損害賠償

過失相殺とは?

1 はじめに

テレビなどで事件が報道されたときに、被害者にも落ち度があるという意見を聞くこともあると思います。 損害賠償においては、過失相殺という制度が定められていますので、ご紹介いたします。

2 過失相殺の意味

<事例1>

Aさんの運転する車が青信号で交差点を直進する際に、少し脇見運転をしていたために、赤信号で横断歩道を渡っていたBさんに気づくことができず、Bさんを轢いて死亡させてしまった場合

Aさんには脇見運転という前方注意義務違反があり(過失)、その結果としてBさんを轢いて死亡させてしまっているため(結果)、Aさんには不法行為に基づく損害賠償責任が認められることになります。

しかし、赤信号で横断歩道を渡るというBさんの危険な行為(過失)も事故の原因となっているため、Aさんに全額の損害賠償責任を負わせるのは少々違和感があるようにも思えます。 このような場合に損害を公平に分担させるために過失相殺という概念が登場します。

例えば、上記例で被害者であるBさんに生じた損害額が1億円であったとしても、Bさんの過失割合が7割とされた場合には7000万円の賠償責任は否定され、3000万円の賠償責任のみをAさんは負うということになります。 このように過失相殺とは、ある行為により生じた損害について、被害者に過失がある場合に損害の公平な分担という観点から賠償額を限定する役割を持ちます。他方、被害者の過失を過大に評価してしまうと、被害者の救済が十分に図られなくなってしまうという問題があります。

3 被害者に過失がないにも関わらずに過失相殺が適用される場合

  

被害者の過失とはいえない場合であっても、被害者側に損害発生に関する原因がある場合には、過失相殺が適用されるケースがあります。

 

<事例2>

  

Aさんの運転する車が交差点で停車中のBさんの車に追突事故を起こした結果、被害者のBさんは腰部の神経に障害が生じ、運動能力が低下したために収入が減ってしまった。 もっとも、実はBさんは元々椎間板ヘルニアに罹患しており、それが神経障害の一因にもなっていたのであった。

この場合、Bさんには注意を怠ったという事実はないため、過失があるとはいえず、過失相殺の制度をそのまま利用することはできません。

しかし、事例2の場合、損害の発生に被害者の病気(法律的には、身体的素因といいます)が寄与しており、考慮すべきことが損害の公平な分担になるといえるため、過失相殺の規定を類推適用することができます(本来、条文で想定していなかった部分について、条文の趣旨目的が妥当するため適用を広げることを指します)。

 

<事例3>

AさんがBさんをいじめていたところ、Bさんが自殺してしまった。 Bさんの自殺の原因はBさん自身の性格が鬱の傾向にあることにもあるとAさんが主張した場合 この場合もBさんに注意を怠ったという事実はないため、過失があるとはいえず、過失相殺の制度をそのまま利用することはできません。

しかし、自殺したことについて被害者の心理的要因(法律的には心理的素因といいます。但し、個人差の範囲内であるものは除かれます)が寄与していた場合には過失相殺の規定が類推適用されることになります。 事例3では単なる鬱の傾向があるというだけでは、その性格が個人差の範囲内であるため、過失相殺は認められないと考えられます。

実際には、いじめられた子がいじめを周囲に打ち明けず、解決の機会を自ら奪ったことやいじめられた子の親が十分に子供を見ていなかったことを理由に過失相殺を認め、7割の減額を認めた裁判例もあります。 反対に、いじめ行為が悪質かつ巧妙であったことを理由に、被害者の心理的要因を考慮することは公平の見地に反するとして、過失相殺の適用を認めなかった裁判例もあります。

4 まとめ

以上のように、過失相殺の判断に際しては、加害行為や被害者側の原因に関する事実関係の分析や論理的検討が必要となります。また、微妙な事案では、過去の裁判例でどのように判断されていたのか等まで調べることが必要となります。弁護士でなければ正確な見通しを立てることが困難な場合もありますので、お早めにご相談ください。

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