38条第5項

定期借家実務マニュアル

第2

定期借家制度 条文解説

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38条

第5項

本項の趣旨

借家契約においては、 賃貸人は、 契約期間の定めがあれば契約期間中の、 又、 契約期間の定めがない場合にも継続的な賃料収入を期待するのが通常であり、 賃借人による不意の一方的解約を認めると、 その利益を害します。 賃貸人の立場からは契約期間の定めのとおりの賃借が望ましいと言えます。
このため、 普通借家契約において、 1年以上の契約期間の定めがある場合には賃借人には法律上の解約権は認められていません。 又、 契約期間の定めがないか、 定められた契約期間が1年未満の場合 (借地借家法第29条) には、 賃借人は3か月の猶予期間を置いて解約申入れをすることができます。 この場合には、 賃借人は解約申入れ後も3か月間の賃料を払い続けることが必要です。 一般的に賃借人が契約の打切りを望む場合、 賃貸人は即時に任意の解約に応じるのが通常ですが、 これは賃借人の法律上の権利ではありません。 賃貸人が解約に応じない場合、 賃借人は上記の区別に従い3か月間または契約期間終了まで賃料を払い続けることが必要となります。
しかし、 賃借人の側から見ると、 何らかの事情により借家が不要となることもあります。 そして、 借家の目的、 建物の大小により類型化すると、 事業所としての利用では長期的安定的に継続して賃借するか、 ある程度の計画性をもって契約期間を定める場合が多いと考えられます。 又、 居住用においても、 床面積の比較的大きい借家においては世代間同居等を伴う多人数の居住が予定されている場合が多いと考えられ、 その中の一部の者に転勤等の事情が生じても、 尚居住の必要性が継続するのが通常と考えられます。
又、 大型の家屋を賃借している家族は経済的負担についても余力があると考えられます。
これに対し、 床面積の比較的狭い住居の場合、 単身又は核家族の居住用である場合が多いと考えられますが、 このような賃借人は、 急な転勤等による移転により継続して居住する必要がなくなることも少なくなく、 賃貸借契約の拘束により賃料の支払いを継続させることは酷だということになります。
そこで、 本項は、 定期借家契約において床面積200㎡未満の建物を対象とする居住用定期借家契約の場合には、 賃借人側にやむを得ない事情があることを条件として解約申入れの権利を与えました。 この場合、 賃借人は解約申入れ後1か月分の賃料のみ負担します。
本項は、 普通借家契約に比べて、 賃借人の保護を一歩前進させたものといえます。
本項が適用されない借家において、 契約期間の柔軟性を確保しようとする場合には、 契約期間を短くした上再契約を繰り返して借家を継続する形を取ることになるでしょう。

解約権行使の要件

(1)
概要
建物の賃借人が本項の解約権を行使するためには、
(イ)
有効な定期借家契約であること
(ロ)
借家の目的が生活の本拠としての住居として使用することであること
(ハ)
対象たる建物の床面積 (建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、 当該一部分の床面積) が200㎡未満であること
(ニ)
転勤、 療養、 親族の介護その他やむを得ない事情により建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったことが必要です。
(2)
有効な定期借家契約であること
本条第1項に定めた、 存続期間の定め、 契約の更新がない旨の合意、 公正証書等書面による契約、 賃借人に対する書面による説明等の要件が満たされ、 定期借家契約が有効に成立している場合のみ、 賃借人は本項の解約権を行使できます。
いずれかの要件を欠くために定期借家契約として無効な場合には、 賃借人は上記1に説明したとおり普通借家契約であることを前提とした解約権しか行使できません。
(3)
借家の目的が生活の本拠としての住居としての使用であること
上記(ニ)の要件が定められていることから、 この要件も必要であると考えられます。
借家の目的が、 生活の本拠としての住居以外のもの、 例えば事業所、 店舗、 工場、 倉庫あるいは別荘等である場合には、 本項による解約は認められません。
住居と事業所等他の利用目的が並存している場合には、 住居としての使用と認めるべきでしょう。
(4)
対象たる建物の床面積が200㎡未満であること
ここで床面積の計算について、 建物の一部分の賃借である場合には、 当該賃借部分のみの床面積であることは括弧書きにより明示されています。
2階建以上の建物であれば、 各階の床面積を合算します。 建物が複数であれば、 契約が一個である限りその床面積を合算すべきであると解されます。 但し、 小規模な物置等付属建物の床面積は合算しないことも考えられます。 これらの問題は今後の判例に委ねられることになります。 公簿上の床面積と実面積に差がある場合、 契約締結後、 増築等により床面積が変動した場合にいずれを優先するかについても同様です。
(5)
転勤、 療養、 親族の介護その他やむを得ない事情により、 建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったこと
建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となった事情は、 列挙された転勤、 療養、 親族の介護に限りません。 しかし、 それが賃貸人の賃料収入への期待利益に優先するものである以上、 列挙されたものと同程度の緊要性があると社会通念上認められることが必要と解するべきでしょう。 例えば、 建物自体や周囲の環境が自分の趣味に合わないというような主観的事情は 「やむを得ない事情」 とは言えません。 逆に、 近隣に高速道路ができ、 騒音で安眠できない等の事情があれば、 解約権が認められるものと思われます。 この要件についても、 判例の集積が待たれるところです。
(6)
要件の欠缺
以上の要件のいずれかが欠けている場合、 賃借人に解約権はなく、 解約申入れをしても法律上無効です。
但し、 賃借人の解約申入れが無効であっても、 賃貸人が任意の解約に応じることは勿論可能です。

解約申入れから契約終了までの期間

賃借人の解約申入れが認められる場合、 申入れから1か月を経過することによって、 賃貸借契約が終了します。 これは、 賃貸人に対し、 契約終了に伴う清算等の処理を行い、 あるいは、 次の入居者を募集する等の猶予期間を与えるためです。 勿論、 賃貸人が解約申入れ後1か月分の賃料請求権を放棄することは自由です。

本項の問題点

床面積200㎡未満の居住用借家で期間が長期になる場合、 賃貸人側としては、 安定的な借主として賃料を低く設定することもあります。
しかし、 本項の適用により契約期間終了前の早い時期に賃借人から解約された場合、 賃貸人の期待が裏切られることになります。
床面積200㎡未満の居住用借家においては、 期間が長期に亙る場合も賃料設定に際し、 本項による解約もリスクとして計算に入れておく必要があります。