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損害賠償

M&Aにおける損害賠償(表明保証違反を中心として)

1 はじめに

 近年、少子高齢化を背景に人材不足で悩む企業が増えており、後継者を見つけ出すのが困難な経営者も多く存在しています。そこで、事業の効率化を図るとともに、事業承継の1つの方法としてM&Aが注目を集めています。  今回は、そのようなM&Aにおける損害賠償責任について、表明保証違反を中心として検討したいと思います。

2 M&Aの大きな流れについて

 M&Aの大きな流れとしては、
  ①事前準備(対象会社の選定、秘密保持契約の締結等)→
  ②基本合意書の作成・提出(最終契約前の仮の合意等)→
  ③デューデリジェンス(対象会社のリスクを調査し、
   M&Aを実行する上で障害となりうる問題点の有無を確認する手続き)→
  ④最終契約書の作成(表明保証条項を含む)→
  ⑤クロージング(M&A取引における取引の実行)となります。
 表明保証条項は、④最終契約書を作成する際に、非常に重要かつ必須の規定となります。

3 表明保証条項とは

 表明保証条項とは、契約当事者の一方が、他方に対し、当事者の能力や目的物の内容等に関する一定の事実が一定の時点で真実かつ正確である旨を表明し、保証するものをいいます。 もっとも、表明保証条項それ自体は、何ら法的効果について定めるものではないため、表明保証条項は、解除条項・補償条項・損害賠償請求条項等と結び付けて規定する必要があります。 具体的にどのような規定を置くことがベストかということは事案ごとに異なるため、弁護士に相談することが紛争の予防に繋がります。

4 M&Aにおける表明保証条項の重要性について

 M&Aの際には、通常、買主は株式譲渡契約を締結するにあたって当該取引の契約条件の妥当性を検討した上で、最終的に当該取引の実行の是非を判断します。 もっとも、当該取引の妥当性を判断するためには、対象会社に対してデューデリジェンスを行い、対象会社が一定の状態にあることを前提として判断しますが、対象会社に関する調査・把握には限界があり、必ずしも全てのリスクが明らかになるわけではありません。また、デューデリジェンスを行った際に、売主ないし対象会社から入手した情報に虚偽がある可能性もあります。
 そこで、売主ないし対象会社が買主に提示した情報等が真実かつ正確であることを表明及び保証させ、想定していない事象が生じた場合のリスク負担や提示された情報が事実に反する場合に生じた損害についての補償をどのように規定しておくのかが重要になります。

5 M&Aにおける表明保証・補償責任に関する判例について

(1) 東京地判平成18年1月17日

ア 事案の概要

 買主は、対象会社のデューデリジェンスを行った上、売主らとの間で株式譲渡契約を締結した。当該契約において、売主らは買主に対し、対象会社の財務内容が貸借対照表のとおりであり、簿外債務等が存在しないこと等を表明保証し、加えて、売主らが表明保証に違反したことに起因又は関連して買主が現実に被った損害、損失を補償する旨の補償条項が定められた。
しかし、対象会社は、決算期における赤字決算を回避するため、元本の弁済に充当していた和解債権についての弁済金を利息に充当し、同額の元本についての貸倒引当金の計上をしていなかった。
そこで、買主は、売主らに対し、上記の処理が表明保証違反にあたると主張して損害賠償請求をした。

イ 判決のポイント

 売主の表明保証条項違反の事項の存在について、買主が知らなかったことが買主の重大な過失に基づく場合は、売主は公平性の見地に照らし、売主は表明保証責任を免れると解する余地がある。
 結論としては、買主が表明保証条項違反について知らず、また、知らなかったことについて重大な過失はないとして、売主らの補償義務が認められた。

(2) 東京地判平成23年4月19日

ア 事案の概要

 買主は、売主から、売主がその全株式を保有する対象会社の発行済み株式全部を取得する契約を締結した(以下「契約①」)。契約①においては、売主は、対象会社の事業、経営、義務、債務又はその見通しに重大な影響を及ぼす可能性のある、対象会社を当事者とする未開示の契約はないこと及び上記の可能性のある債務不履行が発生しているとの通知を受領していないことを表明保証し、かかる表明が「重要な点で」正確であることが買主の代金支払義務等の前提条件とされた。また、売主は、表明保証の違反により、買主に生じた損害について、買主に対して補償する旨の補償条項等が定められた。
 しかし、対象会社は、外注先との間で4台の機械を製造販売する契約(以下「契約②」)を締結しており、一部について代金も受領していたが、契約①の実行日後、契約②が解除され、対象会社は代金を返還した。
 そこで、買主は売主に対し、契約②について仕様未達という債務不履行が発生していたにもかかわらず、売主はこれを告知せず、事実と異なる説明を行い、また、外注先から受領した金銭を売上として計上していたが、負債として計上すべきものであって、対象会社の財務諸表は表明保証に反するものであったと主張した。

イ 判決のポイント

 売主が表明保証上の責任を負うか否か、すなわち売主の契約上の表明保証が「重要な点で」正確であったと認められるか否かは、結局のところ、買主が契約①を実行するか否かを的確に判断するために必要となる、契約②にかかる客観的情報が正確に提供されていたか否かという観点から判断すべきことになる。
 結論としては、売主は契約①の実行前に、買主が契約①を実行するか否かを的確に判断するために必要な情報を提供していたとして、表明保証の対象たる事項について、「重要な点で」不実の情報を開示し、あるいは情報を開示しなかった事実は認められないとした。

(3) 大阪地判平成23年7月25日

ア 事案の概要

 買主は、売主らがその全株式を保有する対象会社の全株式を譲り受け る旨の株式譲渡契約を締結した。当該契約では、既に開示されたものを除き、対象会社と税務当局との間で何ら紛争又は見解の相違は生じておらず、対象会社の知り得る限りそのおそれもないこと、売主らの知り得る限り、売主らが買主又はその代理人に開示した対象会社に関する情報は、いずれも真実かつ正確であること等の表明保証条項及び表明保証条項違反に該当する事実により、契約実行後に対象会社に損害が生じた場合には、売主らは買主に対し、当該損害を補償する旨を内容とする補償条項が定められていた。
 また、契約実行前に売主らが買主に対し、明示的に表明保証違反を構成する事実を開示した上で株式を譲渡した場合、売主らは買主に対し表明保証義務を負わない旨の免責条項が定められた。
 契約実行後、買主は、対象会社が税務当局から法人税の申告漏れがあるとの指摘を受け、修正申告を余儀なくされて法人税等を追加納付するに至ったとして、売主らに対し、表明保証違反を理由として、上記納付法人税額等に相当する補償金の支払いを求めた。

イ 判決のポイント

 買主が契約の実行に先立って行ったデューデリジェンス時に、税務当局との紛争にかかる事実につき、法務専門家に説明及び資料開示をしており、資料を確認すれば表明保証違反の可能性を認識し得たとして、売主らの免責事由として定められた「明示的に表明及び保証の違反を構成する事実を開示した」場合に該当し、売主らは、表明保証違反に基づく補償責任を負わないとした。

6 最後に

 以上のように、表明保証違反及びそれに伴う損害賠償につき、表明保証違反に該当するような事実が発生したとしても、一定の事由に相当する場合には、売主が表明保証責任から免れる又は表明保証違反に基づく補償責任を負わないという判例が公表されており、買主としては表明保証を記載すれば全てのリスクを免れるわけではないという点に留意する必要があります。
 そして、どのようなケースにおいて、表明保証責任及び補償責任等を負うのかということは、事案ごとに異なるため、個別具体的に判断していくより他はありません。 企業法務に豊富な経験と専門知識、ノウハウを蓄積している朝日中央綜合法律事務所の弁護士にご相談下さい。

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