民事訴訟の専門知識

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2 民事訴訟制度に関連する制度

民事訴訟は、当事者間の権利義務について裁判所が最終的な判断を示す手続ですが、訴えを起こしてから判決が確定するまでには一定の時間がかかります。その間に、相手方が財産を処分してしまったり、権利の実現が難しくなったりすると、勝訴判決を得ても実質的な救済につながらない場合があります。

そこで民事訴訟制度には、訴訟を実効的なものにするために、訴訟と密接に関係する制度が用意されています。代表的なのが民事保全手続民事執行手続です。民事保全は、将来の権利実現に備えて暫定的に状況を確保する制度であり、民事執行は、判決などに基づいて権利内容を強制的に実現する制度です。実務では、訴訟とこれらの制度を組み合わせて使うことで、はじめて現実的な解決に近づくことが少なくありません。

以下では、民事訴訟を検討する一般の方が、まず押さえておくべき範囲で、民事保全と民事執行の位置づけ・利用場面・注意点を整理します。

(1)民事保全手続

民事保全手続とは、将来の民事訴訟や民事執行によって権利を実現するために、その前提となる状況を暫定的に確保するための手続です。民事訴訟は、裁判所が当事者間の権利義務について最終的な判断を示す制度ですが、訴えを提起してから判決が確定するまでには、一定の時間がかかります。その間に相手方が財産を処分したり、権利関係を変動させたりすると、たとえ勝訴判決を得ても、実際には権利を回収できない事態が生じ得ます。

このような「時間の経過による不利益」を防ぐために設けられているのが、民事保全手続です。民事保全は、紛争の結論を決めるものではなく、あくまで将来の権利実現を確保するための補助的な制度という位置づけにあります。

ア 位置づけ(民事訴訟との関係)

民事保全は、民事訴訟とは別個の手続として進められますが、実務上は訴訟と密接に結びついて利用されます。訴訟提起前に保全を行う場合もあれば、訴訟係属中に併せて保全を申し立てる場合もあります。いずれにしても、民事保全は「訴訟で勝つこと」を前提に、その結果が空回りしないようにするための手段といえます。

重要なのは、民事保全が認められたからといって、それだけで紛争が解決するわけではないという点です。保全はあくまで暫定的な措置であり、最終的には民事訴訟などの本案手続において、権利の存否や内容について判断を受ける必要があります。その意味で、民事保全は「勝つための制度」ではなく、「勝った結果を無意味にしないための制度」と整理することができます。

イ 代表的な類型(仮差押えと仮処分)

民事保全手続には、代表的なものとして仮差押えと仮処分があります。仮差押えは、主に金銭の支払いを求める請求を予定している場合に利用される手続で、将来の民事執行に備えて、相手方の財産の処分を制限します。これにより、相手方が財産を隠したり、処分したりすることを防ぐ効果が期待されます。

一方、仮処分は、金銭以外の権利関係について用いられることが多く、たとえば特定の地位や権利状態を現状のまま維持することや、一定の行為を暫定的に命じることを目的とします。どちらの手続を選択すべきかは、最終的に何を実現したいのか、どのような危険を防ぎたいのかによって異なります。

ウ 進め方の概略と判断の特徴

民事保全は、裁判所に対する申立てによって開始されます。訴訟と比べて迅速性が重視されるため、通常は短期間で判断が示されるのが特徴です。その反面、十分な時間をかけた証拠調べが行われるわけではなく、申立人は、限られた資料の中で、権利の存在や保全の必要性を疎明することが求められます。

このように、民事保全はスピードを重視する制度であるため、事実関係や法的構成を簡潔かつ的確に整理することが重要になります。実務では、どの時点で、どの範囲まで保全を求めるかについて、慎重な判断が必要とされます。

エ 注意点(強力だが負担も伴う制度)

民事保全は、相手方の財産や行動を制限する可能性があるため、強力な手段である一方、使い方を誤ると相手方に誤った負担を強いることになります。そのため、申立人に対して担保の提供が求められることが一般で、経済的な負担が生じることがあります。

また、保全が認められた場合でも、その後の訴訟で敗訴すれば、保全によって生じた不利益について問題となることもあり、場合によっては損害賠償義務を負います。そのため、民事保全は「とりあえず使えばよい制度」ではなく、本案との整合性や必要性を十分に検討したうえで利用すべき制度であることを理解しておく必要があります。

(2)民事執行手続

民事執行手続とは、確定した判決などに基づいて、債権者の権利内容を強制的に実現するための手続です。民事訴訟は、裁判所が当事者間の権利義務について判断を示す制度ですが、判決が出たとしても、相手方が任意に義務を履行しなければ、実際に権利が回復されるわけではありません。そのような場合に、判決の内容を現実のものとする役割を担うのが民事執行手続です。

この意味で、民事執行は民事訴訟の「出口」に位置づけられる制度といえます。訴訟で勝つこと自体が目的なのではなく、最終的に権利を実現できるかどうかが重要である以上、民事執行は民事訴訟と切り離して考えることはできません。

ア 位置づけ(判決後の実現手段)

民事執行は、原則として、判決などによって権利内容が確定した後に行われます。つまり、「誰が、誰に、何をしなければならないか」が明確になった段階で、その内容を実際に履行させるための制度です。そのため、民事執行は民事訴訟の結果を前提として進められる手続であり、訴訟の進め方や請求内容は、将来の執行のしやすさにも影響します。

実務では、訴訟の段階から「勝訴した後に、実際に回収できるか」「どのような執行が可能か」を意識して対応が行われることが一般です。民事執行は、単なる後処理ではなく、訴訟と一体で考えるべき制度といえます。

イ 典型的な対象(財産に対する強制)

民事執行では、相手方の財産を対象として、差押えや換価などの措置が取られます。金銭の支払いを求める場合には、預貯金、不動産、給与などが執行の対象となることがあります。これらの財産に対して、裁判所の手続を通じて強制的に処分や回収が行われます。

もっとも、どの財産を対象にできるかは、相手方がどのような資産を持っているかによって左右されます。理論上は権利があっても、現実に執行可能な財産がなければ、期待どおりの回収ができないことが一般です。この点で、民事執行は法律論だけで完結しない、現実的な要素が強い制度といえます。

ウ 進め方の概略(債務名義から手続へ)

民事執行を行うためには、通常、判決などの債務名義が必要となります。債務名義とは、強制的に権利を実現できることを示す根拠となるものです。これを前提に、裁判所に対して執行の申立てを行い、対象となる財産や方法に応じて、差押えや換価などの手続が進められます。

どの執行方法を選択するかによって、手続の進行や結果に違いが生じるため、実務では、相手方の資産状況や回収の見込みを踏まえた判断が求められます。場合によっては、複数の手段を検討することもあります。

エ 注意点(万能ではない制度)

民事執行は、判決の内容を実現するための強制力を伴う制度ですが、万能ではありません。相手方に十分な財産がない場合や、財産の所在が不明な場合には、執行を行っても期待した結果が得られません。

また、民事執行には一定の費用や手間がかかり、手続が長期化する場合もあります。そのため、訴訟を始める段階で、最終的に民事執行まで進む可能性を見据え、費用対効果や回収可能性を現実的に検討することが重要です。民事執行は、権利を守るための重要な制度である一方、その限界も理解したうえで利用すべき制度といえます。

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この記事の監修
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は、民事訴訟、人事訴訟、家事審判、商事非訟、家事非訟等の民事裁判業務において累計1,448件(平成27年~令和7年)の取扱実績を有し、豊富な経験と高度な訴訟ノウハウを蓄積してまいりました。
また、民事調停、家事調停、民事保全、民事執行、示談交渉等の隣接業務においても累計2,586件(平成27年~令和7年)の取扱実績を重ね、多くの依頼者の皆様から厚い信頼を獲得しています。