婚姻費用の分担額については、夫婦が共に生活するための費用ということから、当然双方が同程度の生活水準を維持し得るだけのものを請求できることとなります。
そこで、分担額の算定に当っては、双方の収入を認定し、双方の生活を維持するのに必要な額を算定し、その按分割合をもとに総収入から分担額を割り出すという考え方となります。
しかしながら現実には、給与所得者等、収入が明確な場合でも、税金や社会保険料等の必要費用のほかに、収入を得るための被服費、交際費等の職業費、住居費等の特別経費や、子供等に対する養育費の程度等について問題が多く、費用分担額についての認定に手間取る等の問題が起こります。
しかし、婚姻費用については、経済力のない側やその子供らにとっては生存に関わる問題となるため、実際上は、東京、大阪の裁判官が中心となって構成された研究会が公表した、婚姻費用等の算定方式と算定表(判タ第1111号第285頁 東京、大阪家庭裁判所ホームページ)が用いられており、簡易迅速な判断が裁判所より示されることが多くなっています。
なお、同算定表について、日本弁護士連合会は、平成28年11月29日、「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方法・算定表に関する提言」を最高裁判所長官、厚生労働大臣及び法務大臣に提出し、上記の算定表を修正した新算定表を作成しており、こちらの新算定表も、今後、婚姻費用の算定にあたって参考になるものと思われます。
婚姻費用分担請求の基礎となる双方の収入については、給与所得者等の収入額に大きな争いのない場合でも前述のように問題が多いのですが、自営業者等で充分な確定申告もなしていない者等の場合、基本となる収入額の決定すら困難となる場合が少なくありません。また、相手方によっては収入資料の提出を拒んだり、離婚調停申立前後に申告額を急激に減少させる等の操作をしたりなどといったことも生じます。
そこで、これらの場合は、厚生労働省が毎年総計を取っている「賃金センサス」等を利用して請求することが考えられます。
また、婚姻費用を請求する側についても、子供の養育のためや本人自身の病気等で就労能力が見込めない場合はともかくも、就労能力がありながら本人の全くの個人的都合で就労せず収入がない場合は、単純に権利者側収入をゼロとして算定されるとは限らず、場合によっては前記賃金センサスのパート収入程度は評価されることも考えておく必要があります。
尚、収入評価に関しては、この他にも、義務者に同棲中の女性が居る場合や親を扶養している場合、債務を負っている場合等につき、これらを特別経費として収入から控除すべきか等といった問題がありますが、夫婦、子供の生活維持の費用が優先されると考えられることから特別費用として認められない場合が多いようです。
しかし、いずれも微妙な問題を含んでおり、簡単には割り切れないものです。
婚姻関係が破綻しているとまで言えない状況下では、当然、費用を分担すべき義務者は、自己と同程度の生活を維持し得るだけの費用を負う義務があります。
あるいは、破綻している場合で別居等が長期間(5年、10年単位の場合)に及ぶ場合は、たとえ義務者側に破綻の原因(不貞等)があったとしても、当然に前述のような義務を負うかどうかは問題となり、減額される場合があります。
また、双方に責任がある場合も同様の考え方で、分担費用が減額される可能性があります。
尚、請求をする権利者側に破綻原因(不貞等)がある場合は、子供の監護養育費用部分はともかくも、本人自身の生活維持費までは認めがたいと思われます。
婚姻費用の請求は、別居等により必要が生じた時から請求し得るという審判例や考え方があります。しかし、多くの裁判例では、具体的に請求をなした時以降の分が認められることとなっています。
また、婚姻費用の請求はいつまで認められるかといった問題もあります。
これについては、婚姻費用は夫婦の共同生活維持のための費用との考えから、請求権利者側から離婚調停や裁判等を申し立てる場合、その時点で完全に婚姻関係が破綻していることは明白であるため、費用負担は生じないのではとの考え方もないではありません。
しかし、実質上は「別居の解消または離婚に至るまで」として扱われており、調停、裁判等になっても、それらで離婚が成立するまでは請求が認められています。
また、離婚が認められず、又は求められず、別居状況だけが継続するような場合、全てが別居解消まで請求可能かは問題があります。
特に、婚姻費用の中に子供らの養育費部分が含まれている場合、子供の年齢等を考慮し、年数を切る等の処理がされる場合もあります。