株主の監督是正権

会社支配権紛争の予防と解決マニュアル

第1

会社の支配権に関する会社法の基礎知識

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6

株主の監督是正権

(1)

株主による監督

会社法は株主自身が会社の監視監督を行うための規定を設けています。取締役会が取締役を監査したり、監査役が会社の業務監査や会計監査を行ったりと、監査のための機関が他にも存在しますが、株式会社の実質的所有者である株主自身が監査を行うという点、特に少数派の株主でも監督権限を行使できるという点に意義があります。
逆にいうと、特定の株主が多数の株式を掌握して株主総会を支配し、意中の役員を選任して会社の業務一般をコントロールできる状態になったとしても、不正、不法なことを行ったり、少数株主の利益を侵害したりすることはできないことを意味します。
株主の監督権限は、1株の株主でも行使できる単独株主権、権利行使のために株式の保有割合や保有数について一定の要件が定められている少数株主権の2種類に分類することができます。また、単独株主権、少数株主権の中には一定期間株式を保有していないと権利行使できないという保有期間が定められているものがあります。
これらの保有割合、保有数、保有期間は定款の定めで軽減でき、また非公開会社においては保有期間の要件は課されません。
(2)

株主総会に関する監督是正権

(イ)
株主提案権(会社法第303条)
(a)
株式の保有要件
総株主の議決権の100分の1または300個以上の議決権を6ヶ月前より引き続き有する株主。
(b)
権利内容
株主は取締役に対して、一定の事項(当該株主が議決権を行使できる事項)を株主総会の目的とすることを請求することができます。例えば、取締役の解任請求などがこれに該当します。この請求は株主総会の8週間前までに行う必要があります。
(ロ)
株主総会検査役の選任(会社法第306条)
(a)
株式の保有要件
総株主の議決権の100分の1以上の株式を6ヶ月前より引き続き有する株主。
(b)
権利内容
株主は、株主総会の招集手続や決議の方法を調査させるため、 裁判所に検査役の選任を請求することができます。
多数派が不当な総会運営を行っている場合や、敵対的株主が株主総会の運営を妨害するような場合に有用な手段です。
検査役は、 株主総会の招集手続や決議の方法を調査し、その結果を裁判所に報告しなければなりません。 検査役から報告を受けた裁判所は、検査役に更なる調査を命じたり、あるいは、会社に対して株主総会の招集や、株主に対する検査結果の通知を命じることができます。
(ハ)
株主総会の招集請求(会社法第297条)
(a)
株式の保有要件
総株主の議決権の100分の3以上の株式を6か月前より引き続き有する株主。
(b)
権利内容
株主総会は、 原則として取締役会がこれを招集するものと定められています (会社法第298条第4項)。
しかしながら、 重大な決定事項があるにもかかわらず、 取締役会が株主総会の招集を行わない場合も存在します。例えば、取締役が経営判断を誤ったにもかかわらずその地位にとどまろうとし、株主としては当該取締役を解任したいのに、取締役会が当該取締役をかばって株主総会を臨時に召集しないような場面です。
株主は総会の目的たる事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができ、この請求にもかかわらず取締役会が招集を懈怠した場合には、株主自ら裁判所の許可を得て株主総会の招集をすることができます 。
(ニ)
株主総会決議の不存在または無効の確認、取消しの訴え(会社法第830条、第831条)
(a)
株式の保有要件
特に定められていません。
(b)
権利内容
株主総会に瑕疵があった場合、その効力を否定するために、株主総会決議の不存在や無効の確認、取消しを求めて提訴することができます。
不存在となる場合は、株主総会決議が法律上存在しないといえるような瑕疵がある場合で、 例えば、 総会開催の事実または決議がなされた事実がないのに、 議事録だけが作成された場合 (最高裁判所昭和45年7月9日判決)や株主全部に招集通知をしないか、またはこれと同視すべき著しい招集通知もれ (最高裁判所昭和33年10月3日判決) が存在する場合などです。
無効となる場合は、株主総会決議の内容が法令に違反する場合で、例えば、会社法第461条に違反する剰余金配当決議の場合などです。
取消しとなる場合は、①総会の招集手続又は決議の方法が法令、定款に違反し又は著しく不公正なとき、②決議の内容が定款に違反する場合、③決議につき特別の利害関係を有する株主が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がなされた場合です。例えば株主の一部に招集通知もれがあったり(①)、取締役解任の議案について株主でもある当該取締役が議決権を行使した場合(③)などです。
なお、不存在、無効確認の訴えは、株主のみならず、 決議に利害関係を有する者も提訴できます。
(3)

取締役等に対する監督是正権

(イ)
業務及び財産状況についての検査役の選任(会社法第358条)
(a)
株式の保有要件
総株主の議決権の100分の3以上の株式、もしくは発行済株式総数の100分の3以上の株式を有する株主。
(b)
権利内容
会社の業務執行に関し、 不正の行為または法令定款違反の重大事実を疑うに足りる事由があるとき、株主は会社の業務や財産状況を調査させるため、 裁判所に検査役の選任を請求することができます。
検査役は、 会社の業務や財産状況を調査し、結果を裁判所に報告しなければなりません。 検査役から報告を受けた裁判所は、検査役に更なる調査を命じたり、あるいは、会社に対して株主総会の招集や、株主に対する検査結果の通知を命じることができます。
(ロ)
取締役に対する違法行為差止請求(会社法第360条)
(a)
株式の保有要件
6ヶ月前(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)より引き続き株式を有する株主。
(b)
権利内容
取締役が会社の目的の範囲外の行為または法令もしくは定款に違反する行為をなそうとする場合、 当該取締役に対し、当該行為をやめるように請求できます。
例えば、 取締役が会社事業とは全く無関係に莫大な額の寄付を行おうとしているような場合です。
取締役の行為の差止は、経営に与える影響が大きくなるため、会社に著しい損害が生じるおそれがある場合にのみ請求が認められています。
(ハ)
役員解任の訴え(会社法第854条)
(a)
株式の保有要件
総株主の議決権の100分の3以上の株式、もしくは発行済株式総数の100分の3以上の株式を6ヶ月前より引き続き有する株主。
(b)
権利内容
取締役の選任や解任は、 株主総会の普通決議によるものとされています。これは取締役が多数派の株主によって選任されること、 たとえ取締役が不正な行為を行っても、多数派株主が見放さない限り、その取締役が解任されることはないということを意味します。
しかし、取締役が不正、違法行為を行っている場合にまで、多数派の温情でその職にとどまるという事態を放置しておくことは、少数派の株主の利益に全く配慮がなされていないといえるでしょう。
そこで株主は、役員の職務遂行に関して、不正の行為または法令定款違反の重大な事実があったにもかかわらず、株主総会においてその役員を解任する議案が否決されたときは、 当該役員解任の訴えを提訴することができます。
(ニ)
株主代表訴訟(会社法第847条)
(a)
株式の保有要件
6ヶ月前より引き続き株式を有する株主。
(b)
権利内容
取締役等が任務懈怠等によって会社に対して損害賠償責任を負っているにもかかわらず、会社がこの賠償を求める訴えを怠っている場合、 株主は会社に対し、 当該取締役等に対する責任追及の訴えを提訴するように請求することができます。
この請求に対して、 会社が60日以内に訴えを提起しない場合は、 株主は自ら、取締役等の責任を追及する株主代表訴訟を提訴することができます。
取締役等の責任は、 本来的には会社自身が追及すべきものですが、 役員間の馴れ合いから、 責任追及がされない場面が多々あります。それゆえ、個々の株主が会社のために取締役等の責任を追及する株主代表訴訟の制度が規定されているのです。
(4)

会社の行為に関する監督是正権

(イ)
新株発行、自己株式の処分、新株予約権発行の差止請求(会社法第210条、第247条)
(a)
株式の保有要件
特に定められていません。
(b)
権利内容
会社が、法令または定款に違反する、 もしくは著しく不公正な方法によって新株発行、自己株式の処分、新株予約権の発行を行おうとする場合で、 これによって、 株主が不利益を受けるおそれがある場合には、 その株主は、 会社に対して当該行為の差止請求をすることができます。
手続上必要とされる取締役会や株主総会の特別決議を経ていなかったり(法令違反)、取締役が、資金調達とは無関係に、自己の地位保全を意図して、自分を支持する特定の株主や第三者に対して大量の新株を割当てる場合(著しく不公正な方法)などがあります。
(ロ)
会社の組織に関する行為の無効、不存在確認の訴え(会社法第828条、第829条)
(a)
株式の保有要件
特に定められていません
(b)
権利内容
会社の組織に関する行為(新株発行、合併、会社分割など)に瑕疵が存する場合、 株主等は、その無効を求めて提訴することができます。 手続上必要とされる株主総会決議の特別決議を経ていなかったような場合です。
新株の発行、自己株式の処分、新株予約権の発行には不存在確認の訴えが認められています。例えば、新株予約権の発行の実体がないのにその登記だけがされているような場合です。
これらは、一定の行為がなされた後にその効力を否定するための制度で、行為が行われる前にそれをやめさせる差止請求とは大きな違いがあります。
無効の訴えについては提訴権者や提訴期間が条文に規定されています。
不存在確認の訴えには、それらに関する規定はありませんが、株主のみならず利害関係人も提訴が可能と解釈されています。
(5)

その他

(イ)
会計帳簿閲覧謄写請求(会社法第433条)
(a)
株式の保有要件
総株主の議決権の100分の3以上の株式、もしくは発行済株式総数の100分の3以上の株式を有する株主。
(b)
権利内容
株主は会社の営業時間内はいつでも、理由を示して、会計帳簿やこれに関する資料の閲覧謄写を請求できます。
株主は会社の監視監督のために、取締役等の解任請求、違法行為差止請求や株主代表訴訟等のさまざまな方策をとることができます。 これらの方策を適切に行使する前提として、 会社経理の状況を会計帳簿やこれに関する資料によって調査する必要が生じる場面が多々存在します。
閲覧謄写の対象となるものは、 会計帳簿及びこれに関する資料であり、 現に使用中であるもののみならず、 すでに閉鎖している帳簿書類も含まれます。
一方で、 閲覧謄写請求が不当な目的でなされた場合は、秘密保持の観点から会社はこれを拒否することができると規定されています。
例えば、株主の権利行使に関係しない請求であったり、第三者に秘密を漏洩して利益を得ることを目的としているような場面です。
(ロ)
解散の訴え(会社法第833条)
(a)
株式の保有要件
総議決権の10分の1以上の株式、もしくは発行済株式総数の10分の1以上の株式を有する株主。
(b)
権利内容
①会社の業務の執行において著しい難局に陥り、会社に回復できない損害を生じたり、 または回復できない損害が生ずるおそれがあるような場合、もしくは②会社財産の管理または処分が著しく失当で会社の存立を危険にさせる場合において、やむをえない事由があるときは、 株主は会社の解散の訴えを提訴することができます。
例えば、 取締役の不正行為が暴かれた結果、取引先が一斉に離反して業務の継続が不可能になった場面や、取締役が不当に会社財産を処分しているような場面です。
やむをえない事由とは、 解散以外に株主の利益を守る手段がないことを意味します。 よって、 違法行為差止請求や、役員の解任、株主代表訴訟等、他の手段で株主の利益が守られる場合には、 そちらの手段を優先させるべきで、 会社の解散請求は認められません。
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