貸す立場からの定期借家の活用方法

定期借家実務マニュアル

第4

定期借家の活用方法

集合写真

貸す立場からの定期借家の活用方法

(1)

遊休不動産から収益を得るための定期借家

駅前の一等地の青空駐車場、 高級住宅街の未利用邸宅、 製薬会社の不要となった研究施設や従業員寮など、 様々な遊休不動産が存在しています。
仮りにこのような不動産から少しでも収益を得ようとして、 ひとたびこれを賃貸に供すると、 契約期間満了時に、 法的に明渡を求めるのが困難であるのが実情です。 このような理由から、 土地建物が遊休状態となっているケースが数多く見受けられます。
定期借家制度により、 このような遊休土地に賃貸用建物を建築したり、 遊休建物をリフォームして、 定期借家で賃貸して収益を上げることが現実に可能となります。
このように、 建物が一定の収益を生み出せば、 その建物及び敷地を売却することも可能になってきます。 買主にとっても、 将来の一定の時期に明渡が確実に受けられ、 かつ賃貸期間中は収益が得られるということから、 このような建物やその敷地が現実に投資の対象となってくるわけです。
(2)

収益を確定させるシステムとしての定期借家

(イ)
定期借家契約では、 家賃の改定に関する特約を付した場合は、 その特約は法律上尊重され、 当事者は相互に家賃の増減額請求を行うことができないこととなります
(良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法 (定期借家法) 第5条、 借地借家法第38条第7項)。 賃貸人から見ると、 これにより、 賃料不減額の特約や賃料の自動増額特約も有効となり、 家賃収入の予測可能性が飛躍的に高まります。
(ロ)
事業用建物や、 賃貸対象部分の床面積が200㎡以上ある居住用建物を定期借家とする場合は、 定期借家法第5条、 借地借家法第38条第5項が適用されない結果、 借家人からの途中解約(期間内解約)は認められておりません。
(ハ)
上記(イ)(ロ)により、 事業用建物又は床面積200㎡以上の居住用建物で、 家賃を減額しない旨の特約を付した定期借家は、 賃貸期間中の家賃総額を計算上確定することができ、 投資商品としての適格性を有するようになってきます。 したがって、 このような定期借家権付きのテナントビルを購入したり、 このような定期借家契約を行うことを目的としてテナントビルを一括借上げする事業者が増加しています。 さらに、 不動産特定共同事業法を活用し、 不動産特定共同事業者が、 多数の投資家から資金を集め、 立地条件のよい土地を購入し、 その土地上にテナントビルを建設してこれを定期借家で運営し、 収入家賃の一部を投資家に配当するという方式が定着していけば、 増々、 良好なテナントビルが市場に供給されるようになるものと思われます。
(3)

相続税対策のための定期借家

(イ)
更地を所有している個人が、 相続税を軽減する方法として、 その土地上に借入金により賃貸マンションを建築するという手法があります。
しかし、 従来の借家制度のもとでは、 土地に賃貸マンションを建築し、 これを現実に借家人に賃貸しますと、 賃貸人は将来借家人に対し明渡しを請求しても、 正当事由が備わらない限り、 その請求は認められません。
このような賃貸マンションは、 賃貸人にとって、 将来の一定の時期に明渡を受けて取り毀すこと (更地化すること) も、 また、 満足な価格で他人に売却することも現実的には極めて困難で、 甚だ始末に負えないものとなってしまうリスクがあります。 しかも、 これらの賃貸マンションは、 将来の一定時期に明渡しを受けられるかどうか不明確であるため、 国はこれを物納の対象財産と認めてはおりません。
(ロ)
このような事情により、 不動産を多数所有されている資産家の中には、 有効利用に適する土地について、 相続税軽減対策の必要を感じながらも、 これを更地のまま遊休地にしておいたり、 せいぜい駐車場としての利用にとどめるという方々が多数おられます。
(ハ)
定期借家法の施行により、 定期借家制度を選択すれば上記のようなリスクは基本的になくなります。 また、 近い将来、 定期借家型の賃貸マンションは物納対象財産と認められる可能性が高いと思われます。 したがって、 立地条件の良好な土地については、 相続税軽減対策としての賃貸用建物の建築を安心して進めることができます。
例えば、 一棟の賃貸マンションの全戸について、 賃貸期間を10年とする定期借家にしておけば、 相続税の軽減となることはもとより、 相続発生後、 相続税の納税のために当該マンションを第三者に売却したり、 物納に供しうる可能性が高くなってきます。 このように、 定期借家型賃貸物件は、 貸主側にとって相続税に強い資産となります。
(4)

自宅から収益を得るための定期借家

(イ)
これまでの普通借家制度においては、 いったん自宅を賃貸しますと、 契約期間が満了しても、 正当事由がない限り返還を受けることができません。 平成4年8月1 日に施行された現行の借地借家法は、 その第38条において、
(a)
転勤、 療養、 親族の介護その他やむを得ない事情により
(b)
建物を一定期間自己の生活の本拠として使用することが困難であり
(c)
その期間の経過後は生活の本拠として使用することとなることが明らかである場合は、 その一定期間に限って建物を賃貸し、 契約の更新がない旨を定めることができるものと規定し、 限られた要件のもとに貸主の自宅につき定期借家制度を設けていました。
(ロ)
定期借家制度の施行により、 このような限定的な要件は取り除かれ、 貸主と借主の合意によって自由に様々な種類の建物について定期借家権を設定できるようになりました。
これにより、 今まで自宅 (生活の本拠) として使用していた建物を、 定期借家として賃貸し、 貸主は別に住居を賃借するということが行われるようになりました。
貸主としては、 一定期間経過後はもとの自宅が確実に戻ってきますので、 安心して自宅を賃貸に出すことができるわけです。
(ハ)
自宅を賃貸に出す動機としては、 様々なものが考えられます。 例えば、 子供が皆独立し、 広い自宅を持て余している老夫婦が、 自宅を賃貸に供し、 自分たちは好きな場所(例えば自然豊かな山村など)で一戸建を賃借して、 潤いのある余生を過ごし、 もとの自宅の家賃収入は、 生活費の一部に充てるというケース。 また、 広い自宅の一部分を定期借家で賃貸して、 家賃収入を生活費やローンの返済資金に充てたりするというケース。 さらに、 自宅を売却しようとする場合において、 買い手が見つかるまでの間、 家賃収入を得る目的で定期借家として賃貸するケース。 このケースでは、 仮りに賃貸期間中に買い手が見つかった場合、 買い手としては明渡しを受けられる時期が確定しているため、 借家人が居住しているままの状態で建物を買受けすることが現実的に可能となりました。
(5)

中古賃貸マンション等の空室対策としての定期借家

賃貸マンションや賃貸ビルが老朽化し空室率が高くなっている場合に、 空室解消策として、 既存の借家人から収受している家賃よりも低い家賃で空室を賃貸し、 定期借家期間満了時に需要を見ながら適正な家賃に改訂するという方法が考えられます。
(6)

計画的修繕、 計画的リフォームを実現するための定期借家

賃貸マンションやテナントビルは、 供給が多くなればなるほど競争力を高めていく必要があることは論を待たないところです。 そして、 競争力を高めるためには、 きめ細かな修繕計画をたて、 これを実行することはもちろん、 その時代の感性に合ったリフォームを機動的に行っていく必要があります。
旧来の借家(普通借家)においては、 修繕のために当該貸室を一時的に退去してもらおうとしても、 借家人の同意がない限り、 容易に退去させることができず、 計画的に修繕を実行することが困難となっているケースが殆どです。
計画的に修繕やリフォームを実行するためには、 一定期間ごとに必ず明渡しを受る必要があります。 契約期間満了時に、 確定的に明渡しを受けられる定期借家は、 この要請を満足するシステムであると言えます。
(7)

旧来の貸家の明渡交渉期間中の定期借家

例えば、 集合型賃貸アパートが老朽化し、 半数以上の貸室が空家となっている場合、 家主としては、 残った借家人全員に明渡してもらい、 新しい賃貸用建物を建てたいという場合があります。
この場合、 家主としては入居中の借家人全員と明渡交渉を行い、 場合によっては正当事由にもとづく明渡請求訴訟を行っていくことになります。
ところが、 全借家人の明渡しを実現するまでに2~3年を要する場合があり、 その場合、 2~3年間建物の大部分が収益を生まないという状態が続くことになります。 そこで、 明渡交渉ないし訴訟が解決するまでの間、 空室を順次定期借家として入居者を入れ、 少なからず収益を上げるということが可能になりました。