成年後見

後見人の不動産処分に関する権限とその制約

1 はじめに

 皆様の中には、現在所有している不動産について、老後の生活費や医療費、施設への入居費用などを捻出するため、将来売却することをお考えの方も多くいらっしゃると思います。しかし、実際に上述の費用が必要となるときには、認知症によりご自身で不動産の処分を行うことができなくなっている場合があります。
 そのような場合、不動産の処分を行うためには、成年後見制度を利用する必要があります。今回は、後見人が、被後見人の所有する不動産の処分に関し、いかなる権限を持ち、いかなる制約に服するかについて説明します。

2 法定後見制度を利用する場合

⑴ 居住用不動産の処分

 

 法定後見制度を利用する場合、成年後見人は、被後見人の所有する居住用不動産を、被後見人に代わって売却、賃貸、担保権の設定その他これらに準ずる処分をする場合には、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。
 例えば、成年後見人が、被後見人の所有する自宅土地建物の売却や建物の取壊しを行うには、成年後見人は、家庭裁判所に対して上記行為の許可を申し立てます。
  申立てを受けた家庭裁判所は、処分の必要性や現在の被後見人の生活状況、将来の居住環境の見通しなどを考慮して、処分行為を許可するかどうかを判断します。
 なお、被後見人が長期の入院等により長期間自宅を空けているとしても、被後見人が退院して自宅に戻る可能性が絶無でない限り、「居住用不動産」に該当するものと判断されます(東京地判平成28年8月10日)。

⑵ 非居住用不動産の処分

 被後見人の居住用ではない不動産(非居住用不動産)については、成年後見人は家庭裁判所の許可がなくても、財産管理の一環として、売却、賃貸、担保権の設定等の処分をすることができます。
ただし、後見監督人が選任されている場合は、後見監督人の同意が必要です(民法864条、13条1項3号)。

3 不動産を処分する際の調査、検討事項とその具体的方法

不動産の処分は被後見人の重大な利害にかかわる行為ですので、成年後見人が被後見人の不動産を処分しようとする場合には、成年後見人は、処分する不動産が居住用不動産か否かにかかわらず、その処分が被後見人にとって必要なものかどうか、また、処分内容が被後見人にとって不利でないかどうかについて、以下のような慎重な調査・検討を行う必要があります。
① 処分目的の調査
被後見人の生活の維持や被後見人のよりよい生活の実現を目的とする場合には、処分の必要性が認められます。しかし、被後見人以外の親族や第三者への援助を目的とする場合は、被後見人が扶養義務の履行として行うといった場合でなければ、原則として処分の必要性は認められません。
② 被後見人の資産及び収支状況の調査
預貯金等の資産がどれだけあるか、対象不動産からの収入がどれだけ生じているかを検討します。
③ 不動産を処分した場合と処分しなかった場合のシミュレーション
不動産の処分が被後見人の福祉に真に有用かどうか、リフォームに止めるなど、不動産処分以外の方法で足りるのではないか、などを検討します。
④ 不動産価格の調査
適正な不動産価格の把握のため、複数の不動産業者から査定を取り、調査を尽くす必要があります。
⑤ 売却方法の検討
不動産の売却方法には、知人や身内に売却する方法、売出価格に購入希望を出した者と先着順で交渉を行っていく相対方式、購入希望者が入札して最も高い金額を提示した購入希望者と契約する競争入札方式など、様々な方法があります。競争入札方式を取ると希望価格以上の高値で売却できる可能性がありますが、売出価格の設定によっては相場より安い落札価格になったり、買い手が付かなかったりする可能性もありますので、売却方法の選択及び売出価格の設定には十分な検討が必要です。
⑥ 売買条件の精査
代金支払方法や履行条件等の契約内容が被後見人にとって不利な内容にならないよう、売買契約締結前に契約内容を検討し、必要に応じ買主側と交渉することが必要です。

4 任意後見制度の利用

 法定後見制度を利用する場合、成年後見人が、被後見人所有の不動産の処分を行うには、上述のとおり様々な制約があります。そのため、必ずしも被後見人が法定後見制度を利用する前に希望していた通りに不動産を処分できない場合があります。
 そのようなことを回避するためには、ご自身の判断能力が十分にあるときに、ご自身(委任者)と将来後見事務を委任したい方(受任者)との間で任意後見契約を締結しておくという方法(任意後見制度)があります。
 任意後見制度を利用する場合、委任者は、ご自身の希望を理解している信頼できる方を受任者とすることができます。
また、委任範囲を合意により定めますので、法定後見制度を利用する場合と異なり、任意後見人が、家庭裁判所の許可や任意後見監督人の同意を得なくとも、委任者の不動産を処分できるようにすることが可能です。
さらに、不動産の処分時期や売却方法等について具体的なご希望がある方は、任意後見契約中に、受任者が委任者のご希望を尊重して後見事務を行う旨の規定を設けておくことで、任意後見人が不動産を処分する際に、可能な限り委任者の意向を反映することができます。
以上のとおり,任意後見制度を利用することで,法定後見制度を利用した場合よりも被後見人の意向を反映した迅速な不動産の処分を行うことができるようになります。

5 さいごに

任意後見制度を利用して不動産処分についてのご自身の意向を反映できるようにしておきたい方は、専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は、東京、大阪、名古屋、横浜、札幌、福岡に拠点を有しておりますので、成年後見実務に関しお困りの点やご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。

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