株式会社経営には常にリスクがつきまといます。取締役が自己の経験や専門知識に基づいて、株式会社のために良かれと思って下した判断が、結果として誤っている場合はあり得るものです。しかし、そんなとき常に取締役の責任が問われるとなれば、取締役の行動は萎縮し、ひいては株式会社の発展が阻害されるおそれがあります。
よって、取締役の経営上の判断については、善管注意義務違反が成立する範囲が限定される場合があります。
アメリカの判例法上発展してきた理論に「経営判断原則」というものがあります。これは、「取締役が株式会社及び彼の権限内において、ある決定を下した場合には、その決定の合理的な根拠があり、かつ彼が株式会社の最良の利益であると合理的に信じた事柄以外には影響を受けずに、彼独自の裁量と判断の結果として、当該決定を下したのであるならば、裁判所は経営内部事項には干渉しないし、裁判官の判断をもって取締役の決断に代替せしめることはない」というものです。
我が国の裁判例においても、これと類似の考え方を示すものが少なからず見受けられます(東京地判平成16・9・28判時1886号11頁など。)。
もっとも、日本の裁判所は取締役等の決定の内容の合理性を実質的に審査する手法をとっており、この点でアメリカの経営判断原則とは異なります。
本判決は、子会社株式の買取りの適否という事例判断の形式をとってはいるものの、経営判断一般について適用されうるような審査基準を示している点で注目される。
本件は、Z社の株主であるXが、同社の取締役であるYらに対し、YらがA社の株式を1株当り5万円の価格でZ社から買い取る旨の決定をしたことにつき、取締役としての善管注意義務違反があると主張して、Z社に対して連帯して約1億3000万円を支払うよう求めた株主代表訴訟の事案である。
最高裁は、事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられており、この場合における株式取得の方法や価格についても、取締役において諸般の事情を総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないとした。
このように、本判決は、決定の過程と内容に著しく不合理な点がないかという判断基準を採用した。