不動産

境界紛争における境界確定の基礎資料

1 境界とは

 境界とは隣接する土地の境目のことをいいますが、「公法上の境界」と「私法上の境界」の二つに分けることができます。
 「公法上の境界」とは、筆(土地登記簿の土地の個数の単位で、地番を付されて区画されたもの)を異にして隣接する土地の境目(筆界)のことです。
他方、「私法上の境界」とは、隣接する土地の所有権の境目のことです。

2 境界に関する紛争とは

(1) 土地は自然現象等によって常に変化しているため、土地を人為的に区切って、それぞれの支配範囲を絶対的なものとして明確に表示するということは、ほとんど不可能に近いことです。また、現在の測量技術は精度が高まっていますが、昔に測量された土地は、その正確さの点でかなり劣る上に、人為的に作られた縄伸び(土地の実測面積が登記簿記載の面積よりも大きい場合のその差のこと)等があります。 そこで、境界が不明確なために、上述した「公法上の境界」や「私法上の境界」について、争いが起きることがあります。

(2) 「公法上の境界」は、公的権力の支配権が及ぶ範囲の問題であって、それを基準に、租税その他の公的権利関係が確定するものです。したがって、近隣土地所有者同士という個人が勝手に決めるわけにはいかないので、争いがある場合には、筆界確定制度又は境界確定訴訟という特別な手続や訴訟によって決定する必要があります。

(3) 他方、「私法上の境界」は、自分の土地の所有権がどこまで及ぶかという問題なので、隣接する所有者同士の話し合いで自由に決定することが可能です。もっとも、当事者同士で話し合いがつかない場合には、裁判所に民事調停を申し立てたり、所有権確認訴訟を提起するなどして、その手続きによって決着をつけることになります。

3 公法上の境界確定の判断基準

 私法上の境界については、上述の通り、当事者間の合意によって自由に決定できるため、以下では公法上の境界の確定について検討します。
 公法上の境界を確定する基準を定める具体的な法律はありません。実務では、①現地において境界を示す資料(境界標や境界標識)が発見されればこれが重視され、②これらが発見されない場合には占有を画する構築物により占有状態を確定し、③さらに、これらによっても判断が難しいときは自然地形、公図、公簿面積を総合して判断しています。もっとも、後述する14条地図のように、地図に現地復元能力(地図から逆に現地での境界を復元することができること)がある場合には、上記②の占有状態よりもより重視されるべきでしょう。

4 公法上の境界を確定するための資料について

(1) 境界標ないし境界標識(以下、「境界標等」といいます。)について

 境界標等とは、境界を示すための目印です。
 どのようなものを境界標等として利用すべきかについては、法律上の規定はありません。しかし、容易に発見しやすいものであること、移動が困難であることが要求され、腐らなくて丈夫な石杭、コンクリート杭、金属標などが素材として適切です。
 境界標の具体例としては、境界石、境界木、慣習による境界標などが挙げられ、境界標識の具体例としては、当事者が目印とした排水溝、生垣、塀、尾根・沢・道などの地物、地形などが挙げられます。
 ある物体又は地形等が境界標等ではないかと考えられた場合の検討の順序としては、ⅰ境界標等かどうかⅱ境界標等であるとして、いつの時点での境界を示したものかⅲ境界との位置関係はどのようになっているのかⅳそれがいつ境界標等とされたのかⅴ移動していないかを検討することになります。
 なお、境界確定訴訟において境界標等の存在や形状を立証するためには、検証という方法もありますが、写真を利用することが考えられます。

(2) 公図について

 公図とは、法務局(登記所)に保管されている旧土地台帳附属地図を指し、地番ごとに線引きされているため、登記簿謄本を図面化したものとして位置付けられるものです。
 公図は、元来、地租徴収の目的のために作成されたものであり、権利関係を公示して不動産取引の安全を図るという登記制度の観点から作成されたものではないため、精度が低く、一般的には現地復元能力は有しないとされています。
 もっとも、公図は、距離、面積、方位、角度のような定量的側面については信頼性は低いですが、各土地の形状、その相互の配列状態、道路、河川等との位置関係等の定性的側面については非常に参考になるものであり、特に、後述する14条地図などの精度の高い地図の整備が遅れている場合には、境界確定における重要な資料の一つとなります。

(3) 14条地図について

 14条地図とは、不動産登記法14条1項において、「登記所には、地図及び建物所在図を備え付けるものとする」と規定されているところの地図のことで、一筆又は二筆以上の土地ごとに作成し、各土地の区画を明確にし、地番を表示するものです。
 14条地図は、地籍調査(土地を一筆ごとに、所有者、地番、地目、境界、地積を調査・測量すること)により作成された地籍図や土地改良事業・土地区画整理事業等により作成された土地所在図などを活用して順次その整備を図っており、その精度は高く、現地復元能力を有しています。したがって、14条地図は、前述した公図に比べて証明力はかなり高いものといえます。
 もっとも、14条地図と同様に、現地復元能力を有する地図であったとしても、所有権の範囲を確定するもの、所有権の範囲確定のために作られたものあるいは所有権の範囲を一方当事者が主張するもの(地籍測量図、実測図、国土調査の地籍図等)は、当事者の合意の下に作成されている場合には、後述する当事者の合意と同様に考えられ、当事者の合意もない場合には、単なる現地の状況を示すものに過ぎず、公法上の境界の推認力は乏しいものとなります。

(4) 当事者の合意について

 当事者の合意によって公法上の境界が左右されることはありませんが、境界の合意がされたということは、公法上の境界もそうであったということをある程度示します。
 したがって、慎重な判断が必要とはなりますが、当事者の合意も公法上の境界を推認させる一つの資料となります。

(5) 占有状態について

 土地の境界が定められた場合には、関係者は、その境界を前提として土地を占有するため、支配管理等により占有があると認められる場合には、境界が客観的に正当であるということが一応推定されます。
 したがって、慎重な判断が必要とはなりますが、占有状態も公法上の境界を推認させる一つの資料となります。
 なお、境界確定訴訟において、占有状態を立証するためには、空中写真も含む写真を利用することが考えられます。

(6) 自然地形について

 前述したように、自然地形が境界標識として用いられる場合には、重視されるべき資料となりますが、そうでない場合であったとしても、土地の境界が定められるときは、土地の地形や地勢により容易に把握できるように決められることが多いといえるため、自然地形も一つの資料となります。
 なお、前述した占有状態の立証と同様に、自然地形を立証するためには、空中写真も含む写真を利用することが考えられます。

(7) 公簿面積と実測面積について

 近時に土地の実測がなされた登記簿については、登記簿面積と実測面積は一致していますが、昔からの登記簿は、地積が実測面積と一致していないことが多くあります。
 したがって、公簿面積が必ずしも正しく特定地番の面積をあらわしているとは限らず、公簿面積と実測面積を比較して前者が後者に不足していることを理由として、公簿面積通りの境界であると主張することは当を得ません。
 もっとも、同一地番より、実測されて土地が分筆された場合や、実測して地積更正登記がされた場合には、当然これを重視する必要があります。

5 最後に

 自分の土地の境界がどこにあるかということは、隣地への流水の問題、電気水道等の設置の問題、植物の越境の問題、隣地使用の問題、塀の設置の問題、崖崩れの問題、建物建築の問題などの様々な問題に関連するところ、前述したように、公法上の境界は、公図等の図面、境界付近の地形、公簿面積の差異、境界標等の状況、占有状況等を総合的に考慮して確定されるため、必要とされる資料の収集においても困難が伴います。
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