株式会社

会社支配権紛争の予防と解決マニュアル

第1

会社の支配権に関する会社法の基礎知識

集合写真
1

株式会社

(1)

株主の地位

株式会社とは、社員(出資者)の地位が株式という細分化された単位の形をとり、 社員全員が株式の引受価額を限度とする責任を負うにとどまり、かつ会社債権者に対して直接責任を負わない、という会社です(会社法第104条)。
例えば、A会社がBという取引先から商品を買ったという事例を想定します。
この売買によって、BはA会社に対して、商品の代金を支払えと請求することができますし、それでも支払わない場合にはA会社を被告として、商品の代金を支払えという裁判を起こすことになるでしょう。この売買によってA会社は、Bに対し、商品の代金を支払うという債務を負うからです。しかし、Bは商品の代金を支払うことをA会社に対して請求できるのみで、その出資者であるA会社の株主に対して請求することはできません。
これが株主が会社の債権者に対して直接責任を負わないということの意味です。
さらにaという人物が1万円を出資してA会社の株式1株を引受け(あるいは購入し)、A会社の株主になったとします。A会社の業績等によって株価が変動し、aの所有する1株の価値は上昇するかもしれませんし、下落するかもしれません。A会社が業績不振で倒産した場合、その価値は限りなくゼロに近づくことでしょう。
しかし、上で述べたように、aはA会社の債務に関して、債権者に対する支払い義務を負わされることはありませんから、aが株主であることによって生じうる最大限のリスクといえば、株価が下落した結果、aがその株式を取得するために出資した1万円がゼロになる可能性があるということだけです。これが、株主が株式の引受価額を限度とする責任を負うということの意味です。
このような株主の責任の性質を、一般的に「間接有限責任」と称しています。株式会社は、間接有限責任社員のみで構成される会社ということになります。
(2)

株式会社の種別

会社法上、株式会社の種別によって、適用される規定に変化が生じるため、「公開会社」「大会社」という用語の定義に関する説明をしておきます。
公開会社
会社が発行する全部又は一部の株式については、譲渡による株式      の取得に会社の承認を要するという定款の定めを設けていない株式会社(会社法第2条第5項)
大会社
最終事業年度に係る貸借対照表において、①資本金として計上した額が5億円以上、もしくは②負債の部に計上した額の合計額が200億円以上、である株式会社(会社法第2条第6項イロ)
すなわち、公開会社、大会社に該当しない会社をそれぞれ「非公開会社」「中小会社」と呼称すれば、
非公開会社
会社が発行する全部の株式について、譲渡による株式の取得に会社の承認を要するという定款の定め(株式譲渡制限)を設けている株式会社
中小会社
最終事業年度に係る貸借対照表において、①資本金として計上した額が5億円未満、かつ②負債の部に計上した額の合計額が200億円未満、である株式会社
となります。
(3)

株式会社の機関設計

会社法では、それぞれの株式会社が、その目的や規模に応じた運営をできるように機関の設計を柔軟化しています。
株式会社に必要な最低限の機関構成は、株主総会と取締役とされ、会社の種別や支配株主の選択に応じて、定款の定めにより、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、委員会(指名委員会、監査委員会、報酬委員会)、会計監査人等の各機関の設置をするという図式になっています(会社法第326条)。
すなわち、株式会社の機関は、株主総会と取締役のみ、という小規模なものから、株主総会、取締役会、会計参与、監査役会(ないし委員会)及び会計監査人が揃うという大規模なものまで、柔軟に設計することが可能です。
ただし、機関の設計にあたっては一定の制限が存在するため、会社法の規定に注意を払うことが必要です。例えば、公開会社においては、取締役会を設置しなければならない(会社法第327条第1項)とか、取締役会を設置した場合には原則として監査役を設置しなければならない(会社法第327条第2項)というような制限があります。
株式会社の種別による制限も存在するため、公開会社なのか非公開会社なのか、大会社なのか中小会社なのかという視点は、機関を設計する上で必要となります。
なお、本マニュアルでは、株式会社の機関設計として、取締役会が設置された株式会社をモデル(原則)として記述をすすめていくこととします。
株式会社の組織や業務に関する意思決定及びその執行は、株主総会あるいは取締役会を通じてなされることになるため、株式会社の支配とは株主総会及び取締役会の掌握ということになります。もっとも、取締役の選任や解任は株主総会の決議事項とされていますから、株主総会を支配することが、実質的にはその株式会社を支配するということになります。
以下では株主総会、取締役会の構造やその議決方法、他の機関の概要を説明します。
(4)

株主総会

(イ)
株主総会とは
株主総会は、 株式会社の出資者(所有者)である株主によって構成され、 株式会社の基本的事項を決定する最高の意思決定機関として位置づけられます。
株主総会は、 会社法または定款に定める事項について決議する権限を有します (会社法第295条第2項)。すなわち、法定の権限事項に加え、定款に定めることによって、 組織や業務に関する事項を株主総会の権限に追加することもできるのです。
逆に、 会社法で株主総会の決議事項とされている事項は、 会社の基本的重要事項であって株主総会の専決事項とされるものです。 これらの事項の決定を他の機関やその構成員に委任することはできず、そのような定めをした定款規定は無効となります(会社法第295条第3項)。
なお、取締役会非設置会社においては、株主総会は万能の機関とされています(会社法第295条第1項)。
(ロ)
一株一議決権の原則
株主は、原則として一株について一個の議決権を有しています(会社法第308条第1項)。株式会社では株主の頭数ではなく、株主が有する株式の数に比例した議決権が認められているのです。
すなわち、多額の投資をして、多数の株式を取得するに至った株主は、その分だけ株主総会における発言権を有するということになります。1万円を払って1株を取得したaと、20万円を払って20株を取得したbという事例を設定すれば、多額の投資をしてaの20倍の株式数を有する株主となったbは、株主総会を通じてaの20倍の発言権を行使できるという合理性が肯定されているのです。
このような仕組みを資本的な多数決と称しますが、一株一議決権の原則によって資本的多数決制度が成立し、多数の株式を所有する者が会社を支配するという構図ができあがります。
(ハ)
決議方法と決議事項
株主総会の決議方法としては、普通決議、特別決議、特殊決議の三種類に分かれます。
(a)
普通決議
普通決議とは、 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、 出席した当該株主の議決権の過半数の賛成で成立する(表決要件)ものをいいます(会社法第309条第1項)。
これらの要件は、 定款の定めにより加減することができるため、多くの会社では定款で定足数を排除して、出席株主の議決権の過半数で決議が成立するものとしています。
なお、役員(取締役、監査役、会計参与)の選任、解任決議(ただし累積投票による取締役と監査役の解任決議を除く)については、上記定足数を三分の一未満にすることや表決要件を引き下げることが禁じられています(会社法第341条)。これは役員の地位の重要性によるものです。
普通決議事項としては、役員の選任ほか計算書類の承認(会社法第438条第2項)などが、株主として身近に経験できる代表例でしょう。
会社支配という観点から最も重要な普通決議事項は、 取締役の選任、解任となります。ある株主やそのグループが、議決権ある株式の過半数を握っている場合には、意中の取締役を選任でき、また気に食わない取締役を解任できるということを意味するからです。
(b)
特別決議
特別決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席して(定足数)、出席した当該株主の議決権の三分の二以上にあたる多数決の賛成(表決要件)で成立するものをいいます(会社法第309条第2項)。
会社法上特に重要な事項に関する決議については、多数の株主の賛成を必要とすべきであるという観点から、普通決議よりも厳重な要件が課されたものです。
これらの要件についても定款の定めによる加減は可能ですが、上記定足数を三分の一未満にすることや、表決要件を引き下げることは禁じられています。
特別決議事項とされるものは、累積投票で選任された取締役や監査役の解任、資本の減少、定款の変更や事業譲渡、会社の合併、分割、株式交換、株式移転計画の承認(会社法第309条第2項各号)などが代表的なものです。
議決権ある株式の過半数を掌握することが、取締役の人選の掌握につながることは前述しましたが、会社支配という観点からは、この特別決議を成立させられる多数株式を握っているかどうかということも非常に重要といえるでしょう。特別決議を成立させられる多数株式を掌握すれば、会社の基本規則である定款を変更して機関設計を変更したり、会社の重要事業を他人に譲渡したり、組織再編行為を行ったり、かなり大規模な事項に関しても自由が認められることになるからです。
(c)
特殊決議
特殊決議とは、 特定事項について、 特別決議よりも重い要件が定められている決議です。
会社が発行する全部の株式について株式譲渡制限を設定する定款変更のための株主総会決議には、議決権を行使することができる株主の半数以上かつ当該株主の議決権の三分の二以上の多数が必要となります(会社法第309条第3項)。定款の定めにより、これらの要件を加重することはできますが、緩和することはできません。
剰余金や残余財産の分配、議決権に関して株主ごとに異なる取り扱いを設定する非公開会社の定款変更決議には、総株主の半数以上、総株主の議決権の四分の三以上の多数が必要となります(会社法第309条第4項)。定款の定めにより、これらの要件を加重することはできますが、緩和することはできません。
これらの定款変更は、株式譲渡の自由や株主間の平等を制限するという重大な効果を生じるため、通常の定款変更よりも要件の加重がされているのです。
(5)

取締役会

(イ)
取締役会とは
取締役会は、 株主総会によって選任されたすべての取締役によって構成されます。
取締役会は、 業務執行の決定、取締役の職務の執行の監督、代表取締役の選定及び解職を行なうこととされています(会社法第362条)。
そのほか、明文の規定をもって取締役会の議決事項とされているものがあり、大きく分ければ、法律上当然に取締役会の議決事項とされるもの(個別的権限事項)、規定された事項の中でも特にそれが重要と言える場合に限って取締役会の議決事項となるもの(一般的権限事項)、の二種類があります。
個別的権限事項としては、 株式の分割 (会社法第183条第2項)、 株主総会の招集の決定 (会社法第298条第4項)、代表取締役の選定及び解職 (会社法第362条第2項第3号)、取締役が行う競業及び利益相反取引の承認 (会社法第365条第1項)、などがあります。
一般的権限事項としては、 重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財などがあります(会社法第362条第4項第1号、第2号)。何が「重要」で、何が「多額」にあたるかは、会社の財務状況や、個々の金額等によって個別に判断されることになります。
(ロ)
代表取締役
代表取締役は、取締役会の決議により、取締役の中から選定され、取締役会の決議で解職されます。
代表取締役は株式会社の業務執行を行い、対外的に会社を代表します(会社法第363条第1項、第349条第1項)。すなわち、業務執行の意思決定は取締役会で行い、その意思決定にもとづき、代表取締役が執行を行うという役割分担がなされているのです。なお、細目的な日常業務に関しては、その意思決定についても、代表取締役に委任がなされているものと解釈してよいでしょう。
代表取締役以外の取締役であっても、個別の取締役会決議により、業務執行を担当することができます。
代表取締役や業務執行取締役は、3ヶ月に1回以上は、職務の執行状況を取締役会に報告することが義務付けられています(会社法第363条第2項)
(ハ)
取締役会の決議方法
取締役会は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席して(定足数)、 出席した取締役の過半数(表決要件)の賛成により成立します(会社法第369条第1項)。これらの要件は定款の定めで加重することはできますが、緩和することはできません。
取締役会においては、各取締役が平等に一人一票の議決権を有しており、一株一議決権の資本的多数決によって決議がなされる株主総会とは異なります。また、株主総会のように普通決議、特別決議、特殊決議といった区別はありません。
このように、合議体である取締役会の議決方法は原則として過半数の表決要件を採用しているため、会社支配という観点からは過半数の取締役の掌握が必要となります。
(ニ)
特別取締役
重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財が、取締役会の決議事項とされ、代表取締役や個々の取締役にもその決定を委任することはできないとされていますが(会社法第362条第4項第1号、第2号)、これらの決定を特別取締役のみによる決議で成立させるという方法が認められています。
具体的には、取締役が6人以上かつ社外取締役が1人以上存在する場合、特別取締役として3名以上を選定し、重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財に関しては、当該特別取締役のみの議決(定足数、表決要件ともに過半数が原則)によって、決定するという方法です(会社法第373条)。
要するに、取締役会の中にさらに特別取締役会(構成員が特別取締役)を設け、その特別取締役会の議決によって、重要な財産の処分等が決定されるというイメージです。
(ホ)
任期
取締役の任期は原則として2年ですが、非公開会社の場合、定款の定めにより10年まで伸長することができます(会社法第332条)
(6)

会計参与

会計参与は、取締役と共同して計算書類を作成し(会社法第374条第1項)、株主総会で計算書類に関する説明を行います。そのほか、独自に会計参与報告を作成したり(会社法第374条第1項)、計算書類を保存して、株主や債権所の要求に応じて開示する義務を負います(会社法第378条)。
会計参与は、公認会計士(監査法人)または税理士(税理士法人)の資格を有することが必要です(会社法第333条第1項)。
公認会計士、税理士等の会計の専門家が取締役と共同して計算書類の作成を行うことで、計算書類の適正や作成の迅速化をはかることができますし、取締役の負担を軽減することもできます。
(7)

監査役(監査役会)

監査役は、株式会社の会計監査(計算書類や事業報告、それらの付属明細書の監査、会社法第436条第1項)と業務監査(業務一般に関する監査、会社法第381条第1項)を行いますが、非公開かつ中小会社においては、定款の定めにより、監査役の権限を会計監査に限定することができます(会社法第389条第1項)。
取締役会は、取締役の職務の執行を監督する義務を負い、また株主自身も取締役の解任権等によって取締役に対するコントロールを及ぼすことができますが、実効的な監査を行うための独立機関の設置ということが監査役の存在理由です。
監査役は、いつでも、取締役や使用人に対して事業の報告を求めたり、会社(必要があれば子会社に対しても)の業務及び財産の調査をすることができます(会社法第381条第2項、第3項)。また監査報告を作成し、株主総会では監査について説明する義務を負います。
監査役が不正を発見した場合には、取締役会や株主総会への報告が義務付けられますし、取締役会を自ら招集することもできます(会社法第382条ないし第384条)。
監査役会は、会社の大規模化等の理由により、監査業務についても複数の監査役による監査のほうが望ましい場合に設けられる監査機関で、3名以上の監査役かつ、過半数が社外監査役であることが必要となります(会社法第335条第3項)。
(8)

会計監査人

会計監査人は、株式会社の会計監査(計算書類及び付属明細書、臨時計算書類、連結計算書類)を行います(会社法第396条第1項)。
会計に関する調査権を有することは監査役と同様で、会計監査の適正化のために設置されます。
公認会計士(監査法人)の資格を有することが必要です(会社法第337条第1項)。
(9)

委員会

委員会設置会社においては、株主総会、取締役会のほか、執行役及び取締役各3名以上から構成される指名委員会、監査委員会、報酬委員会が設置され、さらに会計監査人の設置が義務付けられます(会社法第327条)。
執行役は、業務執行のみならず、取締役会決議によって委任を受けた範囲の業務執行の意思決定まで行うことができ(会社法第418条)、一方で取締役は会社の業務執行を行うことはできません(会社法第415条)。取締役会の決定事項を限定することで、執行役による迅速な意思決定、業務執行がなされることを期待した機関設計です。
指名委員会は、株主総会に提出する取締役の選任及び解任の議案の内容を決定し、監査委員会は、執行役、取締役、会計参与の監査及び株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任の議案の内容を決定し、報酬委員会は執行役、取締役、会計参与の報酬の決定を行います(会社法第404条)。
各委員会を構成する取締役の過半数が社外取締役であることが要求されるため(会社法第400条第3項)、人事、監査、報酬面において社外取締役の意見を取り入れ、適正な決定がなされることを期待した機関設計です。