建物賃貸借契約の終了5

貸地・貸家明け渡しガイド

貸地・貸家明け渡しの疑問を解決するQ&Aをご紹介します。このページでは、建物賃貸借契約の終了に関する質問を集めました。ぜひ参考にしてください。

建物賃貸借契約の終了

(5)

正当事由

(ニ)

老朽化・建替え

Q:
私はアパートを賃貸している大家ですが、アパートの建物が古くなったので取り壊し、周辺の所有地も使ってマンションを新しく建設しようと考えています。アパートの借家人に立ち退いてもらうには正当事由が必要と聞いていますが、土地の再開発や建物の老朽化という事情はどのように考慮されるのでしょうか?
A:
1
正当事由の有無の判断
借地借家法28条は「(更新拒絶の通知または解約の申入れは)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」としています。
平成4年以前の契約は旧借家法が適用となりますが、借地借家法28条は旧借家法時代の判例の考え方を明文化したものであり、判断の枠組み自体に大きな変化はありません。
2
参考事例(東京高判平成12年3月23日判決)
(1)
東京都港区赤坂の高級住宅地にある築40年を経過したアパートの明渡請求事件で、賃貸人は賃貸アパート(本件アパート)の取り壊しを計画し、自己所有の周辺土地との一体利用によるマンション建築によって土地を有効利用する必要性を主張しました。また、賃貸人は、建物の老朽化のため建替が必要性であることも併せて理由としました。
(2)
これに対し、賃借人は82歳と老齢であり身体障害者3級にも該当しており、転居は大きな負担になることなどを主張しました。
(3)
裁判所は、木造のアパートについて、物理的な老朽化のみならず、昭和34年の建築から40年を経過しており経済的な効用も既に果たしていると言及しています。また、賃貸人は、本件アパートにおいて賃借人以外の8戸中7戸から退去をとりつけており、本件アパートには賃借人のみが居住していることや、本件アパートに隣接する賃貸人所有の別のアパートについても8戸中5戸の退去が完了していることなどから、裁判所は土地再開発の計画が進展していると認定しました。
結局、裁判所は、建物の老朽化、アパート所在地の地理的条件から、本件アパートおよび隣接アパートの建物の改築計画を持つことは合理性があるとし、転居に当面必要な費用として200万円の立退料があれば賃貸人の正当事由が補完されると判断しました。
3
まとめ
賃料が低く効率の悪い老朽貸家を賃貸マンションに建替えたいという事例は比較的よく見受けられます。本事例は都心の一等地であることが、再開発の必要性に大きく影響していると思われます。また、建物の老朽化も正当事由を補強したといえます。ただし、本件よりさらに建物の老朽化が進み、建物が倒壊の危険があるような状況であっても、そのような危険防止という公益上の理由だけでは正当事由の具備は困難である場合もあります。あくまで賃貸人側の、具体的な利用計画があるからこそ建物の老朽化が正当事由を補うかたちで機能していることにご注意ください。
なお、立退きをめぐる紛争が生じた場合、個別の事情が大きく影響しますので、上記参考事例の立退料の額や正当事由の有無の判断は、あくまで一つの参考としてご理解ください。

Q:
私は1階を店舗として賃貸し、2階に自らが居住している木造2階建の建物を都心に所有しています。このたび、建物が老朽化しているので7階建てのビルに建替えることを検討しており、1階を自ら使用する店舗とし、2階を居住用として使用することを考えています。このように、店舗として営利目的で賃貸している建物について、賃貸人が店舗兼住宅として建物利用を計画している場合、正当事由はどのように判断されるのでしょうか?
A:
1
正当事由とは
借地借家法28条は「(更新拒絶の通知または解約の申入れは)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」としています。
平成4年以前の契約は旧借家法が適用となりますが、借地借家法28条は旧借家法時代の判例の考え方を明文化したものであり、判断の枠組み自体に大きな変化はありません。
2
参考事例(東京高判平成10年9月30日)
賃貸人は築50年を経過した東京都港区の六本木に近い商店街に所在のする木造2階建ての建物(以下「本件建物」といいます)の2階部分に家族で居住し、1階部分を高級婦人下着の専門小売店舗として月額賃料約26万円で賃貸していました(賃貸面積約90㎡)。この賃貸人が賃借人に解約を申入れた事例です。
(1)
賃貸人側は、本件建物の朽廃ないし老朽化により建替えの必要性が切迫していることに加え、本件建物を7階建てのビルに建替えた後、1階店舗部分で家族がインテリアウェアの陳列販売を計画し、2階には引き続き居住する予定であることを主張しました。また立退料についても500万円を提供する用意があるとしました。
(2)
これに対し、賃借人側は本件建物1階店舗で昭和30年代半ばから営業しており移転は固定客を失わせることや、本件建物の立地が、麻布、白金、広尾などの高級住宅地からのアクセスが良く、高級婦人下着の立地として他に類をみない好立地にあり、代替物件の確保が困難であることを強調しました。また、過去の近隣への出店での失敗経験などから、店舗の移転で生活基盤の全てを失い兼ねないと主張しました。
(3)
裁判所は、建物の老朽化については、建物が傾いていて2階部分は居住に適した状態ではないとしつつも、木部の腐朽状態は深刻ではないとし、比較的簡単な工事(500万円程度の費用)で建物の寿命は10年延びると判断しました。また、本件建物の所在地が容積率500%で、再開発の進む商業地域であり、今後相当の費用をかけて建物の延命を図るよりは、建替えによって高層化し、自己所有建物で家族らとの居住と営業を実現したいという希望も無理からぬものがあると、賃貸人側の事情に一定の理解を示しました。しかし、賃貸人が他にも不動産を所有しており、本件建物以外に居住用建物を確保することがそれほど困難ではないとする一方で、賃借人は新しい店を確保しても営業不振ないし、廃業のリスクさえあるとして本件建物使用の必要性は賃借人の方が賃貸人に勝っていると判断しました。結局、裁判所は、賃借人の不利益を4000万円の立退料で補填して初めて賃貸人の解約申入は正当事由を満たすと判決しました。
3
まとめ
店舗のような営利目的の賃貸借の場合、居住目的の建物の賃貸借の場合に比較して、賃借人側の営業(顧客基盤、立地など)や代替物件の取得の困難性に対する配慮が厚くなされ、立退料についても、一般的に営業補償的な側面が加味されます。中には、立退料によっても正当事由を補完できないとされる事例もあります。

Q:
私は、鉄骨4階建てのビルを賃貸している大家です。この度、建物の老朽化が激しいため現在本件建物を取り壊し、周囲の土地と合わせて大規模な住宅棟及び商業用ビルを建築する予定です。借家人に立ち退いていただく場合には、正当事由が必要と聞いておりますが、このようなケースで正当事由が認められのた事例を教えてください。
A:
1
ご質問のようなケースで正当事由の存在を肯定し、立退きを認めた事例として以下の事例があります。
2
(事案)
(1)
その事例で問題となった建物は、都心にある築後30年を経過した鉄骨4階建てのものでした。
(2)
賃貸人は、正当事由として以下のような主張をしました。
(イ)
本件建物は、昭和42年に新築されたものであり、建築後すでに約30年が経過している。
(ロ)
本件建物は、現在老朽化が著しく、屋根や外壁の腐食及び鉄骨部分の老化などが進行し、各所に水漏れがある。これらに応急的な補修措置を施すだけでも約1440万円の費用がかかる。
(ハ)
賃借人は、東京都内において本件建物のほかにも世田谷に店舗を有しており、その店舗の売り上げは本件建物における売上の2倍となっているので、本件建物における営業は、賃借人の営業のうち主たるものとはいえない。
(ニ)
立退料として2900万円または裁判所が相当と認める額を支払う用意がある。
(3)
賃借人は以下のように主張しました。
(イ)
立退き条件によっては本件建物から退去することは拒否しない。
(ロ)
被告は本件建物において30年以上営業をしてきた。
3
(判旨)
その事例において、裁判所は4200万円の立退料の支払いを条件として正当事由を認めました。(東京地裁平成9年9月29日)
Q:
私は、建物を賃貸しており、賃借人はそこで青果店を営んでいます。ところが、その建物の老朽化が著しく倒壊の危険さえある状態です。そこで、取り壊しのために賃貸借契約の解約の申入れをしたいのですが、店舗として利用されている建物の賃貸借契約においてこのような場合に正当事由を満たすためには立退料の提供は必須でしょうか?
A:
1
正当事由とは
借地借家法28条は「(更新拒絶の通知または解約の申入れは)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」としています。
平成4年以前の契約は旧借家法が適用となりますが、借地借家法28条は旧借家法時代の判例の考え方を明文化したものであり、判断の枠組み自体に大きな変化はありません。
そして、立退料はあくまで、正当事由を補完するための要素であり、立退料がなくても正当事由を満たす場合はあるのです。
2
参考事例(東京地判平成17年7月15日)
この事例はご相談と類似の事例で、立退料なくして賃貸人の解約申入れに正当事由が認められたものです。事実関係は次のとおりです。
賃貸の対象となっている建物は木造2階建てで1階部分が30㎡、2階が16㎡で、築100年が経過しているものです(以下「本件建物」といいます)。
賃貸借契約は昭和20年から続いており、賃料は裁判時に月額2万3000円でした。
本件建物は梁や桁などの構造を一つとするいわゆる棟割長屋の一部で、賃貸借の対象となっている場所以外は空き家でした。老朽化により建物は南西側で1メートルに9cm、同じく東南側で1メートルに4.5cmの傾斜が認められ、屋根瓦が落下するおそれがありました。専門家によれば、耐震性能評価の値が0.7未満は倒壊または大破壊の危険があるとされるところ、本件建物の値は0.06であり、主要構造部位を補強する工事をするとなると600万円程度の費用がかかると見積もられていました。
ただ、賃貸人は特にこの建物を自ら使用する必要はなく、逆に賃借人は代々青果店を営んでおり、顧客は近隣に固定していました。
もっとも、賃借人は64歳で店の売上は1日約2万円であり、今後も厳しい経営が予想されるうえ、現に親類から月額20万円の支援をうけていました。
このような事情から、裁判所は賃貸人の解約申入れにそれ自体で正当事由があると判断しています。
3
まとめ
このケースは、賃貸人側の自己使用の必要性がなく、賃借人の建物使用の必要性が高いとされたケースであったにもかかわらず、建物の老朽化の程度が著しく建築物としての使用に耐えうる状態でないことや、青果の販売のみで賃借人が生計を維持しているものではないという特殊性から、立退料の提供なくして正当事由がみとめられたものといえます。
(ホ)

土地収用

Q:
私は、建物をある会社に賃貸しています。この度、その建物の敷地が道路拡張工事のための買収候補地となりました。一般に、借家人に立ち退いてもらう場合には、正当事由が必要と聞いていますが、このような公益的な理由によって正当事由が認められることがあるのでしょうか?
A:
1
正当事由とは
旧借家法には、貸主が借家人に契約の更新拒絶あるいは解約申し入れをするには、「自ら使用することを必要とする場合その他正当の事由のある場合」であることが要求されていました。しかし、その他の要素について法律は明記しておらず、個別のケースにおいても正当事由の有無は、貸主・借主双方の一切の利害得失の比較考察のほか、公益上、社会上その他の各種事情も考慮して判断するというのが判例の傾向でした。
その後、借地借家法(平成4年施行)28条は「(更新拒絶の通知または解約の申入れは)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」としています。
2
参考事例(東京地判平成9年11月7日)
京浜急行蒲田駅から徒歩1分に立地する木造2階建ての建物(以下「本件建物」といいます。賃料月額25万円、床面積不詳。)について賃貸人が賃貸借契約の解約の申入れをしました。
(1)
賃貸人側の事情として、本件建物の敷地は東京都の道路拡張工事のため買収候補地として選定されたこと、本件建物の賃貸借契約には「都市計画などにより賃借物件が収去される場合は本契約は当然に終了する」との条項があり、賃借人も道路拡張工事を予想していたこと、立退料として相当の金額(額は明示せず)を支払う用意があることなどを主張しました。
(2)
賃借人側は、本件道路拡張工事は、計画のみで今後数十年しても具体化されるものではないこと、本件建物の1階を倉庫兼車庫、2階を事務所兼居宅に使用し賃借人(会社)の営業上重要な建物であること、本件建物に匹敵する好立地の代替物件は容易に見つからないこと、などを主張しました。
(3)
裁判所は、道路拡張計画が緩やかながら着実に進捗しているとし、また本件建物が道路拡張工事のため買収候補地として選定されたことを重視する一方、賃借人にとって、本件建物が重要であることにも言及しました。結局、賃料の6.8年分に相当する2048万円(=鑑定による借家権価格1662万円と営業補償386万円の合計額)の立退料の支払を条件として、正当事由が認められるとしました。
3
まとめ
参考事例は、旧借家法が適用される契約であり、賃貸人が自ら居住する必要があったわけでもありません。しかし、裁判所は、「賃貸人の事情は自己使用に準じた」ものであるとして、公益的理由をその中に取り込み、立退料による補完によって正当事由を導いたといえます。
なお、立退きをめぐる紛争が生じた場合、個別の事情が大きく影響しますので、上記参考事例の立退料の額や正当事由の有無の判断は、あくまで一つの参考事例としてご理解ください。
(ヘ)

近隣とのトラブル

Q:
私は所有する倉庫を、古紙回収業を営む者に対して、賃貸しているのですが、その倉庫の周辺の住民から塵、悪臭について苦情が出ています。そこで、次の賃貸借契約の更新を拒絶したいのですが、建物の賃貸借契約の更新を拒絶するためには、正当事由が必要と聞きました。このような賃貸物件の周囲の住民からの苦情により正当理由が認められるかについてはどのように考えられているのですか?
A:
ご質問のような事例については、以下のような事情に即して考えられているようです。
まず、賃借人の営業から生じる弊害により、賃貸人が直接公害ともいえる被害を受けている場合には、正当事由が認められやすいと言えます。
次に、賃借人の営業から生じる弊害により、賃貸人が間接的に、地価の下落等の被害を受けている場合にも比較的正当事由が認められやすいとされています。
また、賃貸人が金銭的不利益を受けておらず、被害住民から苦情を受けているにとどまる場合には、明け渡しを求めることは原則として困難であるとされています。もっとも、この場合でも公害発生が重大で、かつ裁判による営業の差止請求を無視するなどの事情がある場合には正当事由が認められるとされています。