地代・家賃増減額

賃料増減請求における「相当な賃料」とは

1 「相当な賃料」と不動産鑑定

  

借地借家法が適用される土地の賃貸借及び建物の賃貸借において、賃料が「不相当となったとき」に、賃料増減請求をすることができることは、別の項でご説明したとおりです。 「相当な賃料」の金額は、賃貸人と賃借人が話し合いで決めることができず、当事者の一方が賃料増減請求訴訟を提起した場合、裁判所が判決により定めることになります。

2 賃料増減請求訴訟において

賃料増減請求訴訟において、裁判所は、当事者双方が提出した証拠に加えて、通常、不動産鑑定士を当該訴訟における鑑定人に選任し、この不動産鑑定士が算定した適正な賃料の金額を考慮したうえで、「相当な賃料」算定鑑定評価し、裁判所がこれに基づいて「相当な賃料」の金額を認定します。

その際、裁判所は、例外はあるものの、鑑定人である不動産鑑定士が算定した賃料額をそのまま「相当な賃料」と認定することが多いといえます。したがって、賃料増減請求においては、不動産鑑定士が算定する賃料の金額が重要となります。

3 不動産鑑定士が賃料を算定する方法について

不動産鑑定士が賃料を算定する方法は、国土交通省が定めた「不動産鑑定評価基準」に詳しく記載されています。 なお、同一の不動産の賃料を算定する場合であっても、新規に賃貸する場合の適正な賃料(新規賃料(注1))を算定する場合と、すでに賃貸されている場合の適正な賃料(継続賃料 )を算定する場合とで、算定方法が異なります。

本稿では、賃料増減請求のために賃料を算定する場合を念頭に置いておりますので、「継続賃料(注2)」を算定する方法をご紹介いたしますが、必要に応じて「新規賃料」についてもご説明いたします。

(注1)「正常賃料」ともいい、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料といいます。
(注2)不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいいます。

4 継続賃料を求める鑑定評価の手法

 ⑴ 差額配分法

  

ア 意義

    

差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料(いずれも新規賃料を意味します。)と、実際実質賃料又は実際支払賃料(いずれも現行賃料を意味します。)との間に発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料に加減して試算賃料を求める手法です。

  

イ 適用方法

    

(実質賃料(又は支払賃料)-実際実質賃料(又は実際支払賃料))×1/2~1/3

(説明)
「実質賃料」は、価格時点において想定される「新規賃料」であり、積算法や賃貸事例比較法等により求められます。

     

また、ここでいう「支払賃料」は、契約締結にあたって、権利金、敷金、保証金等の一時金が授受されている場合については、「実質賃料」から当該一時金の運用益及び償却額を控除することにより求められます。

     

賃貸人等に帰属する部分については、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、一般的要因の分析及び地域要因の分析により差額発生の要因を広域的に分析し、さらに対象不動産について契約内容及び契約締結の経緯等に関する分析を行うことにより適切に判断するものとされていますが、具体的には、1/2~1/3の割合を乗ずることが比較的多いといえます。

 ⑵ 利回り法

 

 ア 意義

    

利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法です。

  

イ 適用方法

    

価格時点における基礎価格×継続賃料利回り+必要諸経費等

(説明)
継続賃料利回りは、直近合意時点(契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点)における基礎価格に対する純賃料の割合(直近合意時点における純賃料÷直近合意時点における基礎価格)を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとされています。

 

⑶ スライド法

  

ア 意義

    

スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法です。

  

イ 適用方法

    

最終合意時点における純賃料×変動率+必要諸経費等

    

(説明)
「変動率」は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求められます。

 

⑷ 賃貸事例比較法

  

ア 意義

    

賃貸事例比較法は、多数の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る実際実質賃料に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料を求める手法です。

賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手法であり、継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行うことに留意しなければならないとされています。

  

イ 適用方法

   
1 事例の収集及び選択
     

賃貸事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択するものとするほか、賃貸事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること、時点修正をすることが可能なものであること、地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであることが必要です。

2 事情補正及び時点修正

賃貸事例が特殊な事情を含み、これが当該事例に係る賃料に影響していると認められるときは、適切な補正を行い、賃貸事例に係る契約締結の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められるときは、当該事例の賃料を価格時点の賃料に修正しなければならないものとされています。

また、時点修正にあたっては、事例に係る不動産の存する用途的地域又は当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における土地又は建物の価格の変動率を求め、これにより賃料を修正する必要があります。

   
3 地域要因の比較及び個別的要因の比較

賃料は、賃貸事例に係る不動産の存する用途的地域の地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、賃貸事例に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、賃貸事例に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較をそれぞれ行うものとされています。

また、地域要因及び個別的要因の比較については、それぞれの地域における個別的要因が標準的な土地を設定して行う方法があります。

 

⑸ 総合方式

   

以上⑴~⑷の複数の手法に基づいて試算した賃料を総合的に比較勘案して、適正な賃料を求めるものです。不動産鑑定においては、通常、複数の手法に基づいて試算した賃料を勘案して賃料を求めます。

5 おわりに

  

本稿では、適正な賃料の算定方法についてご紹介いたしました。上記のとおり、賃料の算定方法には様々な種類があり、適正な賃料を算定するためには、不動産鑑定士による鑑定が有益です。適切な時期に、適切な鑑定評価を不動産鑑定士に依頼して鑑定評価を得た上で、これを用いて交渉や裁判を行っていくためには、弁護士の力が欠かせません。

  

そこで、賃料増減請求をご検討されている方は、解決に向けて適切に行動することができるよう、権利行使の前の段階で専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。

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