離婚紛争予防の急所

離婚実務マニュアル

第2

離婚紛争の予防と解決の急所

集合写真

離婚紛争予防の急所

(1)

離婚紛争の実情と原因

(イ)
離婚紛争の実情
婚姻とは、男女が終生に渡り互いに協力して共同生活を営むことを約束するものです。
そのため、婚姻が終生の契約であるという前提からして、離婚は本来であれば例外的事象ということになります。そして過去においては、婚姻に宗教や社会風俗がからみ、特に日本では、家父長制の強い影響下で妻の地位が低かったこと等も手伝い、簡単に離婚しないといった状況にありました。
また現に、第二次世界大戦後の男女平等を原則とした新しい民法の親族編に移行後も、昭和40年頃までは離婚件数が年間8万件前後で推移するといった状況にありました。
ところがその後、社会が経済的に豊かになり、男女平等の理念が浸透し、核家族化や女性の社会進出による自覚等の影響もあってか、急激に離婚件数が増加し、昨今では年間21万件以上という、昭和40年頃までと比較すると実に3倍近い件数にまでなっています。
また、年齢層的に見て、従前から男女共20代の離婚率が高かったのですが、最近は更に増加傾向が見られます。その上、従前であれば、小さい子供の居る夫婦は子供の存在からできる限り離婚を控えようとする傾向がありましたが、最近では、子供が居ても自分達の感情、気持ち等を優先させて離婚に進むケースが少なくなく、そのため、養育費の問題がどうしても大きくなっています。
更には、50歳前後以上の熟年夫婦にも離婚が増加している様子があり、このような場合は財産分与等での問題が非常に大きくなり、解決を難しくしている側面があります。
現在の社会的状況、女性の地位の向上、結婚に対する認識等から、今後も更に離婚の増加が予想されます。
(ロ)
離婚紛争の原因
(a)
夫婦別産制と潜在的共有持分
夫婦の財産関係については、民法では、婚姻前に別段の契約をなさない限り、夫婦の一方の婚姻前から有する財産、及び婚姻中に自己の名で取得した財産はその者の特有財産となる旨規定されています(夫婦別産制・民法第760条、同法第762条)。
そのため、婚姻中は夫が働き、妻は専業主婦として家庭におり収入のないような状況下で夫の収入で自宅等を購入した場合、この規定からしてそれは夫の財産とみなされることとなります。
ところが、夫婦が離婚といった局面に至った場合、民法第768条第1項は、一方が相手方に財産の分与を請求できるとし、同条第3項では、分与の額、方法は、双方が協力して作った財産の額、その他の事情を考慮して定めると規定しており、前述の例のような夫の名義の財産でも、分与請求がなし得ることとなります。そして、これは、結局は「別産制」を取りながらも、婚姻後作られた財産については潜在的には夫婦の共有と考え、婚姻解消時に清算できるといった考えに基づくものと思われます。
そして、最近では、共稼ぎ、専業主婦等の状況に関わらず、その潜在的共有持分を2分の1ずつと考えるのが原則のようです。
(b)
分与すべき財産の不明瞭
分与すべき財産としては、原則として、婚姻後に夫婦の就労により得た収入で取得した財産が対象となることは、基本的に問題ないものです。
一方、婚姻前に自己の収入で得た財産や、婚姻前後を問わず親等から贈与・相続により渡された財産は、基本的には特有財産として分与の対象からは外れることとなります。
しかし、特有財産の中にも、一方が親等から渡された財産とはいえ、その後相手方が長期に渡り協力して生活を維持したため処分せずに残せた等といった場合には、ある程度は分与の対象にすることは可能かと思われます。
更には、夫婦が親らの家業を手伝ってきたような場合、夫婦に財産がなくても、家業として親らに資産があれば、これも分与の対象財産として見ることは可能で、現実には親の名義であるため財産そのものの分与は困難だとしても、金銭等で評価して処理されるといったようなこともあります。
また、将来の退職金や年金等といったものも、どこまでを分与対象財産と見るのかは非常に難しく、分与方法にも問題が生じかねません。
このように、分与すべき財産の不明瞭さが離婚紛争をこじれさす一つの原因であると思われます。そもそも夫婦の財産は、一定の期間の共同生活の中で作られ又は維持されたものであり、その構成は時事変化していくため、これに関し離婚時の紛争を予防する方法は現実には見当たらないと思われます。
(c)
慰謝料額の不明瞭
慰謝料請求権は、既に述べてきたように、夫婦の一方がその共同生活や信頼関係を破壊するような不法な行為をなしたことにより、相手方が精神的苦痛の対価として請求し得るものです。そして、この典型的な例が、不貞、暴力、遺棄等で、それ以外にも共同生活の維持が困難となるような信頼関係破壊行為が対象となりえます。
そして、このような慰謝料対象行為は多岐に渡ると共に、不貞行為だけを見ても、過去のものか進行中のものか、その期間や回数、婚姻期間等あらゆる点を考慮してその額が決定される性質のものであるだけに、画一的に取り決めることは困難であり、慰謝料額の程度等は予想しがたいものです。
(d)
親族の帰属と養育料額の不明瞭
未成年の子の親権の帰属は、離婚届出をなす際同時に決定しなければならない事項となっています(民法第819条)。
離婚に至るには、多くの場合、相当程度の感情的な対立、軋轢があり、また双方共に未成熟の子に対する思いが強いこともあり、子供の親権者をいずれにするかが争点となって離婚協議が困難となり、調停、裁判に至り、解決まで長期化することが多くなります。
また、養育料の額については、基礎知識の項でも述べた通り、夫婦の財力や生活程度、子の年齢等、多岐の事情を考慮し決定すべきもので、確定的数字というものはありません。そのため、この点も紛争となりやすい部分です。
(2)

夫婦財産契約

夫婦の財産関係については、民法第755条で、婚姻届出前に契約すれば民法第760条から同法第762条の法定財産制によらずにその帰属が認められることとなっており、これを「夫婦財産契約」といいます。
そして、この契約により夫婦の特有財産が明確になり、婚姻後に作られた財産を共有と定めたり、双方の財産の管理者を一方に決めたりすることができ、離婚の際の財産分与関係を事前に解決し得る余地があります。
しかしながら、この契約は婚姻届を出す前に締結しておかなければならず、かつ第三者に各人の財産の帰属を主張するためには、契約をなしてかつそのことを登記しておかなければならず、更には、一旦契約すると管理者の変更等(民法第758条)以外に変更が認められないことから、現実には契約する事例はほとんど見かけません。
また、夫婦の関係は長期に渡る場合が多く、その間、夫婦の経済力が婚姻当初と変化し、経済的に弱かった側の方の収入が大きくなる等といった事態も考えられ、変更のきかない契約であるだけに、逆に拘束されてしまう危険もあるため、離婚の際の予防策として必ずしも絶対的なものではないと思われます。