企業法務

会社の創業と法律実務

1 はじめに

 近年では、個人事業又は会社形態での事業を問わず、格別な専門知識を有していない場合であっても、起業すること自体は比較的容易に可能です。
 しかし、いざ会社を起業するとなると、①事業計画を立て、②必要に応じて資金調達を行い、③実際に会社を設立し、④会社の機関を整え、⑤従業員を雇い、⑥会社を管理運営し、⑦各種の取引行為を行い、さらには、⑧М&A等を実施することもありますが、これらの手続きは、その全てが法律実務であり、会社を起業して経営することは、法律実務の積み重ねであると言えます。
 そのため、起業当初は売上を上げることの優先順位が最も高く、法務の優先順位は低いことが多く見受けられますが、会社を順調に発展させるためには、起業当初から会社の成長に合わせて法的リスクを管理できる体制を整えていくことが大切です。

2 法的リスクを管理するための体制の整え方について

(1) まず、問題が起こってから専門家を探すとなると、信頼できる専門家かどうか判断がつかないまま依頼せざるを得なかったり、手遅れになったりすることもあるため、すぐに相談できる専門家がいる状態にします。

(2) 次に、外部の専門家に相談することが増えれば費用も増加することに加え、自社の社員は会社の事情をよく知っていることなどから、自社内に法務担当の社員を置き、その後、法務担当部署を設置し、組織として法的リスクを管理することに努めます。

(3) また、法務部門がある程度の規模になった場合、契約などを取り扱う法務業務とコンプライアンスについて扱うコンプライアンス業務を同じ部署が担当すべきではないとの考え方に基づき、両者を分離して別部門とすることがあります。

(4) 以上のような進め方で法的リスクを管理する体制を作っていくことになりますが、会社の状況や考え方に応じて少しずつ体制を整えていくことが重要です。

3 起業当初における法務の留意点

(1) 事業計画を立てる際

 ⅰビジネスアイデアを保護することと、ⅱ事業を行うために支障となる法規制を確認し、規制がある場合にはどのようにクリアーするかということが重要になります。

ア 具体的には、ⅰ必要以上に第三者にアイデアを話さないように注意するとともに、どうしてもアイデアを説明しなければならない場合には、秘密保持義務を負わせることを検討すべきです。その他、特許権や実用新案権などのアイデアが法的保護を受けられるための手続きを取る方法も考えられます。

イ また、ⅱ法令によってその事業内容が規制されていないか確認する必要があり、規制の対象となる可能性がある場合には、当該ビジネスが規制対象であるかどうかを規制当局に確認することができるグレーゾーン解消制度などを利用することで、どうすれば当該新規事業を実施することができるのかについて検討することも必要となります。

ウ 上記のように、起業当初から法的リスクを管理することにより、法規制をクリアーしてビジネスが実現できるようになるなど、起業当初から法務に注力することは、事業を積極的に推し進めるためにも重要な役割を果たします。

(2) 会社の機関構成を検討する際

 どのような機関構成を選択するかを考える際には、意思決定や業務執行の迅速性と監督機能の強化のバランスを取ることが重要であり、㋐法律上の制約、㋑投資家からの要求、㋒IPOのスケジュール等に留意する必要があります。

ア 具体的には、㋐例えば、会社が公開会社の場合には、株式の譲渡を通じて株主が頻繁に交代することが予定され、個々の株主が業務執行者を十分に監視することが期待できないことから、業務執行を監視するために取締役会の設置が義務付けられています。また、法律上の大会社の場合には、会社債権者を保護するため計算書類の適正化を図る要請が大きく、また会計監査人設置に伴う費用を負担する力があると考えられることから、会計監査人を設置することが義務付けられます。会社が成長していくうちに大会社に該当している場合があり得ますので、機関構成を検討する際には留意する必要があります。

イ また、㋑資金調達のために投資家に出資してもらうことがありますが、通常、その際に締結される投資契約書においては、取締役会や監査役や社外取締役を置くことなどの監督機能強化の体制を投資の前提条件として求められることがありますので、契約違反とならないよう留意する必要があります。投資家から投資を受けやすくするためには、監督機能が強化されるような機関構成に少しずつ変えていくことも重要となります。

ウ さらに、㋒IPOを目標とする場合、IPOの条件として監督機能を強化するための機関の設置が求められるため、IPOの目標時期に合わせて、徐々に機関構成を変えていき、意思決定・業務執行の迅速性と監督機能の強化のバランスが取れるようにすることが必要となります。

(3) 資金調達をする際

 会社は、事業を始める時だけにとどまらず、その成長の各ステージで資金調達を必要とするところ、資金調達の方法には大きく分けて、a.融資を受ける方法と、b.出資を受ける方法があります。

ア まず、a.融資を受ける方法としては、金融機関や個人から借入れを行う方法があります。
 契約書を作らずに借入れを行った場合、当事者間でトラブルになる可能性のみならず、税務調査時にトラブルになる可能性もあることから、金融機関からの借入れの場合のみならず、個人から借入れを行う際にも、対外的に説明できるように必ず契約書を作成し、いずれの場合においても、気付かない内に契約違反となったり、誤解がないようにするため、契約交渉の余地がない場合であったとしても、契約内容を把握しておくことは必要です。

イ 出資を受ける方法とは、株式を引き受けてもらうことによって資金を調達する方法であるところ、一度所有された株式は簡単には取り戻すことができず、持株割合も大きく変更することは容易ではないことから、資金調達のための戦略や計画を立てる際には、株式の持分割合をどうするかということが重要となります。
 例えば、会社において、重要な決議事項に関してなされる特別決議は、株主総会に出席した株主の有している議決権の合計が、行使可能な議決権の過半数に達しており、その出席株主の議決権の3分の2が賛成して決議が成立することから、投資家に3分の1を超える株式を取得させないようにすることが考えられますが、起業してからも会社が成長していくにつれて複数回の出資を受けることがあるため、長期的な資金調達について計画を立てることが重要です。

(4) M&Aにより会社を取得する場合

 近年では、新規事業に参入する際に一から会社を立ち上げて事業を始めるのではなく、既に事業を行っている会社を買収し、人材や技術ノウハウをそのまま活用することで、初期投資を抑える形での参入も珍しくなくなってきました。
 M&Aにより会社を取得する方法としては、株式譲渡・合併・株式交換・株式移転がありますが、M&Aは契約行為であるため、弁護士が契約書を作成又は確認しますし、法務面のデューディリジェンスを行う際や、株主総会決議等の手続きを実施する際にも弁護士のサポートが必要です。
 また、財務や税務面については、公認会計士や税理士が検討ないし確認し、買収対象の会社に問題がないか調べることが必要になります。

4 最後に

 起業当初は、特に迅速な対応が求められるとともに、リスクを管理することは当然ですが、その上で、それを回避しながら前に進む道を起業家の皆様と専門家が共に力を合わせて模索していくことが重要になります。
 弁護士法人朝日中央綜合法律事務所では、多数の顧問先企業(現在300件以上)の皆様に提供してまいりました法務サービスを通して株主総会・取締役会運営、各種契約業務、債権管理業務などをはじめとする企業法務に豊富な経験とノウハウを蓄積しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。

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