建物賃貸借契約の終了4

貸地・貸家明け渡しガイド

貸地・貸家明け渡しの疑問を解決するQ&Aをご紹介します。このページでは、建物賃貸借契約の終了に関する質問を集めました。ぜひ参考にしてください。

建物賃貸借契約の終了

(5)

正当事由

(イ)

正当事由とは

Q:
建物賃貸借契約の解約申入や更新拒絶に正当事由が必要とされるのはなぜですか?
A:
平成4年7月31日までに成立した借家契約には借家法1条の2の規定が適用されます。借家法1条の2によると借家契約の更新拒絶又は解約申入れをするにつき、「建物ノ賃貸人ハ自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由」に基づくことが必要である、とされています。
また、平成4年8月以降に成立した借家契約に適用される借地借家法28条では、「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人 (転借人を含む。以下この条において同じ。) が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」 と規定されています。
これらの規定は、自由な解約権を認めている民法の規定を修正して、賃貸人の私利私欲を制限して、借家関係の適正な継続を図るために設けられています。
これにより、かつて無制約に認められていた賃貸人の解約申入権に制約を与え、賃貸人の自己使用の必要性その他これに準ずる事由のあるときに限り解約申入または更新拒絶が認められることになったのです。

Q:
建物賃貸借終了についての「正当の事由」とは、一般的にどのような事情を考慮して判断されますか?
A:
1
「正当な事由」については、以下の事情が考慮されます。
借地借家法28条では、「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人 (転借人を含む。以下この条において同じ。) が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」 と規定されています。
つまり、正当の事由の要素としては
(1)
建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情
(2)
建物の賃貸借に関する従前の経過
(3)
建物の利用状況
(4)
建物の現況
(5)
建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
等が考慮されることが明文化されました。
2
平成4年7月31日以前の契約の場合
この規定は、平成4年7月31日以前に成立した借家には適用されないものとされています。しかし、前記借地借家法28条で列挙されている(1)から(5)の事由は、これまで裁判例で採用されてきた正当事由の判断基準を明文化したものです。したがって借地借家法28条の規定は、平成4年7月31日以前に契約された借家についても、その明け渡しの正当事由の有無の判断に際し、考慮されるものといえます。
(ロ)

立退料

Q:
賃借人に借家から立退いてもらう場合、立退料さえ払えば正当の事由は満たされますか?
A:
正当の事由と立退料の関係
立退料は、賃貸借契約の更新拒絶や解約申入れに際し、賃貸人に法律上要求されている「正当の事由」が不十分な場合に、その賃貸人の足りない正当事由を補完する要素として考慮されます。
したがって、立退料を支払う必要性の有無はもちろん、支払う場合にその金額がいくらになるのかは、賃貸人の事情、賃借人の事情をはじめとし、借家関係をめぐる様々な要素によって影響を受けることになります。つまり、正当事由が十分であれば、立退料は少なくなり(ゼロもあります)、逆に正当事由が不十分であれば立退料は大きくなるという関係にあります。そして、場合によっては立退料だけでは正当事由を補完できないこともあります。

Q:
賃借人に借家から立退いてもらう場合、借家の立退料は何を基準に算定されるのですか?
A:
1
立退料の位置づけ
立退料は、賃貸借契約の更新拒絶や解約申入れに際し、賃貸人に法律上要求されている「正当の事由」が不十分な場合に、その賃貸人の足りない正当事由を補完する要素として考慮されます。
2
立退料の算定
立退料の額は、一般的な計算式に基づいて計算できるものではなく、具体的なケースごとの諸事情を勘案して最終的には裁判官が決定することになります。加えて、同じ事例であっても個々の裁判官によって評価が異なるので、結論は一様になるものでもありません。
立退料を決めるうえで考慮する事情は、上記の立退料の性格から正当事由の有無の判断に必要な要素と関連することになりますが、具体的には次のようなものがあげられます。
(1)
賃貸人側の事情として
資産、年齢、職業、経歴、健康状態、家族(構成、職業、年齢、健康状態、収入)、対象建物の状態、建築後の経過年数、賃料、修繕状況、使用目的、賃貸借契約の内容、契約締結時の事情、賃借人への移転先の斡旋などです。
(2)
賃借人側の事情として
資産、年齢、職業、経歴、健康状態、家族(構成、職業、年齢、健康状態、収入)のほか、居住用か営業用か、通勤、顧客への影響、自費修繕の有無、その他の特殊事情があります。

Q:
私は、老朽化したアパートを賃貸しているのですが、現在、そのアパートを取り壊して、マンションを建設する計画を立てています。そこで、賃借人に対して、立退きを交渉したところ、正当な立退料を支払ってくれるのであれば、立ち退くとの回答でした。立退料は必要でしょうか?
A:
立退料とは賃貸借契約の更新を拒絶する際に要求される正当理由の補完として支払われるものです。
よって、立退料の算定あたっては、立退料以外の正当事由の要素がどれほど満たされているかが問題となります。
すなわち、立退料以外の正当事由が満たされている場合には、立退料は低く、理論的には不要ということもあります。反対に、正当事由が不十分である場合には立退料は高額となります。また、莫大な立退料を支払っても正当事由が認められないこともあります。
ご質問のように老朽化したアパートを取り壊して、マンションを建築するために賃貸借契約の更新を拒絶するとの事情は、正当事由の要素としては、「土地の有効利用」という事情に位置づけられます。
このような建物の老朽化と土地の有効利用の計画がある場合は、正当事由の要素として認められやすい傾向があるといえます。
理論的には、立退料が不要という場合もありえますが、実際にはいくらかの立退料が支払われる場合が多いようです。
以上のとおり、立退料がいくらになるのかというのは、正当事由の存否の判断を前提として算定されるので事情により異なります。
(ハ)

賃貸人の自己使用

Q:
私はアパートを賃貸しているのですが、そのアパートを使う必要が生じたので、次回の賃貸借契約の更新を拒絶したいと考えています。ところで建物の賃貸借において、賃貸借契約の更新を拒絶するためには正当な事由が必要であると聞きました。私のように、自己使用の必要性から、居住用建物の賃貸借契約の更新拒絶をした場合、正当な事由として認められるでしょうか?
A:
1
正当事由の有無の判断
借地借家法28条は「(更新拒絶の通知または解約の申入れは)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」としています。
2
自己使用の必要
正当事由の有無は上記の要素を総合的に考慮して判断されますが、一般に居住目的の賃貸建物の場合、建物を自ら使用する必要性は最も重視される判断要素と考えられており、自己使用の必要性がある場合には正当事由を肯定する方向に大きく傾きます。これに対して正当事由を否定する賃借人側の事情としては賃借人が高齢であるとか病身であるなどです。もちろん、自己使用以外で借地借家法28条(上記1正当事由の有無の判断を参照下さい)に示された要素も具体的事情として考慮されます。そして、貸主側としては立退料の提供(同条の「財産上の給付の申出」)によって、自己の正当事由を補うことができます。
3
参考事例
30年以上賃借人が居住している床面積40㎡の居住用建物賃貸借契約において、賃貸人側は、(1)配偶者の母が膝の痛みから階段の昇降に支障をきたしており、身の回りの世話をするためにも同居を計画していること、(2)賃貸人の子供が難病に罹患しており、そのための介護を必要としていること、(3)賃貸人には他に適切な建物がないこと、などから賃貸建物の自己使用の必要性を訴えました。
これに対し、賃借人は30年の長期にわたって居住している事実と、転居によって賃借人の妻の心臓病への悪影響があるとして、賃借人側の使用の必要性を反論しました。
裁判所は双方の事情を詳細に認定したうえで、立退料の支払を条件として賃貸人側の正当事由が具備されると判断しました。この事例では、賃貸人は100万円の立退料を提案していましたが、裁判所は400万円が立退料として適切であると判断しました。
4
まとめ
ご相談のケースでも個別の事情によって結論は一様ではありません。ただ、居住目的の賃貸建物の場合は自己使用の必要性が、正当事由の具備についての極めて重要な判断要素となるということができます。また、立退料についても補完的に考慮されますので、具体的な事情とあわせて専門家に相談することをお勧めします。
なお、立退きをめぐる紛争が生じた場合、個別の事情が大きく影響しますので、上記参考事例の立退料の額や正当事由の有無の判断は、あくまで一つの参考事例としてご理解ください。

Q:
私は、平成元年まで東京に住んでいましたが、本社のある大阪に転勤になり、Aさんに自宅マンションを貸しました。当時Aさんとは、大阪に転勤の期間だけの賃貸借契約であり、東京に再度転勤になった場合は立ち退いてもらうという話で契約をしました。そして、昨年、私はようやく東京に転勤になり、今は家族でアパートを借りています。Aさんとは期間3年の契約を何回か更新しており、現在の契約期間の満了の半年前に更新拒絶の申し入れをしました。しかし、Aさんは応じません。私は立退料を支払う必要がありますか?
A:
1
一時使用
ご相談の賃貸借契約は平成元年に結ばれたものですので、旧借家法が適用されます。旧借家法は、一時使用のための賃貸借であることが明らかである場合には、賃貸人が解約申入れをするにつき正当事由が不要になります(第8条)。そこで、このケースでは、一時使用のための賃貸借といえるかが問題となります。
たしかに、契約は大阪勤務の期間に限って賃貸し、東京勤務になったときは建物を明渡すことが前提になっていたようですが、契約が何度も更新されている場合は、仮に当初の契約が一時使用のものであっても、20年近く賃借人が居住している以上、現在は一時使用の契約とみることは困難です。
したがって、一時使用を理由とする立退き請求は困難であり、正当事由がなければ解約申入れをすることができないといえます(第1条の2)。
2
正当事由の有無
正当事由の有無については自己使用の必要性のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、立退料の提供など様々な要素から総合的に判断します。
このケースでは、賃貸人、賃借人双方の建物使用の必要性を比較すると、特別な事情がなければ、賃貸人の方に建物使用の必要性がより大きいものと考えられます。というのは、賃貸人は東京勤務となっていることや現在アパートを借りていること、やむを得ずAさんに賃貸するに至った経緯などがあり、これに対して、今のところAさんにはこの建物でなければならない特別の事情が明確でないからです。また、東京の住宅事情からすれば、Aさんが代替物件を探すのも比較的容易であるといえます。
そうすると、一般的には、賃貸人が一定の立退料を支払えば正当事由が認められる可能性が高いと考えられます。
立退料の額については正当事由の強さや、個々の事情に大きく左右されますが、一般的には賃借人が転居することによって被る財産上の損害を補償するのに相当な額といえますので、不動産業者に支払う礼金や敷金、引越費用などを賄える額が一つの目安になるといえます。