離婚、離縁

内縁関係解消と離婚給付制度の適用

第1 はじめに

 近年、夫婦別姓に対する意識の高まりや、法律婚に伴う煩雑な手続きや慣習を嫌い、事実婚を選択する夫婦が増えています。
法律婚を解消する場合、財産分与や慰謝料、過去の婚姻費用や離婚後の養育費の支払いといった夫婦財産関係の清算が法律上認められており、離婚の際はこれを一括して解決することになるのが通常です。
 他方、内縁関係はあくまで事実上認められるものにすぎず、婚姻届の提出といった法律上の手続きを経たものではありません。
このような内縁関係の解消の場合でも、上記のような離婚給付制度が法律婚と同様に適用されるのかについて、以下、解説いたします。

第2 離婚給付制度の適用の可否

 

1 財産分与及び慰謝料

 財産分与とは、夫婦が婚姻生活中に協力して形成した財産をそれぞれの貢献度に応じて清算することをいい、固有財産である旨の反証がされない限り、2分の1ずつ分配されるのが原則です。また、慰謝料とは精神的苦痛に対する賠償金をいい、不貞や家庭内暴力等が原因で発生します。
 そして、内縁関係であっても、夫婦が相互に協力して生活を営む点において「婚姻に準ずる関係にある」以上、法律婚と同様の法的保護を与えるべきとの観点(準婚理論)から、財産分与に関する規定が適用され、不貞等があった場合にもその被害に応じた慰謝料請求権が発生することとなります。

 

2 過去の婚姻費用の清算

  

 上記の準婚理論により、内縁の夫婦であっても、内縁期間中に一方配偶者のみが生活費を全額負担していたような場合には、他方配偶者に対してその清算を求めることが可能です。  もっとも、実務上よく問題となる別居期間中の生活費については、内縁の夫婦の場合、婚姻費用として清算を求めることは難しくなります。これは、内縁関係が双方の婚姻意思及び共同生活の実体をもって認められる以上、同居状態の解消によって内縁関係も終了したとみなされるのが通常だからです。

 

3 養育費

  

 養育費とは、未成熟子が経済的に自立するまでの間に生じる子の生活費等をいいます。
法律婚夫婦の場合、夫婦間に生まれた子に対してその親は扶養義務を負いますので、離婚後は、非監護親が監護親に対して子の生活費等を養育費として支払う義務が生じます。
 他方、内縁の夫婦の場合、女性側は、「分娩の事実」から母子関係が確定されるのに対し、男性側は、認知を行わない限り父子関係が確定しないため、養育費の負担も発生しません。
 したがって、内縁関係解消後に養育費を請求したい場合、男性側に任意で認知してもらうか、認知請求を行い、裁判手続きを通じて強制的に認知させるといった手段をとる必要があります。もっとも、内縁期間中に出生した子については、父子関係が推定され(民法772条類推適用)、男性側が父子関係の推定を覆すだけの反証を行わなければならない(最判昭和29年1月21日)ため、認知自体は比較的認められやすくなります。

第3 内縁固有の問題点

 

1 立証上のハードル

  

 上述のとおり、内縁関係は「婚姻に準じた関係」として法的保護の対象となるものの、戸籍によって婚姻関係が明らかとなる法律婚とは違い、内縁関係にあったといえるためには、①双方の婚姻意思及び②共同生活の実体を、財産分与や慰謝料を請求する側が立証しなければなりません。
 そのため、慰謝料の請求にあたっては、内縁配偶者や不貞を行った第三者から、「単に同居していただけで、結婚相手との認識はなかった」「夫婦関係にあるとは知らなかった」といった反論がなされる可能性が高く、財産分与にあたっても、内縁開始や解消の時期の立証の成否が、分与の金額に大きく影響することとなります。
 実務上、内縁の立証は、住民票や賃貸借契約書における続柄覧の「妻(未届)」「夫(未届)」との記載や、健康保険の被扶養者や給与明細の扶養手当、結婚式の実施等、社会的に両者が夫婦である旨表示していたかどうかがによって行われます。
 また、同居期間の長さやLINEでのやりとり、会話の録音や友人の証言の積み重ねにより、婚姻意思を立証していくことも可能です。

 

2 死亡による内縁の解消

  

 内縁の解消は、一方の死亡によっても発生します。内縁夫婦の配偶者には相続権がありませんので、かつて、内縁の死亡解消の場合にも財産分与規定を準用し、死亡した配偶者名義の財産の2分の1を取得できないか、という見解がありましたが、これについては判例によって明確に否定されました(最判平成12年3月10日)。
 したがって、遺言を作成するといった事前対策がなされていなかった場合には、個別の財産ごとに当該財産形成に対する自身の貢献度を立証し、不当利得返還請求を行っていくしかありません。

第4 まとめ

  

 以上のとおり、内縁関係が解消された場合、内縁関係に固有の困難な問題が発生しますので、お困りの点があれば、朝日中央綜合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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