損害賠償

地震による老朽化建物倒壊と所有者又は貸主の責任

1 はじめに

  

 日本は昔から言わずと知れた地震大国であり、小さい規模の地震はほぼ毎日どこかで発生しています。過去に起こった大規模な地震としては、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震などがありますが、いずれの地震においても多くの命が失われるとともに、多くの建物が倒壊するに至りました。
 今回は、いつ我が身に起こるか分からない地震により、老朽化した建物が倒壊した場合の建物所有者ないし建物賃貸人が負う法的責任について検討します。

2 工作物責任について

  

 地震により建物が倒壊した場合に建物所有者ないし建物賃貸人が負う法的責任としては、工作物責任(民法717条)が考えられます。

(1) 工作物責任とは

 工作物責任とは、建物などの土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることにより、他人に損害が生じた場合、その工作物を支配・管理する地位にある工作物の「占有者」が、第1次的に被害者に対して損害を賠償する責任を負うとするものです。もっとも、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたと認められるときは、占有者はその責任を負いません。その場合、第2次的に工作物の「所有者」が被害者に対して損害を賠償しなければならず、所有者は過失がない場合であっても免責されない、いわゆる無過失責任を負います。
 なお、上記の工作物の「占有者」とは、工作物を事実上支配する者をいい、建物所有者が同時に占有者である場合もありますが、所有者ではない賃貸人も占有者に含むとされています。

(2) 設置又は保存の「瑕疵」とは

 

 上記のように、建物所有者ないし建物賃貸人は、建物などの土地の工作物の設置又は保存に「瑕疵」があることにより、他人に損害が生じた場合には、損害を賠償する責任を負うことから、「瑕疵」の有無がどのように判断されるのかが重要となります。この点については、仙台地裁昭和56年5月8日の裁判例が参考となります。
上記の裁判例は、宮城県沖地震により、ブロック塀が道路上に倒壊して通行人が死亡した事故につき、通行人の相続人がブロック塀の所有者に対し、ブロック塀の設置又は保存に瑕疵があったと主張して損害賠償を請求した事案であり、結果的には工作物責任が否定されましたが、地震と工作物責任に関する最初の判決例です。
 上記の裁判例では、「瑕疵」があるとは、如何なる事態が発生しても安全であるという意味の絶対的な安全性ではなく、当該工作物の通常備えるべき相対的な安全性を欠いていることをいうとされています。地震に則して言えば、当該工作物が通常発生することが予想される地震動に耐え得る安全性を欠いていたことをいいます。そして、具体的に当該工作物に瑕疵があったか否かを判断するにあたっては、地震そのものの規模、当該建築物の建てられている地盤、地質の状況、当該建築物の構造、施工方法、管理状況等の諸事情を総合的に考慮して、当該工作物がその製造された当時、通常発生することが予測された地震動に耐え得る安全性を有していたか否かを客観的に判断するとされています。
 したがって、事案ごとに判断は異なるものの、例えば、大規模地震で建物が倒壊したことにより生じた損害については、不可抗力によるものであるため、建物の設置又は保存の瑕疵により生じた損害ではないとされ、建物占有者だけでなく、無過失責任を負っている建物所有者であっても工作物責任を負わない可能性があります。他方、基本的には当該建物の建築当時に当該建物が通常有すべき安全性を備えていれば、瑕疵は認められないとされるものの、中規模地震で周辺の建物がほとんど被害を受けていないにもかかわらず、自分の古い建物だけ倒壊して借家人や第三者へ損害を与えた場合という場合には、建物所有者ないし建物占有者が工作物責任を負う可能性があります。

(3) 地震による建物倒壊で建物所有者が責任を負った事例

  

ア 神戸地裁平成10年6月16日

    

 この裁判例は、ホテルが震災により崩落し、宿泊客が崩落部分の下敷きとなって死亡したところ、ホテルの設置に瑕疵があったとして、ホテルの所有者の損害賠償責任が認められた事案です。
 判決では、本件ホテルの増築手法の結果、地震の際にその結合部分が破壊され易いという構造的な危険を有することになっており、本件ホテルは、増築によって、地震に耐えて崩落・倒壊を免れ、もってホテル内を安全な居住空間を保つという通常要求される強度を保持していないことが明らかであり、その設置に瑕疵があると言わざるを得ないとし、かつ、近隣の古い木造家屋が倒壊していないという状況からして、本件事故が不可抗力によって発生したものとは認められないとし、建物所有者の損害賠償責任を認めました。

  

イ 神戸地裁平成11年9月20日

    

 この裁判例は、阪神・淡路大震災により賃貸マンションの一階部分が倒壊し、一階部分の賃借人が死亡した事故について、マンションの設置の瑕疵が認められ、賃貸人・所有者の工作物責任が認められた事案です。
 判決では、補強コンクリート造の設計及び施工は細心の注意を払って行わなければならないところ、本件建物は設計上も壁厚や壁量が不十分であり、それを補うために軽量鉄骨で補強するとの考え方で設計されたとしてもその妥当性に疑問があり、さらに、実際の施工においても、コンクリートブロック壁に配筋された鉄筋の量が十分でない上、その鉄筋が柱や梁の鉄骨に溶接等されていないため壁と柱が十分緊結されていない等の補強コンクリートブロック造構造の肝要な点に軽微とはいえない不備があるとして、本件建物は、建築当時を基準に考えても、建物が通常有すべき安全性を有していなかったものと推認することができるとし、本件建物には設置の瑕疵があったとされました。
 もっとも、建物の設置の瑕疵と想定外の自然力とが競合して損害発生の原因となっている場合には、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨からすれば、損害賠償額の算定にあたって、自然力の損害発生への寄与度を割合的に斟酌するのが相当であるとした上、本件では、建物の設置の瑕疵の内容・程度及び地震の規模・被害状況等からして、自然力の寄与度を5割認め、5割の限度で土地工作物責任を認めました。
 工作物の瑕疵と自然力が競合する場合としては、地震に限らず、集中豪雨による土砂崩れ等の場合も考えられますが、裁判例の傾向としては、一般に、自然力を考慮して損害賠償額を減額するものが多いといえます。

3 最後に

 以上のように、工作物の瑕疵の有無及び瑕疵があると認められた場合の損害賠償額の範囲について判断する際には、様々な事情を総合的に考慮する必要があり、それらの1つ1つの事情を裏付ける証拠を収集する必要もあるため、個人で対応することは難しい場合が多いと思われます。
また、老朽化した建物が地震等の災害により倒壊する危険を回避するため、建物を建て替える必要がある場合もありますが、その建物が貸家である場合には、建て替えの前提として、賃貸借契約を終了し、借家人に建物を明け渡してもらう必要があります。
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