不動産

生産緑地と2022年問題について

1 生産緑地とは

 「生産緑地」とは、首都圏、中部圏、近畿圏の三大都市圏の特定市などの市街化区域内にある農地のうち、良好な都市環境と住環境を保全・維持するために、生産緑地法によって生産緑地の指定を受けている農地のことです。
生産緑地は、日本経済が1955年頃から長期の高度成長期に入り、都市化が急速に進み、市街地の緑地が減少した結果、住環境の悪化や、土地が地盤保持・保水機能を失ったことによる災害などが多発し、重大な社会問題となったことを受け、良好な都市環境と住環境を保全・維持するために、1974年の生産緑地法の創設によって誕生しました。
生産緑地の指定を受けると、固定資産税が極めて低額となるほか、相続税・贈与税の納税猶予などの優遇措置が適用されます。しかし、原則として、生産緑地の指定後30年間は「売れない・貸せない・建築できない・担保にもならない」という厳しい制約があります。
(1) 固定資産税の優遇措置について
 農地の固定資産税は、通常の宅地と同様に、土地の評価額をもとに算出される課税標準額に税率を乗じて計算されますが、生産緑地では、農地の売買実例価格を基に評価(農地評価)し、負担調整措置を講じた上で課税される(農地課税)ため、低額な固定資産税負担となります。
(2) 相続税の納税猶予制度について
 相続税の納税猶予制度とは、農地などを相続した農業相続人が農業経営を継続した場合、その農地などの価格のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税額が農業経営を継続している限り納税猶予され、最終的に農業相続人が死亡した場合に納税猶予されていた相続税額が免除されるという制度です。
(3) 贈与税の納税猶予制度について
 贈与税の納税猶予制度とは、農業経営者が農地などを生前に一括贈与した場合、農業後継者が農業を継続する限りにおいて贈与税が納税猶予され、贈与者の死亡又は農業後継者の死亡の日に納税猶予されていた贈与税が免除されるという制度です。
(4) 生産緑地の制限について
  ア 生産緑地の指定を受けると、生産緑地について使用又は収益をする権利を有する者は、当該生産緑地を農地等として管理しなければなりません。また、生産緑地の保全のため、市町村長から報告を求められたり、立入検査等を受けることがあります。
  イ 生産緑地における①建築物その他の工作物の新築、改築又は増築②宅地の造成、土石の採取その他の土地の形質の変更③水面の埋立て又は干拓を行うためには、市町村長の許可を受けなければなりません。
  ウ 生産緑地制度の基本は農地の維持・継続・保全にあるため、所有者が生産緑地を維持等できない場合には、所有者に代わって地方自治体又は他の農業従事者が維持等できるかどうかを検討する機会を与えるため、所有者は当該生産緑地の買取りの申出をすることができます。
 もっとも、生産緑地の所有者に容易に買取りの申出をさせないために、買取りの申出には制限が設けられており、所有者は、ⅰ生産緑地に指定されてから30年が経過したとき、ⅱ農業の主たる従事者が死亡したとき又は農業の主たる従事者が農業に従事することを不可能とさせる故障を有することとなったときでなければ、当該生産緑地の買取りを申し出ることができません。
 なお、買取り申出の受理日から起算して3か月間の期間内に、地方自治体も買取れず、地方自治体が買取りを斡旋した農業関係者からも買取りの希望が無く、いずれの買取りも不成立に終わった場合には、申請者は元の生産緑地を宅地課税扱いの都市農地として自由に扱えるようになり、宅地化の手続を進めることができます。

2 生産緑地2022年問題とは

(1) 1974年制定の生産緑地法の施行時は、当時の様々な社会的状況・事情に加え、生産緑地には前述したような制限があることから、生産緑地の指定申請は少数にとどまりました。
(2) しかし、1992年に生産緑地法が改正され、三大都市圏の特定市の市街化区域内にある農地において、生産緑地の指定を受けていない農地については、それ以前は実質的に免除されていた宅地並み課税が本格的に実施されるようになり、納税猶予の特例も適用されないのに対し、生産緑地については継続して農地課税であり、納税猶予の特例も適用されることとなりました。
 1992年の改正生産緑地法施行時は、バブル崩壊で景気が後退し、地価が一気に高騰から下落に転じていたため、固定資産税が低額になるとともに、納税猶予が受けられることは、都市農家にとって十分考慮に値する制度でした。また、当時は多くの都市農家に営農意欲があり、営農環境も良好でした。そのため、1992年末までに多くの都市農家が生産緑地の指定を受け、現在、全国にある生産緑地の80%がこの時に生産緑地の指定を受けたものとなります。
(3) その後、高度情報化社会に突入し、都市農家の農業観や生活感も変化するようになり、農業を継ぐ者は少なくなりました。また、マンションなどの不動産業を主力に据えて兼業する人も増えました。
 このように、生産緑地所有者の主要な収入源が不動産業など農業以外になっていること、営農を継続する労働力が不足してきていることなどから、多くの都市農家が宅地化に踏み切るのではないかという雰囲気も漂い始めている中、多くの農地が生産緑地の指定を受けた1992年から30年が経過し、生産緑地の買取り申出が可能となる2022年が到来します。
 仮に、都市農家の多くが宅地化に踏み切れば、宅地の過剰供給、地価の大暴落は必須であり、不動産市場だけでなく、わが国の経済全体にまで影響を及ぼし、社会問題化しかねません。これが「生産緑地2022年問題」といわれる所以です。
(4) 上記のように、現在、生産緑地の指定を受けている多くの農地の買取請求が可能となる2022年が迫る中、都市農地の保全策を講じなければ、緑のない空疎な市街地が増え、良好な都市環境は形成できなくなるとの問題意識から、生産緑地2022年問題対策として、生産緑地を保全し、宅地化を極力抑えるため、生産緑地法の改正が2017年に行われました。
 上記の改正では、特定生産緑地制度が創設され、生産緑地の指定後30年を迎える生産緑地が、30年経過時までに特定生産緑地の指定を受けると、引き続き農業の継続が義務付けられますが、税制面の優遇を10年延長することができ、その後も10年ごとの判断で、その都度指定を受ければ、さらに10年ずつ延長できるようになりました。

3 2022年以降の生産緑地の活用方法について

 

 2022年に向けて生産緑地の所有者が取り得る選択肢としては、㋐特定生産緑地の指定を受ける㋑生産緑地を特定生産緑地と買取り申出をする生産緑地に分ける㋒生産緑地の指定後30年経過時の買取り申出を目指すことが考えられます。以下、具体的に検討します。
(1) ㋐特定生産緑地の指定を受けることについて
 特定生産緑地の指定を受けると税制優遇措置を受けられるものの、営農義務が課せられ、指定期間中の他人への譲渡は禁止となるため、一般の土地と比較すると、その自由度は低くなりますが、具体的な土地の活用方法としては、以下の3つが考えられます。
  ア まず、自分で営農することが考えられます。もっとも、土壌改良、耕作、育成、収穫、加工、製造、販売に至る諸経費に加えて、農業従事者や家族に関する労働費用、雇用労働経費を含めて、よほどの効率化を図らない限り、農業を事業として成立させるのは厳しいと思われます。
  イ 前述した2017年の生産緑地法の改正により、それ以前は生産緑地地区内に設置可能な施設はビニールハウス、温室、農作物の集荷施設、貯蔵所や処理場、資材の保管施設、休憩所など、農業経営に必要な施設に限定されていましたが、生産される農作物を原料とする製造・加工施設、農作物やその製造・加工物を販売する直売所、農作物や製造・加工物を原料とする農家レストランなど、生産緑地で産出される農作物を活用してプラスをもたらす施設も設置可能とになりました。
 上記のように農作物の直売所等の設置が認められたことにより、営農しながらそれらの施設を運営することで、やり方次第では十分な収益を見込めると思われます。
  ウ 2018年に都市農地貸借法が制定され、それ以前は、納税猶予を受けている生産緑地の所有者には終身営農が義務付けられており、生産緑地を貸借することができませんでしたが、地方自治体の定める基準に沿った工作事業や市民農園ならば、生産緑地を貸借することができ、貸借しても納税猶予はそのまま継続できるようになりました。
 したがって、別の農家等に生産緑地を貸すという選択肢も考えられます。
(2) ㋑生産緑地を特定生産緑地と買取り申出をする生産緑地に分けることについて
 都市農家の場合、相続税、固定資産税などの納税問題を解決する際の金額が億を超えることも珍しく無く、多くの場合に高額の資金調達が必要となります。また、現在、都市農家の多くは所有地を活用して何らかの不動産事業を経営しており、採算性の悪い事業の見直しが必要であったり、収益物件の修繕等に資金が必要となることもあります。
 そのような場合には、資金調達に必要な部分のみを分割して買取り申出をして、残りは特定生産緑地にして営農に専念するという方法も十分検討に値すると思います。 (3) ㋒生産緑地の指定後30年経過時の買取り申出を目指すことについて
 買取り申出の主な目的は、買取りが不成立に終わることにより生産緑地を宅地化した上、収益建物の建貸し、自営などの事業活用、定期借地などにより収益をあげることや、買取りの成立により資金調達を行うことにあります。
 しかし、収益施設の場合、建貸しするにしても、居住用の有効活用(マンション等)、事業用の有効活用(事務所等)、各種自営業用の施設などについて、2022年やそれ以降の状況を注視し、情報収集力、推測力、社会経済の動きや流れを見る感性を働かせながら検討することになりますが、生産緑地の場合、立地、面積、形状、周辺環境によっても個々に違いがあるため、1つの対策が、ある生産緑地で成功したとしても、他の生産緑地では通用しない場合もあります。
 買取り申出による宅地化後の活用方法の検討は、外部の専門家の知見を活用しながらできるだけ早くに準備に取り掛かることが大切です。

4 最後に

 

 以上のように、1992年に生産緑地の指定を受けた都市農家にとって、2022年は30年ぶりに生産緑地の活用方法を見直すことができる機会であり、多くの問題について考える必要があります。
朝日中央綜合法律事務所は、不動産や相続といった案件において、他の追随を許さない豊富な経験とノウハウを蓄積しております。また、税務上の問題についても、同一グループ内の公認会計士や税理士と弁護士がスピーディかつ緊密に連携して案件に対応するというグループの総合力を活かした充実したワンストップサービスを実現しております。

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