株式

会社支配権紛争の予防と解決マニュアル

第1

会社の支配権に関する会社法の基礎知識

集合写真
3

株式

(1)

株式の意義

(イ)
株式の特性
株式とは、株式会社における社員(出資者)の地位のことを指します。 株式は細分化された単位の形をとります。
株式会社において、 社員の地位を細分化された単位とするのは、多数の者が自己の資力に応じて出資できるようにするためで、それによって株式会社は資本を集積し、大規模な会社経営をすることが可能となるのです。つまり、社員の地位が1株といった単位に細分化されていることで、資金の少ない人は1株を取得し、資金の多い人はその10倍の出資をして10株を取得するということができ、より多くの者が株式会社に出資できる環境ができあがるのです。
間接有限責任という株主の責任については既に説明しましたが、株式会社が出資を集うという観点からは、非常に重要な意義を有しています。株主は、会社債権者に対して一切責任を負わないし、また株価の下落以外のリスクを負担しなくてよいという安心感があるからこそ、株式会社に出資しようという気になるのです。
さらには株式譲渡が自由とされていることも見逃すことはできません。株式の譲渡が自由であるということは、株主が株主であることを辞めたいと思ったときに、買主を見つけて株式を売ることができるということを意味します。将来的に株式を売って、お金に換えることができるという安心感も、出資、すなわち株主となることを促す大きな要因といえるでしょう。
以上のように、株式が細分化、単位化されていること、株主の責任が間接有限責任であること、株式の譲渡が自由であること、これらの要素が結合して、株式会社が多くの出資者(株主)を集めることができ、運営の基盤が成立するのです。
(ロ)
株式に関する用語
会社法上用いられている株式の用語の定義について、説明しておきます。
譲渡制限株式譲渡による株式の取得について、会社の承認が必要とされる株式(会社法第2条第17項)
取得請求権付株式株主が会社に対し、当該株式を取得するように請求できる株式(会社法第2条第18項)
取得条項付株式一定の事由が発生した場合、会社が株主に対し、当該株式の取得を請求できる株式(会社法第3条第19項)
(2)

株主の権利

(イ)
自益権と共益権
株主の地位は株式会社に対する様々な権利となってあらわれますが、大きく分けて2種類に分類することができます。株主が会社から経済的利益を受けることを目的とする権利(自益権)と、株主が会社の経営に参与することを目的とする権利(共益権)です。
自益権としては、 剰余金の配当請求権、会社清算後の資産を株主に分配する残余財産分配請求権(会社法第105条第1項1号2号)があります。また一定の場合(会社が行う重要な行為に株主が反対した場合)には株式を会社に買い取ってもらうように請求することができる株式買取請求権も自益権に分類することができるでしょう。
共益権としては、株主自らが株主総会に参加して、議案に意思を表明するという議決権 (会社法第105条第1項3号)が中心となります。
また、株主としての適切な行動を取れるようにするため、会社の書類や情報をチェックする権利 (取締役会議事録閲覧謄写請求権、会計帳簿閲覧謄写請求権等)が認められています。
(ロ)
単独株主権と少数株主権
単独株主権とは、 一株のみ保有する株主でも行使できる権利をいい、自益権ほか、議決権が代表的なものです。
少数株主権とは、 一定割合あるいは一定数以上の株式を有する株主のみが行使できる権利をいい、会計帳簿閲覧謄写請求権などがこれに該当します。複数の少数株主が同一の権利行使を意図する場合、その数人の持株数を合算することが認められます。少数株主権として一定の数的要件を課されているのは、株主による権利の濫用を防止するためです。
単独株主権や少数株主権は、株主自身による会社の監視を目的とした権利が多く、その詳細は第1の6で説明します。
(3)

株主の義務

会社設立による株式発行や新株発行の際に株式を引き受けて株主となる場合には、取得する株式の対価を会社に支払う必要がありますし、株式を第三者から取得する場合には、その第三者に対して株式の売買代金を支払う必要があります。
これらは株主の地位を取得するための出資で、株主となった後に格別な義務を負わされることはありません。たとえ会社が倒産しても、株主が会社の債権者に債務を支払う義務はないのです。
株主は、自分が出資して取得した株式について、株価が下落するというリスクを負担するだけです。
(4)

株主平等の原則

(イ)
意義と法的性質
株主は、 株式会社に対する法律関係において、その有する株式の内容及び数に応じて平等の取扱いを受けることが規定されており(会社法第109条第1項)これを株主平等の原則と呼んでいます。
株式会社の社員の地位は、 株式という細分化された単位の形をとるため、株主が出資して獲得した持株数に応じた平等の取扱いが求められます。1万円を払って1株を取得したaと、20万円を払って20株を取得したbという事例を設定すれば、多額の投資リスクを投じてaの20倍の株式数を有する株主となったbは、例えば剰余金の配当や、議決権の行使においてaの20倍の利益を享受できなければならないのです。
この株主平等原則は強行法的性格を有し、多数決による恣意から少数株主を守るという機能も有しています。
すなわち、株主総会や取締役会の決議は多数決で可決されますから、上記の例で、bには20の剰余金の配当を行うが、aには一切配当を行わない(本来ならばaは1の剰余金の配当を受け取れる権利があるはずです)という方針が決定される可能性があります。しかし、それは株主平等原則に抵触して無効だということになります。
(ロ)
株主優待制度
株主優待制度とは、 一定数以上の株式を保有する株主に対して、 株式会社が運営する事業の優待券や割引券等の特典を与えるという制度です。
株主優待制度においては、特典が持株数に比例して与えられるわけではないため、株主平等原則に反するかが問題となりますし、例えば一部の大株主のみに魅力的な特典を付与する場合には、株主の権利行使に対する利益供与(会社法第120条)という問題も生じます。
判例は、 個人株主の増大あるいは顧客の拡大などの会社の経営政策上の合理的必要性があり、 その内容が社会通念上許容される範囲を逸脱しないものであれば、 株主平等原則にも反せず、 また、 株主の権利行使に対する利益供与にもあたらないと解しています (高知地裁昭和62年9月30日判決 〔土佐電気鉄道事件〕)。
(5)

株主平等原則の例外

(イ)
種類株式
定款の定めにより、 株主の権利等に関して異なる内容の株式(種類株式)を発行することができます(会社法第108条)。
例えば、A社が普通の株式とX種類株式を発行している場合において、X種類株式の株主xと普通の株主yとで、同じ1株でもxのほうが剰余金の分配額が多いといった具合です。ただし、同一種類の株式内においては株主平等原則が採用されます。
種類株式を設けることができる権利の内容については、会社法第108条第1項各号に規定されており、以下そのポイントを説明します。
(a)
剰余金配当、残余財産分配の定め(会社法第108条第1項第1号、第2号)
剰余金の配当や残余財産分配などの財産的権利の内容につき、異なる内容を定めた種類株式を発行することができます。
例えば、X種類株式の株主xと普通株主yとの間で、同じ1株でも剰余金の配当額を異ならせることができます。
普通の株式が有する権利内容に比して、優先的内容の取扱いを受ける株式を優先株、逆に劣後的内容の取扱いを受ける株式を劣後株と言います。
また、優先とも劣後とも言い難い種類株式の例として、トラッキングストック(特定事業連動株式)があります。トラッキングストックとは、会社のある特定の事業部門と関連して利益配当の内容が連動する種類株式のことです。
特定の事業部門が好況ならば、xは普通株主yよりも多くの剰余金の配当を受け取り、不況ならばその逆の結果になるという具合です。
(b)
株主総会決議事項の制限(会社法第108条第1項第3号)
通常の株主は、会社法上株主総会決議事項とされたもの(例えば事業譲渡や定款変更)について、議決権を行使することができます。
しかし、種類株式Xの株主xは、株主総会決議事項一切について議決権を有しない(無議決権株式)とか、一部の株主総会決議事項、例えば事業譲渡についてのみ議決権を有すると定めることができます(一部議決権株式)。
このように議決権の対象となる決議事項について何らかの制限が設定されている株式を議決権制限株式といいます。
公開会社においては、議決権制限株式は、発行済株式総数の2分の1を超えてはならないという数的制限が課され、これを超えた場合にはその割合を2分の1以下にするための措置をとらなければなりません(会社法第115条)。
(c)
株式譲渡制限の設定(会社法第108条第1項第4号)
特定の種類株式に、株式譲渡制限を設定することができます。株式譲渡制限が設定された種類株式を譲渡によって取得しようとする者は、会社の承認を得ることが必要となります。
株式譲渡制限の設定に反対の種類株主には、会社に対する株式買取請求権が認められています(会社法第116条第1項第2号)。
(d)
取得請求権付株式、取得条項付株式(会社法第108条第1項第5号、第6号)
特定の種類株式を、取得請求権付株式、取得条項付株式とすることができます。
X種類株式が取得請求権付株式とされた場合、その株主xは会社に対して、xの有するX種類株式を取得するように請求することができますし、一方で取得条項付株式とされた場合には、一定の事由の発生を条件として、会社は一方的にxの有するX種類株式を取得することができます。
取得条項付種類株式は、種類株主の意思にかかわらず、一定の事由の発生により会社が株式を取得するという効果をもたらすため、種類株主全員の同意がないと定款に規定することができません(会社法第111条)。
(e)
全部取得条項付種類株式(会社法第108条第1項第7号)
特定の種類の株式全部を、株主総会の決議によって会社が取得できるようにすることができます。株主総会の決議(多数決)によって、種類株式の全部を取得できることが特徴的であり、全部取得条項の設定に反対の種類株主には、会社に対する株式買取請求権が認められています(会社法第116条第1項第2号)。
(f)
種類株主総会決議の加重(会社法第108条第1項第8号)
株主総会(取締役会、清算人会)の決議事項について、当該決議に加えて、特定の種類株式の株主によって構成される種類株主総会の決議を必要と定めることができます。
例えば、事業譲渡は株主総会の特別決議事項とされますが、これに加えて、X種類株式の株主による種類株主総会決議を必要とすると定めることができます。
すなわち、通常の株主の多数決で成立する事項について、X種類株式の株主に一種の拒否権を付与する結果となります。
(g)
種類株主総会による取締役又は監査役の選任(会社法第108条第1項第9号)
特定の種類株式の株主によって構成される種類株主総会で、取締役、監査役の選任を行うことができます。
例えば、10人の取締役を選任するに当たり、X種類株式の株主による種類株主総会で7人を選任し、Y種類株式の株主による種類株主総会では3人を選任するといったことができます。
このような方法はベンチャー・キャピタルが投資先企業に取締役を派遣し、又は合弁会社の設立にあたり、各出資企業が出資割合等に応じて取締役を選任できるようにする場合において有用といえるでしょう。
(ロ)
非公開会社における株主ごとの異なる取扱い(会社法第109条第2項)
非公開会社においては、定款の定めにより、同一の内容の株式を有する株主であっても、剰余金配当、残余財産分配、議決権について、株主ごとに異なる取扱いを行うことができます。
例えば、aもbもA会社の株式同数を所有する株主であるのに、aはbの2倍の議決権を行使できるという取扱いが認められることになります。
(ハ)
単元株制度(会社法第188条第1項)
単元株制度とは、定款の定めによって、一定の数の株式をまとめて1単元の株式とし、1単元に1つの議決権を付与する制度です。
単元未満の株主の議決権行使を排除することにより、会社の株主管理コストを削減するための制度です。
単元ごとに議決権が発生し、株式数に比例した取扱いとなっていない点で、株主平等原則の例外といえます。
(ニ)
不利益を受ける株主の承認
株主平等原則は少数株主の保護のための原則ですから、不平等な取り扱いによって不利益を受ける当該株主が、その不平等な扱いを了承した場合には、株主平等原則の適用はないことになります。
(6)

株券

(イ)
株券の発行
株式会社は、定款の定めがある場合にのみ、株券を発行することができます (会社法第214条)。
株券発行会社は、株式を発行したり、株式の併合や分割をした後は、遅滞なく当該株式に係る株券を発行しなければなりませんが、非公開会社においては、株主からの請求があるまで株券を発行しないことができます(会社法第215条)。
遅滞ない発行とは、 株券発行事務に必要とみられる合理的な期間内における発行をいい、 発行する株券の数量、発行事務処理態勢などを考慮して個別的に判断されるものです。
(ロ)
株券の意義
株券とは、 株式を表章する有価証券です。
株式会社の社員の地位自体は無形であるため、 株式という地位と株券という証券とを結合させる技術が認められています。
(a)
有価証券としての性質
株式の譲渡(権利の移転)には、 株券の交付が必要とされます(会社法第128条)。
株券の所持人は当該株券にかかる株式について、 適法な権利を有すると推定されます(会社法第131条第1項)。すなわち、株券の所持人が株主であると推定されるのです。
株券は、 善意取得の対象とされ、悪意、重過失なくして株券を取得した者は、当該株券にかかる株式を取得することになります (会社法第131条第2項)。
また、株券の所持人に対して悪意、重過失なくして株主名簿の名義書換に応じるなど義務を履行した会社は、 株券の所持人が真の権利者と異なっていても責任を免れることができます。
(b)
株券の特質
株券は、 会社の成立又は新株の発行により発生した株式という地位を表章するものであり、 手形や小切手のように証券の作成により権利が発生するわけではありません。 すなわち、株券に誤記がある場合でも、その記載どおりの権利が発生するわけでなく、実質的に発生した株式の内容と異なる範囲において、株券の記載のほうが無効とされます。
また、権利の移転(株式の譲渡)には株券の交付が必要とされますが、権利の行使については株券が必要とされず、 株主名簿の名義の記載によってなされるという特質があります。
(c)
株券の記載事項
株券には、会社の商号、株式数、株式譲渡制限がある場合はその旨、など法定の事項の記載が求められます(会社法第216条)。
(ハ)
株券不所持制度
株券を喪失した場合には、株券を善意取得され、それまでの株主が権利を失うというリスクが生じることになります。そこで、株主としてはそもそも株券の所持を望まないという選択肢が考えられます。
株券発行会社であっても、株主が株券の所持を望まない場合には、申し出により株券を所持しないこととし、株券の所持を望むときに、会社に株券を発行してもらうという制度を利用することができます (会社法第217条)。
株券発行会社の株式譲渡には株券の交付が必要とされていますから、株式を譲渡する際には、まず会社に株券を発行してもらい、その後に譲渡を行うという流れになります。
(ニ)
株券失効制度
株主が株券を喪失した場合には、株券喪失登録を行い、行方不明となった現在の株券を無効にして、会社から株券の再発行をしてもらうという手続きを踏むことになります。
株券を喪失した株主は、会社に対し株券喪失登録の申請を行い、会社はその旨を株券喪失登録簿に登録します(会社法第223条)。
株券喪失登録がなされた株券は、現在の株券所持者や登録者自身による登録抹消申請がない限り、登録日の翌日から1年を経過した日に無効となります。その後、会社は、株券喪失登録者に対して株券の再発行を行います(会社法第228条)。
株券喪失登録がされると、登録期間中は、その株式について株主名簿の名簿書換ができなくなります(会社法第230条第1項)。
一方で、喪失登録された株券を所持している者が存在する場合、株券喪失登録を放置しておくとその株券が無効になってしまうという不利益を受けるため、会社に対し、株券を添付して喪失登録の抹消申請を行うことになります(会社法第225条)。
この場合、喪失登録者と株券所持人のいずれが真の株主であるかという紛争が生じることなり、実務上は喪失登録者が株券所持人を相手取り、株券の占有移転禁止の仮処分申請や株主権確認訴訟などの法的手続を採用することになるでしょう。
(7)

株式の譲渡

(イ)
意義
株式譲渡とは、 契約により他者へ株式を移転することをいいます。 株券発行会社においては、株式譲渡には株券の交付が必要です。
株式の譲渡により、 譲受人は、 譲渡人 (従前の株主) が有している株主としての地位を、 包括的に承継します。
(ロ)
株式譲渡自由の原則
会社法は、 原則として株式の自由な譲渡を認めています (会社法第127条)。
株式の譲渡が自由であるということは、株主であることを辞めたいと思ったときには、いつでも買主を見つけて株式を売ることができるということを意味します。
すなわち、株式を売却することで代金を受け取ることができ、 株主となる際に投じた費用を回収することができます。 将来的に株式を売って、お金に換えることができるという安心感があるからこそ、株式会社に出資をして株主となろうとする者が多数現れ、株式会社が資本を結集できるのです。
一方、 株式の自由譲渡性を認めても、 株式会社では株主の個性は重視されないことが通常であるため、 会社にとって特段の不都合はないのです。
(ハ)
法律上の株式譲渡制限
(a)
権利株の譲渡
権利株とは、 株式発行の効力発生前における地位(将来的に株主となる権利)のことです。権利株の譲渡は会社に対して対抗できないとされています(会社法第35条) 。
株式発行の効力発生前に、株主となるべき者が変動してしまうと、株主名簿の整備等、会社の事務処理が遅滞することになるため、権利株の譲渡の効力を会社との関係で制限しています。
(b)
株券発行前の株式の譲渡
株券発行会社において、株券発行前に株式譲渡をしても、会社に対抗することができないとされています (会社法第128条第2項)。
株券発行前に株主が変動してしまうと、株券発行の手続きに手間が生じることになります。すなわち、会社はaという株主に対して株券を交付する準備をしていたのに、株式を譲渡したからbが株主となる(今度はbに対して株券を交付しなければならない)ということを認めれば、それまでの準備が無駄になってしまうという不都合が生じるからです。
一方、会社が株券の発行を懈怠しているときは、 株主は、株券の交付なく株式を譲渡でき、 会社もその効力を否定することはできないと解されています (最高裁判所昭和47年11月8日判決)。
(c)
子会社による親会社株式の取得
子会社は、 一定の例外を除き、 親会社の株式を取得することを禁止され、例外的に親会社の株式を取得した場合でも、相当の時期に処分しなければならないとされています(会社法第135条)。
親会社は子会社を実質的に支配していますから、親会社の経営陣が子会社が有する親会社株式の議決権を意のままに操るという危険性が生じます。親会社の株主総会の公正を保つための規定です。
(d)
自己株式の取得
会社が自社の株式を取得する場合に一定の制限が課されます。
例えば、株主と会社の合意で、会社に株式を売却する場合には、会社側において、あらかじめ、取得する株式の数や引き換えに交付する金銭等の内容及びその総額を株主総会の決議で定めておかなければならない、という手続的な規制があったり(会社法第156条)、会社に一定の利益(分配可能額)がない限り、会社は自己株式を取得できないという財源的な規制があったりします(会社法第461条)。
(ニ)
定款の定めによる株式譲渡制限
(a)
制度趣旨
わが国における株式会社の実態は、 その大多数が非上場かつ中小規模の会社であり、 これらの株式会社においては、 株式が流通するということは事実上ないといえます。
このような会社は株主の数が少なく、しかも同族間で株式を所有していることが多いため、 株式会社の運営において株主の個性が重要な意味を持つ場面が多々想定されます。このような会社において、株式譲渡自由の原則を維持することは、 その実態に照らして実益に乏しいばかりか、 部外者による会社の乗っ取りといった弊害が生じるおそれもあります。
そこで、 定款の定めにより、譲渡による株式の取得については会社の承認を要するという制限(株式譲渡制限)を設けることが認められています(会社法第2条第17項)。
株式譲渡制限は会社が発行する全部の株式について設定することができますし(会社法第107条第1項第1号)、特定の種類株式についてのみ設定することもできます(会社法第108条第1項第4号)。
株式譲渡制限の設定によって、株式譲渡による株主の変動については会社に決定権が留保されることになり、会社にとって好ましくない者が株式の譲渡を受けて株主になるという事態を防止できるのです。
一方、株式を譲渡したい株主にとって、株式を換価できる道を閉ざさないということも必要不可欠です。譲渡に会社の承認が得られない場合であっても、最終的には会社ないし会社が指定する第三者に株式を買取ってもらうという手続が存在します(会社法第140条)。
(b)
譲渡承認の決定機関
譲渡制限株式の譲渡承認は、取締役会の決議(取締役会非設置会社においては株主総会)によりますが、定款の定めによりこれとは異なる定めをすることができます(会社法第139条第1項)。例えば、代表取締役に譲渡承認を決定させることも可能です。
(c)
譲渡制限を定める手続
株式譲渡制限の定めは、 会社設立の際の定款、又は会社設立後の定款変更によって設定することになります。
会社が発行する全部の株式について株式譲渡制限を設定する定款変更決議には、議決権を行使することができる株主の半数以上、当該株主の議決権の三分の二以上の多数という特殊決議が必要となります(会社法第309条第3項第1号)。
会社が発行する特定の種類株式について株式譲渡制限を設定する定款変更には、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主の半数以上、当該種類株主の議決権の三分の二以上の多数という特殊決議が必要となります(会社法第324条第3項第1号)。
定款の定めにより、これらの要件を加重することはできますが、緩和することはできません。株式譲渡自由の原則との関係により、 通常の定款変更の場合よりも厳重な要件が定められています。
この定款変更に反対する株主や種類株主は、会社に対して、株式を公正な価格で買い取るように請求することができます(会社法第116条第1項、第2項)。
また、譲渡制限が課される株式を目的とする新株予約権者も、会社に対して、新株予約権を公正な価格で買い取るように請求することができます(会社法第118条第1項)。
(d)
譲渡制限株式の譲渡承認手続きの流れ
これから譲渡制限株式を譲渡しようとする株主のほか、既に譲渡制限株式を譲渡によって取得した者も、会社に対して、譲渡による取得を承認するように請求を行うことができます。
承認請求の際には、取得株式数や取得者等を明らかにして会社に通知を行う必要があります(会社法第138条)。
会社が譲渡を承認しない場合には、この譲渡承認請求の日から2週間以内に、請求者に対して通知をすることを要し、 この期間内に通知がなされないときは、 譲渡を承認したとみなされます (会社法第145条第1項)。
(e)
譲渡不承認の場合の株式買取請求
1)
株式買取請求とその相手方
株主や取得者は、 譲渡承認請求とあわせて、会社が譲渡による取得を承認しない場合には、会社または会社が指定する第三者(指定買受人)が、当該株式を買い取るように請求することができます(会社法第138条)。すなわち、会社が承認しない場合であっても、最終的にはその株式をお金に買える手段が確保されているのです。
買取の相手方については、会社自らが株式買取請求に応じるか、会社が買取に応じる第三者(指定買受人)を指定するか、という2種類の選択がなされます。
いずれの場合も、会社あるいは指定買受人から、買取請求者に対し、株式を買い取る旨や、買い取るべき株式数等を通知することを要し(会社法第141条第1項、第142条第1項)、 一定期間内にこれらの通知がなされないときは、 譲渡による取得が承認されたものとみなされます (会社法第145条第2項)。
2)
供託手続
会社あるいは指定買受人が上記通知をすることにより、株式の売買が成立します。
会社あるいは指定買受人は、買取対象の株式の純資産額(1株あたりの純資産額として算出される額に対象株式数を乗じた額)を供託する必要があります(会社法第141条第2項、第142条第2項)。一方で、株券発行会社に対する株式買取請求の場合、買取請求者は株券を供託する必要があります(会社法第141条第3項、第142条第3項)。
3)
売買価格の決定
売買価格は、 まず買取請求者と会社ないし指定買受人との協議で決定されます(会社法第144条第1項)。
しかし、協議が調わないときは、 会社ないし指定買受人からの株式買取の通知があった日から20日以内に、裁判所に対して価格決定を請求することができ、裁判所は買取請求時における会社の資産状態その他一切の事情を斟酌して売買価格を決定します (会社法144条第2項、第3項)。
一方で、裁判所に対する価格決定の請求がなされない場合は、 供託金額が売買価格となります (会社法第144条第5項)。
すなわち、売買価格について協議も整わず、供託金額を売買価格とすることについても不満がある場合には、裁判所の判断を仰ぐということになるのです。
4)
買取請求の撤回
譲渡不承認の場合の株式買取請求を行い、会社あるいは指定買受人がこれに応じる通知をした後は、買取請求者は、当該会社や当該指定買受人の承諾を得ない限り、買取請求を撤回することはできません(会社法第143条)。
株式買取の準備を進める会社や指定買受人の利益に配慮した規定です。
(f)
会社の承認を得ない株式譲渡の効力
会社の承認を得ないでされた譲渡制限株式の譲渡の効力は、譲渡当事者間では有効ですが、 会社に対してその効力は及びません。
これは、 株式譲渡制限の趣旨が会社にとって好ましくない者が株主となることを排除することにある以上、 対会社関係で譲渡の効力を否定すれば必要かつ十分であり、 当事者間における効力を認めても差し支えないと考えられるからです (最高裁判所昭和48年6月15日判決)。
譲渡制限株式について質入や譲渡担保の設定がなされている場合、 それ自体は株式譲渡とは言えないので、 質入や担保権設定の際に会社の承認は必要ありません。 ただ、 質権その他の担保権が実行されると、 担保権者等に株主の権利が移転するため、 この段階で会社に対し、承認あるいは不承認の場合の株式買取請求をすることになります。
(g)
相続その他の一般承継と譲渡制限の関係
相続その他一般承継(合併等)による株式の取得は、 法律上当然の承継(包括承継)であり、譲渡による株式の取得ではありません。よって、定款で株式譲渡制限を定めた会社においても、相続その他一般承継が発生すれば、会社の承認を得ることなく承継人が新たな株主となります。また、相続その他一般承継による株式の取得には、会社の承認を必要とすると定款で定めることも許されません。
しかし、相続その他一般承継によっても株主は変動しますから、会社にとって好ましくないものが株主となることを排除したいという株式譲渡制限の目的を実現させる必要性はこの場面でも妥当します。
そこで、会社は、定款の定めにより、相続その他一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すように請求することが認められています(会社法第174条)。これによって会社は、相続人等の株式を買取ることができます。
(8)

自己株式の取得

(イ)
意義
株式会社が自社の株式を取得することを、自己株式の取得といいます。
会社が自己株式を取得、保有するメリットとしては、合併、会社分割、株式交換等の組織再編行為を行う際に、新株の発行を伴う方式に代えて、会社の保有する自己株式を割当てることで、組織再編による株式価値の薄まりや新株発行の負担を防ぐことができます。
また、会社が自己株式を購入して自社株の需給バランスを保つことが株価対策となったり、会社に余剰資金が出た場合に自己株式を購入すれば、株主に対する実質的な剰余金分配がなされたことになります。
支配権との関係では、会社が自己株式を取得することによって、敵対的株主が取得可能な株式の総量を減らし、現在の支配株主の支配割合を保持するという効果も期待できます。
例えば、会社が100の株式を発行して、筆頭株主aが50の株式を保有しているという状況の中、会社が中立的株主bから20の株式を取得するという場面を考えます。自己株式には議決権が認められませんから、議決権を行使できる株式の総数は自己株式の取得により100から80に減少し、逆にaの議決権割合は100分の50(50%)から80分の50(62.5%)に上昇するという効果が生じます。
(ロ)
自己株式の地位
自己株式には議決権は認められず(会社法第308条第2項)、剰余金配当や残余財産分配の請求権は認められていません(会社法第453条、第504条第3項)。
(ハ)
自己株式を取得できる場面
自己株式の取得が有償で行われる場合には、実質的には会社財産の払戻しとなりますから、これを無制限に認めると会社の財産的基盤が危うくなりますし、特定の株主から高値で買い取るということを行えば、株主間の不平等にもなります。
例えば、敵対的株主から高額で株式を買い取るということを行えば、現在の支配株主の会社の支配権は強固なものなりますが、これは会社の財産的基盤や一般株主の利益、平等を犠牲にした不当なものといわざるを得ないでしょう。自己株式の取得は、様々な目的に利用可能ですが、安易にこれを行うことで、会社、ひいては一般株主の利益を害することがあってはなりません。
そのような危険を回避するために、会社法は自己株式を取得できる場面を限定し、その手続や財源について規定を設けています。自己株式を取得できる場面としては、株主との合意による有償取得、取得請求権付株式や取得条項付株式の取得、相続人等の一般承継者に対する売渡請求、株主からの株式買取請求、などが規定されています(会社法第155条)。
支配権に関連する場面として、特定の株主との合意による有償取得と、相続人等に対する譲渡制限株式の売渡請求にスポットをあてることとします。
(ニ)
特定の株主との合意による有償取得
株式を売りたいと考えている株主と会社との合意によって、株式の売買を行う場面です。
特定の敵対的株主から株式を売ってもらったり、敵対的株主ではないけれども株主を売りたいと考えている株主から株式を売ってもらう場面が、会社支配権と関連することになります。敵対的株主が所有する株式や敵対的株主が取得可能な株式の総量を減らし、現在の支配株主の支配割合を保持するという効果が生じるからです。
(a)
手続の流れ
あらかじめ、①会社が取得する株式数、株式取得と引き換えに交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間、これらと併せて②特定の株主に対してのみ株式取得の通知をなすこと、を株主総会で決定します(会社法第156条、第160条第1項)。
①は自己株式取得のための一定の枠を決めておくという意味で、株主からの有償取得に必要な一般的手続きです。②は特定の株主からの有償取得の際にのみ必要な手続きです。
この株主総会は特別決議が要求され、当該特定株主は議決に加わることができません(会社法第309条第2項第2号、第160条第4項)。これは、他の株主との平等や他の株主の意見に配慮する必要があるため、決議の要件を加重し、利害関係人である特定株主を議決から排除しているのです。
その後、株式を取得しようとする都度、取締役会で取得株式数や対価の内容及びその算定方法、株式譲渡しの申込みの期日等、会社による株式取得の内容を具体的に決定します(会社法第157条)。
取締役会の決定後に、特定の株主に対してこの内容を通知し(会社法第158条)、これを受けた株主からの申込みによって、売買が成立することとなります(会社法第159条)。
(b)
財源的規制
会社は無制限に自己株式を有償取得できるわけでなく、財源的に余裕がある場合にのみ可能です。自己株式の有償取得が実質的な会社財産の払戻しであるため、会社の財産的基盤を確保できている場合にのみ、これを認めるべきだからです。
よって、自己株式の有償取得は、分配可能額(剰余金等から一部の費目を控除した額)の範囲内で行わなければならないという財源的な規制が設けられています(会社法第461条)。
(c)
他の株主の追加売渡請求権
会社が特定の株主からのみ株式を有償取得することは、他の株主との関係で不公平を招く危険が存在します。それゆえ、他の株主は、自分も有償取得の対象となる特定の株主に加えるように請求することが認められています(会社法第160条第3項)。
例外として、非公開会社が相続その他一般承継によって株主となった者から株式を有償取得する場合や、取得の対象となった株式が市場価格ある株式で、取得対価が市場価格を超えない場合等には、他の株主による追加売渡請求権は認められません(会社法第161条、第162条)。
(ホ)
譲渡制限株式の相続人等に対する売渡請求
会社は、定款の定めにより、相続その他一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すように請求することが認められています(会社法第174条)。相続人等が承継した株式を手放すことに合意しない場合であっても、会社が一方的に株式の売渡を請求することが認められています。
支配権との関係では、相続が発生し、株式が相続人に分散してしまったが、その一部の相続人(株主)を何とか株主から排除したいというような場面で問題となります。
(a)
手続の流れ
前提として、会社が譲渡制限株式の相続人その他一般承継人に対して、株式の売渡請求をすることができる旨の定款規定が必要です。
そして、会社が相続その他一般承継による株式の承継を知ったときから1年以内に、売渡請求の対象者やその株式数を株主総会で決議します(会社法第175条、第176条)。
この株主総会には特別決議が必要とされますが(会社法第309条第2項第3号)、売渡請求の対象者はこの議決に加わることはできません(会社法第175条第2項)。慎重な判断を担保するために決議の要件を加重する一方、利害関係人である売渡請求の対象者を議決から排除しているのです。
その後会社は対象者に対して売渡請求を行い、価格について協議することになります。協議が整わないときは裁判所の判断を仰ぐことができます(会社法第177条)。
(b)
財源的規制
相続人等に対する売渡請求による自己株式の取得も、分配可能額の範囲内で行わなければならいという財源的な規制が設けられています(会社法第461条)。
(9)

株主名簿

(イ)
意義
株主名簿とは、 株主および株券(株券発行会社)に関する事項を明らかにするため会社法の規定により作成される帳簿をいいます (会社法第121条)。
株式会社においては、多数の株主によって集団的かつ反復的な権利行使がなされたり、株主が頻繁に変動するといった事態が生じるため、 株主名簿を設置し、 株主の権利行使は、 株主名簿の記載を基準とすることにしています。
株主名簿には、株主の氏名および住所、株主の有する株式の種類や数、株式の取得年月日、株券の番号 (株券発行会社)などが記載されることになっています。
(ロ)
株主名簿の効力
(a)
資格付与力、対抗力
株主は、氏名及び住所等を株主名簿に記載 (名義書換) するまでは、 会社に対して自己が株主であることを主張できません(会社法第130条第1項)。 逆に、 名義書換さえ完了すれば、 株主として権利の行使が認められます 。
(b)
免責的効力
株主名簿の記載に基づく資格付与の反射として、 会社は株主名簿に記載された株主を株主として取り扱えば足り、 それにより会社は免責されます (会社法第126条第1項)。
(ハ)
株主名簿の閲覧謄写請求権
株主名簿は会社の本店ないし株主名簿管理人の営業所に備え置くこととされており、株主及び会社債権者は、 営業時間内にはいつでも、 株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができます (会社法第125条第1項、第2項)。
ただし、閲覧謄写の目的が株主の権利行使と無関係であったり、 第三者に情報を売却することが目的であったりする場合等一定の除外事由があるときは、閲覧謄写はできません(会社法第125条第3項)。一定の除外事由は、 会社側で立証することを要します。
(ニ)
名義書換制度
(a)
名義書換の方法
名義書換とは、 株式についての権利移転があった場合に、 取得者の氏名及び住所等を株主名簿に記載することをいいます。
名義書換は、株式取得者と取得した当該株式の株主名簿上の名義人が共同して行うこととされています(会社法第133条第1項)。
なお、株券発行会社においては、株式の取得者が単独で株券を呈示することによって名義書換を請求することができます。株券の占有者が適法な権利者と推定されるからです(会社法第131条第1項)。
この場合、会社は、株券所持者が無権利者であることを知り、 かつ、 容易に証明できる場合など、 故意又は重大な過失が存すると認められる場合以外は、株券の所持者に対して名義書換を行えば免責されます。
(b)
名義書換の不当拒絶や懈怠
会社が名義書換を不当に拒絶したり、名義書換を懈怠していた場合の法律関係について説明します。
会社が名義書換を不当に拒絶したり、名義書換を懈怠した場合には、 その株主の被った損害について不法行為に基づく賠償責任 (民法第709条) を負うほか、 罰則による制裁を受けます (会社法第976条第7項)。
さらに、名義書換を不当に拒絶している会社が、 株式譲受人に対し、名義書換未了を理由に株主としての扱いを拒否することは信義則に反します。このような場合に株式譲受人は、株主名簿の名義書換前でも、株主としての権利行使をすることができると解されており、 判例も同様の立場を採っています (最高裁判所昭和41年7月28日判決)。 さらに同判例は、 会社の過失による名義書換未了の場合にも、 不当拒絶の場合と同様の取扱いをしています。
(c)
失念株主の取扱い
剰余金の配当は、 決算期における株主名簿上の株主に支払われ、 また募集株式の発行が株主割当で行われた場合には、割当期日における株主名簿上の株主が株式の割当を受けます。
それらの期日の前に株式を取得したものの、名義書換をしていない場合には、 その株式譲受人 (これを名義書換を失念した株主という意味で「失念株主」といいます) は、 剰余金の配当や株式の割当を受けられません。それらの権利が与えられるのは、 すでに株式を譲渡してしまった名簿上の株主ということになるのです。
このような場合、株式の譲受人は名義書換をしていないため、会社に対して、自分が株主であることを主張できません。しかし、 譲渡当事者間では譲渡の効果を否定する理由はありませんので、 株式譲受人は、譲渡人(名簿上の株主)が得た利益を、不当利得として、譲渡人に返還請求することとなるでしょう(民法第703条)。
(ホ)
株主名簿の基準日
議決権を例に挙げますと、 株主総会当日に株主名簿に記載された株主が議決権を行使できるのが当然とも思えます。 剰余金の配当請求権に関しては、決算期末あるいは計算書類承認の株主総会決議当日の株主に与えるのが妥当とも思えます。しかし、株主の変動やそれに伴う株主名簿の記載の変更が頻繁な会社においては、 株主総会当日の株主を把握することは必ずしも容易ではありません。
そこで、 一定の日を基準日として、当該基準日の株主名簿上の株主に株主としての具体的な権利を付与するという方法が認められています(会社法第124条)。
基準日は株主あるいは株主になろうとする者にとって重要ですから、定款に定めるか、基準日の2週間前までに公告することが必要です。
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