株式移転の知識8|株式移転の会計実務

企業法務ガイド|株式移転

第1編

株式移転の法律実務

第1

株式移転の会計処理

1

株式移転完全子会社の会計処理

(1)
概要
株式移転においては、完全子会社となる1または2社以上の会社が、新たに設立する株式会社(完全親会社となる会社)に発行済株式の全部を取得させ、その対価として、完全親会社の株式その他の財産が完全親会社から完全子会社となる会社の株主に交付されます。
その移転対価の取得は、完全子会社ではなくその株主に生じた事象ですので、完全子会社の会計処理上は関係ありません。完全子会社側で必要となる会計処理は、発行していた新株予約権及び新株予約権付社債の消滅に関する処理、そして自己株に移転対価を割り当てられた場合の処理となります。
(2)
新株予約権の消滅
『完全子会社化』、つまり当該会社の全株式を親会社が保有するという株式移転の目的から、株式移転契約の中で「完全子会社が発行している新株予約権及び新株予約権付社債は消滅する」と定めるのが通常です。
新株予約権、及び新株予約権付社債が消滅することにより、当該会社はその負担を免れることになり、その帳簿価額を減額します。当該免除益は課税所得となるため、その税効果調整相当額を控除した部分が利益となります。
(3)
自己株式に移転対価を割り当てられた場合
株式移転により、当該自己株式が完全親会社に移転するので、それについて「自己株式処分」と同様の処理を行います。受け取った親会社株式の時価と、渡した自己株式の帳簿価額の差額を、その他資本剰余金に加減します。
2

株式移転完全親会社の会計処理

(1)
概要
企業会計上、企業の組織再編は、「取得」、「持分の結合」、「共同支配企業の形成」、「共通支配下の取引」のいずれかに分類され、適用すべき会計処理が決定されます。
株式移転の場合、企業の結合の形態が問題となるのは2以上の会社が株式移転により新設会社の完全子会社になる場合です。企業の結合が「取得」と判定された場合(例えばA社、B社が株式移転により完全親会社たるHD社を設立するにあたり、A社によるB社の「取得」と判断された場合等。A社が取得企業、B社が被取得企業とされます)は、パーチェス法が適用され、被取得企業の資産・負債を時価で引き継ぐとともに、完全親会社が計上する被取得企業の株式の取得原価は、「取得の対価+直接要した費用」であり、取得の対価は、対価として交付される現金、株式等の公正価値で評価されます。
企業の結合が「持分の結合」と判定された場合は、持分プーリング法が適用され、すべての結合当事企業の資産・負債及び資本の適正な帳簿価額を引き継ぎます。 企業の結合が「共同支配企業の形成」(複数の独立企業が契約等に基づき、共同で支配する企業を形成する企業結合)と判定された場合には、持分プーリング法に準じた処理方法が適用されます。
親子会社間等、企業集団内における企業再編の会計処理は、「共通支配下の取引」と「少数株主との取引」に分けて処理されます。「共通支配下の取引」は、親会社からみれば内部取引と考えられるため、個別財務諸表上は適正な帳簿価額を基礎として処理され、連結上はすべて消去されます。「少数株主との取引」は、外部取引であるため、個別上も連結上も、時価を基礎として処理され、連結上はのれんが計上される場合があります。
(2)
株式移転完全親会社に生じる事象
株式移転に際して、完全親会社となる会社には、次の4つの事象が生じます。
(イ)
完全子会社となる会社の発行済株式の取得
(ロ)
移転対価の交付
(ハ)
完全子会社の新株予約権者に対する新株予約権の発行
(ニ)
完全子会社となる会社が発行していた新株予約権付社債について社債の承継
(3)
子会社株式の取得価額
(イ)
時価評価完全子会社
パーチェス法を適用する場合における『被取得企業』である完全子会社の株式の取得価額は、その完全子会社となる会社の株主に交付された対価(親会社の株式等)の時価で評価します。そのような完全子会社を「時価評価完全子会社」と呼びます。
(ロ)
簿価評価完全子会社
(a)
対象となる会社
対象となるのは、以下の各場合における完全子会社であり、株式の取得価額は「完全子会社簿価株主資本額」をもって算定されます。
1)
パーチェス法を適用する場合における『取得企業』
2)
持分プーリング法を適用する場合
3)
少数株主が存在しない共通支配下の取引の会計処理の場合
4)
単独で株式移転する場合( 2)~4)は、自己株式を有している場合を除く)
(b)
完全子会社簿価株主資本額
簿価ベースで、資産から負債を引いた額です。この場合、土地評価差額や有価証券の評価差額は無かったものとして、取得原価ベースで計算します。
また、「認識すべき利益(新株予約権の消滅で述べた新株予約権等に関する負担を免れることによる利益から、税効果調整相当額を控除したもの等)」を加算します。
(c)
のれんの計上
「完全子会社簿価株主資本額」と「新設型再編対価簿価」との差額についてののれんの計上が問題となります。
「新設型再編対価簿価」とは親会社株式以外の、対価として交付される財産の簿価を意味します。
1)
対価に株式が含まれない場合
差額の全部をのれんで埋めることができます。
2)
対価に株式が含まれている場合
差額のうち、新設型再編対価簿価まではのれんで埋めることができますが、それを超える部分は株主資本で調整されます。ただし負債としてののれんはこの場合は計上できず、株主資本での調整となります。
(d)
株式の特別勘定
完全子会社となる会社が簿価債務超過の会社である場合、子会社株式の評価はマイナスとなりますが、資産である子会社株式にマイナスを付すことはできないので、ゼロとなり、代わりに「株式特別勘定」という負債を計上します。
(e)
非株式交付完全子会社
共同株式移転の場合における簿価評価完全子会社の中で、当該完全子会社の株主に交付される対価の全部が社債・新株予約権である場合、または、対価が交付されない場合の当該完全子会社を言います。
(ハ)
混合評価完全子会社
株式の取得価額について、時価評価すべき部分と簿価評価すべき部分がある会社を言います。
(a)
時価評価すべきもの
1)
持分プーリング法または共通支配下の取引の会計処理が適用される場合における完全子会社が株式移転の直前に有している自己株式
2)
共通支配下の取引の会計処理が適用される場合における、完全子会社の少数株主が有する株式
(b)
簿価評価すべきもの
時価評価すべきもの以外の株式
(4)
株式移転に伴う対価の交付
(イ)
親会社株式の交付
株式移転の場合、完全子会社の株主の少なくとも一部に対しては必ず完全親会社の株式の交付をする必要があります。株式交換が、既存の会社が完全親会社になるのに対して、株式移転の場合、新設で完全親会社を作るので、会社の設立に際して株式を発行することが必要になります。
逆に、一部の株主には移転対価を交付しないことも可能です。例えばA社とB社が共同株式移転により新設の完全親会社を作る場合、A社の会社の株主にだけ対価を交付して、B社の株主には対価を交付しないことも可能です。
(ロ)
新設型再編株主払込資本額
株式移転に伴う完全親会社の設立に伴う払い込み資本の額であり、資本金、資本準備金、その他資本剰余金の合計額と一致します。
(a)
株主払込資本変動額
1)
簿価評価完全子会社部分
「完全子会社簿価評価株主資本額+計上されるのれん」-「新設型再編対価簿価」
イ.
差額がプラスの場合
当該差額が「新設型再編株主払込資本額」となります。
ロ.
差額がマイナスの場合
債務超過の会社の場合にそれが起こるが、当該マイナス差額は「その他利益剰余金」で調整されます。
ハ.
非株式交付完全子会社
評価されません。
2)
時価評価完全子会社部分
「新設型再編対価時価(完全子会社株主に交付された対価の時価)」で評価されます。
3)
混合評価完全子会社部分
時価または簿価純資産で評価する部分に応じてそれぞれ評価します。
(ハ)
各資本項目の金額
(a)
資本金
新設型再編株主払込資本額の範囲内で、完全親会社が株式移転契約の定めに従い定めた零以上の額となります。
(b)
資本準備金
新設型再編株主払込資本額から設立時資本金を控除した金額の範囲内で、完全親会社が株式移転契約の定めに従い定めた零以上の額となります。
(c)
その他資本剰余金
「新設型再編株主払込資本額」-「設立時の資本金及び資本準備金の額」
(d)
利益準備金
必ず零となります。
(e)
その他利益剰余金の額
1)
簿価評価完全子会社部分
簿価評価完全子会社が債務超過である場合、当該債務超過部分をその他利益剰余金でマイナスします。
2)
混合評価完全子会社部分
混合評価完全子会社が債務超過である場合、簿価評価すべき部分に対応して、その他利益剰余金をマイナスします。
(5)
完全子会社の新株予約権者に対する新株予約権等の処理
(イ)
時価評価完全子会社の場合
新株予約権の交付時の時価が完全親会社側で付されます。
(ロ)
それ以外の場合
完全子会社で付していた適正な帳簿価額が完全親会社側で付されます。
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