離婚前の諸問題

離婚実務マニュアル

第1

離婚法の基礎知識

集合写真

離婚前の諸問題

(1)

婚姻費用分担請求

(イ)
民法第760条では、「夫婦は、その資産、収入、その他一切の事情を考慮して婚姻から生ずる費用を分担する」と規定し、夫婦間に婚姻費用分担の義務を求めています。
そして、通常の場合、夫の方の経済力が大きい乃至は夫だけに収入がある場合が多く、婚姻中は夫の収入を中心にし、夫婦及びその間の子供達の生計が維持されています。
ところが、夫婦関係がおかしくなって別居し、更には離婚に関する双方の意思の相違等から調停、裁判になる等してその別居状況が長期化し、かつ経済力のある側(通常は夫)が生活費を一切入れず、相手方及び相手方と生活を共にする子が著しく困窮するといった事態が生じる場合があります。
そこで、このような場合、経済的に弱い側(権利者)が経済力を有する側(義務者)に対し、民法第760条による婚姻費用の請求をなし得ると共に、義務者が応じなければ、婚姻費用分担請求調停、審判(家事事件手続法別表第二の二)を申し立てることとなります。
そして、権利者が離婚をも求める場合は離婚調停と併せて費用分担請求の調停を、権利者側が離婚を求めない場合は費用分担請求の調停だけを申し立てているのが通常です。
(ロ)
婚姻費用分担額の算定方法について
婚姻費用の分担額については、夫婦が共に生活するための費用ということから、当然双方が同程度の生活水準を維持し得るだけのものを請求できることとなります。
そこで、分担額の算定に当っては、双方の収入を認定し、双方の生活を維持するのに必要な額を算定し、その按分割合をもとに総収入から分担額を割り出すという考え方となります。
しかしながら現実には、給与所得者等、収入が明確な場合でも、税金や社会保険料等の必要費用のほかに、収入を得るための被服費、交際費等の職業費、住居費等の特別経費や、子供等に対する養育費の程度等について問題が多く、費用分担額についての認定に手間取る等の問題が起こります。
しかし、婚姻費用については、経済力のない側やその子供らにとっては生存に関わる問題となるため、実際上は、東京、大阪の裁判官が中心となって構成された研究会が公表した、婚姻費用等の算定方式と算定表(判タ第1111号第285頁 東京、大阪家庭裁判所ホームページ)が用いられており、簡易迅速な判断が裁判所より示されることが多くなっています。
なお、同算定表について、日本弁護士連合会は、平成28年11月29日、「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方法・算定表に関する提言」を最高裁判所長官、厚生労働大臣及び法務大臣に提出し、上記の算定表を修正した新算定表を作成しており、こちらの新算定表も、今後、婚姻費用の算定にあたって参考になるものと思われます。
(ハ)
基礎となる収入の評価等について
婚姻費用分担請求の基礎となる双方の収入については、給与所得者等の収入額に大きな争いのない場合でも前述のように問題が多いのですが、自営業者等で充分な確定申告もなしていない者等の場合、基本となる収入額の決定すら困難となる場合が少なくありません。また、相手方によっては収入資料の提出を拒んだり、離婚調停申立前後に申告額を急激に減少させる等の操作をしたりなどといったことも生じます。
そこで、これらの場合は、厚生労働省が毎年総計を取っている「賃金センサス」等を利用して請求することが考えられます。
また、婚姻費用を請求する側についても、子供の養育のためや本人自身の病気等で就労能力が見込めない場合はともかくも、就労能力がありながら本人の全くの個人的都合で就労せず収入がない場合は、単純に権利者側収入をゼロとして算定されるとは限らず、場合によっては前記賃金センサスのパート収入程度は評価されることも考えておく必要があります。
尚、収入評価に関しては、この他にも、義務者に同棲中の女性が居る場合や親を扶養している場合、債務を負っている場合等につき、これらを特別経費として収入から控除すべきか等といった問題がありますが、夫婦、子供の生活維持の費用が優先されると考えられることから特別費用として認められない場合が多いようです。
しかし、いずれも微妙な問題を含んでおり、簡単には割り切れないものです。
(ニ)
破綻原因と費用の軽減について
婚姻関係が破綻しているとまで言えない状況下では、当然、費用を分担すべき義務者は、自己と同程度の生活を維持し得るだけの費用を負う義務があります。
あるいは、破綻している場合で別居等が長期間(5年、10年単位の場合)に及ぶ場合は、たとえ義務者側に破綻の原因(不貞等)があったとしても、当然に前述のような義務を負うかどうかは問題となり、減額される場合があります。
また、双方に責任がある場合も同様の考え方で、分担費用が減額される可能性があります。
尚、請求をする権利者側に破綻原因(不貞等)がある場合は、子供の監護養育費用部分はともかくも、本人自身の生活維持費までは認めがたいと思われます。
(ホ)
始期・終期
婚姻費用の請求は、別居等により必要が生じた時から請求し得るという審判例や考え方があります。しかし、多くの裁判例では、具体的に請求をなした時以降の分が認められることとなっています。
また、婚姻費用の請求はいつまで認められるかといった問題もあります。
これについては、婚姻費用は夫婦の共同生活維持のための費用との考えから、請求権利者側から離婚調停や裁判等を申し立てる場合、その時点で完全に婚姻関係が破綻していることは明白であるため、費用負担は生じないのではとの考え方もないではありません。
しかし、実質上は「別居の解消または離婚に至るまで」として扱われており、調停、裁判等になっても、それらで離婚が成立するまでは請求が認められています。
また、離婚が認められず、又は求められず、別居状況だけが継続するような場合、全てが別居解消まで請求可能かは問題があります。
特に、婚姻費用の中に子供らの養育費部分が含まれている場合、子供の年齢等を考慮し、年数を切る等の処理がされる場合もあります。
(2)

同居請求

民法は第752条で、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定し、同居義務を定めています。
そこで、別居している夫婦の一方から、この条文を根拠として同居を求める調停、審判(家事事件手続法別表第二の一)の申立がなされる場合があります。
このような申立がなされるということは、少なくとも、片方には再び同居して生活しようという意思がないことが明らかな状況ということであり、申立自体、多分に感情的なものであったり相手方に対する嫌がらせの場合が多く、また、裁判所が審判にて同居命令を出したとしても強制力がないこと等から、審判では否定的な判断がなされる場合が多いのです。
しかし、結婚している以上は同居義務があることから同居命令を出す審判例もあり、また、別居の原因となった不貞行為等の原因がやんでいる場合等は、調停等を申し立て、公正な第三者である調停委員が介入することでの冷静な話し合いの可能性も捨てきれず、そのような請求手続を考えてみることも一概に無駄とはいいきれません。
(3)

DV法の保護命令

夫婦間の暴力事件等については、従来は単なる夫婦喧嘩としてしか捉えられず、「法は家庭に立ち入らず」等といったことをいい警察等もまともに取り上げてきませんでした。
しかし、家庭内での、通常、肉体的、経済的に力の弱い妻に対する異常な暴行等が社会問題化する中で、人権擁護、男女平等の実現に向けて、平成13年10月に「配偶者からの暴力の防止、及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)が施行されることとなりました。
そして、同法第10条では、被害者からの申立により、裁判所は、既に暴行を働き、かつ更に生命又は身体に重大な危害を与えるおそれが大きい場合、一定期間の接近禁止や自宅からの退去を命じることができることとなりました。
この申立は、暴行等をなした相手方や申立人の住所地等の地方裁判所(DV防止法第11条)に、書面でもって(同法第12条)なすことが求められ、また、原則として、相手方が立ち会う形での審尋等を経た上で(同法第14条)なされるものです。そして、この命令が出た場合、裁判所は被害者の住所地の警察本部に通知することとなっているため、相手方がこの命令を無視するような場合、警察等も、DV防止法違反だけでなく、その後の暴行等に対し一般刑事事件として動く可能性が大きいのです。
但し、このような命令にも従わない相手方に対しては、DV防止法だけでの対応では不充分で、離婚調停の早期申立や面会禁止の仮処分、住居の移動等による避難等、総合的判断での行動が必要となると思われます。
通話無料
平日 9:00~19:00
メールフォーム
でのお問合せ