建物賃貸借契約の終了2

貸地・貸家明け渡しガイド

貸地・貸家明け渡しの疑問を解決するQ&Aをご紹介します。このページでは、建物賃貸借契約の終了に関する質問を集めました。ぜひ参考にしてください。

建物賃貸借契約の終了

(3)

法定解除について

(イ)

信頼関係破壊

Q:
賃貸借契約では信頼関係破壊理論というものがあるそうですが、どのようなものですか?
A:
信頼関係破壊理論とは、賃借人の債務の不履行があっても信頼関係を破壊しない程度の些細な不履行では契約の解除をすることができないという理論です。民法に明文の規定はありませんが、判例上認められている理論です。
賃貸借契約は、売買契約のような1回的な取引ではなく、一度締結すると長期間に契約関係が存続する継続的契約関係であるので、当事者間の信頼関係を基礎とします。その信頼関係が破壊されたと認められるときに、初めて解除ができるということです。判例が賃貸借契約において信頼関係破壊理論を持ち出しているのは、賃貸人による安易な契約の解除によって建物賃借人の生活の基盤である住居が奪われないようにする配慮があるためである思われます。
もっとも、この信頼関係破壊理論は、厳密には賃貸借契約上の債務の不履行はなくとも、信頼関係が破壊されるに至れば契約の解除可能となるという考え方でもあります。

Q:
建物賃貸借契約において、賃借人の直接の契約違反はないものの、賃借人の行為に問題があり、賃貸借契約を継続することが困難な場合、賃貸借契約を解除することはできないでしょうか?
A:
1
賃借人の賃借物に関する直接の契約違反はなくても、賃貸人と賃借人との間の円満な関係に破綻が生じた場合には契約の解除が認められるケースがあります(信頼関係破壊理論)。
2
例えば、以下のような事例です。
(1)
賃借人が天袋の中にラジオを置いて音量を一杯にしてアパートの他の居住者に迷惑をかけるなどの異常行動に出た場合 (東京地判昭54.11.27判時963号66頁、判タ416号162頁)。
(2)
マンション内の店舗で住民の迷惑になるカラオケ騒音を出した場合 (横浜地判平元10.27判タ721号189頁)。

Q:
建物賃貸借契約において、賃借人に賃料不払いがあった場合には、賃貸借契約を解除することができますか?
A:
建物の賃借人が家賃を滞納しているときは、貸主は賃貸借契約を解除できます。
ただし、たとえ契約上は1回の賃料不払いによりすぐさま賃貸借契約を解除することができる旨の条項があっても、賃料不払いによって賃貸人との間の信頼関係を破壊するに至ったと言えない場合には解除は認められません(信頼関係破壊理論)
いかなる場合に信頼関係を破壊するといえるかどうかについては、賃料不払いの回数だけでなく、不払いの額、賃借人側の態度、賃貸人側の態度などの諸事情が判断の資料となります。
借家の場合、6か月程度の賃料の滞納があれば、よほど特殊な事情でもない限り解除は認められます。なお、2カ月分の不払いでも解除を認めた判例もあります。
(ロ)

賃料不払い

Q:
賃貸借契約を賃料不払いにより解除する場合の手続きを教えてください。
A:
賃借人に信頼関係を破壊するに足る賃料の不払いがある場合、賃貸人は相当の期間を定めて滞納した賃料を支払うよう催告したうえで、賃借人がその期間内に賃料を支払わない場合に契約を解除することができます。
履行の催告には相当の期間を定めて行なう必要がありますが、賃料不払いでは1週間から10日もあれば社会通念上相当な催告期間ということがいえます。
なお判例では、不相当な期間または期間の定めのない催告でも、催告後相当期間が経過すれば契約を解除することができるとされています。

Q:
賃貸人に無断で賃借権の譲渡や転貸がなされた場合、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができますか?
A:
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ第三者に賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸したりすることはできません。このことは法律の明文で規定されています (民法612条1項)。
したがって、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借権を譲渡したり、 賃借物を転貸したりした場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます (民法612条2項)。
もっとも、無断譲渡・転貸といえる場合でも、賃貸人に特に不利益を与えることがない一定の場合、つまり背信行為 (信頼関係を破壊する行為)と認めるに足らない特別の事情がある場合には解除は認められないという例外があります。
信頼関係破壊理論について詳しくは「(イ)信頼関係破壊」を参照してください。
賃借権の無断譲渡・無断転貸が認められなかった事例について詳しくは「(ハ)賃借権の無断譲渡・転貸」を参照してください。
(ハ)

賃借権の無断譲渡・転貸

Q:
賃借権の無断譲渡・転貸があった場合において、解除が認められなかった事例にはどのようなものがありますか?
A:
賃借権の無断譲渡・転貸があった場合は、民法の612条に基づき、賃貸人は原則として契約を解除することができます。
しかし、信頼関係を破壊する程度にいたらない事情がある場合には例外的に契約の解除が制限される場合があります。具体的には次のような事例です。
1
転貸の当初からその期間が短く定められている場合 (一時使用の場合) (東京地判昭32.10.10判時141号24頁)
2
無断間貸など賃借物一部の転貸の場合 (最判昭36.4.28民集15巻4号1211頁)
3
親族その他の特殊な関係にある者に譲渡、転貸した場合 (大阪高判昭28.4.2下民集4巻4号474頁、東京高判昭29.7.31東高民報5巻7号16頁)
4
賃借権の準共有者が他の準共有者に持分を譲渡した場合 (大阪地昭44.12.1判タ244号262頁、東京地判昭48.1.26判時709号51頁、最判昭29.10.26民集8巻10号1972頁)
5
賃借家屋を住宅困窮者に転貸した場合 (東京地判昭25.9.1判タ7号62頁)
(ニ)

用法違反

Q:
建物の賃借人が、賃貸借契約で定めた目的以外の目的で建物を利用している場合、賃貸借契約を解除することはできますか?
A:
賃借人は賃貸借契約で定められた用法にしたがって建物を使用収益すべき義務があります (民法616条、同法594条1項)。賃借人に用法違反があれば、これを理由に契約を解除できます。
たとえば、事務所として利用するという契約で建物を貸したところ、賃借人が小売店や飲食店を始めてしまった場合は用法違反といえます。
賃借人の用法遵守義務は賃料支払義務と並ぶ重要な義務なので、その違反は解除が認められるほど強度なものと評価されやすいといえます。もっとも、用法に違反した事実があっても、当事者の信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事情がある場合には、解除が認められないことがあります。
信頼関係破壊理論について詳しくは「(イ)信頼関係破壊」を参照してください。

Q:
賃借人の用法違反により、建物賃貸借契約の解除が認められた事例には、どのようなものがありますか?
A:
賃借人の用法違反により、建物賃貸借契約の解除が認められた事例には以下のようなものがあります。
1
アパートにおいて徹夜麻雀をしばしば行い、騒音のために他の居住者の睡眠を妨げた事例 (東京北簡判昭43.8.26判時538号72頁)
2
使用目的を飲食店として賃貸した店舗において、賃借人が金融業を営んだ事例 (名古屋地判昭59.9.26判タ540号234頁)
3
賃貸家屋が暴力団事務所として使用された事例 (宇都宮地判昭62.11.27判時1272号116頁)
4
賃貸店舗の営業態様を純喫茶から風俗喫茶に変更した事例 (東京高判昭59.3.7判時1115号97頁)
5
2階建て住宅の一部分を賃借した賃借人が8匹ないし10匹の猫を飼育した事例 (東京地判昭62.3.2判時1262号117頁)
(ホ)

無断増改築

Q:
賃借人が、賃貸人に無断で、建物を増改築した場合、賃貸借契約を解除することができますか?
A:
1
借家人は、賃借物の引き渡しを受けた後、返還をなすまで建物を善良なる管理者の注意義務をもって保管する義務があります (民法400条)。
したがって、この義務に違反して増改築がなされた場合は契約違反となりますから、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます。
もっとも、借家人もその借家において生活し、あるいは営業を営むものである以上、一定範囲の借家の改良ないし改築はその利用の便宜ないし必要上から、家主としても受忍すべき場合もありますので、このような場合には信頼関係を破壊するに至っていないとして解除が認められないことがあります。信頼関係理論については詳しくは「(イ)信頼関係破壊」を参照してください。

Q:
建物の賃借人による無断増改築を理由として、賃貸借契約の解除が認められた事例には、どのようなものがありますか?
A:
建物の賃借人による無断増改築を理由として、賃貸借契約の解除が認められた事例には、以下のようなものがあります。
1
住宅として賃借した建物をネームプレート製作の仕事場とするために、賃貸人の制止を聞き入れず、タル木を切断して居間を土間とし、この工事と設置した機械の振動により、建物が次第に破損していくことが予想された事例 (東京高判昭28.6.2東高民報4巻2号45頁)
2
賃借人が6坪5合の付属建物を取り壊し、賃貸人の制止を無視し、さらに区役所の工事中止処分、建築禁止の仮処分の執行をもあえて犯して、取り壊したのと同一部分に新しく同様の付属建物の建築をなした事例 (東京地判昭30.9.30判時65号12頁)
3
賃貸人の制止にもかかわらず、時計貴金属の小売業を営む賃借人が、無断で約3尺4方の空き地に陳列窓の改造・拡張工事をなしたため、隣に居住し煙草の小売業を営む賃貸人の陳列窓の見通しが悪くなり、営業に著しい影響を与えた事例 (東京地判昭32.5.10判時119巻15号)

Q:
建物の賃借人による無断増改築を理由として、賃貸借契約の解除が認められなかった事例には、どのようなものがありますか?
A:
建物の賃借人による無断増改築を理由として、賃貸借契約の解除が認められなかった事例には、以下のようなものがあります。
1
工事の規模が小さく原状回復が可能であることを理由とするもの (東京地判昭32.10.10判時141号24頁)
2
建物の効用を増すことを理由とするもの (東京地判昭25.7.10下民集1巻7号1071頁、東京地判昭43.10.30判タ235号23頁、大阪地判昭27.63判タ26号61頁)
3
借家人のした行為がやむを得ない事情にあったことを主たる理由とするもの (東京地判昭34.6.29判時192号12頁)
4
復元が可能であることを理由としたもの (東京高判昭26.2.26下民集2巻2号280頁、 大阪高判昭39.8.5判時386号47頁)
(ヘ)

保管義務違反

Q:
賃借物の保管状態が悪い場合、賃貸借契約を解除することは可能ですか?
A:
賃借人は賃借物の引き渡しを受けた後返還をなすまで賃借物を善良な管理者の注意をもって保管する義務があります(民法第400条)。
したがって、賃借人がその保管義務に違反した場合には、賃貸人は契約を解除することができる場合があります。
たとえば、賃貸人の了解がないまま、建物の外観を奇抜な色に塗り替えるなどして建物の美観を害した場合には契約を解除できる可能性があります。もっとも、些細な保管義務違反では、信頼関係を破壊するには至らないため、契約の解除までは認められないことが多くなります。
信頼関係理論については詳しくは「(イ)信頼関係破壊」を参照してください。
なお、契約の解除をするには至らなくても保管義務違反によって建物の価値が低下するとみられるような場合には、賃貸人から賃借人に対し損害賠償請求がなされる可能性もあります。