38条第1項

定期借家実務マニュアル

第2

定期借家制度 条文解説

集合写真
38条

第1項

本条の趣旨

本条は、 一定の存続期間を定めて、 新たに建物賃貸借契約を締結する場合において、 契約の更新がないことを定めることができる旨を定めています。 このような建物の賃貸借契約を定期建物賃貸借契約または定期借家契約と総称します。定期借家契約では、 契約の更新が排除され、 借地借家法第28条の正当事由条項の適用はありません。 したがって、 定期借家契約では期間の満了により、確定的に契約関係が終了します。
定期借家の制度は、 従前からの借家契約の更新に関する借地借家法の保護が良質な賃貸物件の供給の阻害要因になっているとの認識に立ち、 このような状況を打破して賃貸物件に関する多様なニーズに対応しようとして創設された制度であるといえます。
この制度の創設をめぐっては、 社会的に大きな意見の対立がありました (その詳細は、 前記 「定期借家法成立とその背景」 に記載されているとおりです) が、 その対立を乗り越えて、定期借家制度が実定法の制度として確立されました。

要件

(1)
概要
定期借家契約が有効に成立するためには次の要件が必要です。
(イ)
存続期間の定めがあること
(ロ)
建物の賃貸借契約であること
(ハ)
賃貸借契約のときに契約の更新がない旨の定めをすること
(ニ)
公正証書による等書面によって契約すること
(ホ)
建物の賃貸人は、 あらかじめ建物の賃借人に対し、 当該建物賃貸借は更新がなく、期間の満了によって終了する旨、 書面を交付して説明すること (以下 「事前説明」 又は 「事前説明書面」 といいます)。
(2)

各要件の解説

(イ)
存続期間の定め
法文上必ずしも明らかではありませんが、 始期を明示し、 終期も原則として確定期限で定めなければならないと解されます。
不確定な存続期間を定めた場合は、 賃貸借契約そのものが無効となるのではなく、 契約の更新がないこととする定めが無効となり、 正当事由条項による存続保証のある普通の借家契約になるものと解されます。
なお、 借家人が死亡するまでとする定めは、 不確定期限を定めるものとして定期借家が成立しないかどうかについては争いがあります。 借家人死亡までとする期間の定めは、 借家人を害することが少なく、 貸主も相続がないなら安心して貸せるという点で、 例外的にこのような期限の定めのある場合も定期借家が成立すると解する余地があります。
(ロ)
建物の賃貸借契約であること
定期借家契約成立のためには、 建物の賃貸借契約でさえあれば、 当該建物の用途 (業務用か居住用か等)、 地域、 最低存続期間、 最長存続期間、 家賃の高低、 広さ等の制約は全くありません。
前述のとおり賃貸借契約の最長期間を20年とする旨の民法第604条の規定が建物賃貸借契約に適用されないこととなりました。また、本条で存続期間が1年未満の建物の賃貸借契約は期間の定めがないとする借地借家法第29条第1項の規定が定期借家契約には適用されないこととなりました。 この結果、 定期借家契約では、1年未満から20年以上の存続期間の定めのあるものまで、期間の縛りのない契約をアレンジすることが可能となりました。
(ハ)
賃貸借契約のときに契約の更新がない旨の定めをすること
存続期間満了時に賃貸借契約が終了し、 更新はない旨の定めを賃貸借契約締結の時にすることが必要です。 賃貸借契約を締結した後にこの定めを追加的に付加しても、 その定めは無効です。 この更新拒絶の条項は定期借家契約の重要な部分であり、更新しない旨の契約であることが一義的に明確な文言で記されている必要があります。
なお、定期借家契約に、再契約ができる旨の条項を設けるものがあります。かかる条項があるからといって、すなわち更新拒絶の定めの効力が失われるわけではありませんが、更新拒絶の条項と矛盾しない文言であるか否かについては注意を要してください。
(ニ)
書面性
本条の定期借家契約は書面でしなければなりません(要式契約)。 その趣旨は、 借家人が存続期間満了時に契約が終了し、 契約の更新がないことを十分に理解したうえで賃貸借契約に臨むことを確保することにあります。
書面は、 公正証書である必要はありません。 「公正証書による等」 という例示は単に公正証書によることが望ましいという意味に解されます。
定期借家契約が書面によらずに締結された場合については、 法文上何らの規定もありませんが、 賃貸借契約全体が無効となるのではなく、 契約の更新がない旨の定めが無効になると解されます。 したがって、 書面が作成されなかった場合は、 通常の借家契約、 つまり正当事由による存続保証のある借家契約になるものと解されます。
(ホ)
事前説明
後述します(第2項の説明参照)。

効果

(1)
定期借家契約では、 存続期間の満了によって契約が確定的に終了します。契約の更新という概念はありません。 存続期間の満了により定期借家契約がいったん終了した後、 貸主と借主が引き続き定期借家契約を継続する場合、 これは契約の更新ではなく、 あくまで「再契約」つまり新規の契約ということになります。
(2)
定期借家はその他の点では普通の建物賃貸借と異なるところはなく、 建物賃貸借の対抗力 (借地借家法第31条)、 造作買取請求権 (同法第33条)、 建物賃貸借終了の場合における転借人の保護 (同法第34条)、 賃借人の死亡による賃借権の承継 (同法第36条) の規定の適用は排除されません。
(イ)
建物賃貸借の対抗力
定期借家の場合も、 その旨の登記がなくても建物の引渡が賃借人になされておれば、 賃借人は、 以後建物について物権を取得した第三者に対抗することができます。
(ロ)
造作買取請求権
定期借家の場合も、 賃借人は賃借人が建物利用のために賃貸人の同意を得て付加した造作がある場合には、 存続期間の満了により契約が終了するときに、 その造作を時価で買取ることを請求することができます。
造作とは、 判例上 「建物に付加された物件で、 賃借人の所有に属し、 かつ建物の使用に客観的便益を与えるもの」 とされています。
近時の判例上、 造作と認められたものとしては、 レストラン用店舗の調理台、 レンジ、 食器棚、 空調、 ボイラー、 ダクト設備一式 (新潟地判昭62.5.26判タ667号151頁)、 配電設備、 水洗便所、 シャワー設備 (東京高判昭31.3.22 民集7巻3号721頁)などがあります。 法文上 「畳、 建具」 が造作として例示されていますが、 今日では畳、 建具は賃貸建物に標準的に備え付けられ、 賃貸建物の一部と見られる場合が多いため、 法文が 「畳、 建具」 を例示するのは、 今日の実情に合っていないといえます。
なお、 造作買取請求権は、 当事者の特約で排除することができます。
(ハ)
建物転借人の保護
転貸借は、 基本となる賃貸借 (以下 「原賃貸借」 といいます) を前提にその範囲で成立しています。 原賃貸借が終了したときは、 転借人は転借権を原賃貸人に対抗できなくなり、 原賃貸人に目的物を返還しなければなりません。
このため、 原賃貸借の終了によって影響を受ける立場にある転借人を保護するため、 原賃貸人において原賃貸借が終了する事実を転借人に通知しなければ、 原賃貸人は原賃貸借の終了の効果を転借人に対抗できないという制度が定められています(借地借家法第34条)。
同条第1項、 第2項によりますと、 原賃貸人において原賃貸借が終了する旨の通知を原賃貸借が終了する日の6か月以上前に転借人に通知した場合には、 原賃貸人は原賃貸借の終了の日に転貸借も終了したとして、 転借人に対し目的物の明渡を請求することができます。 しかし、 原賃貸人において原賃貸借が終了する旨の通知を転借人にしたものの、 右通知から6か月が経過する日が原賃貸借の終了の日の後である場合には、 原賃貸人は右通知から6か月が経過するときまでは、 転貸借の終了を理由に転借人に対し目的物の明渡を請求することができません。
定期借家契約の場合にも借地借家法第34条の適用がありますから、 上記と同様のことがいえます。
期間が1年以上である定期借家契約を原賃貸借として、 これに基づいて適法な転貸借がなされている場合、 原賃貸人において原賃貸借が○年○月○日に終了する旨の通知を、 右終了日の6か月以上前に「転借人に」通知しておかなければ、 原賃貸人は、 原賃貸借 (定期借家) の終了の日に転借人に対し、 目的物の明渡を請求することができません。 もっとも、原賃貸借 (定期借家) の終了後でも、 右転借人に対する通知から6か月が経過すれば、 原賃貸人は転借人に対し、 その時点で転貸借が終了したとして、 目的物の明渡を請求することができます。
ところで、 期間が1年以上である定期借家契約の場合、 賃貸人は、 期間満了による賃貸借契約の終了を賃借人に対抗するためには、 期間満了の1年前から6か月前までの間に賃借人に対し期間満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をする必要があります (借地借家法第38条第4項)。 したがって、 期間が1年以上である定期借家契約において適法な転貸借がなされている場合は、 右賃借人 (原賃借人) に対する通知と同時に転借人に対しても原賃貸借が終了する旨の通知を出しておくのが現実的です。 そうすれば、 原賃貸借 (定期借家) が終了するときに、 同時に転借人に対しても転貸借の終了を主張することができます。
期間が1年未満の定期借家契約の場合、 法文上は明らかではありませんが、賃貸人は定期借家が終了する旨の通知をしなくても、 期間満了による賃貸借の終了を賃借人に対抗できると解されます。 したがって、 期間が1年未満の定期借家において、 適法な転貸借がなされている場合においては、 原賃借人に何らの通知もなしに原賃貸借の終了を対抗できますから、 転借人に対しても何らの通知なしに原賃貸借の終了と同時に転貸借の終了を主張することができると解せられます。
なお、 賃貸人の承諾のない不適法な転貸借契約には、 右転借人の保護規定の適用はありません。
(ニ)
賃借人の死亡による賃借権の承継
定期借家も相続、 その他の原因による承継に関しては、 一般の借家契約と同様です。 したがって、 定期借家も相続の対象となることはもちろん、 相続人がない場合に賃借人と同居していた内縁の配偶者または事実上の養親子があるときは、 それらの同居者が定期借家の権利義務を承継します。
定期借家では、 存続期間の満了によって契約が確定的に終了します。 定期借家の貸主は、 右定期借家の相続人又はその他の承継人に対し、 存続期間の満了による契約の確定的な終了を主張することができます。 相続人その他の承継人は、 期間満了後貸主と再契約をしない以上、 期間満了と同時に当該賃借建物を明渡す必要があります。
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