新株発行無効の訴えの事例

会社支配権紛争の予防と解決マニュアル

第3

会社支配権紛争の事例研究

集合写真
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新株発行無効の訴えの事例

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事案の概要

Y社は、 非上場の株式会社で、XはY社の株主です。 Y社では、 経営方針をめぐり、 X派と代表取締役であるA派間で争いが生じていました。
Aは自己の経営方針を進めるため、 取締役会を開き、 額面価額でA派の株主に新株を発行する旨の決議をなしました。
Xは裁判所に対し、 新株発行を差し止める旨の仮処分申請をなすとともに、 新株発行差止請求訴訟を提起しました。 仮処分は認められましたが、 Y社はこれに反して新株を発行しました。 そこでXはY社を相手とした新株発行の差止請求訴訟につき訴えを変更し、新株発行の無効を求めました。
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問題の所在

違法な新株発行に対して、 株主が採るべき法的措置は、 発行前の措置としての新株発行差止請求と発行後の措置としての新株発行無効(その他に不存在確認)の訴えがあります。
しかし、 一たび新株が発行されてしまうと権利関係が第三者にまで波及するために、株取引に対する影響といった観点からは、これを無効とすることには抑制的であるべきだという解釈が一般的です。
そのため、 株主としては、 新株発行をいち早く阻止すべく新株発行差止の仮処分を提訴することが肝要で、本事例ではXは仮処分を得ることができました。
ところがY社はこの仮処分を無視して新株を発行したため、このような場合に株取引に対する影響との関係で、新株発行の効力をいかに解するべきかが争点となりました。
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裁判所の判断

裁判所は、 新株発行差止の仮処分に違反した新株発行は無効であると判断しました (最高裁判所平成5年12月16日判決)。
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コメント

会社の支配権を巡る紛争において、 第三者割当による新株発行は、一方の派の株主の絶対的多数を確保する手段として利用される場面が多いといえます。
そして、新株の発行においては、 発行前と発行後では、 第三者を含めた利害関係が大きく異なっていることが特徴的です。
すなわち、新株の発行前においては、 争いは専ら会社内部の利害対立に過ぎないため、裁判所は、 当事者である株主の利害につき判断すれば足ります。
ところが、 新株の発行後においては、 実際に新株を受け取った第三者の取引の安全を考慮しなくてはなりませんし、その株式もすでに別の第三者に転売されてしまっているという場合もあります。
このような場合、 裁判所としては、 取引の安全を保護することも考慮せねばならないため、 新株の発行を無効とする判断を下しにくくなります。
よって、 第三者割当による新株発行を争う場合、 法的な判断要素として、 新株が発行前か発行後かといった事実が重要な要素となるのです。
前述のとおり、 最高裁判所は新株発行差止の仮処分に違反した新株発行は無効であると判断しました。 この判例が持つ意味は非常に大きく、 新株発行を防御する側としては、 何よりも先ず仮処分を勝ち取ることが必要であると言えます。
逆に会社側としては、 仮処分段階で勝たなければ、本案の審理が結着するまで新株の発行が全て無効と解されることになりますから、 全力を挙げて仮処分を防御しなければならないということになります。