の訴訟行為の要点」でどれだけ努力しても、勝訴に結びつけることは困難です。
また、「戦略の要点」が適切でも、「個々の訴訟行為の要点」でミスをすると、同様に勝訴を逃すことがあります。
このように、民事訴訟では、戦略と個々の訴訟行為のいずれも重要であり、特に最初の戦略判断がその後の結果を大きく左右します。

1.戦略の要点

(1)裁判所の選択

一般に、訴訟物の価額が140万円を超える事件は、地方裁判所が第一審の管轄裁判所となります。
その場合、問題になるのは、どの地方裁判所に訴えを提起するかという点です。
どの地方裁判所に訴えを起こせるかは、法律上の管轄の定めがあります。
例えば、次のような裁判所に訴えを提起できます。

  • 被告の住所地を管轄する地方裁判所
  • 財産上の請求について、義務履行地を管轄する地方裁判所
    (通常は持参債務の原則により、原告の住所地を管轄する地方裁判所)
  • 手形・小切手による金銭支払請求であれば、手形・小切手の支払地を管轄する地方裁判所
  • 事務所・営業所の業務に関する訴えであれば、その事務所・営業所の所在地を管轄する地方裁判所
  • 不法行為に関する訴えであれば、不法行為地を管轄する地方裁判所
  • 不動産に関する訴えであれば、不動産所在地を管轄する地方裁判所
  • 登記・登録に関する訴えであれば、登記・登録をすべき地を管轄する地方裁判所
  • 相続権、遺留分、遺贈などに関する事件であれば、相続開始時の被相続人の住所地を管轄する地方裁判所

また、管轄には併合請求の管轄といって、複数の請求をまとめて提起する場合に、そのうち一つについて管轄があれば、その地方裁判所に提起できるというルールもあります。
このように、一つの事件について、多数の複数の地方裁判所に訴えを提起できることが通常です。
全国には50の地方裁判所がありますが、同じ地方裁判所でも、その実情は大きく異なります。

例えば、東京地方裁判所には民事を担当する裁判官が270名以上いますが、地方の裁判所では裁判官の数が3人というところもあります。これは裁判官の数の違いですが、当然地方裁判所ごとにいろいろ違いがあります。つまり民事訴訟は、どの地方裁判所に訴えても同じではないのです。
そのため、どの地方裁判所に訴えることが、その事件にとって最も有利かの選択は、極めて重要です。
どの裁判所を選ぶかは、まさに戦略上の重要なポイントです。

(2)裁判官の選択

戦略上の要点として、どの裁判官がその事件を担当するかも重要です。
裁判官は一人ひとり、ものの見方や考え方、判断の傾向が異なります。
そのため、同じ事案でも、裁判官が違えば結論が同じになるとは限りません。どんな裁判官でも同じ結論になる他ないようなはっきりした事案であれば格別、難しい事案になればなるほどより適切で有利な判断をしてくれる可能性のある裁判官は誰かを考えることの重要性が増します。
裁判官の傾向は、過去にその裁判官がどのような判決を書いてきたかを調べることで、ある程度把握することができます。
また、訴えを提起した後にどの裁判官が担当するかは、一定のルールに従って機械的に事件が配点されます。
そのため、工夫次第では、避けたい裁判官を避けることや、ある程度の確率で特定の裁判官に担当してもらう方向を目指すことも可能です。
もちろん、必ず希望どおりになるとは限りませんが、少なくとも「この裁判官では不利になる可能性が高い」という裁判官を避けることは、かなりの確度で可能です。
このように、裁判官の選択は、非常に重要な戦略判断となります。

(3)訴訟代理人弁護士の選択

次に重要なのが、訴訟代理人となる弁護士の選択です。
民事裁判は、弁論主義のもとで行われます。
これは、基本的に当事者の主張と、提出した証拠に基づいて裁判所が判断する仕組みです。
裁判所が当事者に代わって積極的に事案を究明し、事案を審理してくれるわけではありません。
そのため、どのような主張を行い、どのような証拠を提出し、どのように訴訟を進めるかが極めて重要になります。
その役割を担うのが訴訟代理人弁護士です。民事訴訟の勝敗は、訴訟代理人弁護士がどれだけ行き届いた訴訟活動を行うかにかかっています。
したがって、どの弁護士に依頼するかは、民事訴訟における戦略上、非常に重要な要点となります。

(4)手続きの選択

次に、どの裁判手続を選ぶかという問題があります。
紛争を解決する裁判は、必ずしも民事訴訟だけではありません。
例えば、死因贈与の無効を争う場合、死因贈与が有効か無効かは、地方裁判所で民事訴訟として争うことができます。
その一方で、それは遺産分割の前提問題にもなり得るため、遺産分割審判の中で判断してもらうこともあります。
つまり、

  • 民事訴訟で争う
  • 遺産分割審判で争う
  • まず遺産分割審判を行い、その後に民事訴訟を行う
  • 民事訴訟だけで進める

といった選択肢があり得ます。
どの手続を選ぶべきかは、事案全体の状況によって異なります。
しかし、どの手続を選ぶかによって結果や進行が大きく変わるため、これもまた極めて重要な戦略判断となります。

(5)動員と機動の確保

次に、動員と機動の確保という問題があります。
先に述べたとおり、民事訴訟は弁論主義です。
したがって、どれだけ行き届いた訴訟活動を行えるかが、結果に大きく影響します。
そのためには、必要な場面で、必要な対応を、適切なタイミングで行える体制が必要です。
具体的には、必要なだけの数の訴訟代理人弁護士を確保し、しかも、必要なときに必要なだけ機動的に動員できる体制を整えているかが重要になります。
民事訴訟では、この体制の有無が勝敗を左右することがあります。

(6)兵站の確保と遮断

さらに、兵站の確保と遮断も重要な問題です。
民事訴訟は弁論主義であるため、裁判所が当事者のために積極的に事案を究め、審理を進めてくれるわけではありません。裁判所は当事者双方の訴訟代理人弁護士の訴訟活動の結果に対し、判断を下すだけです。民事訴訟の勝敗は、当事者の訴訟代理人弁護士がどれだけ行き届いた十全の訴訟活動を行うかにかかっています。
そのため、訴訟を進めるには相応の費用や人的体制が必要になります。
しかも、地方裁判所だけで終わるとは限らず、高等裁判所、最高裁判所まで見据える必要がある場合が通常です。
そうすると、訴訟を最後まで遂行するために、全体としてどれだけの費用や体制が必要になるのかを見通し、それを確保しているか、すなわち兵站の確保が戦略上非常に重要になります。
これに対し、被告側から見れば、原告側の兵站を維持できなくさせれば、訴訟の中身以前に有利な状況を作ることができます。
逆に、自分の側の兵站を遮断されてしまえば、訴訟活動を十分に行うことができず、不利な立場に追い込まれることになります。
このように、兵站の確保と遮断は民事訴訟において極めて重要です。この兵站の確保と遮断は、一般の民事訴訟においても重要ですが、殊に大規模民事訴訟においては、兵站の確保、遮断は決定的な要点になります。

2.個々の訴訟行為の要点

(1)主張

主張は、民事訴訟における個々の訴訟行為の根幹をなすものです。これまで説明してきたとおり、我国の民事訴訟は弁論主義を採用しております。その帰結として、主張の優劣がその民事訴訟の勝敗に直結するものであることは当然です。ここでいう主張とは、当事者が自己に有利な事実を陳述する行為を指します。
民事訴訟において、事実とは外界の出来事や内心の出来事を指します。また陳述とは、その訴訟手続きの中で、そのような事実を裁判所に対して述べることを意味します。実務上は主として訴状、答弁書、準備書面、口頭弁論期日や弁論準備手続での陳述という形で行われます。

民事訴訟において、主張される事実は、主要事実、間接事実、補助事実に整理されます。主要事実とは、裁判所が一定の法律効果の発生、障害、消滅を認めるために必要な法律要件に該当する具体的事実です。つまり、請求を基礎づける事実や抗弁を基礎づける事実、再抗弁、再々抗弁を基礎づける事実など、その事実が認定されれば、直接に法的結論が動く事実です。例えば、 100万円を貸したから返せと請求する場合、原告が被告に100万円を交付した、それが贈与でなく貸付であった、返済期が到来したなどが、主要事実になります。これに対して被告がもう返したというなら、被告が原告に対して当該債務の弁済として100万を支払ったという事実が抗弁の主要事実になります。つまり、主要事実とは裁判規範に直結する事実です。

間接事実とは、主要事実そのものではないが、そこから主要事実の存否を推認させる事実です。例えば、先述の貸金の例について言えば、主要事実である貸付の合意があったということに対する間接事実は、例えば返済計画についてLINEでやり取りしたとか、返済に関し会話したとか、被告が後日もう少し待ってほしいと返済猶予を求めたというような事実などです。これらは貸付合意そのものではありませんが、経験則上、このような事実があれば、貸付合意があったと推認しやすくなるために、これらが間接事実と呼ばれます。

補助事実とは、主要事実を直接推認させるための事実ではなく、証拠の信用性、証明力に影響を与える事実です。例えば、証人Aが「被告は返すと言っていました」と証言したとすると、この証言の信用力を左右する事実として、証人Aは利害関係のない第三者であるとか、証人Aの供述内容に変遷がなく一貫性があるとかの事情などは、貸付合意があったという主要事実を直接推論する材料というよりは、証人の証言をどこまで信用していくかに関する事実です。これが補助事実です。
裁判官は、主張における事実の陳述に対し、それが主要事実の陳述か、間接事実の陳述か、補助事実の陳述かを区分しながら整理します。したがって主張における事実の陳述に際しては、漫然と事実を並び立てるのではなく、それが主要事実として陳述するものか、間接事実として陳述するものか、補助事実として陳述するものか截然と区別して主張することが重要になります。

主張は、自己に利益な事実の陳述ですが、重要なことは、これらの事実が証拠によって証明されなければならないということです。つまり、証明できる証拠がない事実は、事実として無価値だということです。証拠によって証明される事実でない事実を陳述しても、意味がないということです。それから次に大事なことは、主要事実は裁判規範に直結する事実ですが、その主要事実が裁判規範に直結することについて、最高裁の判例が存在するということが必要だということです。これは、後述の判例のところで述べますが、民事訴訟の勝訴のためにはその事実がその裁判規範に直結するという判例が必要で、判例、殊に最高裁の判例が必要だということです。このような判例の存在しない事実であれば、そのような事実を陳述しても民事訴訟において勝訴につながることは難しいということです。これが非常に大事なことです。更にこの事実の陳述において重要なことは、その事実の陳述が全体として一貫性があること、全体として整合性があること、全体として不自然なものではないことが重要です。全体としての一貫性や整合性や自然な流れのない事実の陳述は、勝訴に結びつきにくいということです。

(2)判例

前に述べましたように、主要事実が当事者の求める裁判規範に直結するためには、最高裁判例が必要です。裁判規範は、民法とか会社法とか具体的な法令の中に存在すると思われるかもしれませんが、民法の条文や会社法の条文そのものは大変抽象的な規定で、その案件における具体的な主要事実の主張に対して、当該裁判規範が適用されるかどうかということまで決まるものではありません。その具体的な案件における具体的な主要事実が裁判規範に直結するためには、最高裁判例が必要で、民事訴訟における勝敗は、この最高裁判例が存在するかどうかによって、結論が左右されることになります。

具体的な例を挙げて述べますと、例えば株式会社Aの代表取締役が、その身分を利用して代表取締役個人の利益のため、自分自身が行っている事業の借入金の保証を会社Aにさせた場合、会社Aのために保証したのではなくて、代表取締役個人のために保証しているわけですから、これは代表取締役として権限の濫用に当たるわけです。その場合の裁判規範としては、民法第93条心裡留保という規定が想定されます。民法第93条第1項によると、「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」と規定されています。

そうすると、今述べたケースはこの民法第93条第1項に該当して、「相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」ということで、その保証を無効とすることができるのかどうかということです。これは、この条文だけではわからないわけです。だから勝敗はこのような主要事実についての最高裁判例があるかどうかということに帰着するわけです。結論として、「株式会社の代表取締役が自己の利益のため会社代表者名義でなした法律行為は、相手方が右代表取締役の真意を知り、また知りうべきものであったときには民法第93条但書の規定を類推し、その効を生じないものと解するのが相当である」とする昭和38年9月5日の最高裁判例があり、これによって初めてこの主要事実がこの裁判規範に直結し、保証が無効であるということが言えるわけです。つまりこの最高裁判決によってはじめて保証が無効であるという民事訴訟の勝訴になるわけです。
この判例がなければ、このような主要事実の陳述は、その保証が無効であるという勝訴の結論には直結しないわけです。つまり敗訴するわけです。

このように、最高裁判例の存在が、民事訴訟においては決定的に重要になってくるわけです。最高裁判例がなく、高裁判例、地裁判例という下級審の判例しかない場合、通常下級審判例は複数あり、どの結論が支配的であるかによって勝訴できる確率が変わります。ことほど左様に民事訴訟においては判例が極めて重要で、判例を徹底的に調査してそれを掲載するということが、民事訴訟の勝敗を分ける決定的要点になります。

判例の調査は、以前は判例集を読んで調査していましたけれども、現在はその判例も全て電子情報化されていて、そのような電子情報の調査によって判例検索をすることが一般です。判例集で調査するにしても、電子情報で調査するにしても、判例の調査は必ずしも容易ではなく、重要な判例を見落としたりすることもあるわけです。重要な最高裁判例を見落とした場合、これは民事訴訟の敗訴に直結します。この最高裁判例がこの事案の判例であるということは、一見して分かりにくい場合もあります。それでつい見落としてしまうというようなこともあり得るわけですけれども、こういう見落としは、民事訴訟の敗訴に直結するということになるわけです。

判例調査の重要性については、いくら強調しても強調し足りません。
判例調査は案件によっては、日本の判例には限りません。場合によっては外国の判例を調査する必要があります。これを具体的な例で述べますと、最高裁の平成16年7月1日の判例があります。これはどういう判例かというと、会計帳簿閲覧謄写請求権を違法行為調査だけで閉じずに、譲渡制限株式の適正価格の算定という場面でも正面から認めた最高裁判例です。これは会社法実務の分水嶺になった判決で、非常に重要でかつ有名な判決です。最高裁が、譲渡制限株式の価格算定目的の閲覧請求は特段の事情がない限り閲覧拒絶理由には当たらないという判示をした画期的な判例です。これまで最高裁判例はありませんでした。この事案は、相続人が会社の株式を相続して、遺産分割協議や相続税支払いのための売却に備えて、その株式の時価の適正算定をするために、会計帳簿閲覧を会社に求めたというものです。今まで最高裁の判例はなく、下級審は、このような遺産分割協議や相続税支払いのための売却に備えた株式等の時価の適正算定のための会計帳簿の閲覧謄写は、会社において拒絶できるという結論でした。それに対して最高裁はそれも会計帳簿の閲覧謄写の理由に当たり、拒絶理由に当たらないという判決をしたものです。

これは非常に重要な有名な判決で、今もこの最高裁判例は、ロースクールなどの学生の勉強や研究材料に使われていますし、判例100選にも採用されています。 いろんな学者が論文を書いています。この事件では、相続人の株式等の時価算定のための会計帳簿の閲覧謄写は、閲覧謄写の拒絶理由にあたるということで地裁、高裁ともに請求を棄却されてるわけです。それに対して上告受理申立で最高裁が画期的な判決を出したということですが、この時日本の判例調査では、この主要事実が裁判規範に直結するという最高裁判例はなく、これを否定する下級審判例がたくさんあるということで、そういう結果になっているわけです。当事務所は相続人の訴訟代理人としてこの上告受理申立案件を担当し、アメリカ合衆国の判例を提出しました。日本の会計帳簿の閲覧制度についての法律制度は、アメリカ合衆国法がモデルになっています。そのモデルとなったアメリカ合衆国法では、株式の価格評価のために会計帳簿を閲覧できるという判例があったのです。
当事務所は母法のアメリカ合衆国の判例を調査して、これを陳述しました。当然厖大な調査になるわけですが、とにかくそれでこの最高裁の判例が出たという経過があるわけです。

このように判例の調査は、必ずしも日本の判例を調査したらそれで事済むものではなくて、日本で最高裁の判例がないとか、日本法の判例が否定的な場合とかであれば、これに違う判例を母法の外国法の判例で調査して提出するといったことも、民事訴訟の勝訴のためには非常に重要なことになってくるわけです。
ここに述べましたことで明らかなように、要するに民事訴訟の勝敗を分けるものは判例です。判例が決定的だということです。その当該主要事実がその裁判規範に直結するその判例を探し出せるかどうかが、民事訴訟の勝敗を分けます。それほど重要だということです。

(3)証拠

前に述べたとおり、主張された事実は、証拠によって証明されない限り、裁判所に事実として採用されません。
民事訴訟においては、どれほどもっともらしい主張であっても、それを裏づける証拠がなければ、裁判上の意味を持たないということです。

証拠には、書証、証人尋問、本人尋問、鑑定、検証などがあります。
このうち、最も重要なのは書証です。裁判官は書証中心主義で考え、事実認定の中心は圧倒的に書証です。
書証について注意すべき要点は、単に数多く提出することではなく、争点となる事実を的確に証明できる証拠を、信用性と整合性を保ちながら整理して提出することにあります。
契約の成立を証明したいのであれば契約書、申込書、注文書、合意内容を示すメールなどが中心になりますし、履行を証明したいのであれば納品書、検収書、作業報告書、振込記録などが重要になります。また、未払いを証明したいのであれば請求書、催告書、残高確認書、督促のメールなどが意味を持ちます。要するに、要件事実ごとに、それに最も近い証拠を選ばなければなりません。争点から遠い証拠や、単なる事情説明にとどまる証拠ばかりでは、裁判所は肝心の事実を認定しにくくなります。
実務上、特に評価されやすいのは、紛争になる前に、通常の業務ややり取りの中で自然に作成された文書です。このような文書は作為が入りにくく、信用性が高いと見られやすいからです。これに対し、紛争後に一方当事者が作成したメモや一覧表、説明文などは、補助的な意味はあるとしても、それだけで十分な立証力を持つとはいえません。
書証の真正と信用性にも十分な注意が必要です。その文書がいつ、誰が、どのような経緯で作成したのか、原本があるのか写しなのか、改ざんの疑いはないか、といった点が問題になります。契約書であれば署名押印の有無、メールであれば送受信者、日時、件名、前後の流れ、LINEなどであればアカウントの主体や会話全体の文脈が分かるようにしておく必要があります。

書証は単体で考えるだけでは足りず、全体としてどう組み立てるかという視点も欠かせません。1枚で決定的な意味を持つ証拠がある事件もありますが、多くの事件では、契約書、見積書、注文メール、納品書、請求書、督促メールなどが相互に結びつくことによって、事実全体が認定されます。その意味で、書証は「束」で効くことが多いといえます。ただし、だからといって無秩序に大量提出すればよいわけではありません。重要な証拠、補強のための証拠、背景事情を示す証拠を区別し、争点に沿って整理して提出しなければ、かえって要点が埋もれてしまいます。
書証相互の整合性も勝敗を左右します。日付、金額、名義、やり取りの順序などに食い違いがあると、一つの証拠だけでなく、証拠全体の信用性まで損なわれるおそれがあります。たとえば、請求書の日付と催告書の日付が不自然であったり、契約成立前に履行が始まっているように見えたりすると、裁判所はその経過全体に疑問を持ちます。そこで、提出前に時系列表を作り、各書証がその流れの中に適切に位置づけられるかを確認することが重要になります。訴訟で強いのは、個々の証拠が孤立している場合ではなく、複数の書証が相互に符合し、一つの自然な事実経過を形作っている場合です。
不利な書証の扱いにも慎重さが求められます。自分に不利な文書が存在し、相手方から提出されるおそれがある場合、その意味を限定し、前後関係を示し、誤解を防ぐ補足証拠を用意するなどして、あらかじめ評価の方向を整えておく必要があります。

書証についてもう一つ重要なのは、書証の中に、その提出者の主張をむしろ否定するような矛盾した事情が含まれていることが、実務上決して少なくないということです。そのため、書証を提出する側としては、提出前にその内容を十分に吟味し、その書証の中に自らの主張と矛盾する記載や事情が含まれていないかを慎重に確認する必要があります。他方、相手方としては、そのような矛盾が書証自体の中に表れていることがあるため、提出された書証を注意深く読み込み、その内部に矛盾や不自然さがないかを丁寧に検討することが必要です。

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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は、民事訴訟、人事訴訟、家事審判、商事非訟、家事非訟等の民事裁判業務において累計1,448件(平成27年~令和7年)の取扱実績を有し、豊富な経験と高度な訴訟ノウハウを蓄積してまいりました。また、民事調停、家事調停、民事保全、民事執行、示談交渉等の隣接業務においても累計2,586件(平成27年~令和7年)の取扱実績を重ね、多くの依頼者の皆様から厚い信頼を獲得しています。