財産分与の中心は、夫婦の共同生活により築き上げた財産の清算です。そのため、分与すべき財産は、夫婦が別居乃至は離婚時に有する夫婦いずれかの名義の財産がまずは対象となります。但し、夫婦が婚姻前にそれぞれ取得したもの、あるいは、婚姻後とはいえ相続等で取得した特有財産は、当然除外されます。
そして、通常、現預貯金、不動産、株式等の有価証券類がこれらに当たると共に、既に支給認定がなされている年金、退職金や近い将来の返済金も含まれます。
しかし、退職金等は、5年10年以上も先に予想されるものであれば、退職金の支払い及びその金額について蓋然性がなく、財産分与の対象とすることが困難な場合もあり、分与対象となるとしても、分与額の算定方法等には注意が必要です。
また、夫婦以外の名義のものでも、例えば、夫婦どちらかが親の仕事を手伝い、それによって新たに相当程度の財産を残したり、又は夫が個人会社を経営している場合の会社の財産等も、一応、程度の問題等はありますが対象となると考えられます。
尚、負債は、共同財産形成のためできた住宅ローン等だけが対象となり、その外の各人の勝手で生じた債務はマイナスの意味でも対象とはなりえず、その場合、積極財産だけを考えて分与の請求をすべきです。
ところで、財産分与は、裁判手続としては原則的には家事審判の申立でされることとなり、離婚請求と併せてする場合に限り訴訟手続によることとなります。
しかし、いずれにしても、家庭裁判所での手続であり、かつ人事訴訟法第20条で、訴訟手続でも職権探知主義が取られているため、分与財産範囲に問題があるような場合、積極的に裁判所に調査嘱託を促したり、家庭裁判所調査官に調査をさせるよう促したりすることにより、判然としない財産範囲の確定もなし得る可能性もあると思います。但し、何の手がかりもなく、対象財産を探すよう求めても相手にされませんので、それなりに存在の可能性のある財産の特定をした上でするべきでしょう。
財産分与については、前述の通り、原則的には共同生活を打ち切った時点(別居時等)での財産価格を前提にすべきであると考えます。
そして、現金や預貯金については、評価は残高証明等で簡単に処理できると思われますし、解約返戻金等のある保険等についても、別居時点の返還予想金を保険会社に証明してもらうことで処理し得ると思われます。なお、預貯金残高のうち婚姻前から有している部分は夫婦共有財産とならないと考えられるため、婚姻時点における残高も明らかにすることが有用です。また、保険等の解約返戻金についても、婚姻前から契約している保険であれば、解約返戻金のうち婚姻前に払い込んだ保険料に対応する部分は夫婦共有財産にあたらないため、婚姻時点における解約返戻金額についても残高証明書を取得すると良いでしょう。
また、株式等の有価証券類についても、市場がたっているようなものについては、相続の評価の場合と同様に別居時等の基準日をはさんだ1、2ヶ月の平均値を取ることにより、評価額についてはさして争いとなるとは思われません。
しかし、非上場の株式や不動産等については、その評価が非常に難しい場合があります。
そこで、このようなものの場合は、審判、訴訟いずれの手続においても、裁判所に価格鑑定の申立をなし、裁判所が選任した鑑定人の鑑定で処理することになると思われます。但し、この場合、専門家に評価を任せるだけに費用もかかると思われると共に、裁判所の鑑定ということから、出た結果については申立をした側の有利不利に関わらずそれなりの拘束力を持つ可能性が大きいため、双方の評価額についての主張の開きがあまり大きくない場合は、そこまでするのが良いか問題のある場合もあります。
慰謝料は、配偶者の不貞行為等の有責行為の結果、相手方配偶者の精神的苦痛に対する対価として支払われるもので、既に述べて来た通り、定額化されたものや算定基準等といったものは一切ありません。
そして、慰謝料については、離婚と共に請求する場合は家庭裁判所での訴訟となり、離婚とは別に請求する場合は地方裁判所での訴訟となりますが、取り扱い裁判所が異なるものの、地方裁判所と家庭裁判所で判断基準が異なることはなく、既に述べてきたように、有責の程度、婚姻期間、子の有無等の条件により100万円から500万円の範囲内で処理されることが多いと思われます。
しかし、請求するに当たっては、500万円以上はできないとか100万円以上でないといけない等といったことは一切なく、自分の気持ちで金額を要求してもおかしくはありません。ただ、裁判所は、上記各事情を考慮し、裁判所の自由裁量で額を認定するため、請求額にはとらわれないことは理解しておく必要があります。
離婚に伴う紛争は、離婚そのものの当否から、親権者選定、養育費、財産分与、慰謝料、離婚前の婚費の清算等多岐に渡ります。
しかしながら、裁判をするに当たっては、上記全ての問題を対象としなければならない訳ではなく、合意できる部分は協議で処理し、どうしても解決が困難な部分だけに限って裁判に付する方が、双方ともに余分な労力を要しないと思われます。
そのため、離婚、親権について双方で争いないような状況では、協議離婚の手続をふんだ上で、財産分与、慰謝料、養育費については審判の手続にのせるといったやり方で、できるだけ争点を絞った方が早期解決となるでしょう。
また、財産分与に関して、いずれ判明するような対象財産については、感情的な面での抵抗はあってもできるだけ開示し、余分な争点を増加させないようにする方が、結果的には良いように思われます。
更には、財産分与等があるとしても、財産状況からしてわずかなものであれば慰謝料一本に絞る、またはその逆に、財産分与の中に慰謝料等をもっと取り込んで処理する等といった方法も、争点の整理の意味では重要になると思われます。
離婚は、それに伴う感情問題が大きいだけに、裁判手続に入る際に争点を絞り込むことが、紛争の早期解決に影響するものと思われます。
離婚とそれに伴う前記の各紛争については、家事事件手続法、人事訴訟法、民事訴訟法等により、事件ごとに訴訟事項、審判事項、更には家庭裁判所管轄、地方裁判所管轄と分けられており、複雑になっています。
まず、基本となる離婚請求については、調停不調後は、人事訴訟法第2条第1号、同法第4条により、家庭裁判所に訴訟を提起することと定められています。
そして、離婚請求と一緒に請求する場合に限り、慰謝料請求(人事訴訟法第17条第1項)や財産分与、親権者指定、養育費等(人事訴訟法第32条第1乃至第3項)も、家庭裁判所の訴訟事件として一気に解決することが可能になっています。
一方、離婚請求が協議離婚手続や調停離婚手続で解決している場合、財産分与、親権、監護権、養育費等の問題は、家庭裁判所における審判手続によることとなります(家事事件手続法別表第二の三、四)。
そして、離婚が成立している場合の慰謝料だけの請求の場合は、地方裁判所での訴訟手続によることとなります。
これらの手続関係は複雑なだけに、裁判手続をとるに当たっては、争点を充分に理解、整理し、訴訟事項に当たるか審判事項に当たるかを考え、行動する必要があります。
人事訴訟法は、民事事件のうち、離婚、婚姻の無効・取消し、嫡出子否認、認知、養子縁組、離縁などの身分関係の形成や存在の確定を目的とする訴訟について、民事訴訟法の特例として定められた法律です。
この法律は平成15年7月に全面改正されましたが、その結果、従前は地方裁判所で審理されていた離婚事件が家庭裁判所に変わり、更には、通常訴訟のように証拠調べ手続に限らず、家庭裁判所調査官による事実調査に基づく判断もなされるようになり、身分関係上の複雑な感情問題等の背景、事実等についても比較的正確に認識してもらいやすくなっています(人事訴訟法第34条等)。
その上、管轄についても、当事者の住所地での提訴が可能となり、調停では相手方住所地での申立に限られていることから、遠方の場合はどうしても申立側に負担となっていた部分がありましたが、訴訟に移行すればその負担が軽減される等といったことにもなります。
もちろん、離婚が成立してしまっている場合はこの法律での訴訟提起は不可能ですが、離婚について争いがあり、かつその他関連部分についても紛争が多岐に渡る等のため、調停では時間ばかりがかかってまとまりにくいような事案については、無理に調停手続にこだわることなく、早期に訴訟手続に移行させることも考えてみるべきかと思われます。
相手方との間で離婚に付帯する問題が解決できず訴訟を起こさざるを得ない場合、訴訟手続について、双方の主張の整理や証拠調べをどうしても裁判所においてなさなければならない関係で、時間を要するものとなります。
そのため、判決が出るまでの間に、相手方が財産の一部乃至全部を処分してしまえば、せっかく判決を得てもその実行が困難になるといった事態になりかねません。
そこで、離婚と共に財産分与を請求する訴えを起こす場合、対象財産について、民事保全法の手続に基づき仮差押をするといった方法が考えられます。尚、この場合は、人事訴訟法の変更により、本訴が家庭裁判所に付属する関係で保全手続も家庭裁判所に申し立てることとなります(人事訴訟法第30条)。
また、慰謝料請求についても、離婚と共に提起する場合は、上記同様、保全命令の申立も家庭裁判所にすることとなります。
しかし、慰謝料単独で請求する場合は、前述のように本訴の管轄が地方裁判所となる関係で、保全の手続も地方裁判所ですることとなります。
また、慰謝料は金銭請求のため仮差押の手続となりますが、財産分与で特定財産の分与を求める等の場合は処分禁止の仮処分となる等、保全申立内容にも違いがあり、このあたりは充分注意して対応すべきでしょう。
尚、民事保全法による手続の関係から、命令を得るためには担保として一定額の保証を求められることになります。対象財産の5乃至15パーセント程度が目安となり、財産によっては相当額の担保を積むことが求められるため、何を押さえるか等については充分慎重に対応した方が良いと思われます。
家事事件手続法第244条によって調停を申し立てた場合、調停が成立するまでの間、調停委員会は、調停の成立を難しくするような処分行為をしないように、一方当事者に命じることができるようになっています(同法第266条第1項)。
そこで、調停申立後に、前述のような財産分与や慰謝料の請求等で相手方の行為に不信を抱くような場合、この申立をするのも一つの方法です。
しかし、この調停委員会の命令は、担保は必要ないものの執行力もなく(同法第266条第3項)、違反した相手方に過料の制裁があるだけで(同条第4項)、実質的強制力がないことに注意が必要です。
また、調停が不調、取り下げ等になれば、この命令の効力も当然失われることとなります。
離婚が協議等で成立している場合、財産分与については、家事事件手続法別表第二の四により、審判手続でしか最終的な解決はできないこととなっています。
そこで、この場合、訴訟と同様に、やはり対象財産の保全が必要となり、家事事件手続法第157条において、審判申立と同時に家庭裁判所が仮差押、仮処分、財産の管理者の選任、その他必要な保全処分を命じることができることとなっています。
尚、この保全処分は、財産分与だけでなく、審判対象となる事案にも可能なため、離婚前の婚姻費用の分担、子の監護、親権者の指定、変更についても、必要な保全処分が考えられることとなります。
また、この保全手続はあくまで審判申立後(同時でも良い)に限られる手続であるため、調停申立中などではこの手続は取れません。
また、この手続は、民事保全法を準用する関係で、担保の差し入れを求められる可能性がありますが、民事保全法に比べ柔軟な取り扱いがなされる場合が多く、内容如何では、担保なしの場合や民事保全手続より額が低くなる可能性もあります。
夫婦間の離婚に関連し、子の親権者の指定や変更、離婚手続前の別居中の子の処遇等の関連で子の引渡しの紛争が生じることがままあります。
そして、従前はこの問題について、人身保護法に基づく請求手続が多用されていましたが、前述の訴え提起前の民事保全法による仮処分や、調停審判前の仮の処分を取ることもできます。
前述のように、調停前の仮の措置で行う場合は、執行力がないことから現実的解決は難しいと思われます。しかし、審判前の保全処分、訴訟提起前の民事保全法による保全処分の場合は強制力が一応あるため、子の生活状況等の確保に緊急性がある場合等はこの手続を検討することとなります。
しかし現実には、生身の子供のことであり、子供に与える精神的影響の大きさ等から、執行官の手によるとはいえ、子を物のようにして一方から直接引き離すような執行が許されるかが、争われるところです。また、命令に応じない場合は、1日いくらの損害金を支払う等の間接執行が多いと思われます。いずれにしても、子供に与える影響が大きいことでもあり、子を監督下に置いている親に著しい非行がない限り、仮処分での処理を行なうことは問題を多く含むものと思われます。
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV法)にも、同法第10条で、地方裁判所において保護命令が可能となっています。
そこで、配偶者の暴力等が原因での離婚事件等の場合、配偶者の退去命令や接近禁止命令だけでなく、同居の子に対する接近禁止命令等も出せるため、離婚紛争解決のため、このDV法による保護命令の申立をすることも一つの方法です。
そして、この場合、期間等の制限はありますが、申立につき担保を入れる必要もなく、その間に離婚手続を進めたりする手段として活用すべきでしょう。
調停、審判、家庭裁判所での判決、訴訟上の和解で、財産分与や養育費についての義務が定められた場合、個々に強制執行する方法もありますが、その他にも、家家事事件手続法第289条、同法第290条、人事訴訟法第38条、同法第39条の規定により、請求権者側が家庭裁判所に履行の勧告をしてもらったり、それに応じなければ履行を命じてもらうといった方法もあり、強制執行にまで至らなくとも支払等を受けられる方法があります。
但し、この手続での命令には執行力がなく過料の制裁があるだけのため(家事事件手続法第290条第5項、人事訴訟法第39条第4項)、強制力としては弱いものであることは理解しておくべきでしょう。
尚、強制執行手続と比べて、申立に専門的知識や執行費用の問題がなく、家庭裁判所への相談、同所の指導で申立が行いやすい利点があり、相手方の性格等から見て応じる可能性が高い場合は有効な方法であると思われます。