本条第1項に定めた、 存続期間の定め、 契約の更新がない旨の合意、 公正証書等書面による契約、 賃借人に対する書面による説明等の要件が満たされ、 定期借家契約が有効に成立している場合のみ、 賃借人は本項の解約権を行使できます。
いずれかの要件を欠くために定期借家契約として無効な場合には、 賃借人は上記1に説明したとおり普通借家契約であることを前提とした解約権しか行使できません。
上記(ニ)の要件が定められていることから、 この要件も必要であると考えられます。
借家の目的が、 生活の本拠としての住居以外のもの、 例えば事業所、 店舗、 工場、 倉庫あるいは別荘等である場合には、 本項による解約は認められません。
住居と事業所等他の利用目的が並存している場合には、 住居としての使用と認めるべきでしょう。
ここで床面積の計算について、 建物の一部分の賃借である場合には、 当該賃借部分のみの床面積であることは括弧書きにより明示されています。
2階建以上の建物であれば、 各階の床面積を合算します。 建物が複数であれば、 契約が一個である限りその床面積を合算すべきであると解されます。 但し、 小規模な物置等付属建物の床面積は合算しないことも考えられます。 これらの問題は今後の判例に委ねられることになります。 公簿上の床面積と実面積に差がある場合、 契約締結後、 増築等により床面積が変動した場合にいずれを優先するかについても同様です。
建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となった事情は、 列挙された転勤、 療養、 親族の介護に限りません。 しかし、 それが賃貸人の賃料収入への期待利益に優先するものである以上、 列挙されたものと同程度の緊要性があると社会通念上認められることが必要と解するべきでしょう。 例えば、 建物自体や周囲の環境が自分の趣味に合わないというような主観的事情は 「やむを得ない事情」 とは言えません。 逆に、 近隣に高速道路ができ、 騒音で安眠できない等の事情があれば、 解約権が認められるものと思われます。 この要件についても、 判例の集積が待たれるところです。
以上の要件のいずれかが欠けている場合、 賃借人に解約権はなく、 解約申入れをしても法律上無効です。
但し、 賃借人の解約申入れが無効であっても、 賃貸人が任意の解約に応じることは勿論可能です。