民事訴訟の専門知識
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8 準備書面
民事訴訟では、実際の審理は法廷でのやり取りよりも、準備書面と呼ばれる書面を中心に進められるのが実務の実態です。口頭弁論は重要な手続ではありますが、その場で即興的に主張を尽くすことはほとんど想定されていません。裁判官は、事前に提出された準備書面を読み込んだうえで期日に臨み、争点や今後の進行を確認します。
そのため、準備書面は単なる補足資料ではなく、訴訟における主張の中核をなす書面です。準備書面をどう書き、どう積み重ねていくかが、訴訟の行方を大きく左右します。
(1)準備書面に書く内容・書かない内容
準備書面に記載すべき内容は、闇雲に多ければよいわけではありません。実務では、何を書くか以上に、何を書かないかが重要になります。
ア 事実の主張
準備書面の中心は、法律上判断の前提となる事実の主張です。経緯を時系列で整理しつつ、どの事実が争点に関係するのかを明確にすることが求められます。重要でない事実まで詳細に書き連ねると、かえって争点がぼやけてしまいます。
イ 反論・抗弁
相手方の主張に対しては、感想ではなく、どの点を争い、どの点を認めるのかを整理した反論を行います。特に、争わない部分を明確にしておくことは、後の争点整理において重要です。
ウ 感情的記載・余談が不要な理由
本人訴訟では、憤りや不満を詳細に書いてしまう例が少なくありません。しかし、裁判官が判断に使えるのは、法律上意味のある事実と主張だけです。感情的な記載や余談は、書面全体の説得力を下げる結果になりがちです。
(2)準備書面の提出タイミングと実務運用
準備書面は、内容だけでなく提出のタイミングも重要です。実務では、口頭弁論期日の直前や当日に提出するよりも、期日前に提出することが強く望まれます。裁判官が事前に目を通すことができれば、期日の場で建設的な争点整理が進みやすくなるからです。
また、「後でまとめて書けばよい」と考えて書面の提出を先延ばしにすると、主張の整理が追いつかず、不利な印象を与えることもあります。準備書面は、訴訟の流れに合わせて段階的に提出するものであるという意識が重要です。
(3)本人訴訟と弁護士作成書面の違い
本人訴訟と弁護士作成の準備書面の違いは、文章量や言い回しの巧拙にあるわけではありません。最大の違いは、主張と争点が整理されているかどうかです。
弁護士は、裁判官がどの点で判断に迷うかを意識し、必要な事実と証拠を絞り込んで書面を構成します。一方、本人訴訟では、重要な事実とそうでない事実が混在し、裁判官が判断の軸を見つけにくい書面になってしまうことがあります。裁判官が見ているのは、主張の迫力ではなく、判断に使える情報が整理されているかどうかです。
(4)準備書面はどう積み重なるか
準備書面は、1通で勝敗を決めるための書面ではありません。訴訟の進行に応じて、主張を補充し、争点を絞り込み、最終的に裁判所が判断しやすい状態を作っていくためのものです。
初期段階の書面ですべてを言い切ろうとするよりも、相手方の反論や裁判所の指摘を踏まえて、書面を積み重ねていくことが重要です。この積み重ねが、後の争点整理や判決にそのままつながっていきます。
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