投資目的と投資目的に適した不動産

不動産投資・運用マニュアル

第1

不動産の投資

集合写真

投資目的と投資目的に適した不動産

不動産投資においては、立地の選定が最重要課題となり、建物を保有する場合は、その立地にあった建物用途であることが立地に次ぐ重要課題となります。
しかし、投資目的によっては、立地と建物用途以外の不動産の選定基準が異なってきます。
従いまして、不動産投資を行う場合は、投資目的を明確にし、投資目的に適した不動産を取得することが重要となります。
(1)

投資目的の明確化

一般の方にとって、不動産投資の目的の主なものは下記となります。
(イ)相続税対策
(ロ)事業承継対策
(ハ)相続対策(遺産分割対応)
(ニ)収益性の向上(資産の組換え等)
(ホ)余剰資金の長期運用
(ヘ)余剰資金の短期運用
(2)

投資目的に適した不動産

(イ)
相続税対策に適した不動産
相続税対策を目的として不動産投資を行う場合、不動産の時価と相続税評価額の乖離を利用した相続税軽減対策が中心となりますので、不動産の売買価格と、不動産の相続税評価額との関係が重要となります。また、相続税法上、一定の小規模宅地等については、別途評価減を行なうことができますので、不動産の時価と相続税評価額の乖離による評価減と、小規模宅地等の評価減との両方のバランスを検討することが必要です。
一例として、売買価格が土地建物合わせて20億円の不動産について、相続税上の効果がどのように異なるか、計算例を下記に示します。
投資価額(時価)は土地建物合計で20億円とします。消費税は考慮しないものとします。
東京都心部の路線価が極めて高い地域で200㎡の土地付賃貸建物を取得した場合(a)と、郊外の路線価が低い地域で20,000㎡の土地付賃貸建物を取得した場合(b)について比較します。
土地の時価は、(a)は路線価の2.5倍、(b)は路線価の1倍であるものとし、建物の時価は、(a) 、(b)とも固定資産税評価額と同額であるものとします。
収益率(利回り)は、(a) 、(b)とも同じであるものとします。
(a)
路線価が高い場合
(ⅰ)
前提事項
・土地の時価
16億円
・路線価額
6億4000万円(路線価320万円/㎡)
・建物価額
4億円
・借地権割合
90%
(ⅱ)
相続税評価
・建物の評価
2億8000万円
(貸家評価)
4億円×(1-0.3)=2億8000万円
・土地の評価
2億3360万円
貸家建付地評価減をしたうえで,さらに小規模宅地評価減をする。
(貸家建付地評価)
6億4000万円×(1-0.3×0.9)=4億6720万円
(小規模宅地評価)
4億6,720万円×0.5=2億3360万円
・建物及び土地の評価額の合計
5億1360万円
(b)
路線価が低い場合
(ⅰ)
前提事項
・土地の時価
16億円
・路線価額
16億円(路線価8万円/㎡)
・建物価額
4億円
・借地権割合
60%
(ⅱ)
評価減
・建物の評価
2億8000万円
(貸家評価)
4億円×(1-0.3)=2億8000万円
・土地の評価
15億9200万円
(貸家建付地評価)
16億万円×(1-0.3×0.6)=13億1200万円
(小規模宅地評価)
13億1200万円×0.5×200㎡/2万㎡+13億1200万円×1万9800㎡/2万㎡=13億544万円
・建物及び土地の評価額の合計
15億9200万円
(c)
効果の比較
土地建物の時価の合計額が20億円のところ、(a)のケースでは土地建物の相続税評価額が5億1360万円となりますので、時価よりも14億8640万円減額することができます。他方、(b)のケースでは土地建物の相続税評価額が15億9200万円となりますので、時価よりも4億800万円しか減額することができません。相続税の限界税率が55%の方の場合ですと、(a)のケースでは8億1752万円の税額の軽減効果が得られるのに対して、(b)のケースでは2億2440万円の税額の軽減効果に留まることになりますので、同じ20億円の不動産投資であっても約3.6倍の相続税対策効果の違いが生じることになります。
このように、同じ20億円の不動産を取得する場合であっても、土地建物価額の比率や路線価によって、税額の軽減効果は大きく異なってきます。
また、親が土地を取得し、子の法人が建物を取得した上で、土地の無償返還の届出を提出することによって、土地の相続税評価額の軽減効果を得ると同時に、不動産から得られる収益を出来るだけ子に移転して相続課税財産の親への蓄積を抑えることが可能ですので、取得方式も含めた検討を行うことが必要になります。
(ロ)
事業承継対策に適した不動産
事業承継対策として不動産投資を行なう場合は、不動産を利用した自社株の相続税評価額の引下げ対策が中心となりますので、その効果が得られるよう不動産を取得することが重要となります。
自社株の相続税評価において、低い評価方式が適用されるための対策として、不動産を活用して株式保有特定会社としての評価をはずずことと、土地保有特定会社としての評価をはずすことが挙げられます。
株式保有特定会社に該当しますと、純資産価額方式、又は「S1+S2」(簡易評価法)で評価することになり、通常原則的な評価方法よりも高い評価となります。
この評価方式の適用除外となるためには、株式等の総資産における比率を引き下げる必要があります。この場合は、借入金により不動産を取得することにより、会社の総資産に占める不動産の割合が増加し、相対的に有価証券の占める割合が低下して、株式保有特定会社から離脱することが出来ます。
土地保有特定会社に該当しますと、純資産価額方式のみで評価することになります。この評価方式の適用除外となるためには、土地等の総資産における比率を引き下げる必要があります。遊休土地に借入金により賃貸建物を建築することにより、会社の総資産に占める土地等の割合が下がって、土地保有特定会社から離脱することが出来ます。賃貸建物を建築すると、土地の評価が更地評価から貸家建付地になり減額されますので、さらに土地等の保有割合が下がることになります。借入金により土地建物を取得する場合は、建物比率の大きい不動産を取得することにより、会社の総資産に占める土地等の保有割合が相対的に下がるため、土地保有特定会社から離脱できます。
また、自社株の純資産価額を引き下げる対策としての不動産取得が挙げられます。
この場合は、取得後3年以上経過すれば、土地建物は相続税評価額で評価されることとになり、簿価との乖離が生じ、純資産価額方式による評価額が下がることになります。
以上から、事業承継対策としての不動産投資の場合は、一般的に、新築で建物比率の高い不動産を取得することが効果的となります。
(ハ)
相続対策に適した不動産
例えば、被相続人の所有する資産の殆どが自社株であった場合、相続が発生したときに相続人間での遺産分割が非常に難しくなります。このような場合に、事業を承継する相続人以外の相続人に対する遺産分割対策として不動産を取得するケースがあります。
この場合の不動産は、下記の事項を満たしていることが選定のポイントとなります。
遺産分割の対象額に見合った規模の不動産であること。
区分所有等により、遺産分割がしやすい不動産であること。
中長期的に収益が維持されること。
(ニ)
収益性の向上に適した不動産
古くからの貸地や貸家をご所有の場合、賃料水準が著しく低く、低収益に悩まされているケースが多くあります。このような場合に、貸地や貸家を売却して、安定高収益の賃貸不動産への買換を行なうことにより、収益を飛躍的に改善することが可能であるとともに、相続税軽減の効果も大きく発生します。また、譲渡所得税について、事業用資産の買換特例制度の適用が可能となりますので、少ない自己負担で、または借入金のリスクを抑えて賃貸不動産の取得をすることができます。
この場合の不動産は、下記の事項を満たしていることが選定のポイントとなります。
税法上の要件に合致していること
耐久性のある建物であること。
中長期的にも安定した高収益が見込まれること。
(ホ)
余剰資金の長期運用に適した不動産
余剰資金の長期運用を目的に不動産投資を行う場合は、長期に亘って、安定高収益が得られることが重要となります。また、資金調達の方法も問題となります。借入比率が高いと金利変動や賃料変動に対して大きなリスクを抱えることになります。
余剰資金の長期運用に適した不動産の一例として、ロードサイド型大型物販店舗が挙げられます。
ロードサイド型大型物販店舗の場合、下記の特徴があります。
長期(10~20年)の建物賃貸借契約または、事業用借地契約(20年)を締結している場合が多い(新築の場合は、締結できる場合が多い)ので、その間の空室リスクがない。
敷金、保証金、建設協力金が多額なため、初期投下資金が圧縮でき、その分、有利子負債が少なくなり、金利変動リスクが少ない。
契約期間に亘る賃料固定契約が多く、その場合、賃料変動リスクが少ない。
メンテナンスはテナントが行なうケースが多く、その場合、所有者は固定資産税以外の経費負担が殆ど無く、経費変動リスクが少ない。
上記により、長期間に亘って収益が安定維持される可能性が高い。
日常的な管理手間が全く無いので、金融商品と同様な感覚で資金の運用が可能となる。
(ヘ)
余剰資金の短期運用に適した不動産
余剰資金の短期運用を目的に不動産投資を行う場合は、短期に不動産価値の上昇が見込めることが重要となります。
収益不動産の売買価格は、収益還元により決定されますので、現状の収益が少なく、かつ、将来の収益が増加する可能性が高い不動産の場合、短期売却によるキャピタルゲインが得られる可能性が高くなります。
短期売却に適した不動産の一例として、陳腐化して入居率、賃料水準が低下した貸事務所ビルが挙げられます。
立地が良いのにも関わらず、入居率、賃料水準が低迷している貸事務所ビルの場合、その原因を除去することにより、入居率、賃料水準の向上を図ることが可能となります。具体的には、購入後、現在のテナントニーズに適合するよう改修工事を行い、テナントの入れ替え等を実施して、不動産のバリューアップを行ないます。
不動産によっては、用途変換(コンバージョン)を行なうことにより、収益が飛躍的に向上するケースもあります。
また、テナント契約の残存期間が短く、かつ、建物が老朽化している場合は、テナント退去後の建替えや素地売却(マンション用地等としての売却)によって大きな売却益が得られるケースがあります。