非上場株式の売却・評価

非上場株式の評価が問題となる場合

これまでは、主に非上場株式の売却の際における評価の方法についてお話をしてきました。しかし、非上場株式の評価が問題となるのは、株式の売却の場面だけではありません。そこで、今回は、どのような場合に非上場株式の評価が問題となるか、また、それに関する若干の裁判例などについてお話させていただきます。

1.株式を売却する場合

非上場株式を売却する際に、その評価をどのように行うべきかが問題と なることは、これまでお伝えしてきたとおりです。売主側は、少しでも売却価格が高くなるような計算方法を、買主側は、売却価格が低くなるような計算方法を採用するべきであると主張して、激しい対立関係になることが一般的です。

裁判実務上は、支配株式の評価にあっては、時価純資産方式と収益還元方式を加重平均して株価を算定するのが一般的ですが、その一方で、そのような裁判例の傾向に対し、「一つ一つが信頼に値しない数値を複数寄せ集めたからといって、信頼できる数値が算出できるわけのものではない」と指摘する著明な学者も存在します。

2.株式を贈与で取得し、あるいは相続で取得する場合

株式を相続や贈与で取得した場合、相続税や、贈与税を支払う必要が生じることがあります。このような場合においては、株式をより少額に評価した方が、納税額が少なくなるため、株式を取得した者としては、株式の評価額を低額に主張したいところです。

その一方で、課税当局は、非上場株式について、「財産評価基本通達」という通達に基づいて非上場株式の価格を計算し、課税処分を行うことが一般です。そのため、上記通達とは異なる方式で評価を行った場合、課税当局から通達に基づいた課税処分がなされる可能性があります。

もっとも、「通達」はあくまで行政庁内の通知に過ぎないため、法的拘束力があるわけではありません。そして、相続税等の課税の際に法的に最も重視されるのは、「時価に基づく課税」です。そのため、財産評価通達によらない評価方法を採用しても、その方法で算定された価格が時価を反映しているものと認められれば、上記課税処分を退けることも可能です。

3.非公開会社が新株を発行する場合

非公開会社が新株を発行する場合にも、その株式(非上場株式)の評価額が問題となることがあります。具体的には、新株発行の際の1株当たりの金額が時価より余りに低いと、いわゆる有利発行のための手続きを行わなければなりませんが、(取締役側は適正な時価による発行であると考えていたために、)そのような手続きを取っていなかった場合に、取締役の責任が追及されることがあります。

これに関して有名な最高裁判例が、アートネイチャー事件判決(最高裁平成27年2月19日判決)です。同事例では、まさに取締役が有利発行の手続きを取らずに新株を発行したことが問題となり、1審と2審では、発行価格が時価よりも著しく低いとして、取締役に対し、2億2000万円の賠償を命じましたが、最高裁は、株式の評価方法は様々なものが存在すること、また、将来の予測値など、ある程度幅のある評価要素が多数含まれていることから、「非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、「特ニ有利ナル発行価額」には当たらないと解するのが相当である」としました。

新株発行の際には、比較的取締役に柔軟な裁量権が認められる、つまり、いわゆる経営判断の原則が、新株発行の際にも及ぶことを示したものと評価することができるものといえます。

おわりに

このように、非上場株式の評価は様々な場面で問題となり、それぞれの場合における考慮要素が異なることもお分かりいただけたかと思います。さらに言えば、株式売却の場面においても、具体的な場面において、マイノリティディスカウント(少数株主であることによる減価)が適用されるか、判断が分かれることもあります。非上場株式の処分などを検討される際には、非上場株式評価の実務に詳しい専門家からアドバイスを受けることが重要です。

当事務所では、非上場株式売却、評価に他の追随を許さない豊富な経験とノウハウを蓄積しております。非上場株式の多様な評価方法や関連する裁判例のほか、当事務所で取り扱った売却実績など、非上場株式の売却に関する情報を網羅した『弁護士法人朝日中央綜合法律事務所 少数非上場株式売却専門サイト』をぜひご覧ください。

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