民法は、第770条第1項で、離婚の訴えが起こせる原因としては、(a)不貞、(b)悪意の遺棄、(c)3年間の生死不明、(d)回復の見込のない強度の精神病、(e)その他婚姻を継続し難い重大な事由、の5つに限定しています。
そして、(a)から(d)の原因は(e)の例示となっているものと考えられており、同法第770条第2項により、(a)から(d)までの原因について事実として認められる場合でも、裁判所の裁量で離婚が認められない場合があることには注意が必要です(民法第770条第2項)。
また、裁判では、(a)から(d)までの原因だけを主張し、裁判所がそれを否定した場合、同じ事実関係に基づき(e)を原因として別に訴えを起こすことは認められていません(人事訴訟法第25条第1項)。
そのため、訴訟を起こす場合は、(a)から(d)の原因の主張だけでなく(e)の主張もしておいたほうが良いといった問題もあります。
不貞行為とは、夫婦間の貞節義務に反する行為であり、配偶者以外の異性と性交渉を持つことがその代表的な場合にあたります。そして、これはあくまで自由な意思のもとになされることに限られ、強姦の被害に遭った等という場合は不貞行為とはいえません。事実上の離婚後、一定期間経過した後の異性との性交渉は不貞とはならない場合があります。また、特定の異性とだけ性交渉を持つといった必要性はなく、多数と関係した場合も問題になり得ます。
不貞行為は、訴え提起時まで継続している必要はなく、過去の事実であっても問題となります。しかし、一方の不貞行為が止み、夫婦としてそれなりの平穏な日々が一定期間続いた後に、過去の不貞を蒸し返して請求することは認められない場合があります。
また、不貞行為は他の離婚原因に比べ重大な義務違反と考えられているため、配偶者側の問題のある生活態度等が引き金となり不貞に至ったような場合でも、不貞行為が認められれば、多くは離婚請求が認められます。
正当な理由もなく、婚姻の基本となる民法第752条の同居、協力、扶助義務を行わない行為をいいます。
一方が家を出て、残された者の生活費等の面倒を一切見ずに相当期間放置したり、逆に相手方を家に入れずに放置したり、更には、一方が仕事の関係で転勤した場合に、他方に同居するよう求めても理由もなく拒む等といった場合はこれにあたります。
また、悪意とは、夫婦の共同生活を完全に止めてしまうといった積極的な意思をいい、ためにそれを裏付けるだけの外形が必要となります。そのため、家を出てしまった期間等も重要となりますが、状況如何では数ヶ月といった短期間の実績だけでもこれが認められる場合があります。
但し、この原因は評価に微妙なところもあるため、この悪意の遺棄の一本だけで主張するよりは、(e)の婚姻を継続しがたい事由の一つの状況として、他の問題と共に遺棄の事実をあげる方が認められやすい場合があるかと思われます。
生死不明とは、単なる行方不明を言うのではなく、生きているか死んでいるかを確認できない場合をいいます。
そのため、残った配偶者や親族に所在は告げないものの電話連絡があったり、知人がどこかで見かけたことがあるといった情報があるような場合は、全くこれに当りません。戦争や震災等の特異な社会状況下以外では、立証等の関係でこれを単独の原因とすることは難しいと思われます。(b)か(e)を原因とし、その一事情として問題とする方が現実的であると思われます。
また、これを原因として離婚を認める判決が出ても、その後、判決前に相手方が死亡していた事実が判明した場合は、判決があっても離婚は無効となります。
尚、民法第30条では、7年以上生死不明の場合、申立により失踪宣告がなされることとなり、その結果、死亡したものと見做されるため、これでも婚姻関係を終結させることができます。しかし、この場合、生存が判明し上記宣告が取り消されると、当然、婚姻関係が復活するため、長期の生死不明の証明が可能な場合は離婚訴訟を起こす方がよいと思われます。
民法が、一方配偶者の精神病を離婚原因の一つにあげているのは、婚姻の本質ともいえる相互協力義務(民法第752条)が充分になし得ないといったことによるものです。
そのため、単に一方がうつ病で治療を受けているというだけでは認められず、その精神病の症状が重篤で、精神面での夫婦としての協力状況が充分に維持できないといったことが重要となります。
また、精神病とは言いがたい薬物中毒症やヒステリー等の場合は、これを原因とするのではなく、程度によっては(e)の婚姻を維持しがたい事由として申し立てるべきでしょう。
尚、精神病を原因とする場合、相手方は基本的に自活力を失っている場合が多く、離婚すれば直ちに生活にも影響が生じること等から、民法第770条第2項を理由に認められないといった事例も見受けられます。
そこで、最近では、強度の精神病で離婚を認めざるを得ない場合も、申立をなす配偶者側が相手方の将来の生活、治療につき何らかの具体的方法(例えば、一定期間生活費、治療費を支給する等)を提示していることを条件に認めていく方向にあります。
しかし、これらの配慮もないまま訴えを起こすと、この原因については前述のように離婚が否定される場合も充分あることに注意すべきでしょう。
裁判所に於いて離婚が認められるものとして、先に述べた(a)から(d)までの典型的な原因のほかに、夫婦としての同居、相互協力扶助(民法第752条)といった共同生活体を維持することが困難なまでに関係が破壊されているような場合にも認めるとされるのが、この「婚姻を継続しがたい」と言われるものです。
ところが、このような夫婦関係が「破綻」してしまったと判断される基準は、必ずしも明確、画一化したものはなく、双方の離婚に関する意思、態度、子供の有無、その年齢、信頼関係の破壊の程度、経済状況、身体状況、性格等一切の事情から総合的に検討、判断されるものです。
尚、その具体的なものとしては、長期の別居、離婚意思の強さ、精神病以外の重大な病気や身体的、精神的障害、一方の虐待、暴力、一方の家庭を無視した宗教活動行為、性交不能・拒否、勤労意欲の欠如、多額の借金、親族との関係、性格の不一致等が考えられます。しかし、これらについては、単一のものだけで認められる場合は少なく、特に、離婚問題で一番多くあげられる性格の不一致だけでは婚姻を継続しがたい事由と認められることはなく、他の多くの要素と併せて認められるものであると考えておいた方がよいでしょう。
また、経済的に弱い側や未成熟の子供ら等に対する配慮から、夫婦関係が破綻していたとしても認められない場合が多いことにも注意しておく必要があります。