貸家の明渡しができる場合と明渡しの方法

不動産明渡マニュアル

貸家の明渡しができる場合と明渡しの方法

集合写真
(1)

借地借家法又は借家法の適用がある貸家と同法の適用がない貸家の区別

(イ)
借家法と借地借家法の関係
(a)
借家法は、大正10年に借地法と同時に民法の特別法として制定されたものです。 制定当初の借家法は、建物賃貸借に引渡による対抗力を認めることと解約期間を6か月と法定することに主眼をおいたものでした。その後、昭和16年、借家法が改正され、借家法1条の2の正当事由条項、すなわち 「正当事由」 なしには借家関係は消滅させられない旨の規定が導入されました。借家法の正当事由条項については後述します。
(b)
上記のとおり、借家法は大正10年に制定され、昭和16年に改正された後、基本的な枠組みにおいて大きな変化がありませんでした。その間、社会経済情勢が大きく変化し、借家法がこのような変化に対応しきれていない状況を踏まえて、平成3年10月4日、借家法が改正され、新たに借地借家法が制定され、これが平成4年8月1日から施行されることとなりました。
借地借家法の改正点は多岐にわたりますが、借家の明渡に関する主要な改正点は正当事由の明確化にあります。
(c)
今般制定された借地借家法の規定は、同法附則に特別の定めがある場合には、借地借家法の施行前に生じた事項には適用されません (借地借家法附則4条)。
借地借家法附則の特別の定めにより、借地借家法施行前 (平成4年7月31日まで)にされた建物の賃貸借契約の更新の拒絶の通知及び解約の申入れに関しては、借地借家法は遡及して適用されず、借家法が適用されます (借地借家法附則12条)。
以上の次第で、借地借家法施行以前に契約された借家の明渡しに関連する主要な規定については、借地借家法の規定は適用されず、 借家法の規定が適用されることになります。資産家・事業オーナーの方々の所有する貸家の中には、借地借家法施行前 (平成4年7月31日まで)に契約された貸家もあるものと思われますが、その明渡しに関しては、借家法が適用されることとなります。以下では主に借家明渡しに関係する借地借家法の規定について説明します。
(ロ)
借地借家法1条は次のとおり規定しています。
「この法律は、・・・建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをする・・・」
これによると、「建物」 の「賃貸借の契約」 には借地借家法の適用がありますが、 そうでない場合は、借地借家法の適用がありません。
(a)
「建物」 の賃貸借契約であること
1)
建物とは、土地に定着し、壁、屋根を有し、住居、営業などの用に供することのできる建造物で、独立の不動産として登記できる物をいいます。
建物は構造上、経済上独立していることが必要です。
賃借部分が構造上、経済上独立している限りは一棟の建物の一部の賃貸借契にも借地借家法の適用があります。アパートやビルの1室又は一区画の賃貸借契約にも、借地借家法の適用があります。
2)
建物であれば、その種類、構造、用途を問いません。高架橋下の倉庫も 「建物」 として借地借家法の適用があります。
また居住用建物の賃貸借契約だけでなく、事業用建物の賃貸借契約にも借地借家法が適用されます。立体駐車場については 「建物」 にあたらないとして借家法の適用を否定した判例 (東京地判昭61.1.30判時1190号901頁) があります。
(b)
建物の 「賃貸借契約」 であること
借地借家法の適用があるのは、「賃貸借契約」 であり、使用貸借契約には適用がありません。
賃貸借契約と使用貸借の区別は賃料相当額の授受があったかどうかによって決まります。
(ハ)
一時使用による借地借家法の適用除外
借地借家法40条は 「この章(第三章借家)の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない」 と規定しています。
これによると、一時使用のためになされたことが明らかな建物賃貸借契約には、 借地借家法の借家に関する章の規定が適用されません。借家法にも同様の規定があります (借家法8条)。
当該建物賃貸借契約が一時使用のためになされたことが明らかな建物賃貸借契約か否かの判断基準について、最高裁判所は、 「必ずしもその期間の長短だけを標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機その他諸般の事情から、当該賃貸借契約を短期間に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される」 ことが必要である、と判示しています (最判昭36.10.10民集15巻9号2294頁)。
一時使用のためになされたことが明らかな建物賃貸借契約の具体例としては、①家主側に賃貸建物を将来利用する具体的計画があるため、使用期間を一時的とした場合、 ②家主側に賃貸建物を取毀す具体的予定があるため、使用期間を一時的とした場合、③建物利用関係に争いが生じ、裁判上の和解、調停により短期の借家期間が定められた場合などがあります。
(2)

借地借家法又は借家法の適用がある貸家の明渡しとその方法

(イ)
借家人に賃貸借契約上の義務違反がある場合の貸家の明渡しとその方法
借地の場合にも述べましたとおり、賃料不払い、用法違反、保管義務違反等の債務不履行ないし契約上の義務違反があれば、民法541条により、貸主は賃貸借契約を解除することができます。
ただし、判例は、賃借人の債務不履行ないし契約上の義務違反が貸主と借主の 「信頼関係」 の破壊にあたる場合に限って解除を認めるという理論で解除に一定の制約を加えています。
(a)
借家人に家賃の不払いがある場合
1)
基本的な考え方
借家人が家賃を滞納しているときは、貸主は賃貸借契約を解除できます。ただ、賃料不払いによって賃貸人との間の信頼関係を破壊するに至ったと言えない場合には解除は認められません。
いかなる場合に信頼関係を破壊するといえるかどうかについては、賃料不払いの回数だけでなく、不払いの額、賃借人側の態度、賃貸人側の態度などの諸事情が判断の資料となりますが、6か月程度の賃料の滞納があれば、よほど特殊な事情でもない限り解除が認められます。なお、2か月分の不払いでも解除を認めた判例 (最判昭36.2.24民集15巻2号304頁)もあります。
2)
手続
賃借人に信頼関係を破壊するに足る賃料の不払がある場合、賃貸人は相当の期間を定めて滞納した賃料を支払うよう催告したうえで、賃借人がその期間内に賃料を支払わない場合に契約を解除することができます。
履行の催告は相当の期間を定めて行なう必要がありますが、 賃料不払いでは1週間ないし10日もあれば社会通念上相当な催告期間ということがいえます。
なお、判例では不相当な期間または期間の定めのない催告でも、催告後相当期間が経過すれば契約を解除することができるとされています。
これに関連して、無催告解除特約について触れておきます。賃貸人の解除の便宜を図るために、賃借人に賃料の滞納があれば、賃貸人は履行の催告をしないで解除できるように予め結んでおく特約のことを無催告解除の特約といいます。このような特約は借家法上有効です。無催告解除の特約に関し催告しなくてもあながち不合理と認められない事情が存する場合には無催告で解除権を行使することが許されると解し、既に5か月分の賃料を滞納しているケースについて、無催告解除を認容した判例があります (最判昭43.11.21民集22巻12号41頁)。 ただ、このような特約を結んでいても、諸般の事情から当事者間の信頼関係を破壊するといえない場合には、無催告解除が認められない場合もあります。
解除の意思表示については内容証明郵便でするのが望ましいといえます。 後に訴訟になった場合、解除の意思表示があったかどうか、いつ解除したか等が問題になることもありますので、その証拠を残しておく必要があるからです。
(b)
借家権の無断譲渡、 無断転貸がある場合
1)
基本的な考え方
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ第三者に賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸することはできません。このことは法律の明文で規定されています (民法612条1項)。
したがって、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借権を譲渡したり、 賃借物を転貸した場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます (民法612条2項)。
賃借権の譲渡とは、賃貸借契約上の賃借人の地位を第三者に移転することをいいます。転貸とは、賃借人 (転貸人)が賃借目的物を第三者 (転借人)に返還義務を課して引き渡し、使用収益させることをいいます。転貸の約束をしただけでは契約解除の前提としての転貸とはいえず、第三者に現実の引き渡しをしたことを要します。
親戚の者が同居する場合であっても、使用収益の主体が借家人から第三者に変更されたと評価できるときは転貸となります (東京高判昭38.2.14民集14巻2号209頁)。借家人の不在中その留守番として賃借家屋に入居し、その保存管理をする場合は転貸とは言えません (東京高判昭32.6.19東高民報6号97頁)。 借家人の留守を守るというよりも、自らその家屋を生活の本拠として使用収益しているような事情のもとでは転貸が認められます (東京地判昭26.2.22判タ12号73頁、東京高判昭和40.1.28東高民報16巻1号6頁)。借家人の営業を形式上会社組織に改め、有限会社に賃借家屋を使用させた場合については、転貸が認められます (最判昭31.4.3最高裁判所裁判集民事21号629頁、東京高判昭34.4.6東高民報10巻4号75頁)。
ただ無断譲渡・転貸といえる場合でも、賃貸人に特に不利益を与えることもない一定の場合、つまり背信行為 (信頼関係を破壊する行為) と認めるに足らない特別の事情がある場合には解除は認められないという例外があります。
①借家人が個人営業を形式上法人組織に改めたにすぎず、実質的には借家人に変動が認められない場合 (最判昭39.11.19民集18巻9号1900頁、最判昭46.11.4判時654号57頁)、②転貸の当初からその期間が短く定められている場合 (一時使用の場合) (東京地判昭32.10.10判時141号24頁)、③無断間貸など賃借物一部の転貸の場合 (最判昭36.4.28民集15巻4号1211頁など多数)、④親族その他の特殊な関係にある者に譲渡、転貸した場合 (大阪高判昭28.4.2下民集4巻4号474頁、東京高判昭29.7.31東高民報5巻7号16頁など)、⑤賃借権の準共有者が他の準共有者に持分を譲渡した場合 (大阪地昭44.12.1判タ244号262頁、東京地判昭48.1.26判時709号51頁、最判昭29.10.26民集8巻10号1972頁)、⑥賃借家屋を住宅困窮者に転貸した場合 (東京地判昭25.9.1判タ7号62頁)などは、背信行為と認める足らない特別の事情があるとして解除が認められないことがあります。
2)
手続
解除の方法については、賃料の滞納の場合とは異なり、催告等を何ら要することなく直ちに解除の意思表示をすることができます。尚、後の紛争を防止するために、解除の意思表示は内容証明郵便によるべきです。
(c)
借家の無断増改築がある場合
借家人は、賃借物の引き渡しを受けた後、返還をなすまで建物を善良なる管理者の注意義務をもって保管する義務があります (民法400条)。
したがって、右義務に違反して増改築がなされた場合は契約違反となりますから、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます。この場合、借家人の増改築が大規模であって、現状回復が困難で信頼関係を破壊する程に背信的である場合には、無催告の契約解除も可能です。
判例上、無断増改築を理由に解除が認められたケースには以下のものがあります。
1)
住宅として賃借した建物をネームプレート製作の仕事場とするために、賃貸人の制止を聞き入れず、タル木を切断して居間を土間とし、この工事と設置した機械の振動により、建物が次第に破損していくことが予想された事例 (東京高判昭28.6.2東高民報4巻2号45頁)。
2)
賃借人が6坪5合の付属建物を取り壊し、賃貸人の制止を無視し、更に区役所の工事中止処分、建築禁止の仮処分の執行をもあえて犯して、取り壊したのと同一部分に新しく同様の付属建物の建築をなした事例 (東京地判昭30.9.30判時65号12頁)
3)
賃貸人の制止にもかかわらず、時計貴金属の小売業を営む賃借人が、無断で約3尺4方の空き地に陳列窓の改造・拡張工事をなしたため、隣に居住し煙草の小売業を営む賃貸人の陳列窓の見通しが悪くなり、営業に著しい影響を与えた事例 (東京地判昭32.5.10判時119巻15号)
4)
建坪約8坪の木造建物の賃借人がそれに付属させて約4坪のブロック建築様式の相当堅固な建物を、建築工事禁止の仮処分を無視して完成させた事例 (大阪地判昭38.10.10判時384号39頁)
5)
建坪約9坪7合5勺の建物の賃貸借において、借家人が無断で3坪強の玄関、 ダイニングキッチン及び1坪2合5勺の勉強室兼サンルームの増築等をなした事例 (東京地判昭43.7.6判時537号56頁)
6)
造作変更禁止の特約があるのに借家人が無断で賃借家屋の裏側に接続して木造トタン葺き中2階各階3坪を増築し、さらに裏側の賃貸人所有の空き地に建物を無断増築した事例 (東京地判昭29.9.14下民集5巻9号1485頁)
ただ、借家人もその借家において生活し、あるいは営業を営むものである以上、一定範囲の借家の改良ないし改築はその利用の便宜ないし必要上から、家主としても受忍すべき場合もありますので、このような場合には信頼関係を破壊するに至っていないとして解除が認められないことがあります。信頼関係を破壊するに至っていないことを理由に、解除が認められなかったものとして以下のものがあります。
①工事の規模が小さく原状回復が可能であることを理由とするもの (東京地判昭32.10.10判時141号24頁)、② 建物の効用を増すことを理由とするもの (東京地判昭25.7.10下民集1巻7号1071頁、東京地判昭43.10.30判タ235号23頁、大阪地判昭27.63判タ26号61頁)、③借家人のした行為がやむを得ない事情にあったことを主たる理由とするもの (東京地判昭34.6.29判時192号12頁)、④復元が可能であることを理由としたもの (東京高判昭26.2.26下民集2巻2号280頁、大阪高判昭39.8.5判時386号47頁)
なお、賃貸人、賃借人間であらかじめ無断増改築を禁止する旨の特約を結ぶことは可能であり、右特約は借家法上一般的に有効と解されます。特約があれば、 その効力としては無断増改築等がなされた場合に一応借家人の背信性を推定することができます。判例では、家屋の賃貸借において、賃借人がその家屋の構造を変更することを禁止する特約があり、賃借人が構造変更した場合には、その構造変更の態様が社会通念上特約にいう構造変更と認められないような場合の他は、禁止された構造変更にあたると解すべきであり、原状回復が簡単にできるというだけではこれにあたらないということはできないとともに、他に特段の事情がないかぎり解除権の発生を防げないとし、特段の事情については、家主の承諾を待つことを要しない事情が必要であるとしています (最判昭29.12.21民集8巻12号2199頁)。
(d)
借家の用法違反がある場合
賃借人は賃貸借契約で定められた用法にしたがって使用収益すべき義務がありますから、用法違反があれば、これを理由に契約を解除できます。具体的には次のとおりです。
店舗として使用することは認めるが一定の営業 (例えばバー・キャバレー等の風俗営業等取り締まりの対象となるもの) を除外している場合に、除外された営業を行った場合や、住宅用に賃借した場合にこれを店舗として使用した場合には用法違反になり、契約を解除することができます。ただ、実質的に賃貸人に悪影響を及ぼさない場合には、背信行為とはいえないとして解除が認められない場合もあります。
判例上用法違反を理由に解除が認められたものとして、①アパートにおいて徹夜麻雀をしばしば行い、騒音のために他の居住者の睡眠を妨げた事例 (東京北簡判昭43.8.26判時538号72頁)、②使用目的を飲食店として賃貸した店舗において、賃借人が金融業を営んだ事例 (名古屋地判昭59.9.26判タ540号234頁)、③賃貸家屋が暴力団事務所として使用された事例 (宇都宮地判昭62.11.27判時1272号116頁)、④賃貸店舗の営業態様を純喫茶から風俗喫茶に変更した事例 (東京高判昭59.3.7判時1115号97頁)、⑤2階建て住宅の一部分を賃借した賃借人が8匹ないし10匹の猫を飼育した事例 (東京地判昭62.3.2判時1262号117頁)などがあります。
(e)
借家の保管義務違反があった場合
賃借人は賃借物の引渡を受けた後返還をなすまで賃借物を善良な管理者の注意をもって保管する義務があります。
したがって、賃借人が右保管義務に違反した場合には、賃貸人は契約を解除することができます。
(f)
貸主と借主との人的信頼関係が著しく破壊された場合
賃借人の賃借物に関する直接の契約違反はないが、賃貸人に対する円満な関係に破綻が生じた場合でも契約の解除が認められるケースがあります。判例上人的信頼関係の破壊を理由に解除が認められたものとして、賃借人が天袋の中にラジオを置いて音量を一杯にしてアパートの他の居住者に迷惑をかけるなどの異常行動に出た場合 (東京地判昭54.11.27判時963号66頁、判タ416号162頁)、マンション内の店舗で住民の迷惑になるカラオケ騒音を出した場合 (横浜地判平元10.27判タ721号189頁) 等があります。
(ロ)
借家契約の存続期間の定めがありこれが満了した場合及び借家契約の存続期間の定めがない場合の借家の明渡しとその方法
(a)
借家契約の存続期間
借家契約の存続期間は1年以上でなければなりません (借地借家法29条1項。なお、民法604条1項は適用除外(借地借家法29条2項))。
借家契約の存続期間の定めが1年未満の場合は期間の定めがないものとみなされます。
なお、借家法においては、民法604条1項の適用が除外されておりませんので、借家契約の存在期間は1年以上20年以下となります(借家法3条の2、民法604条1項)。
(b)
更新拒絶をすること(借地借家法26条)または解約申入れをすること(借地借家法27条)
1)
平成4年7月31日までに成立した借家契約には借家法2条、同法3条の規定が適用されます。
2)
更新拒絶または借家人の使用継続に対する異議
借地借家法26条1項は
「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。」
と規定しています。
つまり期間の定めのある借家契約では借家契約を終了させるためには貸主は期間満了の1年前から6か月前までの間に借家人に対し更新拒絶の意思表示をすることが必要です。
更新拒絶の意思表示が期間満了前6か月を経過した後になされた場合、その更新拒絶の意思表示は無効ですが、更新後の賃貸借に対する解約申入れの意思表示としての効力はあります。
なお、更新拒絶の意思表示をしても期間満了後に賃借人が建物の使用、収益を継続する場合に貸主が借家人に対し遅滞なく異議を述べないと借家契約は自動的に更新してしまいます (借地借家法26条2項)。 この点に関し、期間満了後66日目になした建物明渡請求の提訴をもって遅滞なく異議を述べたものと認めるとする判例があります (最判昭25.5.2民集4巻5号161頁)
3)
解約申入れをすること
借地借家法27条1項は
「建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する。」
と規定しています。
つまり期間の定めのない借家契約では、借家契約を終了させるためには6か月前に解約申入れをする必要があります。解約の申入れとは、契約を将来に向って終了させる契約当事者の一方の意思表示をいいます。
解約申入れには当初から6か月の猶予期間を付さなくても解約申入れの後6か月を経過すれば解約の効力が生じます。
なお、解約申入れによって借家契約が終了した後に借家人が建物の使用、収益を継続する場合、貸主が遅滞なく異議を述べなければ、前の賃貸借と同一の条件で賃貸借をなしたものとみなされます(借地借家法27条2項)ので注意を要します。
(c)
更新拒絶又は解約申入れのために「正当事由」が存在すること(借地借家法28条)
1)
平成4年7月31日までに成立した借家契約には借家法1条の2の規定が適用されます。
借家法1条の2によると借家契約の更新拒絶又は解約申入れをするにつき、 「建物ノ賃貸人ハ自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由」 に基づくことが必要である、 とされています。
2)
借地借家法28条では、「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人 (転借人を含む。以下この条において同じ。) が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」 と規定されています。
以上のとおり借地借家法により、
イ.
「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情」
ロ.
「建物の賃貸借に関する従前の経過」
ハ.
「建物の利用状況」
ニ.
「建物の現況」
ホ.
「建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」 等、
正当事由の存否を判断するにあたって考慮すべき事項が明文化されました。
この規定は、平成4年7月31日以前に成立した借家には適用されないものとされています。しかし、前記借地借家法28条で列挙されているイ.ないしホ.の事由は、これまで裁判例で採用されてきた正当事由の判断基準を明文化したものです。したがって借地借家法28条の規定は、平成4年7月31日以前に契約された借家についての明渡しの正当事由の有無の判断に際しても、実務上大きな影響を与えるものとなっています。
4)
借地借家法及び借家法の適用をうける借家につき、その明渡しの正当事由要素としては、以下のものがあります。
イ.
建物使用の必要性
居住の必要性、営業の必要性、第三者の必要性など多様な必要性があります。 貸主、借主双方の必要性を斟酌することになります。
貸主に居住の必要性が強い場合は貸主に有利なファクターとなります。
ロ.
土地の有効利用の必要性と有効利用の具体的計画
最近では貸主が土地を有効利用する必要性があれば明渡料と引換えに正当事由が認められるケースが多くなりました。
a.
対象建物 (倉庫) が相当老朽化しており、対象建物の存する土地周辺は土地の高度利用が進み地価も著しく高騰しており、対象建物の底地の利用効率が周辺土地と比べて著しく低く、貸主はビル建築の計画を有しているというケースで、裁判所は、「原告においては本件土地の周辺の客観的な状況の変化等に応じ、本件倉庫その他本件土地の上に存する建物を取り壊し、その跡に近代的な建築物を建築し、もって本件土地を有効に活用する必要があるものと認められ、したがって、原告の被告に対する本件倉庫の賃貸借契約の更新拒絶については正当の事由があると認めるのが相当である。」 (東京地判平2.3.8判時1372号110頁) と判示し、明渡料の提供なしに明渡請求を認めました。
b.
一方、東京地裁平成元年7月10日判決 (判時1356号106頁) は、新宿駅近くの木造二階建て建物について、建物の老朽化が著しく耐火建築物に建て替えの必要があり、土地の有効利用上もビル新築の必要が認められるが、借主の移転に伴う営業上の損失も極めて大きいというケースで、「原告の申出に係る2500万円の立退料の提示では未だ正当事由を具備するものとは認め難く右借家権価格のほか、代替店舗確保に要する費用、移転費用、移転後営業再開までの休業補償、顧客の減少に伴う営業上の損失、営業不振ひいて営業廃止の危険性などの諸点を総合勘案すれば、立退料として6000万円を提示することにより正当事由を具備するに至るものと認めるのが相当である。」 と判示し、6000万円の明渡料の支払を条件として明渡請求を認めました。
現在では、有効利用を理由にする明渡しの場合でも、明渡料により正当事由が補完され、明渡しが認められるケースがほとんどであるといえます。
ハ.
建物の利用状況
a.
建物の種類、用途 (居住用か事業用か)
b.
建物の構造、規模 (高層か低層か)
a.
建物容積率等の土地利用の程度
d.
建物の建築基準法適合の有無
e.
建物としての効用
などのファクターが正当事由要素となります。
ニ.
物の老朽度
建物が老朽化し、建替えの必要性があるほとんどの場合、正当事由が認められます。
a.
建物が老朽化し、そのまま放置すれば間もなく朽廃するという場合や朽廃を防ぐための修繕に多大な費用がかかるという場合には、正当事由が認められます。
例えば、大正12、3年ころ建築された木造建物で、建物の各所にわたって朽廃化の状態が顕著で、構造的にも物理的にも安全といえない状態にあるというケースで、裁判所は、「原告が本件建物を取り壊すことは建物の現況に照らしやむをえないものというべきであり、その跡地に建物を新築することと相まって、本件建物の存する地域、場所の実情に相応した敷地の有効な利用を図るものとして、その必要性を肯認することができ、解約申入の正当事由を構成するに足りるものということができる。」 として、明渡料の支払を条件とすることなく正当事由を認めました (東京地判昭63.10.25判時1310号116頁)。
b.
また、建物が大正年代の末ころ築造され、現在屋根の全面的葺替え、一部柱の根継ぎ、一部土台・基礎・敷居の入替え、天井の貼替え、根太の補修等の大修繕を必要とし、朽廃に至っているとはいえないにしてもほぼ5年前後で朽廃に至る状況にあるというケースで、裁判所は、「本件建物に必要とする大修繕は、その費用と修繕後の建物の効用などを比較考慮すると、これを施すことは現実的でなく建て替えるほかはない段階に至っていることが認められる」 として、借家権価格の約4分の1にあたる700万円の明渡料の支払を条件として明渡請求を認めました (東京地判昭63.9.16判時1312号124頁)。  以上のように、建物の老朽化という事実だけでは正当事由として不十分であるとしても、明渡料の支払によって正当事由が補完される場合が大変多いといえます。
ホ.
従前の経過
a.
権利金、更新料等の支払いの有無
権利金の支払いがなかったことは、正当事由のプラス要素として考慮されます。
b.
借家契約締結時から現在までの期間の長短
借家人が長期間借家を利用していることは、正当事由のマイナス要素と評価する判例があります。
c.
借家権設定時の事情
借家契約が当初他のビルが完成するまでの一時的な使用のために締結され、 その後なし崩し的に通常の賃貸借に変更された場合、(東京高判昭60.10.24判タ590号59頁) や当該建物を取毀して新築する具体的予定のあることを知って貸借した場合 (東京地判昭61.2.28判時1215号69頁) に正当事由を認めた判例があります。
d.
賃料額の相当性
賃料額が長期間低廉に推移したことは、正当事由のプラス要素となります。
e.
貸主に対する嫌がらせ等の不信行為
これらの行為は、正当事由のプラス要素になります。
ヘ.
財産上の給付
a.
明渡料の提供
b.
代替土地、建物の提供
借家人が対象物件を明渡しても、他に移転先が存在しているという場合や、賃貸人の方から明渡請求に際して対象物件に代わる代替不動産を提供した場合には、正当事由が認められやすくなります。
(d)
明渡料の考え方
先に述べたイ.ないしホ.の正当事由要素があるものの、これだけでは正当事由が十分ではないという場合に、明渡料を提供することによって初めて正当事由を具備させることができます。この意味で明渡料の提供は、正当事由の補完事由という性格をもつわけです。
明渡料の提供によって貸家の明渡を認めた判例としては次のようなものがあります。
イ.
借主がテナントの場合


ロ.
借主がレジデンスである場合


(e)
明渡料の算定方法
明渡料の算定方法は、事案ごとにかならずしも同じではありませんが、更地価格に借家権割合を乗じた借家権価格を基準に正当事由の充足割合を考慮して算定するという方法が合理的です。
具体的設例で説明しますと、次のとおりです。
(具体的設例)
更地価格25万円/㎡する200㎡の敷地上に建つ貸家4軒長屋 (建物価100万円) の1戸の明渡しを求めるにつき、 家主側の正当事由が60%備わっている場合の明渡料は、 122万円と一応試算することがきます。

(計算)

その他、営業補償、移転実費 (運送費、荷造費、動産損料、移転通知費等)なども明渡料算定に入れる場合もあります。
明渡訴訟になった場合は、明渡しを求める側は、不動産鑑定士に私的に借家権価格の鑑定をしてもらい、この鑑定結果を基準に正当事由要素を考慮して明渡料を算定し、その額を明渡料として提供することが実務上多いといえます。
(f)
明渡手続の実際
1)
調査
対象貸家及びその敷地についての調査や契約関係の調査を行います。この調査により借家建物の老朽化や、土地の高度利用の必要性、契約関係における借主の不誠実な対応などの重要な基礎事実を採取します。これらの基礎事実は明渡を求める 「正当理由」 を構成する基礎事実となります。また、不動産鑑定士の意見を参考にしながら明渡料の算定の基礎となる土地・建物の価格の算定を行います。
2)
明渡料の算定
調査に基づき、明渡しを求める 「正当事由」 を法律的に構成するとともに、 右正当事由によって明渡しを求める際の法律上妥当な明渡料の額を算定します。 「正当事由」 を構成する要素が多いほど明渡料は低額となります。
3)
明渡交渉
以上の手続を経て法律的な根拠方針を明確にして借家人と明渡しの交渉を行います。
4)
訴訟・調停
明渡しの交渉により借家人の同意が得られない場合は、調停・訴訟等の手続をとります。
訴訟手続を採った場合でも、裁判所は必ず判決をするというわけではありません。 明渡訴訟の場合は、訴訟手続を経て訴訟上の和解によって解決する場合が相当多いといえます。
(3)

借地借家法又は借家法の適用がない借家の明渡しとその方法

(イ)
賃借人に賃貸借契約上の義務違反がある場合の明渡しとその方法
これについては、4(2)(イ)(a)ないし(f)に述べたことと基本的には同じですので上記記述を参照して下さい。
(ロ)
賃貸借契約の存続期間が満了した場合又は期間の定めがない場合の明渡しとその方法
(a)
賃貸借契約の存続期間の定めがある場合
この場合は、存続期間の満了とともに賃貸借契約は終了します。貸主は上記存続期間の満了と同時に賃借人に対し法的に貸家の明渡請求をすることができます。 この場合明渡料等は必要ありません。
なお、民法604条1項には、借家法の適用のない貸地については、「賃貸借の存続期間は、二十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、二十年とする。」 との規定があります。
また、民法上では賃貸借の最短期間の制限はありません。
(b)
賃貸借契約の存続期間の定めがない場合
民法617条1項2号によると、賃貸借の存続期間の定めのない貸家の場合は、貸主はいつでも解約の申入れができ、解約申入れの意思表示が賃借人に到達してから3か月経過した時に賃貸借契約は終了します。したがって貸主はその時点で借主に明渡請求をすることができます。この場合明渡料等は必要ありません。
解約の申入れとは、契約を将来に向って終了させる意思表示のことをいいます。