取締役の責任-責任の免除・軽減、消滅

株主代表訴訟マニュアル

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取締役の責任-責任の免除・軽減、消滅

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取締役の株式会社に対する責任は、どのような場合に免除・軽減され、又は消滅するか。

総株主の同意による責任の免除

取締役の株式会社に対する責任は、次の場合には、総株主の同意があれば免除されます 。
株式会社に対する損害賠償責任(会社法424条)
株主の権利行使に関する利益供与に関与した取締役等の支払義務(会社法120条5項)
剰余金配当に関する取締役等の支払義務(会社法462条3項。ただし、免除できるのは分配可能額までの額に限られます)
「総株主の同意」とは、株主総会による株主全員一致の決議を意味するものではありません。株主一人一人から個別に同意を得ればよいわけです。ただし、この免除は、法的には株主代表訴訟提起権の放棄の意思表示と解されますので、取締役が責任を免除されるためには、議決権を有しない株主からも同意を得る必要があります。
総株主の同意により免除されるのは、既に発生した責任だけであり、たとえ総株主の同意があったとしても、将来にわたって生ずべき取締役の株式会社に対する責任一切を免除することはできません。

責任の軽減(一部免除)

株主総会決議による事後の軽減
(ア)
会社法423条1項に基づく役員等の株式会社に対する責任(ただし、取締役等が自己のためにした利益相反取引はこの限りではありません。会社法428条2項)は、その取締役に「職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないとき」は、賠償責任を負うべき額から次の金額の合計額(「最低責任限度額」といいます)を控除した額を限度として、株主総会の特別決議で免除することができます(会社法425条1項、会社法309条2項8号)。
1)
当該役員等がその在職中に株式会社から職務執行の対価として受け、又は受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額について、代表取締役又は代表執行役の場合は6年分、代表取締役以外の取締役(社外取締役を除く)又は代表執行役以外の執行役の場合は4年分、社外取締役・会計参与・監査役又は会計監査人の場合は2年分
2)
当該役員等が当該株式株式会社の新株予約権を引き受けた場合(会社法283条3項の場合に限る)における当該新株予約権に関する財産上の利益に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額
(イ)
上記の責任軽減の議案を株主総会に提出するには、監査役(委員会設置株式会社では監査委員)全員の同意を得なければなりません(会社法425条3項)。
(ウ)
責任軽減の議案について決議する株主総会では、次の事項を開示しなければなりません(会社法425条2項)。
1)
責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
2)
決議により免除できる額の限度及びその算定根拠
3)
責任を免除すべき理由及び免除額
(エ)
責任軽減の決議があった場合は、株式会社が決議後にその役員等に対し、退職慰労金その他法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、株主総会の承認が必要です(会社法425条4項第1文)。
この取扱は、責任軽減の決議があった場合において当該役員等が決議後に新株予約権証券を行使し、又は譲渡するときも同様です(会社法425条4項第2文)。また、役員等が新株予約権証券を所持するときは、株式会社に遅滞なく預託しなければならず、その譲渡のため返還を求めるには事前に株主総会の承認決議を経ることが必要です(会社法425条5項)。
定款規定及び取締役会決議に基づく軽減
(ア)
株式会社は、前記(イ)(a)の場合と同じ主観的要件・軽減の限度で、取締役会決議(取締役会設置株式会社又は委員会設置株式会社の場合。取締役会非設置株式会社では責任を負う取締役以外の取締役の過半数の同意が必要です)によって役員等の責任を軽減することができる旨の定款規定を設けることができます(会社法426条1項)。
ただし、この定款規定を設ける場合でも、役員等の責任の軽減が許されるのは、「責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるとき」に限られます(会社法426条1項)。
この定款の定めは登記することが必要です(会社法911条3項23号)。
(イ)
監査役全員の同意は、責任軽減の定めを設ける定款変更議案を株主総会に提出する場合だけでなく、責任の軽減に関する議案を取締役会に提出する場合にも必要となります(会社法426条2項)。
(ウ)
上記の定款規定に基づいて取締役会が取締役の責任を軽減する決議を行ったときは、遅滞なく、①責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額、②決議により免除できる額の限度及びその算定根拠、及び③責任を免除すべき理由及び免除額並びに免除に異議があれば1箇月以上の一定の期間内に異議を述べる旨を公告し、又は株主に通知しなければなりません(会社法426条3項)。
(エ)
上記期間内に総株主(責任免除の対象となる役員等を除きます)の議決権の3パーセント以上(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が同期間内に異議を述べたときは、株式会社は責任軽減をすることができません(会社法426条5項)。
(オ)
責任免除後の退職慰労金の支給等については、アの場合と同様です。
定款規定及び責任限定契約に基づく事前の軽減
(ア)
社外取締役・会計参与・社外監査役・会計監査人については、上記ア(イ)の場合と同じ責任について上記アの場合と同じ主観的要件・責任の限度で、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を社外取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができます(会社法427条1項)。
この定款の規定と社外取締役・社外監査役である旨は登記することが必要です(会社法911条3項24号ないし26号)。
この契約を締結した社外取締役等が当該株式会社又はその子株式会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人に就任したときは、当該契約は、将来に向かってその効力を失います(会社法427条2項)。
(イ)
監査役全員の同意は、定款を変更して上記の定款の定めを設ける議案を株主総会に提出する場合に必要となります(会社法427条3項)。
(ウ)
責任限定契約を締結した株式会社が当該契約の相手方である社外取締役等が任務を怠ったことにより損害を受けたことをしったときは、その後最初に招集される株主総会において次に掲げる事項を開示しなければなりません。
1)
責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
2)
決議により免除できる額の限度及びその算定根拠
3)
責任を免除すべき理由及び免除額
4)
責任限定契約の内容及び当該契約を締結した理由
5)
当該社外取締役等が賠償責任を負わないとされた額
(エ)
責任免除後の退職慰労金の支給等については、アの場合と同様です(会社法427条5項)。

消滅時効

取締役の株式会社に対する責任は、10年の時効によって消滅します(民法167 条1項)。