取締役の責任-監視義務違反

株主代表訴訟マニュアル

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取締役の責任-監視義務違反

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ある取締役に不適切な業務執行があり、これにより株式会社に損失が生じた場合、その業務に関与しなかった取締役が責任を問われる場合はあるか。また、どのような場合に責任を問われることになるのか。

監視義務

代表取締役はもちろん、一般の取締役も他の代表取締役又は取締役の行為が法令・定款を遵守し適法かつ適正になされていることを監視する義務を負います(最判昭48・5・22判時707号92頁)。
もし、この注意義務に違反して他の取締役の不適正な職務執行を阻止しなかった場合には、たとえ彼がその業務に直接タッチしていなかったとしても、株式会社の被った損害を賠償する義務が生じます。

監視義務の範囲

取締役会に上程されていない事項についても監視義務を負うか
取締役会に上程された事項について取締役が監視義務を負うことについては異論がありませんが、判例・通説は、取締役会に上程されなかった事項についても監視義務を負うとしています(前掲最判昭48・5・22判時707号92頁)。
取締役会に上程されていない事項についての監視義務の制限
取締役会に上程されなかった事項については、一定の基準で取締役の監視義務の範囲が限定されるものと解されます。このような限定基準を示した判例としては、次のようなものがあります。
(ア)
前橋地高崎支判昭49・12・26判時780号96頁
「取締役会に上程された事項についてはもとより、そうでない事項についても、業務執行が不正、不当に行われる惧れある場合には、自ら取締役会を招集し……、又は招集権ある取締役にその招集を求める……ことによって、業務執行に対する取締役会の監督の権能の行使……に遺憾なきを期すべき義務があるものといわねばならない。」
(イ)
札幌地判昭51・7・30判時840号111頁
「取締役会に上程されない事項については代表取締役の業務活動の内容を知ることが可能である等の特段の事情がある場合に限って認められると解すべきである。」
(ウ)
大阪高判昭53・4・27判時897号97頁
「平取締役は取締役会に現われない業務には関与し得ないから、代表取締役や他の取締役が、取締役会の決議に基づかずにした違法行為について、第三者の側で①その責任を追及しようとする平取締役が代表取締役や他の取締役のした右違法行為を知っていたこと、または②相当の注意をしなくても容易に知ることができたのに漫然と看過したこと、したがって③取締役会で事前監視が可能であったにもかかわらず右平取締役が監視権発動に必要な処置をしなかったことについて故意または故意に準ずべき過失(重過失)があったことを、第三者において立証すべき責任があるものといわなければならない。」
(エ)
東京地判昭55・4・22判時983号120頁
「取締役会に付議された以外の事項については、取締役の監視義務違反の責任を追及するには、代表取締役の業務活動の内容を知りもしくは容易に知りうべきであるのにこれを看過したことなどの特段の事情が必要であると解すべきである。」

代表取締役の他の取締役に対する監視義務

代表取締役は平取締役よりも広い領域にわたり深く関与しているのが常ですから、他の取締役の不適正な業務執行行為を、平取締役よりも容易に発見し得る立場にあります。したがって、代表取締役は平取締役より広い範囲で注意義務を負い、それだけ監視義務違反の責任を問われる可能性が高くなるといえます(代表取締役の、他の代表取締役に対する監視義務違反を認めた判決例として、最判昭44・11・26判時578号3頁等)。

特定部門の業務担当取締役の、他の取締役に対する監視義務

特定の部門を担当する取締役は、自己の担当する部門についてのみ注意を払い、他の部門には十分には注意を払わないことが少なくないと思われます。しかし判例は、このような取締役も、他の部門の取締役の業務執行につき監視義務を負うとしています(最判昭48・5・22判時707号92頁、東京高判昭53・8・4判タ371号153頁)。
もっとも株式会社の規模が大きくなると、業務が部門別に分けられ、各取締役の担当する業務は専門化されていきます。このような状態において、各取締役が互いに他の取締役を積極的に監視し合うことが義務付けられるとすると、株式会社の運営が円滑に進まなくなるおそれがあります。したがって、このような事情は、監視義務違反を否定する方向に働くファクターになると解されます。

名目的取締役の監視義務

いわゆる閉鎖株式会社や同族株式会社においては、多くの場合、株式会社の業務に関与しないいわゆる名目的取締役が存在します。裁判例は、このような名目的取締役については、通常の取締役に比して責任を緩和する傾向にあります。
例えば、大阪地判昭55・3・28判時963号96頁は、「取締役としての報酬も受けておらず、出資もしていなければ、その経営にも参画していない単なる名目的形式的取締役については、代表取締役ないしはその代行者がその任務に違背し、違法な業務執行をして株式会社または第三者に損害を与えることを知り、又は、容易にこれを知り得た等の特段の事情のない限り、取締役会の開催を求めるなどして代表取締役ないしはその代行者の業務執行を監視するまでの義務はなく、仮に右義務があるとしても、右義務を懈怠したことにつき悪意又は重過失はないと解するのが相当である。」としています(会社法429条1項に相当する平成17年改正前商法266条の3第1項の対第三者責任に関するもの)。
また、大阪地判昭54・3・23判時931号119頁は、「出資もせず、報酬も受けず、ほとんど名目上の取締役として名を連ねたに過ぎず、株式会社業務についての専門的知識経験も有しないなど、……に徴すれば、……任務懈怠につき、商法266条の3、1項にいう「悪意又は重大な過失」が存したものとみることはできない。」(会社法429条1項に相当する平成17年改正前商法266条の3第1項の対第三者責任に関するもの)としています。
このように、裁判例は、具体的な事案に応じて名目的取締役の責任に一定の制限を加えているものと理解されます。

その他の取締役の監視義務

選任決議を欠く登記簿上の取締役
最高裁昭47・6・15民集26巻5号984頁は、選任決議を欠く登記簿上の取締役について、当該不実の登記につき取締役本人が承諾を与えた場合、同人は不実の登記の出現に加功したといえ、商法14条の類推適用により、善意の第三者に対して不実の登記であることを対抗できないとした。