後見、保佐、補助の制度

成年後見実務マニュアル

第2

法定後見制度

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後見、保佐、補助の制度

成年後見制度には、判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の3類型があります。
後見は禁治産制度を、保佐は準禁治産制度をそれぞれ改めた制度であり、補助は成年後見制度の施行により新たに設けられた制度です。
(1)

後見

(イ)
後見の対象になる人
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者 (民法第7条)が後見の対象となります。
「精神上の障害により」とは、認知症になってしまったり、あるいは事故で脳に障害が残ってしまったりしたような場合などを指します。「事理を弁識する能力」とは、自分のした法律行為の結果を判断する能力です。一般的に、日常的な買い物などが1人で出来ないようであれば、事理を弁識する能力を欠くといえます。「常況」とは、まれに能力が戻ることがあったとしても、普段能力を欠くような状態であることを指します。例えば、「脳血管性認知症」のように、一時的に判断能力が戻ることがあっても、一日のほとんどの時間において判断能力がないような場合はこれに含まれることとなります。
(ロ)
後見開始のための手続き
後見は、申立権者が家庭裁判所に対し審判申立てを行い、家庭裁判所が後見の必要性を判断した上で、後見開始の審判がなされると開始されます(民法第7条、838条2号)。
申立権者は、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官といった人たちです(民法第7条)。
(ハ)
後見人の持つ権限
(a)
総論
成年後見制度の全体に言えることですが、保護のために付けられる人の権限が強くなるということは、その反面では本人の自由な行動が制約されるということです。
例えば、本人が土地を売る契約をしたとして、後で保護のために付けられた人がこれを取り消したとすると、一般の人が取り消されないことに比べて本人のできることが制限されたということになります。もう少し具体例を挙げます。不動産取引業者は(一般の方も含めて)、相手が未成年であれば不動産取引をしようと思いません(相手が親権者であれば別ですが)。つまり、未成年者その他判断能力の不十分な人を保護するために契約締結後取消ができるということは、副作用として、周囲はそのような人と契約しにくくなる結果を生ずるのです。
後見のなかで制限の程度が一番強い後見人には、取消権と代理権が与えられており、同意権は与えられていません。たとえ後見人が同意をしたとしても、本人は判断能力がほとんどないので、同意通りの行為を1人でできないと考えられているからです。なお、取消権、代理権の範囲は、法律の規定によって定められていますので、後述する保佐、補助の場合のように、一定の権限を与えるための審判というものはありません。
(b)
後見人の取消権
原則的に、本人のした法律行為について、後見人はこれを取り消すことができます(民法第9条本文)。
ただし、「日用品の購入、その他日常生活に関する行為」については取消権の対象から除かれることになっています(民法第9条ただし書き)。このような行為についてまで後見人が取り消せるとすると、本人の生活に過剰に干渉することとなり、本人の意思尊重という理念に反するからです。
(c)
後見人の代理権
後見人は、本人の財産を管理する包括的な代理権を有しています(民法第859条1項)。
もっとも、後見人が包括的な代理権を有しているからといって、全ての法律行為を自由に代理できるというものではありません。
本人の行為を目的とする債務を本人に負わせる法律行為(民法第859条2項、824条ただし書き)、居住用不動産の処分(民法第859条の3)、利益相反行為(民法第860条、826条)、身分行為(結婚、離婚、遺言など)などについては、成年後見人が本人の代わりに行為することが制限されています。
(ニ)
取消しの審判
本人の状態が回復するなどして後見を受ける原因がなくなったために、申立権者の申立てがあった場合、家庭裁判所は後見開始の審判を取り消さなければなりません(民法第10条)。ちなみに、本人の状態が回復して保佐や補助で足りる程度になったときも、後見の原因がなくなったと言えるので、後見開始の審判を取り消さなければなりません。
(ホ)
後見の終了
後見開始の審判が取り消されるか、本人が死亡すると、後見は終了します。
なお、平成28年10月13日に施行された「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事審判手続法の一部を改正する法律」により、後見人に「死後事務」をおこなう権限が付与されました。死後事務には、遺体の引き取りや葬儀費用、未払いの入院費用の支払い、時効の中断等が挙げられます。
一方、後見人が辞任したり、解任されたり、死亡したりすると、その後見人による後見は終了しますが、後見制度による本人の保護が終わるわけではありません。新たな後見人が選任されることになります。
(2)

保佐

(イ)
保佐の対象となる人
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者(民法第11条本文)が保佐の対象となります。著しく不十分とは、日常的な買い物程度は1人でできるものの、重大な法律行為(不動産の売買等)を1人ですることができないような状態をいいます。後見の対象者は保佐の対象とはならないので、保佐と後見を重複して受けることはありません(民法第11条ただし書き)。
(ロ)
保佐開始のための手続き
申立権者による申立てがあると家庭裁判所が開始のための審判をします。申立権者は、本人、配偶者、四親等内の親族、補助人、補助監督人、後見人、後見監督人、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官といった人たちです(民法第11条本文)。
(ハ)
保佐人の持つ権限
(a)
総論
保佐人は、同意権、取消権、代理権を与えられます。同意権と取消権は、法律の規定で与えられることが決められています。さらに、同意権の範囲は、法律で決められたものを減らすことはできませんが、当事者が必要と思えば申立てによって増やすこともできます。これに対して代理権は、申立てがあれば与えられることもあり、申立てがなければ与えられません。
(b)
同意権
同意の対象となる行為について、保佐人の同意無しに本人が行為をしてしまった場合、これは取り消しうるものになります(民法第13条4項)。その行為については、本人の行為能力が制限されているということです。
(c)
取消権
同意をすることができる人は取消権も有していますので(民法第120条)、同意権を与えられている保佐人は取消権も与えられています。その範囲は、同意権の範囲と同じです。
(d)
同意権を与えるための手続き
法律に決められたものについては保佐が開始されれば自動的に同意権が与えられるので、そのための審判などはありませんが、さらにそれ以外の行為についても同意権の対象として追加したいときは、申立てにより審判がされることになります(民法第13条2項)。
(e)
保佐人の同意に代わる家庭裁判所の許可
同意権の対象とされた行為について、本人の利益を害するおそれがないのに保佐人が同意をしないときは、本人の申立てによって家庭裁判所は保佐人の同意に代わる許可をすることができます(民法第13条3項)。同意権が与えられると本人の行動が制約されるわけですから、その制約が不当な場合には家庭裁判所が許可をすることができるということです。
(f)
同意権の対象となる行為
重要な取引行為については、本人が軽率に行ってしまうと本人に不利益ともなりかねません。そこで民法は、保佐人に同意を得なければ取消の対象となりうる行為として、以下の9つを規定しています(民法第13条1項1号から9号)。
1)
元本を領収し、利用すること
利息などを生み出している元となっている財産を受け取ることです。たとえばお金を貸して利息を取っている場合はその元金を受け取ること、土地を貸して地代を受け取っている場合はその土地の返還を受けることです。なお、短期賃貸借は同意を要しないことから(9号)、本号の例外といえます。
2)
借財、保証をすること
3)
不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為
一般的に高額な不動産や、不動産でなくとも重要な財産についての取引は、より慎重に扱うため、同意の対象として保佐人の判断が必要とされます。
4)
訴訟行為
5)
贈与、和解、仲裁合意
6)
相続の承認、放棄、遺産分割
相続の承認も、借金などの負債を相続することもあるので、保佐人の同意が必要です。
7)
贈与の申込みの拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の申込みの承認、負担付遺贈の承認
負担付の贈与、遺贈の承認も、負担の内容が大きければ本人に不利益になります。また負担のない贈与であっても、例えば管理・処分に多額の費用が必要とされるものであればやはり本人の不利益になりますので、同意の対象とされています。
8)
新築、改築、増築、大修繕
9)
短期賃貸借(民法第602条)を超える賃貸借
土地は5年、建物は3年を超える期間の賃貸借をすることは重要な取引行為なので、同意が必要です。
さらに前述のように、これらの法律で決められたもの以外の行為でも、申立てがあれば、家庭裁判所は同意権を与える審判をすることができますので、そうした行為も同意権の対象となる行為です(民法第13条2項)。
(g)
保佐人の代理権
特定の法律行為について代理権を付与する旨の審判をすることにより、保佐人には代理権が与えられます (民法第876条の4)。これにより、本人の生活に必要な難しい取引行為を保佐人に代わって行ってもらうことができるようになり、本人の保護に役立つようになりました。
なお、代理権の対象は、同意権のような法律の規定はありません。代理権が与えられても本人の自由は制約されないからです。ただし、結婚、離婚や遺言といった身分行為は代理できないことは、後述する補助の場合と同じです。
(ニ)
取消しの審判
保佐開始の審判は本人の判断能力低下の状態が回復した場合には、請求により、これを取り消さなければなりません(民法第14条1項)。また、同意権の対象を法律に決められたものよりさらに増やす審判、代理権を与える審判について、請求により、家庭裁判所はこれを取り消すことができます(民法第14条2項、876条の4第3項)。
(ホ)
保佐の終了
保佐開始の審判が取り消されるか、本人が死亡すると、保佐は終了します。
保佐人が辞任したり、解任されたり、死亡したりしたときも、その保佐人による保佐は終了しますが、保佐開始の審判自体が終わるわけではありません。新しい保佐人が選任され、本人の保護は継続することになります。
(3)

補助

(イ)
補助制度の必要性
後見や保佐の対象とはならない軽度の判断能力低下がみられる高齢者は少なくありません。つまり、判断能力が不足するものの、基本的には物事の意味を理解し、契約の結果が分かるという、判断能力不足の程度が軽度である状態のことです。このような高齢者などに対する保護を創設する社会的な要請もあります。
近年、高齢化社会の進展に伴って、多くの高齢者が社会で生活するようになっています。さらに、高齢者の人数が増加したのに伴い、介護保険が導入され、介護サービスの民間業者も増えており、高齢者が高額の介助サービスを受けるための契約を結ぶ場面も増加しています。
そこで、このような高齢者などについて、保護者を付ける必要があるとしても、その一方で本人の意思をできる限り尊重する必要性もあります。
障害者であっても、ノーマライゼーションの理念(健常者とできるだけ同じような扱いをするという考え方)の下、単に強い保護(保護者の強い関与)の対象とするのではなく、持てる能力の範囲で社会に参加することが望ましいと考えられます。
そこで、前述のような判断能力不足の程度が軽度である人たちを対象として、後見や保佐より保護の程度を低くし、本人の自由が比較的多く認められる制度が「補助」制度となります。
(ロ)
補助の対象となる人
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である人が対象となります(民法第15条1項本文)。
より判断能力の不足の程度が大きく、保佐や後見の対象となる人は、補助の対象となりません(民法第15条1項ただし書き)。補助と同時に、重複して保佐、後見が始まることはないということです。後見、保佐、補助が重複しないということは、新たに後見、保佐、補助が始まる場面以外に、いずれかによる保護が一度始まった後に、判断能力の不足の度合いが重くなり、または軽くなり、他の制度に変わる場合も同じです。他の制度に変わったときは、それまでの保護は家庭裁判所が取り消さなければならないことになっています。
(ハ)
補助開始のための手続き
(a)
補助は、申立権者の申立てがあると、家庭裁判所が、補助の必要があると判断した上で補助開始の審判をして始まります(民法第15条1項本文)。申立てが必要なので、言い換えると家庭裁判所が、ある人に補助が必要だからといって、本人や関係者が何も言っていないのに補助人が付けられることはないということです。このように申し立てを必要とすることで、本人やその周りの人たちの意思が大切にされています。
(b)
補助開始の申立権者
申立権者は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、検察官といった人たちです。(民法第15条1項本文)。
1)
本人
本人は、自らの意思で自分の補助を申し立てることができます。補助を受けたくないというだけでなく、補助を受けたいという面でも本人の意思は尊重されています。
2)
配偶者、四親等内の親族
配偶者、四親等内の親族といった身近にいる人々も、補助を申し立てることができます。「親等」というのは、親族関係の中で、ある人とどれくらい近いか遠いかを表す尺度です。直接に血縁関係のある直系血族は、1世代を1と数えます。自分から見て両親、子は1親等、祖父母、孫は2親等です。
血縁関係が枝分かれしている傍系血族は、枝分かれするところまで遡って数えてから、また下って数えます。自分の兄弟姉妹は2親等、甥や姪は3親等ということになります。
「親族」というのは、このような自分の血族に加えて、3親等内の姻族も含む言葉です。「姻族」というのは、配偶者の血族のことです。
3)
後見人、保佐人など
後見や保佐を受けていた人の状態が回復して、補助の保護の程度で足りるようになったときは、後見人や保佐人が補助を申し立てることもできます。
4)
未成年後見人など
未成年後見を受けている人がさらに補助を受けることもできますので、こうしたときには未成年後見人も補助を申し立てることができます。
5)
検察官
本来は本人や身近にいる人たちからの申立てがあるのが望ましいのですが、補助が必要と思われるのに関係者から申立てがされないときには、公益的な見地から検察官も申立てができることになっています。ただ、実際には検察官が申し立てることはほとんどないようです。
6)
市町村長
身寄りのない高齢者の場合など、適切に申立てをする人が周りにいないケースも考えられます。こうした場合には、民生委員や福祉サービス関係者からの情報により補助制度を利用できると便利です。そこでこのような高齢者の状況を把握することのできる行政機関(市町村長)が補助を申し立てることもできることになっています。市町村長の申し立てについては、民法ではなく老人福祉法などの他の法律で決められています。なお、後見、保佐においても市町村長申立ができる場合があります。
(c)
本人の同意(本人以外の人の申立ての場合)
本人が補助を受けたくないと思っているとしたら、客観的に見て補助が必要であるからといって、その意に反して補助を始めるのは本人の自由意思に反します。
そこで、本人以外の人が申立てる場合は、本人の同意がなければならないこととなっています(民法第15条2項)。
このように本人の同意が必要とされているのは補助だけであって、保佐や後見の開始にはこうした条件はありません。補助を受ける人はある程度は判断能力のある人ですので、本人の意思を大切にする要請が特に強いからです。
(d)
補助開始の審判をするときは、後述する代理権を与える審判か、同意権を与える審判のどちらかを同時にしなくてはならないこととなっています(民法第15条3項)。補助人に代理権も同意権も与えられないとすると、補助人は本人保護のための手段を全く持たないことになってしまいますので、補助開始の審判だけをしても意味がないからです。
(ニ)
補助人の持つ権限
(a)
総論
補助は、保佐、後見を含めた法定後見制度の中で、本人の意思能力を欠く状態が最も軽い人が対象であって、本人が自由に行動することも大切にしなければなりません。そこで、保佐、後見に比べて補助人に与えられる権限は小さなものになっています。また、本人や関係者の意思を尊重するために、補助人にどのような権限をどの範囲の行為について与えるかを選べる幅が最も広くなっています。
本人を保護する方法としては、本人がしようとしている契約を、保護する人が事前に知って、それがいいと思えば許して(同意して)本人は契約できるが、それが良くないと思って許されなければ(同意がないときは)本人は契約できないとすることで、判断能力ある他人が本人をコントロールするという方法があります。このような、本人の行為について同意する権利を「同意権」といいます。
そして同意がないのに本人が契約を結んでしまったときに、すでになされた契約について保護に当たる人が何もできないとすると、同意権の実効性がなくなってしまいます。そこで、同意権が与えられた人には、これとセットで、同意がないまま結ばれた契約を取り消す権利が与えられることとなっています。これを「取消権」といいます。このように、取消権は同意権とセットとなっていますので、取消権の対象の範囲は、同意権の対象の範囲と同じです。
また、本人がすでに結んだ不適切な契約を取り消すだけでなく、たとえば高齢者の保護に当たる人が、本人に代わって本人のために老人ホームの入居の契約や介護の契約を結ぶなど、本人の生活のために判断能力ある人が代理人として直接交渉にあたり、判断をして、積極的に契約関係をつくっていくことも時として必要になります。このような、本人を代理する権利のことを「代理権」といいます。
補助人は、同意権か代理権のどちらか一方、または両方を持つこととなっています。この同意権、代理権の両方とも、申立てによって家庭裁判所が与えることとなっています(民法第17条1項、876条の9第1項)。申立てによるということになっていますので、法律によって補助が始まるのと同時に自動的にこれらの権限が与えられるのでもなければ、裁判所の判断により職権で与えるのでもありません。そこで、同意権、代理権もともに、申立てに基づき与えられることもあれば、申立てがなく与えられないこともあります。ただ前述のように、両方とも与えられないとすると補助人の権限がまったくなくなってしまい補助開始だけを決めても意味がありませんので、少なくともどちらか一方の権限は与えられなくてはなりません。
また、同意権、代理権を与える範囲も選ぶことができます。たとえば、「不動産を売ることについてだけ、補助人の同意を必要とする」ということもできますし、もっと限定して、「具体的な、どこそこの土地を売ることについてだけ、補助人に代理権を与える」ということもできます。このように保護の方法、範囲を当事者の意思によって決めることができ、自由度が高いことは、個々のケースにおける本人の状況に応じて柔軟に実効性のある保護を可能にすることにつながります。
(b)
補助人の同意権
1)
行為能力の制限
補助人に同意権が与えられたときは、その対象とされた行為について、本人は補助人の同意がなければ完全に有効にはできなくなります(民法第17条4項)。法的には「行為能力(単独で有効な法律行為を確定的に行う能力)」が制限された、ともいいます。
補助人の同意がないまま行われた行為は、「取り消しうる」ものとなります。この「取り消しうる」というのは、取り消されるまでは有効なのですが、取り消されると、当初の行為のときから(当初の行為のときに遡って)無効となるという概念です。取り消し(または追認(後述します。))があるまでは、契約を締結した相手はその行為を有効なものとして扱わなければなりません。これは当初の行為のときから完全に何の法的効力も認められない「無効」という概念と少し異なるものです。また、もし後で追認がされると、当初の行為のときから(当初の行為のときに遡って)確定的に有効となる点でも、「無効」とは違うものです。
2)
取消権
前述の通り、同意権を与えられた補助人は、同意がないまま行われた法律行為を取り消す取消権を持っています(民法第120条1項)。同意権についての申立てがなく、補助人に代理権だけが与えられ、同意権は与えられないこともありますが、この場合は取消権もありません。
また、本人も、同意がないままされた行為の取消権者とされているので、自分がした契約を、後で冷静になって考えた上で取り消すということもできます。
取消権は追認をすることが出来る時から5年で消滅します(民法第126条)。取消権があると、取引の相手方は、それまでは有効な行為が取り消されると遡って無効にされてしまうという不安定な立場に置かれてしまうので、5年の期間が決められています。
3)
同意権を与えるための手続き
補助を開始するときも審判がありましたが、同意権を与えるときにもさらにそのための審判が必要です(民法第17条1項本文)。この審判で、同意権を与えるかどうか、与えるとしてどの範囲にするかを家庭裁判所が審理して決めることになります。また補助を開始するときの審判でも、本人の同意が必要でしたが、同じように、補助人に同意権が与えられることで自分の行動を制約されたくないという本人の意思を尊重するために、本人の同意が必要になっています(民法第17条1項本文)。
4)
補助人の同意に代わる家庭裁判所の許可
補助人の同意がいる行為について、補助人が本人の利益を害するおそれがないのに同意をしないときは、本人の請求があれば、家庭裁判所は同意に代わる許可を与えることができます(民法第17条3項)。補助人に同意権が与えられると本人の自由が制約される以上、補助人がその同意権を適切に行使しなければ、本人にとって不当な制約になりますので、家庭裁判所が同意の代わりの許可をすることができることとなっています。
5)
同意権の対象となる行為
補助は、後見、保佐、補助の中で最も判断能力が残っている人を対象にしているので、本人の意思を尊重するため、後見、保佐以上の権限を補助人に与えるべきではありません。
保佐の場合には、保佐人に与える同意権の対象になる行為は法律で決められているのですが(民法第13条1項)、保佐以上の制約をすべきではないという考え方から、補助人に与える同意権の対象は、保佐人の同意を要する行為(民法第13条1項)の中の一部にとどめなければならないとされています(民法第17条1項ただし書き)。
(c)
補助人の代理権
1)
代理権というのは、代理人として有効に代理行為をすることができる権利のことです。代理人が取引の相手と契約を結ぶと、本人が契約した場合と同じ状態になります。法的には、代理人が結んだ契約の効果が本人に帰属するといいます。
代理権を与えるときも、同意権を与えるときと同じように、申立てによって特定の法律行為について代理権を与えるための審判をします(民法第876条の9)。
補助人に代理権が与えられたとしても、本人の行為が制約されるわけではありませんので、本人は単独で有効に契約をすることができます。行為能力は制限されません。この点は、取り消しうるものとなってしまう同意権の場合と異なる点です。
2)
代理権の対象になる行為
代理権の対象となる行為は、同意権の場合のような制約はありません。代理権の場合は前述のように、与えられたとしても本人の行動は制約されないので、問題がないからです。
ただし、結婚、離婚、遺言といった身分行為と呼ばれるものについては、代理して行うことはできません。このような行為を行う権限のことを、法的には「一身専属権」といいます。物の売買といった財産行為と違って、特に本人の意思を尊重しなくてはならないからです。
また、本人の意思を尊重するために、代理権を与える審判のときにも、本人以外の人の申立てによるときは本人の同意が必要とされています(民法第876条の9第2項、876条の4第2項)
(ホ)
取消しの審判
補助開始の審判について、本人の判断能力が回復して補助が必要なくなった時には、家庭裁判所は、請求により、これを取り消す審判をしなければなりません(民法第18条1項)また、同意権を与える審判、代理権を与える審判については、同意権、代理権を与える必要がなくなったときには、請求により家庭裁判所はこれらの取り消しの審判をすることが出来ます(民法第18条2項、876条の9第2項、876条の4第3項)。請求によるものなので、家庭裁判所の判断で職権によって補助の保護が取り消されることはありません。申立権者は、補助開始のときの申立権者に加えて、補助人、補助監督人も含まれます。
同意権、代理権の審判の場合は、取消しの審判の他に、その対象の範囲を増やしたり減らしたりと変更する審判もあります(民法第18条2項、876条の9第2項、876条の4第3項)。
取り消しの審判の結果、補助人に同意権、代理権がまったくなくなるときは、保護の手段である同意権、代理権がないのに補助開始の審判だけ残しておいても意味がないので、同時にこれも取り消します(民法第18条3項)。
(ヘ)
補助の終了
補助開始の審判が取り消されるか、本人が死亡すれば、補助は終了します。
また、補助人が辞任をしたり、解任されたり、死亡したりしたときは、その補助人による補助は終了します。もっとも、補助開始の審判自体はなくなったわけではないので、新しい補助人が選任されることになります。
(4)

取引の相手方の保護

(イ)
催告権
判断能力の足りない本人を保護する方法として、本人がした不適切な契約を、後見人らが取り消すという取消権があることは前述のとおりです。しかし、取引の相手方からすると、その行為が取り消されるまでは有効である一方、取り消されると遡って無効になるという、不安定な立場に置かれてしまいます。そこで、このような状態を相手方から解消できるようにするための権利が認められており、これを「催告権」といいます。この催告権には、誰に対して催告するかといういくつかのパターンに応じて効果が決められています。
(a)
回復した本人に対しての催告
本人の精神上の障害が回復して法定後見制度を受けなくなるなどして、1人で完全に有効な行為ができるようになったときには、過去に自分のした取り消しうる行為を追認することにより、事後的に完全に有効な状態にすることができます。
そして、本人が、健常者と同じように法的に1人で完全に有効な行為ができるようになったときには、自ら進んでその行為を追認できることはもちろんですが、相手方がこのような追認を求めることもできます。すなわち、本人に対して、1か月以上の期間を決めて、この期間内に行為を追認するかの返事をするようにという内容の催告をすることができることとされています。そして、この期間内に追認や取消しがあれば、その内容の通りの効果が生じるのは当然ですが、さらに、この期間内に返事がないときでも、追認があったものとして処理されることになっています(民法第20条1項)。
(b)
後見人、保佐人、補助人に対しての催告
回復した本人に対する催告と同様に、後見人、保佐人、補助人に対して催告をすることもできます。つまり1か月以上の期間を決めて追認するか否かを決めてもらうよう催告し、この期間内に返事がなければ追認したものとされます(民法第20条2項)。
(c)
本人に対して、後見人などの追認をもらうように請求する催告
回復していない本人に対して、その保護する人(保佐人、補助人)の追認をもらうように、との内容の催告をすることができます。期間は同じく1か月以上です。
この期間内に追認をもらったという返事がないときは、他の催告と違って、当該行為が取り消されたものとされます(民法第20条3項)。なお、被保佐人、被補助人と異なり、被後見人に対しては、このような催告はできません。
(ロ)
詐術による取消権の制限
後見、保佐、補助があくまで本人の個人の利益を守るための制度である以上、「後見、保佐、補助を受けていない」と相手方をだまして契約するような本人は保護する必要はありません。そこでこのような「詐術」を使った本人は、その行為を取り消すことができないこととなっています(民法第21条)。「詐術」というのは、単に後見、保佐、補助を受けていることを黙っていただけではこれにあたりませんが、黙っていることと本人の他の言動が合わさることで相手をだましたと言えるような場合は「詐術」にあたる、という判例があります(最判昭和44年2月13日)。
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