取締役の責任-競業取引

株主代表訴訟マニュアル

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取締役の責任-競業取引

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取締役が株式会社の事業と競業する取引をした場合、その取締役は株式会社に対し、どのような責任を負うか。また、取締役会の承認を得て競業取引をした場合はどうか。

はじめに

取締役が自己又は第三者の利益のために株式会社の事業の部類に属する取引(競業取引)を自由にできるとすると、株式会社の取引先を奪うなど、株式会社の利益を害するおそれがあります。そこで、株式会社の利益を保護するため、取締役会設置株式会社では、取締役が競業取引を行う場合には、事前に取締役会の承認を得なければなりません(会社法356条1項1号、同法365条1項。取締役会非設置株式会社では株主総会の承認を得ることになります)。
取締役がこの規定に違反して取締役会の承認を得ないで競業取引をした場合は、会社法423条1項に基づき株式会社に対し責任を負います。また、取締役解任の正当事由(会社法339条)になることがあります。
競業取引につき、取締役会の承認を得ていた場合には、その結果株式会社に損害が生じても当然には損害賠償責任は生じませんが、取締役に善管注意義務違反等がある場合には会社法423条1項に基づいて損害賠償責任を負うことがあります。
また、承認を受けたかどうかにかかわらず、競業取引をした取締役は、遅滞なくその取引につき重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社法365条2項)。

取締役の責任を認めた判例

競業行為につき取締役の責任を認めた判例としては、以下のものがあります。
東京地判昭56・3・26判時1015号27頁
代表取締役が、自社と競業関係にある株式会社のほとんど全株式を自ら買収し、事実上の主宰者としてその経営を行い、また別に自らがほとんど全額を出資して競争株式会社を設立し、その代表取締役として経営を行い、元の株式会社の市場及び事業機会を奪ったというケース。
東京地判昭63・3・30判時1272号23頁、控訴審東京高判平1・10・26金融商事判例835号23頁
東京地判昭63・3・30判時1272号23頁、控訴審東京高判平1・10・26金融商事判例835号23頁
大阪高判平2・7・18判時1378号113頁
代表取締役が株式会社の経営を専行する一方、別株式会社を設立し、自己に忠実な従業員を別株式会社の役員に据えたり、出向させたりし、また、自社の機械設備を譲渡するなどして、その別株式会社を自社と競合する有力な株式会社に成長させたというケース。
東京地判平2・7・20判時1366号128頁
夫婦で株式会社の共同代表取締役としてその経営に当たっていたが、その後夫婦関係が悪化し、夫は妻の下を去り、同業種の株式会社を設立し、その代表取締役として活動したというケース。

取締役の責任を否定した判例

取締役の責任を否定した判例として、以下のものがあります。
高知地判平2・1・23金融商事判例844号22頁
取締役営業部長であったYは、代表取締役から交際費着服などの嫌疑をかけられたこと等から取締役を辞任して退職し、同じ頃退職した従業員とともに別株式会社を設立して同種の営業を行ったという事案で、後任取締役の就任までの間における取締役としての忠実義務違反及び善管注意義務違反を問われたケースで、裁判所は、「被告Aは、形式的には、Bが後任の取締役として就任した昭和59年7月23日まで、原告の取締役としての権利義務を有していたものというべきであるけれども、同被告が、退職の意思を強く表明した同年1月8日以降において、原告が、後任取締役を速やかに選任すべき義務を真摯に尽くしていたならば、原告のその当時の株主構成からみて、同被告が退職した同月25日までに後任取締役を選任できていたものと認められるのに、同被告から同年2月中旬に後任取締役を早急に選任するよう要求されたにもかかわらずその努力をすることなく放置し、………これら諸事情を勘案すれば、原告が、……被告退職後の被告河野になお原告に対する忠実義務及び競業避止義務があることを主張するのは、……信義則に反する主張として許されないというべきであり、したがって、原告が、商法266条1項5号(会社法423条1項。筆者注)に基づき、同被告に損害賠償を請求することは、権利の濫用として許されない。」と判示。
東京地判平3・8・30判時1426号125頁
従業員3名の退職が、取締役の不当な退職勧誘によるものとして取締役が忠実義務違反に問われたケースで、従業員の退職はその取締役の退職勧誘によるものではなく、その取締役には忠実義務に違反する行為はないと判示。

損害額の推定

競業行為による株式会社の損害については、その損害額の立証はきわめて困難です。そこで、株式会社の利益を保護するため、法は、競業取引により取締役又は第三者が利益の額をもって株式会社が受けた損害の額と推定しています(会社法423条2項)。
もし、株式会社の受けた損害が、この利益額よりも多いことが立証できれば,その分についても賠償を請求できます。