離婚、離縁

離婚原因(2)

0 はじめに

   

前回、裁判離婚の離婚原因のうち、「配偶者の不貞行為」、「悪意の遺棄」、「三年以上の生死不明」につき、ご説明しました。今回は、残る離婚原因について、ご説明いたします。

1 「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(民法第770条第1項第4号)

 

⑴ 意味

   

この離婚原因が定められた趣旨は、配偶者が強度の精神病に罹患した場合、配偶者間で意思の疎通ができなくなるところ、そのような婚姻に健康な配偶者を拘束することは望ましくないため、健康な配偶者に再婚の自由を与えることにあります。

   

したがって、本条項の離婚原因に該当するのは、強度の「精神病」のみであり、具体的に裁判に現れるのは、その多くが統合失調症の事案であると言われています。

 

⑵ 判例の基準=「具体的方途論」

   

配偶者が精神病に罹患したとしても、その罹患は当該配偶者の責任ではありません。また、夫婦には民法上、「同居、協力及び扶助の義務」(民法752条)が存在し、健康な配偶者には一定の看病や介護の義務があるとも理解されています。

   

そこで、判例は、単純に配偶者が回復の見込みのない強度の精神病に罹患したことのみを理由に離婚を認めるのではなく、精神病を理由に裁判離婚を認めるための要件を加重しています。具体的には、精神病に罹患した配偶者の離婚後の療養、生活等について、離婚を求める配偶者に「具体的方途」を講じさせ、ある程度その方途に見込みがつかなければ離婚を認めないとするのが判例の立場です(最判昭和33年7月25日民集12巻12号1823頁)。

   

その上で、判例は、夫が精神病に罹患した妻との離婚を求めた事案においては、妻の実家に経済的余裕があること、夫がこれまで生活の余裕がない中、過去の療養費を捻出してきたこと及び将来の療養費についても夫が可能な限り支払う意思を表明していること等の諸般の事情に鑑み、裁判離婚を認めています(昭和45年11月24日民集24巻12号1943頁)。

   

この「具体的方途論」は、精神病に罹患した配偶者に対する配慮という観点からは、一定の評価をされていますが、看護について経済的支援ができない配偶者には離婚が認められない、という結論にもつながり、この点については強い批判もなされています。また、精神病に対する社会的偏見を助長するとして、そもそも「強度の精神病」のみを他の疾患と切り離して民法上の離婚原因としていること自体についての批判もあります。

2 「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法第770条第1項第5号)

 

⑴ 意味

   

「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻共同生活が破綻し、その修復が著しく困難な事由を指すと解されており、そのような事由の有無は、民法第770条第1項第1号から第4号までに規定された事由以外のすべての事情、具体的には、家庭内暴力、犯罪行為、性的異常、親族との不和、宗教的活動などの多岐にわたる事情を総合的に評価して判断されることになります。これらの事情は、必ずしも相手方配偶者に帰責性のあるものに限られません。

   

また、前回述べたように、配偶者の同性愛行為についてもこの離婚事由に該当し得ると考えられています。

 

⑵ 裁判における当事者の活動及び裁判所の判断

   

離婚を求める配偶者は、家庭裁判所に離婚訴訟を提起して、上記のような様々な事情をもとに「婚姻を継続し難い重大な事由」があることを主張していくことになり、他方、離婚を求められている配偶者は、そのような個々の事情の存在自体を否定したり、そのような事情があるとしても婚姻共同生活が破綻しているとは言えないことを主張したりすることによって、離婚を争うことになります。

   

そのような双方の主張や証拠を踏まえ、裁判所は、個々の事情の有無を認定したうえ、認定された個々の事情を総合的に評価して「婚姻を継続し難い重大な事由」があるか判断することになりそう。

3 裁量的請求棄却(民法第770条第2項)

 

⑴ 意味

民法第770条第2項では、「裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。」と定められています。 つまり、各種離婚事由が存在する場合でも、裁判所が婚姻の継続が相当である(離婚を認めることが相当でない)と判断した場合には、裁判所の裁量で、離婚の訴えを棄却することが認められています。

⑵ 「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条第1項第5号)に対する裁量的請求棄却

  

民法第770条第2項では、同項の対象になる離婚原因は「前項(民法770条第1項)第1号から第4号まで」と定められており、同項第5号で定められる「その他婚姻を継続し難い重大な事由」の場合には、裁量的請求棄却が認められていません。

  

これは、そもそも民法第770条第1項第5号の離婚原因(婚姻を継続し難い重大な事由)が、裁判所が裁量によって「婚姻の継続が相当ではない」と判断した場合に認められるものであることから、裁判所がそのような判断をした後に再度「婚姻の継続が相当である」と判断することは想定されないためです。

4 まとめ

今回は、5つある離婚原因のうち、残る2つ及び裁量的請求棄却について説明しました。

ご不明点等は、朝日中央綜合法律事務所へご相談ください。

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