後見人、保佐人、補助人の制度

成年後見実務マニュアル

第2

法定後見制度

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後見人、保佐人、補助人の制度

本人を保護するために後見人などが持つ権限としては、同意権、取消権、代理権をこれまでに見てきましたが、本人保護という任務を適切に全うするため、その選任手続きや報酬などについても法律に規定があります。
(1)

後見人の制度

(イ)
禁治産制度と成年後見制度の違い
(a)
禁治産制度
旧法下では、ある人に後見が始まった場合、その人に配偶者がいるときはその配偶者が必ず後見人になると法律で決められていました。これを配偶者法定後見人制度と言いました。そして、配偶者がいないときに限り、申立てによって後見人選任の手続きをすることとなっていました。つまり、後見を始める(=禁治産宣告を求める)ときの申立てと、この後見人選任のときの申立てと、配偶者がいない場合は2つの申立てが必要な手続きになっていました。
また、後見人が死亡するなどしていなくなったときも、申立てによって、新しい後見人を選任するという制度がありました。
しかし、認知症を原因として後見が始まる場合などでは、配偶者も相当の高齢者であることが多く、必ずしも後見人として事務をするのに適当でないことが問題でした。そこで法改正によって、配偶者法定後見人制度は廃止されることになりました。
(b)
成年後見制度
配偶者法定後見人制度が廃止されることによって、どの場合でも必ず誰を後見人にするかを決める手続きをしなければならないことになりました。そこで、手続きの合理化が図られ、裁判所は、後見開始の審判をするのと同時に後見人を選任することになりました。つまり、後見人選任申立だけを後見開始の審判申立と別個に独立して行わなくても良いということです。
また、後見開始のときの後見人の選任に申立てが不要とされたこととの均衡から、後見人がいなくなったときの新たな後見人の選任のときも、必ずしも申立てが必要とはされていません。
(ロ)
後見人の選任
(a)
前述のように、後見開始の審判があれば、職権で後見人を選任することになります(民法第843条1項)。
後見人が死亡するなどしていなくなったときは、家庭裁判所は職権で新しい後見人を選任することができますが、家庭裁判所が後見人の死亡などの事情を知らないこともあるので、この場合は本人や関係者の申立てによる選任も認められています(民法第843条2項)。
(b)
後見人の選任基準
後見人を選ぶのは、基本的には家庭裁判所の裁量による総合的な判断ですが、その判断の際に考慮しなければならないいくつかの事情が法律で決められています(民法第843条4項)。
1)
本人の心身の状態、生活、財産の状況
本人自身の状態や経済状況など、本人に関係する諸々の事情です。
2)
後見人になる人の職業、経歴
後見人は、他人を保護する事務をするのにふさわしい人物でなければなりません。
3)
後見人になる人と本人の利害関係
後見人と本人との間に利害が対立する関係があれば、後見人は代理権を使って、自己に有利なことを行う可能性がある反面、本人に不利な契約を結んでしまい本人を害しかねないので、こうした関係を考慮しなくてはなりません。
4)
後見人になる人の意見
後見人になる人自身の意思も確認しなければなりません。
5)
その他一切の事情
1)から4)以外の事情でも重要な事柄は考慮でき、総合的な判断によって適切な後見人を家庭裁判所は選ぶことができます。
(ハ)
後見人になる人
(a)
法人
これまでの法律では、法人が後見人になりうるかについて法律上明確に規定されておらず、明らかでありませんでした。
しかし、法人が後見人となると、その組織力によって適切な保護ができますし、法人の事業が法律関係や福祉関係の事業であれば、専門的なサポートも期待できます。
こうしたことから、平成11年の法改正により、法律の条文上、法人が後見人となりうることが明らかにされました(民法第843条4項)。ちなみに法人を選ぶときに考慮する事情は、前述の2)、3)に代えて、2)法人に関する事情として事業の種類、内容、さらに3)法人、法人の代表者と本人の利害関係の有無と、法律で決められています。1)、4)、5)は通常の場合と同じです。
(b)
複数の人
従前は後見人の数は1人に制限されていました。複数の後見人を選んでしまうとこれらの人たちの間で意見の対立や混乱が生まれた場合に後見事務が滞ってしまうからです。
しかし、後見人の1人を親族にして、もう1人を法律家や福祉の専門家にするなど、複数の後見人が認められると本人の手厚い保護が図れるというメリットもあります。
そこで、平成11年法改正により、後見人を1人にするという規定は未成年後見人についてのものと限定し、成年後見人については複数の後見人も選べるものとされました。そして、平成23年法改正により、民法第842条が削除されたことにより未成年後見人についても後見人の数についての制限がなくなりました。
そして、複数の後見人間での対立や混乱を避けるために、家庭裁判所は各後見人の権限に関する定めや、または全ての後見人が共同して権限を行使しなくてはならないという定めを、職権で設定できるようになりました(民法第859条の2第1項)。この定めはやはり家庭裁判所が職権で取り消すこともできます(民法第859の2第2項)。
また、後見人が複数いると、取引の相手方は誰に対して意思表示をすれば良いのかわかりません。そこで、複数の後見人の中の誰か1人に対して意思表示をすれば良いとされました(民法第859条の2第3項)。
このように複数の後見人が選べるようになったことに対応して、すでに後見が始まった後でも事後的に後見人を複数にできるように、後見人の追加的な選任もできるようになりました(民法第843条3項)。
(c)
後見人の欠格事由
後見人は、能力の不足する他人を保護する事務を行うので、誰でも良いというわけにはいきません。もちろん個々の選任のときに実質的な審理も行うのですが、類型的にこうした事由がある人は後見人にふさわしくないと考えられる事由(欠格事由)が法律で5つ規定されています(民法第847条1号から5号)。
なお、これまでは禁治産宣告、準禁治産宣告を受けたことも欠格事由とされていましたが、差別的であり好ましくないので、改正によって削除されています。
1)
未成年者
未成熟であり、法的には未成年者自身も親権者などの保護が予定されており行為能力が制限されているので、十分に後見事務を行うことはできず、後見人にはなれません。
2)
家庭裁判所で解任などをされた法定代理人、保佐人、補助人
家庭裁判所により、親権を失ったり、保佐人、補助人を解任されたりした人なので、他人の保護の事務をするのがふさわしくないとすでに判断されています。
3)
破産者
自己の財産をうまく管理できない人なので、他人の財産を管理する任務を任せるべきではありません。
4)
本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
本人と訴訟をしている人は、利害が対立していたり、本人に悪い感情を持ったりしているので、本人の保護は任せられません。その配偶者、直系血族も身近な人なので、事実上の利害対立や感情的な対立があります。
5)
行方の知れない人
どこにいるのかわからない以上、後見の事務ができません。
(ニ)
後見人の職務
(a)
後見人の職務
1)
財産の調査、財産目録の作成
後見人の職務としては、本人の身上監護とともに、その財産の管理が重要です。そこで、財産管理のために本人の財産を把握する必要があるので、後見人は選任されたらすぐに本人の財産の調査を始め、1か月以内に調査を終えて財産目録をつくらなければなりません(民法第853条1項)。
また、選任されたらすぐにしなければならない職務としては、本人の生活、教育、療養看護、財産管理のために毎年支出する金額を予定しなければならないというものもあります(民法第861条1項)。
2)
財産管理権
後見人は、本人の財産について包括的な財産管理権を持っています。財産管理権というのは、財産の価値が損なわれないように維持したり、また財産の性質が変わらない範囲でこれを利用したりすることができる権利です。たとえば預貯金の管理などがこれにあたります。
(b)
後見人の権限の制限
後見人は包括的な代理権、財産管理権を持っているので、原則として全ての行為について代理することができるのですが、それが本人にとって悪い影響を与えるおそれのある一部の行為については、特別に法律で制約がされています。
1)
本人の居住用不動産の処分についての許可
後見は包括的代理権によって、本来は居住用の建物についても売却などの処分ができるはずですが、認知症の高齢者や精神障害者などにとっては住環境の変化による影響が大きいので、後見人の権限を制約して、家庭裁判所の許可がなければならないとしています(民法第859条の3)。
2)
利益相反行為
後見人と本人の利害が対立する行為については、後見人は自己にとって利益となる反面本人に不利益となる行為を、本人を代理して行ってしまうおそれがあるので、できないことになっています。こうした行為をするときは、後見監督人がいるときは後見監督人が、いないときは特別代理人を家庭裁判所に選任してもらって(860条、826条)、これらの人が本人を代理して、相手方と取引をします。
3)
本人の行為を目的とする契約についての本人の同意
物を買う契約を代理する場合は、本人は代金を支払う義務という、財産的な義務を負うに過ぎませんが、雇用契約のような、本人が行動(労務の提供)することが義務となる場合は、特に本人がそうしたことをさせられるのを納得するかが重要ですので、本人の同意が必要です(民法第859条2項、824条ただし書き)。
(ホ)
家庭裁判所による監督
後見人は包括的な代理権という大きな権限が与えられており、その権限濫用を防ぐために監督をする必要があります。後見人については、家庭裁判所の直接の監督が主なものであり、後述の後見監督人による監督はこれを助けるものとして位置付けられています。なお、後述の任意後見制度では、法定後見制度とは異なり、後見監督人による監督が主なものとして位置付けられています。
(a)
後見事務の報告請求、財産目録の提出請求
家庭裁判所は、いつでも、後見人に対して、後見事務の報告を請求でき、また、財産目録の提出を請求できます(民法第863条1項)。
(b)
後見事務の調査、本人の財産状況の調査
家庭裁判所は、いつでも、後見事務を調査することができ、また、本人の財産の状況を調査することができます(民法第863条1項)。
こうした請求をする権限や調査をする権限によって、家庭裁判所は後見人の後見事務の行われ具合や本人の財産が不当に浪費されていないかをチェックすることで、後見人の権限濫用を防止します。
(c)
必要な処分の命令
家庭裁判所は申立てによって、または職権で、本人の財産管理や後見事務に必要な処分を命じることができます(民法第863条2項)。申立権者には本人も含まれているので、本人の意思も尊重されることになります。必要な処分というのは、財産管理についてのものの他に、身上についてのものも含まれます。
(d)
精神病院などへの入院の許可
改正する前の民法では、本人を入院させるには家庭裁判所の許可が必要とされていましたが、現行法では削除されました。
(ヘ)
後見人の義務
後見人は、善良なる管理者としての注意義務を意味する「善管注意義務」を負います。この義務は、判断能力が不足する人の保護の場面に限らず、委任契約の受任者などに広く認められている義務です(民法第644条)。
さらに後見人は、身上配慮義務という義務を負います(民法第858条)。本人は認知症の高齢者であったり精神障害者であったりと、肉体的にも精神的にも弱者であるため、医療や介護に関する契約など、財産的な取引以外に本人の心身に影響を与えるような契約に、後見人は多く関わることになります。そこで、後見人は本人の意思を尊重し、さらに本人の心身の状態、生活の状況に配慮しなければならないことが明確にされています。
(ト)
費用、報酬
(a)
後見の事務の費用
法改正前は後見事務の費用について法律では明らかにされていませんでした。もっとも、配偶者法定後見人制度がありましたので、後見人のほとんどは本人の親族であったため、事実上後見人となった親族が費用を自己負担していました。
従って後見事務費用の問題が表に出ることはあまりありませんでした。
しかし、法人や複数の後見人が選べる今日において、家庭裁判所は、法律、福祉の専門家を後見人として選任することが主流となっており、後見人からの費用請求は当然になされることになります。そこで、後見事務の費用は本人の財産の中から支出することが明らかになっています(民法第861条2項)。
(b)
後見人の報酬
家庭裁判所は、本人の財産の中から相当の報酬を後見人に与えることができます(民法第862条)。
報酬については法改正前も法律の規定はありました。もっとも、報酬についても費用の場合と同じように、これまでは配偶者法定後見人制度があったので、後見人になった親族が報酬を請求することはあまりありませんでした。
しかし、法人や専門家が後見人として選任されることが主流となった今日において、その職務に見合った対価を適正に支払うことが重要となります。
(チ)
後見人の辞任、解任
(a)
後見人の辞任
後見人は、正当な事由があれば、家庭裁判所の許可をもらって辞任することができます(民法第844条)。後見人は本人を保護する立場にいますので、自由な辞任を許すと本人の保護が薄くなってしまいますので、正当な事由と家庭裁判所の許可が必要とされています。
(b)
後見人の解任
後見人に不正な行為や著しい不行跡や、その他でも後見の任務に適さないと認められる事由があれば、家庭裁判所は後見人を解任することができます(民法第846条)。後見人は包括的な代理権という大きな権限を与えられており、また本人保護を任務とする人ですから、後見人にふさわしくないと認められればいったん選任された後でも辞めさせるべきです。これは申立てによる場合のほか、家庭裁判所の判断による職権ですることもできます。
(2)

保佐人、補助人の制度

保佐人、補助人の制度については、後見人の制度と概ね同じです。法改正前は準禁治産制度の保佐人について配偶者がいれば配偶者が必ずなるという配偶者法定後見人制度がありましたが、改正されてなくなりました。
(イ)
保佐人、補助人の選任
(a)
保佐人、補助人は職権による審判で選任されます(民法第876条の2第1項、
876条の7第1項)。全てのケースで保佐人、補助人を選ぶ手続きも必要となったことから、保佐、補助開始の審判のときに申立てがあれば、保佐人、補助人の選任のために別途申立てをすることは不要となりました。この点は後見人選任の場合と同じです。
複数の保佐人、補助人を選任できるようになりましたので、一度保佐、補助が始まった後に保佐人、補助人を複数にすることができるようにするため、追加的な選任もできるようになりました(876条の2第2項、876条の7第2項、843条3項)。
保佐人、補助人が死亡するなどしていなくなったときは、職権によるか、または申立てで新しい保佐人、補助人を選任することになります(876条の2第2項、876条の7第2項、843条2項)。
(b)
保佐人、補助人の選任基準
後見人の選任基準が準用されており、後見人の場合と同じです。
1)
本人の心身の状態、生活、財産の状況
2)
保佐人、補助人になる人の職業、経歴
3)
保佐人、補助人になる人と本人の利害関係
4)
保佐人、補助人になる人の意見
5)
その他一切の事情
(ロ)
保佐人、補助人になる人
(a)
後見人の場合と同じく、法人、または複数の人が保佐人、補助人になることができます。
(b)
保佐人、補助人の欠格事由
後見人の欠格事由が準用されていますので、後見人の場合と同じです。
1)
未成年者
2)
家庭裁判所で解任などをされた法定代理人、保佐人、補助人
3)
破産者
4)
本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
5)
行方の知れない人
(ハ)
保佐人、補助人の職務
(a)
財産管理権
保佐人、補助人は申立てによって代理権が与えられることがありますが、代理権の範囲で財産管理権も持っています。例えば、家を売る代理権を与えられた場合には、売却に際して家の修繕をする必要もあるでしょう。家を修繕して維持する財産管理権がなければ、家の売却の代理権を与えても、その目的が十分に果たせません。
(b)
保佐人、補助人の権限の制限
1)
本人の居住用不動産の処分についての許可
本人の居住用不動産の売買などの処分について保佐人、補助人に代理権が与えられたときは、住環境の変化は本人にとって重大なことから、家庭裁判所の許可が必要です(民法第876条の5第2項、876条の10第2項、859条の3)。
2)
利益相反行為
保佐人、補助人と本人の利害が対立する行為について保佐人、補助人が代理できるとすると、本人の利益が害されるおそれがあるので、できないことになっています。こうした行為をするときは、保佐監督人、補助監督人がいればこれらの人が、いなければ臨時保佐人、臨時補助人を家庭裁判所に選任してもらい、こういった人が本人を代理して保佐人、補助人と取引をします(民法第876条の2第3項、876条の7第3項)。
3)
本人の行為を目的とする契約についての本人の同意
本人の行為が義務となるような契約については、それをさせられる本人の意思が特に重要ですから、本人の同意が必要です(民法第876条の5第2項、876条の10第1項、859条第2項、824条ただし書き)。
(ニ)
保佐人、補助人の義務
後見人と同じように、善管注意義務、身上配慮義務(民法第876条の5第1項第2項、876条の10第1項)を負います。
(ホ)
費用、報酬
(a)
保佐人、補助人の事務の費用
保佐人、補助人がその事務をするのに必要な費用は、本人の財産の中から支出することとなります(民法第876条の5第2項、876条の10第1項、861条2項)。
(b)
保佐人、補助人の報酬
これまでは、準禁治産制度における保佐人の権限は、同意権だけと小さかったため、報酬についての法律の規定はありませんでした。
しかし、法改正によって、保佐人には取消権と代理権も与えられることになり、また補助人も取消権、代理権を与えられるので、後見と同じように家庭裁判所が本人の財産の中から相当の報酬を与えることができることが明確にされています(民法第876条の5第2項、876条の10第1項、862条)。
(ヘ)
保佐人、補助人の辞任、解任
(a)
保佐人、補助人の辞任
後見人の場合と同じく、正当な事由と家庭裁判所の許可があれば、保佐人、補助人は辞任することができます(民法第876条の2第2項、876条の7第2項、844条)。
(b)
保佐人、補助人の解任
後見人の場合と同じく、保佐人、補助人に不正な行為、著しい不行跡、その他保佐、補助の任務に適当でない事由があるときは、家庭裁判所は申立てによるか、または職権で、保佐人、補助人を解任することができます(民法第876条の2第2項、876条の7第2項、846条)。