38条第7項

定期借家実務マニュアル

第2

定期借家制度 条文解説

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38条

第7項

本項の趣旨

賃料不増減特約があれば契約期間中、賃料を変更させないことを可能とさせる条項です。定期借家による今後の賃貸住宅供給政策においては、 賃貸物件の収益の予測ができることが重要なポイントであると認識されています。 本項は、 このような認識に基づき、 賃料設定につき当事者の合意を優先して尊重し、 賃貸物件の収益予想を可能としようとする趣旨の規定です。

借地借家法第32条第1項は次のとおり規定しています。

「建物借賃が、 土地若しくは建物に対する租税その他負担の増減により、 土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、 又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、 契約の条件にかかわらず、 当事者は、 将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。 ただし、 一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、 その定めに従う。」
この規定は①家賃が不相当となったこと及び②不増額の特約がないことの二つの要件が備わっている場合に 「契約の条件にかかわらず」 増減請求権が発生することを規定しています。
この意味で、 借地借家法第32条第1項は強行規定の性格をもっています。 したがって、 減額しないという特約 (不減額特約) があっても、 前記の要件を充たせば右特約は無効となり、 賃借人について減額請求権が認められます。 また公租公課の変動や物価指数に応じて家賃を自動的に改定する旨の特約 (自動改定特約。 たとえば、 家賃は消費者物価指数の変動にスライドするとの条項、 何年ごとに何%増減するとの条項等) が、 近年しばしば利用されていますが、 この賃料改定特約の効力に関して、 判例・学説は、 借地借家法第32条第1項が強行規定であることを前提として、 特約の内容が経済的事情の変動がなくても家賃を増減するものであるとか、 増減のしかたが経済的事情の変動の程度と著しくかけ離れた不合理なものであるときは無効とし、 個別の特約における算定方式により算出された金額が相当なものである場合には特約を有効としています (改定特約を有効とする近年の裁判例として、 東京地判平1.8.29判時1348頁119号ほか)。
裁判所の判断によって賃料改定の特約が、 あるときは有効になったり、 あるときは無効になったりしたのでは賃貸収入の収益予測が不明確になるため、 本項は定期借家契約において、 家賃の改定に関する特約が合意されておれば、 その合意を尊重し、 強行法規的性質を有する借地借家法第32条の規定を適用しないこととしました。
これにより、 賃料不減額の特約も有効となり、 賃料自動改訂特約も有効となり、 家賃収入の予測可能性が飛躍的に高まり、 賃貸業が事業としてより安定したものとなる可能性が増大しました。
もっとも、賃料不増減特約については、「家賃額を客観的かつ一義的に決定する合意であって、経済事情の変動等に即応した家賃改定の実現を目的とした借賃増減額請求権の排除を是認し得るだけの明確さを備えたものでなければならないと解するのが相当である。」(東京地判平成21年6月1日)と判示されたケースがあり、賃料不増減につき明確な規定である必要があるとされています。
前記のとおり、 定期借家契約において、 家賃の改定に関する特約が合意されておれば、 その合意を極力尊重することとしました。 しかし、 いかなる内容の家賃不減額の特約も、 いかなる内容の賃料自動改定特約も、 全く無条件にその効力が認められるわけではなく、 これらの特約が暴利行為、 公序良俗違反に該当する場合には無効となります。 したがって、 家賃改定に関する特約は、 あくまで暴利行為や、 公序良俗違反にならないような合理的な内容のものであることが必要であるといえます。
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