民事訴訟の専門知識

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7 弁論主義

弁論主義とは、民事訴訟において、裁判所が判断の基礎とする事実は、原則として当事者が主張したものに限られるという制度です。裁判官は、当事者が何も主張していない事実を自ら探し出して判断することはできません。

この原則のもとでは、裁判は「裁判官が真実をすべて調べてくれる場」ではなく、当事者が示した主張と証拠を素材として進められる手続になります。弁論主義は、民事訴訟が当事者の責任で進められる制度であることを示す基本原則であり、口頭弁論や準備書面、証拠調べのすべてに影響を与えています。

弁論主義の対極をなす制度が職権探知主義という制度です。この制度では、裁判官は当事者の主張の有無にかかわらず、自ら事実と証拠を探し出し判断します。

我国の民事訴訟制度は弁論主義を採用しています。

(1)弁論主義の3つの柱

弁論主義は、抽象的な理念ではなく、実務では主に次の三つの形で現れます。これらを理解していないと、「なぜ負けたのか分からない」という結果になりがちです。

ア 主張しない事実は判断されない

民事裁判では、たとえ実際に起きていた事実であっても、当事者が主張しなければ、裁判所はそれを判断の材料にできません。裁判官が記録や雰囲気から「分かっていそう」に見えても、主張として出ていなければ、原則として存在しないものとして扱われます。実務では、この点が準備書面の書き方や主張の漏れに直結します。

イ 争いのない事実はそのまま前提になる

当事者双方が争わない事実については、裁判所はその事実が真実であるものとして判断を進めます。これが、いわゆる自白や擬制自白の効果につながります。特に被告側が十分な反論をしないまま手続が進むと、後になって事実関係を争うことが難しくなる場合があります。

ウ 証拠は原則として当事者が出す

裁判所が判断に使う証拠も、原則として当事者が提出したものに限られます。裁判官が職権で証拠を集めることは例外的であり、基本的には期待できません。そのため、「主張した事実を、どの証拠で支えるのか」を当事者自身が考える必要があります。

(2)主要事実・間接事実の考え方

弁論主義を実務で理解するうえで重要なのが、主要事実と間接事実という考え方です。主要事実とは、請求や抗弁が認められるために法律上必要とされる事実をいいます。例えば、契約に基づく請求であれば、契約の成立や内容といった点が主要事実になります。

これに対し、間接事実とは、主要事実の存在を推認させるための事実です。直接「契約が成立した」と示す証拠がなくても、やり取りの経過や行動状況といった間接事実を積み重ねることで、主要事実の存在を裏付けていきます。実務では、どこまでを主要事実として主張し、どこからを間接事実で補強するかという整理が極めて重要になります。ここを意識できるかどうかが、準備書面や証拠の組み立て方に大きな差を生みます。

(3)裁判所はどこまで関与できるのか

弁論主義のもとでは、裁判所は当事者が提出した主張や証拠を前提に判断を行いますが、まったく関与しないわけではありません。その代表が釈明権です。釈明権とは、裁判官が当事者に対し、主張の意味や趣旨を確認したり、不明確な点について説明を求めたりする権限をいいます。ただし、釈明はあくまで主張を明確にするためのものであり、裁判所が新たな主張を補ってくれる制度ではありません。

また、民事訴訟では、原則として職権探知は認められていません。裁判所が当事者に代わって事実を調べたり、証拠を探したりすることは例外的です。もっとも、身分関係訴訟や一部の公益性が強い事件、医療訴訟などでは、実務上、裁判所の関与が比較的強くなる場面もあります。ただしそれでも、弁論主義そのものが否定されるわけではなく、基本は当事者主導である点は変わりません。

(4)弁論主義で負けないための実務的注意点

弁論主義を理解していないと、実務では思わぬ形で不利になります。特に多いのが、「言わなくても分かるだろう」「裁判官なら気づいてくれるはずだ」という思い込みです。民事裁判では、主張されていない事実は、原則として存在しないものとして扱われます。

本人訴訟では、感情的な経緯や不満は詳しく述べているものの、法律上必要な事実が整理されていないケースが少なくありません。その結果、裁判官としては判断の前提を置くことができず、結論として請求が認められないことがあります。

弁論主義のもとでは、何が争点で、どの事実を、どの証拠で支えるのかを明示することが不可欠です。この点を意識できるかどうかが、結果に大きな差を生みます。

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この記事の監修
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は、民事訴訟、人事訴訟、家事審判、商事非訟、家事非訟等の民事裁判業務において累計1,448件(平成27年~令和7年)の取扱実績を有し、豊富な経験と高度な訴訟ノウハウを蓄積してまいりました。
また、民事調停、家事調停、民事保全、民事執行、示談交渉等の隣接業務においても累計2,586件(平成27年~令和7年)の取扱実績を重ね、多くの依頼者の皆様から厚い信頼を獲得しています。