任意後見監督人の制度

成年後見実務マニュアル

第3

任意後見制度

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任意後見監督人の制度

前述のように、任意後見制度においては任意後見監督人が任意後見人を監督する主な機関であり、家庭裁判所は任意後見監督人を介して間接的に任意後見人を監督するものとされています。そこで、任意後見監督人は必ず選任しなければならない必要的な機関とされています。
(1)

任意後見監督人の選任

任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害によって本人の判断能力が不十分になると、申立てにより任意後見監督人が選任されて任意後見が始まります(任意後見契約法第4条1項)。
精神上の障害については前述したとおり、法定後見の場合と同じ意味であり、身体上の障害以外のものを広く含みます。
本人の判断能力の低下については、法定後見における補助の程度(事理を弁識する能力が不十分と言える程度)になれば足ります。これ以上に判断能力が低下しても、法定後見制度の場合のような、判断能力の程度に応じて保佐、後見といった細かい類型はないため、任意後見が始まるという点では変わりはありません。
(2)

任意後見監督人の選任の申立権者

任意後見監督人の選任の申立権者は、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です(任意後見契約法第4条1項)。任意後見は任意後見監督人が選任されたときに始まりますので、その前までは、本人と任意後見契約を結んだ人は任意後見人の候補者に過ぎません。この任意後見人の候補者のことを、「任意後見受任者」と呼んでいます。当然、任意後見が始まれば任意後見受任者は任意後見人となります。
任意後見受任者の申立ては、あくまで権利であって、義務とはされていません。しかし、身寄りがない人について判断能力の低下が生じたときは、本人や身近な人からの申立ては期待できないこともあるでしょうから、自らの意思で任意後見契約を結んだ任意後見受任者が積極的に申立てをして任意後見を開始させることが望ましいでしょう。
(3)

本人の同意(本人以外の人による申立ての場合)

本人の意思を尊重するため、同意をすることができる程度に本人の判断能力が残っている場合は、本人の同意がなければなりません(任意後見契約法第4条3項)。この点は補助の場合に、本人の同意が必要であることと同じです。
(4)

任意後見監督人の選任がされない場合

任意後見制度は本人の意思を尊重するための制度ですから、任意後見契約があり、任意後見監督人の選任の申立てがあれば原則として任意後見監督人を選任して、任意後見を開始させなければなりません。そして以下のような例外的な場合にのみ、任意後見監督人の選任がされないこととされています(任意後見契約法第4条1項ただし書き1号から3号)。
(イ)
本人が未成年者である場合
本人が未成年者である場合は、親権者や未成年後見人が付いており、その親権や包括的代理権により十分な保護がされていますので、任意後見監督人は選任されません。
(ロ)
すでに法定後見制度が始まっており、これを優先させるべき場合
任意後見制度も法定後見制度も、精神上の障害によって判断能力が不足する人を対象としていますので、任意後見契約が結ばれている場合はその重複が問題となります。そして本人があえて任意後見契約を結んでいることを重視し、本人の意思を尊重するために原則として任意後見が優先することとなっています。
しかし、任意後見制度は代理権のみを与える制度であるため、本人の判断能力が大きく不足しており、同意権、取消権を与えることで本人の行動をより制限する必要性が高い場合があります。そこでこのような例外的な場合は法定後見制度を優先させるのが適切であるため、任意後見監督人は選任されないこととされています。
(ハ)
任意後見受任者に、任意後見人となるのにふさわしくない事由がある場合
任意後見受任者に任意後見人になるのにふさわしくない事由がある場合は、任意後見を開始させるべきではないので、任意後見監督人を選任できません。この任意後見人になるのにふさわしくない事由というのは、本人を保護する事務をするのに適当ではない人物を排除するための事由であり、法定後見制度の後見人の欠格事由(民法第847条(4号を除く))や解任事由が準用されています。
1)
①未成年者
②家庭裁判所で解任などをされた法定代理人、保佐人、補助人
③破産者
④行方の知れない者
2)
本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
3)
不正な行為、著しい不行跡、その他任意後見の任務に適さない事由
(5)

任意後見監督人の選任基準

(イ)
任意後見監督人は、法定後見監督人の場合と同じく、家庭裁判所が諸事情を総合考慮して適切な人物を選任するのが基本です。このときに考慮しなければならない事情について、後見人の規定が準用されているので、同じく後見の規定を準用する後見監督人とも結局は同じです(任意後見契約法第7条4項、民法第843条4項)。
1)
本人の心身の状態、生活、財産の状況
2)
任意後見監督人になる人の職業、経歴
3)
任意後見監督人になる人と本人の利害関係
4)
任意後見監督人になる人の意見
5)
その他一切の事情
(ロ)
任意後見監督人になる人
親族と福祉法人などの法人、法律・福祉の専門家らが複数の任意後見監督人となることの有効性は、後見人や後見監督人の場合と同じです。そこで、法人や、複数の人も任意後見監督人になることができます。
また、複数の人が任意後見監督人になったときも、法定後見制度の場合と同じように、家庭裁判所は各後見監督人の権限の定めや、権限を共同して行使することの定めを設定することができます(任意後見契約法第7条4項、民法第859条の2)。
(6)

任意後見監督人の欠格事由

任意後見監督人も、任意後見人を監督することを通じて本人の利益を守る人ですから、そうした任務にふさわしくない人はなることはできません。そこで、後見人の欠格事由が準用されています(任意後見契約法第7条4項、民法第847条)。後見監督人の欠格事由も後見人の規定が準用されていますので後見監督人の欠格事由とも同じとなります。
1)
未成年者
2)
家庭裁判所で解任などをされた法定代理人、保佐人、補助人
3)
破産者
4)
本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
5)
行方の知れない人
さらに、任意後見人又は任意後見受任者とあまりにも親しい人物はなれあうおそれがあり、監督の事務を十分にすることができないので、後見監督人と同じような欠格事由も決められています(任意後見契約法第5条)。
1)
配偶者
2)
直系血族
3)
兄弟姉妹
(7)

任意後見監督人の職務

(イ)
任意後見人の事務の監督
任意後見人の事務の監督が任意後見監督人の主な職務になります(任意後見契約法第7条1項1号)。任意後見制度では家庭裁判所が後見人に対して直接的な監督をしませんので、任意後見監督人による監督は特に重要です。
なお、監督事務の内容について法律に具体的な規定はありませんが、基本的には法定後見の場合の後見監督人の監督事務と同じようなものであると考えておいて問題ないです。
(ロ)
家庭裁判所へ定期的に報告すること
法定後見の場合、家庭裁判所は後見人に対して直接、報告を求める権限があるのですが、任意後見制度ではこのような権限はありません。そこで、家庭裁判所の間接的な監督を可能とするために、任意後見監督人は任意後見人の事務について定期的に家庭裁判所に報告しなければならないものとされています(任意後見契約法第7条1項2号)。
(ハ)
急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲で必要な処分をすること
たとえば任意後見人が一時的に病気になるなど、後見事務が行えないような緊急の場合には、任意後見監督人が任意後見人の代理権の範囲で本人保護のために必要な行為をしなければなりません(任意後見契約法第7条1項3号)。
(ニ)
利益相反行為について本人を代理すること
任意後見人と本人の利害が対立する行為については、本人を害するおそれがあるので任意後見人は本人を代理することができず、代わりに任意後見監督人が本人を代理します(任意後見契約法第7条1項4号)。
(ホ)
任意後見人に対して後見事務の報告を求めること、後見事務、本人の財産状況を調査すること
これらの権限を使って後見事務の行われ具合や、本人の財産の状況を把握することで、任意後見人を監督します(任意後見契約法第7条2項)。
(8)

任意後見監督人の義務

委任の規定が準用されているため、善管注意義務を負います(任意後見契約法第7条4項、民法第644条)。
(9)

任意後見監督の事務の費用、報酬

任意後見監督の事務の費用、報酬については、法定後見の規定が準用されていますので、本人の財産の中から支出できます(任意後見契約法第7条4項、民法第861条2項、862条)。費用については本人が払うことになりますので任意後見人の場合とほとんど同じですが、報酬については、任意後見監督人の場合は家庭裁判所が判断して相当な額を決めるのに対して、任意後見人の場合は当事者間の特約によって、より自由に決められる点が異なっています。
(10)

任意後見監督人の辞任、解任

任意後見監督人の辞任、解任についても、後見人の規定が準用されています(任意後見契約法第7条4項、民法第844条、846条)。任意後見監督人は正当な事由があり、家庭裁判所の許可があるときに限り辞任することができます。
任意後見監督人に不正な行為、著しい不行跡、その他任意後見監督の任務に適さない事由があれば、家庭裁判所は、申立てによるかまたは職権で解任することができます。